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鏡にキスを編
二次試験 開始!
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「すみません、俺とグループ組んでくれませんか……」
俺が近づくとみんなが離れていく。なんなら俺が近づく前にみんな離れていきやがる。半径30mに誰もいないんだけど。
「……………」
いつもは宏美や遼鋭がいるからグループ作りは楽勝だったのに、彼らがいないとこんなにも辛いものなのか。はぁ、やっぱ俺に魅力なんてないんだよなぁ。
「ワに偉そうなことを言っておいてこれか、小僧の方がよっぽどコミュ障じゃないか」
「魔剣の目ん玉が気色悪いからみんな離れていくんだ。俺のせいじゃない」
「ワだってこんな見た目で生まれたくなかったわ!」
ドボドボ涙流しやがって、余計に気持ち悪いぞ。……まぁ、彼らが近づいてこないのは100%俺が悪いんだけどさ。
「できることなら高身長で細目が綺麗なイケメンになりたかった!」
「俺のことかな?」
「濁った細目などかっこよくもなんともないわ根暗が。慶次がワの理想に1番近いな」
「剣ごときが高望みしやがって………」
さてと本格的にどうしたものかな。俺が魔王なのはここのみんなにバレちゃってるから、警戒して近づいてくれない。グループ作らないと試験に不合格になっちゃうよ。………ん?
周りを舐めるように見ていると、見たことある人がいるじゃあないですか!全力で俺から遠ざかろうとしているけれど、この俺の目から逃げきることなど出来ないのだ!
「ディーディアくんじゃないかぁあ!!」
「うわっ!」
俺は全力でダッシュしてディーディア君にラグビーのタックルをかまして腰あたりに抱きついた!
「俺を助けるつもりでチーム組んでくれぇ!」
「ちょっ、距離感バグってますよ!ほんのちょっと喋った程度の仲にやるスキンシップじゃない!」
「だってこのままじゃ試験失格なんだもぉん!!」
無理矢理引っ剥がされた俺は地べたに倒れた。
「今回の試験はチームで戦うじゃん?あと20分以内にチーム組めないと1人で戦うハメになるんだよ!」
二次試験はチームによる乱戦だ。1グループ最大10人で、5組になるまで戦い続けることになる。人数を集めれば集められるほど有利に戦えるのだから、俺がこんなに必死になるのも頷けるよね。
「ね?俺に色々と教えてもらったんだから恩返しに助けてくれよ!」
「いや、でも、殲滅戦の時に殺されかけたんですけど」
「そんな小さなこと忘れちゃいなよ、ね?」
「生き死にの問題!生命にとって1番重要ですよ!」
頑張って再度抱きつこうとするが、ディーディア君は華麗なフットワークで俺のタックルをかわし続ける。
「俺はあなたに殺されかけたこと忘れませんからね!1人で勝手に不合格になってください!」
最後、俺の渾身のタックルに合わせて頭を押さえつけてかわすと彼は剣を抜いた。うわお、彼が1番警戒心を持っているな。下手なことしたら殺されかねないぞ。
「………正直な話をするとさ、勇者領の命令で今動いてるんだよね」
俺は一歩ひき諭すようにゆっくり話しかける。そして彼が[勇者領]という単語に反応を示したのを見逃さない。
「この勇検に危険人物が紛れ込んでいて、受験者を殺しているんだ。犠牲者を増やさないためにも、俺はその危険人物を突き止めたいわけさ。その為には協力者が必要……そうだろ?」
勇者じゃないのに殲滅戦に参加して、さらに勇検まで受けているのだ。彼はとても勇者になりたいのだろう。これを使って引き込むことは簡単だが、それよりも断れない状況を作り出す方が先決だ。
「俺の力が封じられているのを知っているのはこの中では、君だけだ。俺が置かれている状況も断片的には理解できている。君が1番相応しいんだ」
勇者領の上層部により、殲滅戦の結果………俺の暴走と魔王の力の封印が隠蔽された。今この状況で勇者達に襲われていないのにはそういう理由があるわけだ。
「俺と協力して危険人物を捕まえよう」
