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第二章
第十七話
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「えっと、そういう訳でパーティを組むことになりました」
「なりました」
翌日、朝。
俺とセレナはギルドに赴き、そうティナさんとナナさんに報告した。
「おめでとうございます、レインさん」
ティナさんは笑顔で祝福してくれる。
まぁ、先日の件を含め、だいぶティナさんには心配をかけてしまったみたいだし、このパーティの報告で、少しはその心配を和らげられてるといいんだけど。
「よかったー。ありがとうございます、レインさん!」
一方で、ナナさんは心底安心した声で、まるで、魂でも抜けたんじゃ? と思うほどに深く息を吐き出した。
「レインさん、これからもご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞ見捨てないであげてください。根はいい子なんです」
「ちょ、ナナさん⁉」
ナナさんは、セレナの母親か?
そんな母親っぽいセリフを言うナナさんだが、その根底にはセレナを心配する気持ちがあることは伝わってきている。
「はい。改めて、今日からよろしくお願いします、ナナさん」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
こうして無事、パーティを結成したのだった。
迷宮2階層。
「爆ぜろ!」
本日二度目。
セレナの魔法でオークが吹き飛ばされ、骸と変わる。
「上出来だな」
俺は依頼通りオークから眼球を取り出す。
魔法関連には詳しくない俺だが、オークの眼球は研究に使われるとか。そんなわけで、地味に報酬も高かったこのクエストを受領した。
そして、ここまで冒険して分かったことがある。
「セレナ、お前はもう少し魔力の制御を覚えた方がいい」
セレナは、常に全力で魔法を放つ。
今いる場所のように、少し開けた場所でなら、全力で撃ったとしても衝撃は周囲に分散するためいいが、これが狭い場所であったらば、その衝撃は味方を直撃する。
セレナ本人の口から聞いたわけじゃないが、疫病神と呼ばれ報酬の取り分を減らされていた原因は、この部分じゃないかと推測している。
「でも、全力以外で放つにはどうしたらいいの? 撃とうとすると、勝手にあの威力になっちゃうんだけど」
「じゃあ、その練習もかねて1階層に戻るぞ。依頼は完了したしな」
そう言って、俺は二重に重ねた麻袋を見せる。
「ひッ⁉ ヤメテ、近づけないで……」
小さく悲鳴を上げて後ずさるセレナ。
セレナはこの目玉がダメらしい。まぁ、気持ちはわからないでもないが。
俺の場合、小さいころから姉の錬金術の素材として見たことがあったので、ある程度耐性が付いていて、今更この程度でビビりはしない。
「行くぞ」
こうして、俺たちは一度1階層へと戻る。
訪れたのは、1階層の路地。
背後は行き止まりで、道幅も二人並んでは通れないという狭さだ。
「もうわかってると思うが、ここであの威力の魔法は使えない。わかるな?」
コクリと頷くセレナ。
ここに来るまでに話したが、やはりこのような場所で全力で魔法をぶっ放して、パーティメンバーに迷惑を掛けたことがあったらしい。
「まずだ。杖は俺が預かる」
「え? でも、これがないと魔法が……」
「魔法は別に、杖がなくても使えるぞ? ほら」
俺は自身の肉体に強化魔法をかける。
「あ、レインって魔法使えたんだ?」
「まぁな。でも、この剣のおかげで使う意味があんまりないんだけど」
その分魔力消費がないので、戦闘はかなり楽になっている。
ありがとう、フィル姉。
「いいか、魔法は魔力を使う。つまりだ。魔力の制御ができれば魔法なんて幾らでも制御できるんだ」
「魔力の制御、ね。やってみる」
「イメージとしては、心臓だな。そこから全身に巡る血を感じるように魔力の流れを感じる」
「ごめん、さっぱりイメージできない」
「えっと、とにかく全身に流れてることを感じろ」
「えー? まぁ、とりあえずやってみる」
そう言ってセレナが目を閉じる。
徐々にセレナの周囲で魔力が高まるのが感じられる。
「何となく全身が温かくなった、かな? これでいいの?」
「ああ、上出来だ。セレナは既にあれだけの魔法を使える。才能はあるはずだ」
「才能! そう、私は天才なのよ。私を馬鹿にするやつが悪いの。私は悪くない!」
「いや、こんな場所で全力の魔法をぶっ放したお前が悪いと思うぞ?」
「うぐっ……。い、今は! そんな正論聞きたくない!」
こいつ、褒めると調子に乗るタイプなのか。これからは、なるべく褒めないようにしないと。じゃないとすぐに調子に乗る。
ともあれ、今は魔力の制御だ。
「あ、あれ? うわっ!」
ボンッ! と音を立てた後、セレナがその場に尻餅をついた。
「いったぁー」
「魔力暴発だな」
魔力の制御に失敗すると、その魔力が暴走して外部に放たれる。それが魔力暴発だ。
膨大な量の魔力の制御に失敗すると、付近一帯を吹き飛ばすほどの魔力暴発が起こることもあるという。
「まぁ、今日はまだ時間があるし、もう少し練習だな。それでできなければ、明日もこの続きだ」
「うーん、つまんない」
「じゃあ、また疫病神に戻るか?」
「うっ……。やだ」
「じゃあやれ」
「はーい」
間延びした返事を返したセレナだが、その後は黙々と魔力制御の練習を続けた。
「なりました」
翌日、朝。
俺とセレナはギルドに赴き、そうティナさんとナナさんに報告した。
「おめでとうございます、レインさん」
ティナさんは笑顔で祝福してくれる。
まぁ、先日の件を含め、だいぶティナさんには心配をかけてしまったみたいだし、このパーティの報告で、少しはその心配を和らげられてるといいんだけど。
「よかったー。ありがとうございます、レインさん!」
一方で、ナナさんは心底安心した声で、まるで、魂でも抜けたんじゃ? と思うほどに深く息を吐き出した。
「レインさん、これからもご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞ見捨てないであげてください。根はいい子なんです」
「ちょ、ナナさん⁉」
ナナさんは、セレナの母親か?
