Face of the Surface

悟飯粒

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鏡にキスを編

勇検なんだよなぁ

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 「この際ですから勇者になっちゃいましょう」

 勇者の重役達に睨まれながら座る俺。それを見て笑っているイリナとグレンと王様。そして徹底して無表情の慶次さんが司会を進行させる。

 「普通にやなんですけど」
 「でも今の立場的にはそっちの方が都合がいいんじゃないですか?」

 俺が虐殺の限りを尽くした先日の殲滅戦は、勇者領の情報操作により[イリナと狩虎の活躍でカースクルセイドを撃退した]ことになってしまった。慶次さんが主導でこの話を進めたらしく、勇者領の他の重役達が猛反発したらしいが………まぁ、[なんでも見れる目]を持った慶次さんの意見を変えられる奴なんていないよなぁ。とにかく、一応、俺は正義のヒーローになってしまったわけだ。世論は大反対だけどね。

 「いやでも、勇者領の人達は認めてくれないですよ。魔王ですからねぇ俺」
 「そんなもの関係ないんですよ。カースクルセイドに与えた大ダメージのおかげで準備を整える時間ができた。これを最大限活用するためには飯田さんのパワーアップが必要不可欠なんです。役に立たない人間の感情など知ったことではありません」
 「……………」

 カイの記憶のイメージと、実際に喋って得た慶次さんのイメージは全然違った。彼は超合理主義者だ。役に立たないものを簡単に切り捨て、役に立つものは敵だろうと取り込む。彼の中には敵と味方という概念が存在しない。[害となるか利益となるか]それしかないのだ。

 「しかし勇者になるったってどうすればいいんですか?役所にでも申請すればいいんですか?」
 「勇者認定試験っていうのがありましてね、今の時期は開催されてないんですけど、今回特例で開催することになりました。それに参加してください。合格すればあなたは勇者になれますよ」

 勇者認定試験………か。めんどくせーなー。

 「試験かぁ………じゃあ不合格にもなっちゃうってわけですよね。いやーー悲しいなぁ、多分俺の才能のなさじゃあ不合格になっちゃうんだろうなぁ」
 「ふふっそうですね、生きて不合格になれたらいいですね」

 うーん嫌な予感しかない。

 「勇者認定試験の試験官はグレンさんです。あなたにだけ特別厳しい試験を課すように命じてますし、試験中に死んでも許すことにしてます。頑張ってください」
 「1人だけ特別扱いってのはよくないですね。今のご時世、全人類平等で害のない世の中じゃないとバカがうるさいですよ」
 「人を不快にして様々な自由を侵害するバカに興味はありません。さらに言うと大量虐殺しているクソ野郎が平等や平和を謳うのは説得力がないのでやめた方がいいですよ」

 違いない。俺は無言で慶次さんの話を聞く。
 こうなってしまったら話は勝手に進んでいくだけだ。無力化されてしまった俺がどんだけ頑張ろうと変えることはできない。それよりも俺が今しなきゃいけないことは………

 俺を睨みつけている重役達を一瞥していく。

 「………この世で最も恐ろしい存在は守るものが何もない人間です」

 慶次さんの話を遮り俺は重役達に語りかけた。

 「立場がない人間っていうのは、何やっても他の人に迷惑がかからないから止める手立てが少ない。………この状況になってもまだ俺はイリナに殺されることを諦めてはいないんですよ」

 殲滅戦によってカースクルセイドに大ダメージを与えたが、主要戦力を削ることはできなかった。しかもイリナ、慶次さん、グレンを除いた5人の第二類勇者も裏切り勇者領がピンチなのはいまだ変わらない。なんならより追い詰められていると言ってもいい。俺が生かされているのもそれが原因だ。

 「戦力の流出を止める必要がなくなった今、俺達がやらなきゃいけないのは情報の流出の阻止。………スパイがいるのなら、俺はね、この重役の中にいると思ってるんですよ」

 イリナに殺されるにはカースクルセイドを壊滅させるのが絶対条件。無力化されようと俺がやることは変わらない。

 「勇者になったあかつきにはあんたらを徹底的に洗ってやるからな。そして疑わしい奴は殺してやる。背後から、闇討ち、仲間を裏切らせる………何もない俺を止められると思うなよ」

 この状況になろうと俺はイリナに殺されることを諦めていない。イリナが俺を殺したがらないのなら、俺を殺さざるを得ない状況を作るまでだ。

 俺は席を立つと部屋を出た。

 「もーーなんでそんなこと言うの!」

 イリナとグレンが追いかけてきた。

 「印象が悪くなるだけなんだからやめなよそういうの!それにあそこにスパイなんているわけないじゃん!」
 「ああ、俺もそう思う」

 頭をかきながら俺は進む。

 「思考を読める慶次さんを前にして裏切ろうなど馬鹿げている。普通に考えてあの中に裏切り者はいないよ」

 俺の時みたいにバレているのに泳がされている可能性は否定できないが、そうならば慶次さんがそれを逆手に取ることができるのだ。警戒する必要はない。

 「じゃあなんであんなこと!」
 「彼らを処分する為の大義名分が欲しかっただけだ」

 裏切り者だろうがなんだろうが俺は彼らを殺す予定だってことだ。

 「勇者領が停滞している最大の要因は重役の存在だ。あいつらのせいで新しいものの発展が遅れている。ミレニアルズが裏切ったのもそれが原因なわけだし………ひとまず奴らを排除する。勇者領が変わる為に必要なことなんだ」