「………本当ですかその話?」
しかし俺に一度騙されているわけだから、彼はかなり疑い深い。ここまでは想定通りだな。
「ああ、なんならグレンに聞いてもいいよ。今に至るまでの経緯を全部説明してくれるはずだ」
俺は彼の目から視線を外さない。…………一瞬だけ瞳孔が揺れたな。そろそろ攻めるか。
「まっ、いやならいいんだけどさ。一応念のため、試験中にもし殺されそうになったら俺に伝えろよ?なんとかして助けてあげるからさ」
これで1人で試験をすることの危険性はやんわりと伝えられたはずだ。あとは彼の頭の中でソロバンを弾いてもらえば………
「………もし危険人物を捕まえられたら勇者になれますかね?」
「グレンやイリナがずっと俺を監視しているからね。俺に協力してくれるのならば、彼らは君の活躍も見るってわけだ。あとは言わなくてもわかるだろ?」
こっちに傾いたな。これならよほどのことがない限り途中で裏切るなんてことはないだろう。
「一緒に危険人物を捕まえようじゃないか」
「………そういうところですよ、あなたが警戒されているのは」
よし、ディーディアさんを仲間に引き込めたぞ。彼がいるのといないのとでは俺の動きやすさに天と地ほどの差ができる。
「それじゃあ後8人ですか。なんとかして集めきりたいですね」
「あれ言ってなかったっけ?特別ルールで俺のチームだけ最大で2人なのよ」
「やっぱり別の人達とチーム組みます」
「ねぇ待って待って!俺とここの人達を助けると思って協力してよぉお!」
俺は彼の腰にしがみついてひきずられ続けた。
「そういえばさ、魔法エネルギーは操れるようになった?」
引き摺られること1分、ようやく折れたディーディア君と俺は座って作戦会議という名の雑談をしていた。
「魔法エネルギーですか?たまーにコントロール出来るぐらいですね。実用レベルじゃないですよ」
「勿体ないなぁ。あれが使えるようになったらかなり強くなれるのに」
「………思ってたんですけど、なんでそんなすごい技術を勇者に教えてるんですか?立場的には敵なわけじゃないですか、俺達。敵に塩を送るなんて変な話ですよ」
そういえば彼には俺の目的を言ってなかったな。この際だ、俺の立場をもっと理解してもらおう。
「俺は安心してイリナに殺されたいんだ。その為には勇者が強くならなきゃいけない。カースクルセイドなんか当然のように退け、魔王すらも倒せるような………そのレベルになってもらいたいんだよ俺は」
その為にも今俺は君達を裏切る為の準備を着々としているわけなんだけどさ。
「勇者は希望を武器に奇跡を起こして魔王を倒すが、今の君達はその段階に到達していない。だから君達をその段階まで押し上げるために俺は頑張っているわけ」
「………変な人ですね」
「よく言われるから慣れっこだよもう」
でも正直、俺はこの世で最も普通な人間だと思うんだけどなぁ。俺があまりにも普通すぎて逆に異常者に見られているのは誠に遺憾でございます。
「話を戻そう。敵は最大10人に対して俺らは2人で戦わなきゃいけない。普通なら無理そうに見えるけれど、魔法エネルギーを操ることができればクリアは容易い。合格できるかどうかはディーディア君にかかってるよ」
「で、でも2日もかけて習得できなかったんですよ?こんな短期間で習得できるなんて………」
「努力は絵のようなものさ。2日かけて完成しなくても白紙に戻ることはない。諦めなければ必ず完成するのさ」
実際、殲滅戦なんていう超危険な戦いに参加してまで勇者になりたがる人なのだ。その執念は人並み外れている。そんな彼が努力し続ければ遅かれ早かれ習得するのはまず間違いないだろう。
「………飯田さんはこれを習得するのにどれだけかかったんですか?」
「俺は才能がなかったからなぁ。魔力の基礎を習得するのに1年かかったよ。他の人達は1週間ぐらいでものにしてたのにね」
勉強ぐらいしか取り柄がないからね、しょうがないよね。
「わかりました。頑張って魔法エネルギーを習得するので、2人で頑張って戦いましょう!」
「俺は危険人物を見つけなきゃいけないから戦うつもりはないけど?」
「飯田さん?」
