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鏡にキスを編
肝皮肝心あんこう鍋
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看板娘3人体制にしたおかげでこのフリーおにぎりに列ができ始めた。本来ならイリナだけでも最高の集客力を誇るのだが、俺がいるせいでその集客力がマイナスになってしまい、さらに魔物のウンモと得体の知れない男ディーディア君もいるので、集客力が地の底までいってしまった。普通に考えて近寄りたくないよね。でも女性が3人いるとその怖さも幾分かは和らぐ。実にいいことだ。
「お客さーん!美味しいおにぎりと美味しいお水を無料で提供してますよ!どうですか来ませんか!」
「いや、俺は忙しいからいいよ」
「今なんつった?ん?」
道行く人の腕を握り締め、笑顔でねめつける姫崎さん。その圧倒的な眼力に負けた男は笑顔を引き攣らせながらお客さんになってしまった。姫崎さんのビジネストークすげぇな。有無を言わせてねー。
「どうだイリナにユピテル!これが姫崎鈴音の実力だ!」
「わーすごーい頑張ってねー」
イリナとユピテルさんは椅子に座ってダラけている。イリナはたまに笑顔をお客さんに見せているが、ユピテルさんは無表情の極みだ。
「ユピテルさんどうしたんですか。人々を救う為にもっと頑張らないとダメじゃないですか」
「…………もう人が来ているじゃないか。これ以上集客をしてなにになるんだ」
「あれ、まさか恥ずかしい?恥ずかしいんですか?民を助けるのが勇者の、さらにはその勇者を束ねる貴族の役目なんじゃあないですか?個人の感情を優先するなんてどうかしてますよ」
「恥ずかしいわけではない。ただこれ以上やる必要はないと言ってるんだ」
…………正直、彼女の言う通りなのだが、ユピテルさんが恥ずかしがりながら頑張ってる姿見てみたいんだよなぁ。どうにかうまくできないかな。
俺は邪な思惑を悟られないように、左手で自分の顎を隠す。そして言葉をまとめゆっくりと動き、ユピテルさんを直視することなく彼女の左後方を見る。
「…………誰だって両脚で歩けるわけではないと思うんですよ」
「…………何を言い出すんだ急に」
「本当に助けを必要としている人間っていうのは、自分から助けを求めることもできずに困っているんじゃないかなって。怪我やいわれのない迫害に怯え、こんな大きな街路に来ることもできないような………必要性を決めるのは助ける俺達じゃない、助けを求める人達だ。そこら辺のところどう思いますかユピテルさん」
そして俺はユピテルさんの目に視線を合わせ、すぐに外した。目があった時間は1秒にも満たなかったが、それでも俺はとても長く感じた。
「……………確かにその発言は正しいが、貴様に言われると否定したくなる」
「それでも発言が正しいと思えるのならそれに従わなきゃいけない。弱者を助けるのがあなたたち勇者の仕事なんですから」
不機嫌な顔をしながらも、しかし新たなお客さんを求めてユピテルさんはお店を離れた。看板娘が一人減ってしまったが一度軌道に乗れば大した影響はない。逆に別の客層を引き込むことの方が大切だから、これでいいのだ。
「ねぇミフィー君、ずるくない?君だけなんも仕事してないんだけど」
みんなが接客をしている中、俺だけがノンビリと椅子に座って成り行きを眺めていた。それを快く思わないイリナが言ってくるのは当然のことだよな。
「俺が立っていてもマイナス効果しかないからな。大人しくしているほうが良いんだよ」
「そんなこと言ったって、マイナスイメージしかないのにウンモですら店頭に立ってるんだよ。君だって立ちなよ」
「今後を考えて自由に街に出入りする為には市民に慣れてもらわないといけないから、ウンモが店頭に立つことには意味が大いにある。でも俺はどんなに嫌われたって街に出入りできるんだ、わざわざ店の前に立って悪目立ちして客を減らすわけにはいかないだろ?」
俺達の話を聞いていたウンモが肩をびくつかせ、ゆっくりとテーブルの影に隠れた。お客さんを呼べてないことに後ろめたさでもあるのだろうか………今の段階ではそこまで期待してないんだけどな。
「ウンモはいずれ人々に好かれるようになるはずだから、負い目なんて感じずに伸び伸びと立ってれば良いよ」
しかしウンモはテーブルに隠れたままだ。マジで立ってるだけでいいんだけどな……そうだ、予定よりちょっと早いけど……俺は魔剣をホルダーごと外すとウンモに投げて渡した。
「今日からお前らはキモかわコンビだ!」
「…………肝皮?」
「キモくてかわいいでキモかわ」
ハダカデバネズミやアホロートルが代表される[キモかわ]。俺はその存在が理解できないと言うか、可愛いと思えないのだが、それが一大ジャンルになっているのは認めなきゃいけない。そして認めるついでに俺達もあやかってウンモを人気者にしようじゃないか。
「目ん玉がついた喋る魔剣と、喋れる魔物のコンビとか面白そうじゃん。キモかわ路線でやっていこうぜ」
「いや、これじゃあさらに人が離れていくだけじゃ………」
お世辞にも可愛いと言えない岩の魔物が、目ん玉ついた紫色の魔剣を持ってる姿は………まぁ、たしかに、気持ち悪いだけだな。
「じゃあ笑う?笑いさえすればある程度はイメージがプラスになるはずだ」
