Face of the Surface

悟飯粒

文字の大きさ
7 / 83
魔王との邂逅編

ルールブレイカー

しおりを挟む
 こんなことを言うのも変な話だけれど、無駄というのは必要である。人は寄り道をすればするほど、他の人が知らない経験値を蓄え人生に役立てることができるからだ。大学入学→就職→社会人生活→退職→老後→死。画一化された現代においてその[無駄]というものには需要が増している。マンガ、アニメ、ゲーム実況、キャンプがいい例だろう。
 ただしその無駄というのは人生単位においてだ。仕事というミクロ的な視点において無駄とは一切排除されなければならない。………ミクロとマクロにおける認識の相違。これを理解できなければ人は失敗する。

 俺は学校で授業を受けながら考え事をしていた。この授業内容は3ヶ月前に予習していたところだから、真剣に聞く必要がなくボーッとしていたのだ。ボーッとなどせずに予習を進めるというのもあるけれど、俺はそんなことよりも今後のことを考えなければいけない。

 「今日もまた夢を見たのかい?」

 後ろから紙が送られてきて中身を見ると、遼鋭からの質問だった。

 「いつも通りだよ。イリナとカイが魔族を倒してくれる平和な夢だ」

 俺はメモ帳を破り文字を走り書きすると後ろに渡した。

 「君の夢が変わると良いね」
 「変わらないさ。悪は断罪されなきゃいけない。有象無象ではなく誰もが認める正義に」
 「それじゃあつまらないじゃないか。正義しか残らない世の中に楽しさなんて存在しない」
 「そんなことはない、現実でだってそうじゃないか。弁護士や検事、警察官。罪を裁けるのは決められた職業の人間にしかできない。…………悪を滅ぼすのは決められた人間にのみ許された特権だ。悪は消えることしかできない」
 「だったら変わると良いね。断罪のために」
 「変わりはしないよ。ただ終わるだけさ」

 この紙を最後に文通は終わり、俺は黒板を眺めた。


 放課後、表面世界に来た俺とイリナはまたよく分からない街に来ていた。街路、建物がレンガで作られたレンガの街。建築物の形も珍妙なものばかりで芸術家気質の人が集まっているのかもしれない。

 「この街は1人の第二類勇者の所有物なんだ。変な建物が多かったり、レンガばかり使われているのはそいつの趣味だからだよ」
 「イリナと同じ階級かぁ、すげー」

 勇者には階級が存在している。下から騎士、聖騎士、上位聖騎士、聖騎士長、第一類勇者、第二類勇者、王だ。上の階級に行けばいくほどその数は少なくなり、第二類勇者は9人、王に至っては1人だ。イリナとこの町の所有者はその数少ない9人のうちの1人というわけ。………一応カイも第二類勇者だったんだけど、彼が死んでしまったから枠が1つ空いた状態になってしまっている。

 「それで、今日私がわざわざこんなところにまで来たのもそいつに会うためさ」
 「まぁ………第二類勇者なら良い戦力になるよな」

 俺達が魔族掃討戦に参加するのはすぐに決まった。実績豊富で名実共に勇者最強のイリナが戦力になるのだ、たとえ俺みたいなよく分からない奴が参加することが条件だとしても、イリナの参加はそれ以上に旨味が多い。断る理由などない。
 しかしイリナは自分の部隊を1つ作ることが条件だと勇者のお偉いさん達に明示した。それも自分が選んだ人間だけで組織された私兵部隊。不足の事態が発生してもすぐに対処できるようにするには、やはり最低5人は欲しいとイリナは考えたらしい。たしかに1年前の炎帝との戦いでは、雷と水では圧倒的な火力の前には一切の有効打にならずやられてしまった。魔力に複数のレパートリーを持たせ、ほぼ全ての事態に対処できるようにするというのは良い作戦な気がする。

 こういう深い理由があって、俺達は戦力集めのためにここに来たわけである。イリナが気に入った力を持つ人間………どんだけ強いのだろうか。

 「グレンって言うんだけどさ、私もそんなに話したことがなくて初対面に近いんだよね」
 「えーー……………そんな奴を仲間に引き入れようとしてるのか。もっと信頼厚い人間を引き込めよ」
 「…………いないんだからしょうがないじゃん」
 「うわ、ボッチじゃん。友達少なくて1人でばっか暇潰ししてる最高のボッチじゃん」
 「私と対等な信頼関係を築ける人間なんてそうそういないんだからしょうがないじゃん!だって私強いんだもん!」
 「それなら助けてあげたやつと友達になってだな………」
 「[助けてあげたから友達になってよ!]ってどんだけ図々しいのさ!そういう一方的な関係は好きじゃないんだよわたし」

 あーーまぁ、言いたいことはわかる気がする。助けて助けられる関係………この世界ではそういう関係性の方が友情を育みやすいのだろう。

 「それじゃあ俺と友達になれないじゃん。一方的に助けられてばっかりなんだから。パートナーとか不可能じゃん」

 聖騎士長のサミエルさんにすら一方的に負ける人間が勇者最強と釣り合うだろうか?答えはノーである。

 「そ、それは………初日に助けてくれたじゃん?」
「元気づけただけだよ。俺じゃああんな強い魔物倒せないから」

 俺達は街の中心地へと進んでいく。建物の造形がドンドン歪んでいく。まるで重力がねじ曲がっているみたいだ。

 「あれだけでも私は助けられたんだよ。君のその一言で前に進みたいと思えたんだもん。…………炎帝を倒す決心がついた」
 「…………そうか、それはよかった。発破かけた甲斐があったよ」
 「………………」
 「………………」
 「……………ねぇ」
 「……………なに?」