「いやほら、俺ってば智将ポジだから戦闘の方はご遠慮願うというかね?カレー注文してきたら、スプーンがコップに入ってて若干ガッカリするあれに似てるよね。[わざわざ水滴拭わなきゃいけないんだからコップに入れてくんなよ]ってぐらいの嫌な感じ」
「多分そこまで嫌がってないですよねそれ」
それはまぁ冗談だとして、危険人物を早めに見つけたいという思いは大真面目だ。早く見つけないとユピテルさんが暴走しかねないんだ。
「………それで、危険人物のウェンディゴ。目と口と耳が縫われてるんですよね?ぱっと見そんな変な人はいないですから、変身能力でも身に付けたんですかね?」
「…………俺の推察ではウェンディゴさんは試験官殺しはしていないんだよね。彼の魔力で人殺しは難しすぎる」
「面識があるんですか?」
「2、3回あったことがある」
俺が中学生の頃に年に一回会っていた。彼は青ローブと違って温厚な性格だ。人を殺すようなことはできない。
「彼の魔力は[感覚隔離]。嗅覚や視覚、触覚、聴覚を好きな場所に移動できるんだ。例えば視覚を空中に漂わせることで三人称視点にできるし、遠く離れた場所の匂いを嗅ぐこともできる。手に聴覚をつければ触診機にもなるわけだ。戦いには不向きでしょ?」
「もし魔力を二つ持てたとしてもここに潜入する以上、変身系の魔力じゃなきゃいけないから尚のこと人殺しは無理と……それはユピテルさんに言ったんですか?」
「言ってはいるけれど、俺はユピテルさんからの印象最悪だからなぁ。殲滅戦の時に騙して皆殺しにようとした経歴もあるから信用はしてもらってないだろうね。まぁそこに関しては別にいいんだ」
俺の日頃の行いの悪さの報いだ。悪いのはどう考えても俺なわけなので、これ以上言うことは何もない。
「復讐することは賛成だけれど、間違った相手にするのは反対だ。自他共にいい気分にはなれないからね。ユピテルさんが間違った相手を手にかける前に、犯人を先に捕まえておきたいのさ」
「復讐を促すなんて正義の味方失格ですよ」
「いや、魔王だから俺」
[試験開始5分前となりました。各々好きな場所で待機して準備をお願いします]
俺とディーディア君は、ねじ曲がった枯れ木なのか人間なのかよく分からない像の前で待機することにした。俺達は無言で5分後の試験に備えている………ように見えるが、実は俺は心の中ではらわたが煮えくり返っていた。
ユピテルさんの婚約者が殺されたのは2年前の夏。その時、俺は中学3年生で、友達3人で勇者領に遠足に来ていたのだ。その時の引率者は察しの通りウェンディゴさんだったわけです。ええ、俺たちは利用されている。青ローブなのか他の誰かなのかはわからないけれど………気に入らないな。俺になすりつけるのならばともかく、無害なウェンディゴさんに罪をなすりつけようとする気概が気に入らない。弱者は一方的に蹂躙するべきであって、罪を被せるような下らない使い方はするべきではない。
罪を行うのならば全ての報いを自分で受け止めるべきだ。
[それでは試験を開始します。制限時間は無し。残り5チームになるまで闘い続けてください]
ぶー……ぶー……ぶー……ピー!
変な音と共に試験が開始した。
今回の試験は残り人数ではなくて[残りチーム数]になっているところがミソだ。最大人数である10人チームが一番有利なのは間違いない。彼らの中で裏切りをする必要がなく、協力するのに専念できるのだから。逆に今回の俺のチームみたいに人数が少ないほど不利になる。これは事前のチーム作りが一番重要な試験と言えるだろう。
さて、ここからが試験開始からの動きだ。決められたチーム数になるまで戦うということは、生き残ることが大前提だ。そうなると大人数を要するチームと戦うメリットは一切なくなる。必然的に考えられるのは………そう、少人数のチームを先に倒すということさ。
試験開始と同時に俺とディーディア君は複数のチームに追われていた!全力で走って逃げるが………いや多いって!20人はいるぞ!
大人数チームは協力して互いに戦うつもりが一切ない!少人数チームを倒すまで彼らが戦い合うことはないのだろう!