そんな母親っぽいセリフを言うナナさんだが、その根底にはセレナを心配する気持ちがあることは伝わってきている。
「はい。改めて、今日からよろしくお願いします、ナナさん」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
こうして無事、パーティを結成したのだった。
迷宮2階層。
「爆ぜろ!」
本日二度目。
セレナの魔法でオークが吹き飛ばされ、骸と変わる。
「上出来だな」
俺は依頼通りオークから眼球を取り出す。
魔法関連には詳しくない俺だが、オークの眼球は研究に使われるとか。そんなわけで、地味に報酬も高かったこのクエストを受領した。
そして、ここまで冒険して分かったことがある。
「セレナ、お前はもう少し魔力の制御を覚えた方がいい」
セレナは、常に全力で魔法を放つ。
今いる場所のように、少し開けた場所でなら、全力で撃ったとしても衝撃は周囲に分散するためいいが、これが狭い場所であったらば、その衝撃は味方を直撃する。
セレナ本人の口から聞いたわけじゃないが、疫病神と呼ばれ報酬の取り分を減らされていた原因は、この部分じゃないかと推測している。
「でも、全力以外で放つにはどうしたらいいの? 撃とうとすると、勝手にあの威力になっちゃうんだけど」
「じゃあ、その練習もかねて1階層に戻るぞ。依頼は完了したしな」
そう言って、俺は二重に重ねた麻袋を見せる。
「ひッ⁉ ヤメテ、近づけないで……」
小さく悲鳴を上げて後ずさるセレナ。
セレナはこの目玉がダメらしい。まぁ、気持ちはわからないでもないが。
俺の場合、小さいころから姉の錬金術の素材として見たことがあったので、ある程度耐性が付いていて、今更この程度でビビりはしない。
「行くぞ」
こうして、俺たちは一度1階層へと戻る。
訪れたのは、1階層の路地。
背後は行き止まりで、道幅も二人並んでは通れないという狭さだ。
「もうわかってると思うが、ここであの威力の魔法は使えない。わかるな?」
コクリと頷くセレナ。
ここに来るまでに話したが、やはりこのような場所で全力で魔法をぶっ放して、パーティメンバーに迷惑を掛けたことがあったらしい。
「まずだ。杖は俺が預かる」
「え? でも、これがないと魔法が……」
「魔法は別に、杖がなくても使えるぞ? ほら」
俺は自身の肉体に強化魔法をかける。
「あ、レインって魔法使えたんだ?」
「まぁな。でも、この剣のおかげで使う意味があんまりないんだけど」
その分魔力消費がないので、戦闘はかなり楽になっている。
ありがとう、フィル姉。
「いいか、魔法は魔力を使う。つまりだ。魔力の制御ができれば魔法なんて幾らでも制御できるんだ」
「魔力の制御、ね。やってみる」
「イメージとしては、心臓だな。そこから全身に巡る血を感じるように魔力の流れを感じる」
「ごめん、さっぱりイメージできない」
「えっと、とにかく全身に流れてることを感じろ」
「えー? まぁ、とりあえずやってみる」
そう言ってセレナが目を閉じる。
徐々にセレナの周囲で魔力が高まるのが感じられる。
「何となく全身が温かくなった、かな? これでいいの?」
「ああ、上出来だ。セレナは既にあれだけの魔法を使える。才能はあるはずだ」
「才能! そう、私は天才なのよ。私を馬鹿にするやつが悪いの。私は悪くない!」
「いや、こんな場所で全力の魔法をぶっ放したお前が悪いと思うぞ?」
「うぐっ……。い、今は! そんな正論聞きたくない!」
こいつ、褒めると調子に乗るタイプなのか。これからは、なるべく褒めないようにしないと。じゃないとすぐに調子に乗る。
ともあれ、今は魔力の制御だ。
「あ、あれ? うわっ!」
ボンッ! と音を立てた後、セレナがその場に尻餅をついた。
「いったぁー」
「魔力暴発だな」
魔力の制御に失敗すると、その魔力が暴走して外部に放たれる。それが魔力暴発だ。
膨大な量の魔力の制御に失敗すると、付近一帯を吹き飛ばすほどの魔力暴発が起こることもあるという。
「まぁ、今日はまだ時間があるし、もう少し練習だな。それでできなければ、明日もこの続きだ」
「うーん、つまんない」
「じゃあ、また疫病神に戻るか?」
「うっ……。やだ」
「じゃあやれ」
「はーい」
間延びした返事を返したセレナだが、その後は黙々と魔力制御の練習を続けた。
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