俺とイリナは歩きながら会話を続ける。暗い夜空だろうとなんだろうと、ただ言葉を重ねる。

 「なんて呼んでほしい?飯田くん?狩虎ちゃん?」
 「…………いきなりっすね。なんでもいいよ」

 俺にはあだ名というのが大量にある。虎ちゃんだったり狩虎ちゃんだったり、飯田、氏名の頭文字をくっつけてイカ、イカから連想してタコやエビになったりもした。しかしまぁ、そんなあだ名をつけられて嫌になったことはない。唯一気分を害されたあだ名っていうのもあるが、俺の出生の秘密を知らない限りその発想に至ることはないから、イリナには好きにあだ名を決めさせてやろう。

 「そういえばさ、君って卯年なんでしょ?」
 「……………いや、寅年だけど?狩虎なんて名前ついてるんだから、そりゃあ寅じゃん?当たり前じゃん?」
 「3月21日生まれで、早生まれだったから卯年になっちゃったんでしょ?もし12月以前に生まれてたら寅年だったのに。私寅年だもん。」
 「いや、全然?寅年ですけど?誕生日なんてほら、一般的に多い9~10月だからね。9月9日でね、ほらノストラダムスの終末予言の一年前に生まれたからあだ名は[恐怖の大王]なんて呼ばれ」「ミフィーとか呼ばれてたんじゃないの?三二一で三二一みふぃー
 「…………………」

 俺は無言のまま歩き続けた。
 なんで知ってんだこいつ…………そのあだ名は俺の幼馴染しか知らないはずだぞ。しかも小学生の時に発案され、俺があまりにも泣きぐずった為に3日しか使われなかった幻のあだ名なのに!

 「ねぇミフィー君。これからいくグレンの性格なんだけどさ」
 「狩虎だもんね!俺の名前は狩虎!虎を狩るの!兎が狩れるわけないじゃん!」
 「虎に狩られるの間違いじゃない?ほらナヨナヨした君には兎の方が丁度いいよ。で、グレンなんだけどさ………」
 「認めない!認めないからな!もっとマシなあだ名にしてくれ!」

 ミフィーだけはマジでやめてくれ………俺の色々なアイデンティティが崩壊する。

 「んーーじゃあ、クソ野郎」
 「それはあだ名じゃないのよ。ユーモアも何もないただの罵倒なわけ」
 「じゃあお漏らし野郎」
 「この年でそのあだ名は勘弁してくれないかな……してないからね?小学生以来」
 「じゃあミフィー君しかないよ。君のこと見てたら罵倒しか思い付かないもん」
 「いいよもう………それじゃあ俺もあだな考えてやるからな!とびっきり酷いやつ!」
 「残念、もう着いちゃった」

 いつの間にかグレンの家に着いていた。東京ドームぐらいある超巨大な豪邸だ。レンガと鉄筋コンクリートで形作られ、合間合間に一面張りのガラスが張られている。伝統ある名家って感じだ。由緒正しい家系の人なのかな。

ボゴーーン!!

 呆然と眺めていたら家が爆発した!!内側から発生した強力なエネルギーに吹き飛ばされ、屋根も壁も全てが飛び散り鉄と岩の雨となって俺らに落ちてくる。

 「ぶべっ!」

 しかしそんなことは問題ではなかった。いや、力のない俺からすれば大問題なのだけれど、瓦礫が当たる前にイリナの雷が全てぶっ壊したから関係ない。問題があるとすれば、そのイリナの雷を突き破って俺に激突してきた男の方だ。

 「んだてめぇ……邪魔だからどいてろ」

 イリナの雷に焼かれたはずなのにすぐに立ち直った男は倒れている俺を蹴飛ばすと、屋敷があった方に目を向ける。

 「ちょ、ちょっと!どういう歓迎の仕方さ!」
 「ん?……ああ、なんだイリナか。丁度いい、クソガキ止めるのにちょっと手を貸せ」
 「手を貸せって、第二類勇者だよ。あんたが本気を出せばなんとでも………」

ボフッ!!!

 空間が爆発した!!………空間が爆発なんて変な表現だと思うかもしれないが、本当に空間が爆発したのだ。何もない場所が突如として爆発し乱気流が発生!!その1秒後に凍りつき、そこから氷が増殖して空間を凍てつかせた!!

 「あははははははははっっ!!!」

ドンッ!!!

 子供の笑い声と共に聞こえた爆発を皮切りに、今度はこの街全体が凍りついた!!急激に冷え込んだ空気が俺の髪やまつ毛をしばれさせる!!

 「なんとかなったら苦労はしねーんだよ興奮しちまったあのバカはな」

ピチャン…………

 凍りついていたこの街が一瞬で融解し、氷が溶けた時にできた水で池が生まれた!その深さは俺達の膝まで到達するほど深く…………なんだこれ?普通からかけ離れすぎて頭が狂いそうだ!

 「先生あーーそぼっ!!!」

ミシミシミシッッ!!!

 目の錯覚だと思うのだけれど、水の上を駆け抜けてきた男の子がグレンを思いっきり蹴飛ばした!!そして吹き飛んだグレンを追って男の子は水上を駆け抜け追尾する!!

 「………………」

 俺は呆然としていた。なにあれ?いや、その………え?こんなこと言いたかないけど、水を操れるだけの俺の完全上位互換がもう出てきたんだけど。どうなってんのこれ?

 「み、ミフィー君ちょっとここで待ってて!!私も加勢してくる!!」

 ことの深刻さを理解したイリナが俺を残してグレンの方に走っていく。これあれだな………この小説に俺いらないな。俺は全力で理解した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる

葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...