「どうするんですかこれ!全部倒しますか!?」
「え、これ全部を君1人で倒せるの?ならいいけど!」
「そうでしたあんたは戦わないんでしたねゴミカスが!」
俺の手の内はほとんどバレているから、彼ら相手に有効策をうつのは難しい。ディーディア君が頼りではあるが、そもそもこの状況で戦うのは得策じゃない。これはサバイバル。序盤に消耗するのは不味すぎるのだ。
「………俺が混乱を作る。その間、ディーディア君は戦場を駆け回って危険人物を探してくれ」
「混乱を作る?そんなの一体………」
ディーディアが振り向くと、そこには飯田狩虎ではなく全く知らない人間が立っていた。ディーディアと目が合い一瞬だけ静寂が訪
「うぉぉおおお!?!?」
ディーディアはそいつをぶん殴り気絶させた!そして後ろを振り返ると、そこには20人の中で戦う飯田狩虎の姿!混乱を作るってそんな雑なやり方で!?
しかしディーディアはツッコミたい気持ちをグッと抑えて駆け出した。
俺が近づくとみんなが離れていく。なんなら俺が近づく前にみんな離れていきやがる。半径30mに誰もいないんだけど。
「……………」
いつもは宏美や遼鋭がいるからグループ作りは楽勝だったのに、彼らがいないとこんなにも辛いものなのか。はぁ、やっぱ俺に魅力なんてないんだよなぁ。
「ワに偉そうなことを言っておいてこれか、小僧の方がよっぽどコミュ障じゃないか」
「魔剣の目ん玉が気色悪いからみんな離れていくんだ。俺のせいじゃない」
「ワだってこんな見た目で生まれたくなかったわ!」
ドボドボ涙流しやがって、余計に気持ち悪いぞ。……まぁ、彼らが近づいてこないのは100%俺が悪いんだけどさ。
「できることなら高身長で細目が綺麗なイケメンになりたかった!」
「俺のことかな?」
「濁った細目などかっこよくもなんともないわ根暗が。慶次がワの理想に1番近いな」
「剣ごときが高望みしやがって………」
さてと本格的にどうしたものかな。俺が魔王なのはここのみんなにバレちゃってるから、警戒して近づいてくれない。グループ作らないと試験に不合格になっちゃうよ。………ん?
周りを舐めるように見ていると、見たことある人がいるじゃあないですか!全力で俺から遠ざかろうとしているけれど、この俺の目から逃げきることなど出来ないのだ!
「ディーディアくんじゃないかぁあ!!」
「うわっ!」
俺は全力でダッシュしてディーディア君にラグビーのタックルをかまして腰あたりに抱きついた!
「俺を助けるつもりでチーム組んでくれぇ!」
「ちょっ、距離感バグってますよ!ほんのちょっと喋った程度の仲にやるスキンシップじゃない!」
「だってこのままじゃ試験失格なんだもぉん!!」
無理矢理引っ剥がされた俺は地べたに倒れた。
「今回の試験はチームで戦うじゃん?あと20分以内にチーム組めないと1人で戦うハメになるんだよ!」
二次試験はチームによる乱戦だ。1グループ最大10人で、5組になるまで戦い続けることになる。人数を集めれば集められるほど有利に戦えるのだから、俺がこんなに必死になるのも頷けるよね。
「ね?俺に色々と教えてもらったんだから恩返しに助けてくれよ!」
「いや、でも、殲滅戦の時に殺されかけたんですけど」
「そんな小さなこと忘れちゃいなよ、ね?」
「生き死にの問題!生命にとって1番重要ですよ!」
頑張って再度抱きつこうとするが、ディーディア君は華麗なフットワークで俺のタックルをかわし続ける。
「俺はあなたに殺されかけたこと忘れませんからね!1人で勝手に不合格になってください!」
最後、俺の渾身のタックルに合わせて頭を押さえつけてかわすと彼は剣を抜いた。うわお、彼が1番警戒心を持っているな。下手なことしたら殺されかねないぞ。
「………正直な話をするとさ、勇者領の命令で今動いてるんだよね」
俺は一歩ひき諭すようにゆっくり話しかける。そして彼が[勇者領]という単語に反応を示したのを見逃さない。
「この勇検に危険人物が紛れ込んでいて、受験者を殺しているんだ。犠牲者を増やさないためにも、俺はその危険人物を突き止めたいわけさ。その為には協力者が必要……そうだろ?」
勇者じゃないのに殲滅戦に参加して、さらに勇検まで受けているのだ。彼はとても勇者になりたいのだろう。これを使って引き込むことは簡単だが、それよりも断れない状況を作り出す方が先決だ。
「俺の力が封じられているのを知っているのはこの中では、君だけだ。俺が置かれている状況も断片的には理解できている。君が1番相応しいんだ」