 それにあんだけ堂々と言ったんだ、調べられたら埃が出るような奴は俺をどうにかするためにすぐに行動を始めるだろう。新しいものを排斥するやつは既存の利権関係で汚いことをやってる可能性がある。重役になれば尚更そういう汚い部分に手を出しているはずだ。そこを全て根こそぎ一掃する。

 「…………でもさ」

 イリナの言葉で俺は立ち止まった。

 「君が悪役にならなくてもいいじゃん。もっと別のやり方があるんじゃないの?」
 「俺にはこういうのが相応しいんだよ。悪役だからさ」

 でもすぐに歩き出した。


 ある時を境に飯田狩虎は甘えを捨てた。甘えは弱さを生み、付け入る隙を生み出すことを理解したからだ。それは一年と少し前、彼が裏切られたことから始まる。
 そして一年前、カイを殺されたことでイリナからは徹底した非情さが消え、彼女の決断には[甘え]が見え隠れするようになった。

 この休戦期間中に行われるのは、イリナが狩虎を殺さなかった[甘え]が迎える結末と、ほんのちょっとの乙女心が見え隠れする物語である。



 「というかグレンさんが試験官なのに驚きなんですけど」

 グレンの家の敷地に来た俺は周りを見渡す。まさかもう一度来るとは思ってなかったんだよなぁ。さっさとイリナに殺される予定だったから。

 「俺が教員免許を持ってる最大の理由は試験官やるためだからな」

 そしてまたも小間使いを呼ぶと這いつくばらせそいつの上に座るグレンさん。やっぱりこんな人が教師だなんて信じられないんだよなぁ。

 「なんでそんなに勇者認定試験の試験官やりたかったんですか?面倒くさいだけじゃないですか?」
 「んーー…………丁度良い。勇者認定試験、略して勇検の説明しながら理由を教えてやるよ」

 勇検ってちゃんと略せてなくないか?どっからともなく知らない漢字出てきたんだけど。

 「勇検ってのは平民の為にあるんだ。平民からは基本、階級の高い者が生まれることはないのだが、時たまに生まれることがある。そいつを勇者にしてやる為の窓口が勇検。ほとんど出来レースなわけよ」
 「ふーーんそうなんですか」

 俺は真面目に話を聞かずにこの敷地の建築物を眺める。相変わらず変な形のものばかり置いてあるな………うわ、俺が壊した希望の塔まであるじゃん。レプリカだろうけど、あれを見ていい思い出はでてこないわ。

 「まっ、実際は階級が低い奴らが人生変える為に受けに来るんだけどな。んで、俺はそいつらを不合格にして絶望に叩き落とすのが趣味ってわけ。試験官やってる理由なんてそんなもんだ」
 「ろくでもないですね」
 「お前にだけは言われたくない」

 俺は頭をかいた後に欠伸をした。

 「……もしかしてここが試験会場だったりします?」
 「なんでそう思うんだ?」

 変な建築物があるとはいえ、勇者領の観光スポットになるにはパンチが足りない。何か他の要因があると考えられる………というのが理由の一つ。そしてもう一つ。

 「いや、ここの敷地の散策マップがやけに高いって言ってたじゃないですか。なんでだろうなって思ってたんですけど、ここが試験会場なら合点がいく」

 試験会場の全体地図をここが独占で売っているのならば、試験生達が高値で買いたがるのも頷ける。少しでも試験を有利に進める為なら金は惜しまないよな。

 「そういうことだ。買うか?地図」
 「俺お金ないんで買えないですよ。譲ってくれたりしません?」
 「金のない奴にキョーミはねーよ」

 やっぱりろくでもないよこの人。まぁ、地図を買えないのなら見て憶えるだけだ。魔王の視力なめんなよ。

 「今回、緊急で開催したのに受験者は200人を超えた。いつもの半分といったところだが事前練習が出来なかった分、集まった奴らは自信のある粒揃いばかりだ。振るい甲斐があるってもんよ」
 「そいつは凄いですね」
 「少しも思ってないだろそんなこと」
 「まぁ、多寡が知れてますし……」

 黒垓君やイリナみたいな化け物クラスじゃないと今の俺は驚かない自信があるよ。

 「でだ、実はもうお前以外の受験者は試験を始めてんのな」
 「そうなんですか。にしてはやけに静かですけどね。筆記試験とかですか?」
 「いや、実技だよ。いつもはあるんだが、まぁ、お前の才能を筆記で測る必要性はないからな、変えたんだ」

 その時、空間が割れた。見覚えがあるなこの状況。俺とイリナが初めてここに来た時もおんなじような………

 「おにごっこってやつなんだが………制限時間内を亜花から生き残るって簡単なやつ。多分今、誰かが見つかって殺されかけてんだろうな」

 俺は息を吐き出した。よくない、こういう試験は切実に良くないぞ。

 「おーい亜花!ここに飯田狩虎がいるぞー!」
 「ちょっ、ばか!」

 俺は急いで走って逃げ出す!しかしそれと同時に遠方が爆ぜ、空間を割りながら高速で走ってきた亜花君が俺を視界に入れた!

 「あはははっ!遊ぼう!」

 そして次の瞬間、大地が吹き飛び空中で固定された。空中に浮遊する大地にしがみつく俺と、空を飛んで笑いながら近づいてくる亜花君。彼が腕を回すと、俺がしがみついている大地が回転し、俺は空中に放り投げられた。

 こうして俺の勇者認定試験は始まりを告げた。
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