勇者領の上層部により、殲滅戦の結果………俺の暴走と魔王の力の封印が隠蔽された。今この状況で勇者達に襲われていないのにはそういう理由があるわけだ。
「俺と協力して危険人物を捕まえよう」
「………本当ですかその話?」
しかし俺に一度騙されているわけだから、彼はかなり疑い深い。ここまでは想定通りだな。
「ああ、なんならグレンに聞いてもいいよ。今に至るまでの経緯を全部説明してくれるはずだ」
俺は彼の目から視線を外さない。…………一瞬だけ瞳孔が揺れたな。そろそろ攻めるか。
「まっ、いやならいいんだけどさ。一応念のため、試験中にもし殺されそうになったら俺に伝えろよ?なんとかして助けてあげるからさ」
これで1人で試験をすることの危険性はやんわりと伝えられたはずだ。あとは彼の頭の中でソロバンを弾いてもらえば………
「………もし危険人物を捕まえられたら勇者になれますかね?」
「グレンやイリナがずっと俺を監視しているからね。俺に協力してくれるのならば、彼らは君の活躍も見るってわけだ。あとは言わなくてもわかるだろ?」
こっちに傾いたな。これならよほどのことがない限り途中で裏切るなんてことはないだろう。
「一緒に危険人物を捕まえようじゃないか」
「………そういうところですよ、あなたが警戒されているのは」
よし、ディーディアさんを仲間に引き込めたぞ。彼がいるのといないのとでは俺の動きやすさに天と地ほどの差ができる。
「それじゃあ後8人ですか。なんとかして集めきりたいですね」
「あれ言ってなかったっけ?特別ルールで俺のチームだけ最大で2人なのよ」
「やっぱり別の人達とチーム組みます」
「ねぇ待って待って!俺とここの人達を助けると思って協力してよぉお!」
俺は彼の腰にしがみついてひきずられ続けた。
「そういえばさ、魔法エネルギーは操れるようになった?」
引き摺られること1分、ようやく折れたディーディア君と俺は座って作戦会議という名の雑談をしていた。
「魔法エネルギーですか?たまーにコントロール出来るぐらいですね。実用レベルじゃないですよ」
「勿体ないなぁ。あれが使えるようになったらかなり強くなれるのに」
「………思ってたんですけど、なんでそんなすごい技術を勇者に教えてるんですか?立場的には敵なわけじゃないですか、俺達。敵に塩を送るなんて変な話ですよ」
そういえば彼には俺の目的を言ってなかったな。この際だ、俺の立場をもっと理解してもらおう。
「俺は安心してイリナに殺されたいんだ。その為には勇者が強くならなきゃいけない。カースクルセイドなんか当然のように退け、魔王すらも倒せるような………そのレベルになってもらいたいんだよ俺は」
その為にも今俺は君達を裏切る為の準備を着々としているわけなんだけどさ。
「勇者は希望を武器に奇跡を起こして魔王を倒すが、今の君達はその段階に到達していない。だから君達をその段階まで押し上げるために俺は頑張っているわけ」
「………変な人ですね」
「よく言われるから慣れっこだよもう」
でも正直、俺はこの世で最も普通な人間だと思うんだけどなぁ。俺があまりにも普通すぎて逆に異常者に見られているのは誠に遺憾でございます。
「話を戻そう。敵は最大10人に対して俺らは2人で戦わなきゃいけない。普通なら無理そうに見えるけれど、魔法エネルギーを操ることができればクリアは容易い。合格できるかどうかはディーディア君にかかってるよ」
「で、でも2日もかけて習得できなかったんですよ?こんな短期間で習得できるなんて………」
「努力は絵のようなものさ。2日かけて完成しなくても白紙に戻ることはない。諦めなければ必ず完成するのさ」
実際、殲滅戦なんていう超危険な戦いに参加してまで勇者になりたがる人なのだ。その執念は人並み外れている。そんな彼が努力し続ければ遅かれ早かれ習得するのはまず間違いないだろう。
「………飯田さんはこれを習得するのにどれだけかかったんですか?」
「俺は才能がなかったからなぁ。魔力の基礎を習得するのに1年かかったよ。他の人達は1週間ぐらいでものにしてたのにね」
勉強ぐらいしか取り柄がないからね、しょうがないよね。
「わかりました。頑張って魔法エネルギーを習得するので、2人で頑張って戦いましょう!」
「俺は危険人物を見つけなきゃいけないから戦うつもりはないけど?」
「飯田さん?」
「いやほら、俺ってば智将ポジだから戦闘の方はご遠慮願うというかね?カレー注文してきたら、スプーンがコップに入ってて若干ガッカリするあれに似てるよね。[わざわざ水滴拭わなきゃいけないんだからコップに入れてくんなよ]ってぐらいの嫌な感じ」
「多分そこまで嫌がってないですよねそれ」
それはまぁ冗談だとして、危険人物を早めに見つけたいという思いは大真面目だ。早く見つけないとユピテルさんが暴走しかねないんだ。
「………それで、危険人物のウェンディゴ。目と口と耳が縫われてるんですよね?ぱっと見そんな変な人はいないですから、変身能力でも身に付けたんですかね?」
「…………俺の推察ではウェンディゴさんは試験官殺しはしていないんだよね。彼の魔力で人殺しは難しすぎる」
「面識があるんですか?」
「2、3回あったことがある」
俺が中学生の頃に年に一回会っていた。彼は青ローブと違って温厚な性格だ。人を殺すようなことはできない。
「彼の魔力は[感覚隔離]。嗅覚や視覚、触覚、聴覚を好きな場所に移動できるんだ。例えば視覚を空中に漂わせることで三人称視点にできるし、遠く離れた場所の匂いを嗅ぐこともできる。手に聴覚をつければ触診機にもなるわけだ。戦いには不向きでしょ?」
「もし魔力を二つ持てたとしてもここに潜入する以上、変身系の魔力じゃなきゃいけないから尚のこと人殺しは無理と……それはユピテルさんに言ったんですか?」
「言ってはいるけれど、俺はユピテルさんからの印象最悪だからなぁ。殲滅戦の時に騙して皆殺しにようとした経歴もあるから信用はしてもらってないだろうね。まぁそこに関しては別にいいんだ」
俺の日頃の行いの悪さの報いだ。悪いのはどう考えても俺なわけなので、これ以上言うことは何もない。
「復讐することは賛成だけれど、間違った相手にするのは反対だ。自他共にいい気分にはなれないからね。ユピテルさんが間違った相手を手にかける前に、犯人を先に捕まえておきたいのさ」
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「いや、魔王だから俺」
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俺とディーディア君は、ねじ曲がった枯れ木なのか人間なのかよく分からない像の前で待機することにした。俺達は無言で5分後の試験に備えている………ように見えるが、実は俺は心の中ではらわたが煮えくり返っていた。
ユピテルさんの婚約者が殺されたのは2年前の夏。その時、俺は中学3年生で、友達3人で勇者領に遠足に来ていたのだ。その時の引率者は察しの通りウェンディゴさんだったわけです。ええ、俺たちは利用されている。青ローブなのか他の誰かなのかはわからないけれど………気に入らないな。俺になすりつけるのならばともかく、無害なウェンディゴさんに罪をなすりつけようとする気概が気に入らない。弱者は一方的に蹂躙するべきであって、罪を被せるような下らない使い方はするべきではない。
罪を行うのならば全ての報いを自分で受け止めるべきだ。
[それでは試験を開始します。制限時間は無し。残り5チームになるまで闘い続けてください]
ぶー……ぶー……ぶー……ピー!
変な音と共に試験が開始した。
今回の試験は残り人数ではなくて[残りチーム数]になっているところがミソだ。最大人数である10人チームが一番有利なのは間違いない。彼らの中で裏切りをする必要がなく、協力するのに専念できるのだから。逆に今回の俺のチームみたいに人数が少ないほど不利になる。これは事前のチーム作りが一番重要な試験と言えるだろう。
さて、ここからが試験開始からの動きだ。決められたチーム数になるまで戦うということは、生き残ることが大前提だ。そうなると大人数を要するチームと戦うメリットは一切なくなる。必然的に考えられるのは………そう、少人数のチームを先に倒すということさ。
試験開始と同時に俺とディーディア君は複数のチームに追われていた!全力で走って逃げるが………いや多いって!20人はいるぞ!
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「………俺が混乱を作る。その間、ディーディア君は戦場を駆け回って危険人物を探してくれ」
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ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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