「我は魔物だぞ!人間どもに媚びへつらうわけにはいかないのだ!」「笑え」
ウンモの顔を両手で掴み、顔をめちゃくちゃ近づけて睨みつける姫崎さん。その瞳には一切の光もなく、漆黒の闇のように染まっていた。
「…………ひゃい」
そしてそんな姫崎さんに恐れ慄いたウンモは涙目になりながらも精一杯笑う。可哀想だ………こんなの笑顔じゃないよ。
「………………」
「お前もだぞ魔剣」
無言を貫いていた魔剣が俺の言葉に反応してびくついた。あいつは恥ずかしがり屋だからな、笑えなんて言われたら……
「……ワほど高貴な存在は人に指図されて笑うわけにはいかんのだ。小僧よあきらごめんごめんごめん!」
ウンモから魔剣をひったくり、地面に思いっきり叩きつけようとしていた姫崎さん。痛いのかどうか分からないが魔剣はそれを止めようと必死に抗っている。まぁ所詮は剣だからな、抵抗と言っても反論することぐらいしかできないんだけど。
「おい小僧!今すぐにこれをやめさせろ!」
「やめさせるもなにも、お前が笑えば勝手に止めるんだからそうしろよ。笑うだけだよ?ほらスマイルスマイル」
「いままで剣として生きてきたワからすれば笑うのですら大変なんだ!貴様ら生命と同じだと思うなよ!」
「いいからひとまず笑ってみなよ」
6秒ぐらい恥ずかしがった後、魔剣が頑張って笑顔を作ったが………ぎこちなさ過ぎてブサイクだな。笑顔っていうか泣き顔だよこれじゃ。
「うんうん出来てる出来てる!それじゃあこいつらを一緒にして…………」
ウンモに魔剣を持たせ笑顔にさせた。涙目で笑うウンモと笑顔がブサイクすぎて泣き顔になる魔剣。うーん、可愛くねぇ。
「…………よし」
「よしじゃないよな!いったいどこを見てよしと思ったのか分からないが、絶対によしじゃないよな!」
「不器用さが可愛さを生み出すと思うんだよね。慣れてないこれぐらいぶきっちょな笑顔の方が一般受けしそうじゃん」
魔剣を振り回して襲いかかるウンモをかわしながら、俺はテキトウな屁理屈を言い続ける。
「そうだ、魔剣って形変えられるんだっけ?」
「剣からあまりにも逸脱しなければな。………何を考えている小僧」
「可愛さを増す為にリボンに………」
「却下だバカタレ!」
ウンモの攻撃に合わせて魔剣が伸び縮みし、さらに複雑に俺に襲いかかってくる!早くも息ぴったりじゃないか、良いコンビになりそうだ!
「とにかくお前らは今日から[ぶきっちょ魔軍団]として活動な!笑顔を忘れるなよ笑顔を!」
「だから嫌だって言って………」
ガッ!!
ウンモが俺目掛けて魔剣を振り下ろそうとしたら空中で止まった。ウンモが見上げるとそこには無表情の姫崎さんが……魔剣の刀身を握り締めていた。
「……………」
「……………」
「…………………」
「…………………ひゃい」
姫崎さんのプレッシャーに耐えきれなかったウンモと魔剣は、こうして今日から[ぶきっちょ魔軍団]の一員になってしまった。ちなみに先に言うと、今日の彼らの集客数はたったの1人だけでした。
「みなさん、僕達の仕事を忘れていませんか?」
俺達が遊んでいるあいだ1人黙々と仕事をしていたディーディア君。本来の目的通り、おにぎりとお水を提供し人々から情報を聞き出していたようで、彼の周りにはかなりの人数が集まっていた。なんてやつだ、フリーおにぎりを始めた時にはお客さんが全然集まらなくて苦労していたのに………成長している!
「わ、忘れてるわけないじゃあないですか。俺なんてもう凄まじい量の情報集めましたよ」
「一番仕事してない奴が何言ってんの」
「ほら、ウンモと魔剣の笑顔がキモかわいいって分かったわけですし………」
「可愛くはないし、情報収集も関係ないし」
「可愛いし。はぁ、これが勇者領の希望の象徴ですか。魔物だからって笑顔を奪うのは許されることじゃあないよ?」
「お客さん達の情報によると、この街でなにやら一大プロジェクトをしているみたいです」
俺の言葉を無視して話を続けるディーディア君。一大プロジェクト?………かなり興味を惹かれる言葉じゃないか。
「詳しくはみなさんも教えてられていないようですが、なんでもこの街の影響力を強めるようなかなり凄いことらしいですよ」
「ふーーん…………」
俺は左手で自分の顎を隠すと、ゆっくりと遠くを見つめた。市民達の背格好、街をあげての一大プロジェクト…………つつけば面白いのが出てくるんじゃないのか?
この瞬間、俺は気が緩んでいた。状況を有利に進めうる情報の獲得、勇者しかいない街の中、周りには大量の仲間。この状況でずっと緊張している方が無理な話なのだが、とにかく、俺はこの時だけはほとんど脳死状態だった。
後ろから近づいてきた市民が俺の肩を叩いて一言。
「これ、預かっていてくれませんか?」
「あ、はい。いいですよ…………」
振り返り、何かを受け取った俺は手に視線を向けようとしたけれど、目の前の光景に思考が一瞬固まった。俺に物を渡した人の首から血が噴き出していたからだ。
「俺から離れろ!!」
半径1kmを囲うように水で壁を作り出してから瞬時に周りを確認する!他に怪我してる人はいないか?俺に襲いかかる素振りがある人間はいないか!?………大丈夫!なら次にやるべきは怪我人の救助!
「この中で人を治す魔力を持っている人は居ますか!?いないのならそういう知人を呼べる人でも構わない!とにかく傷口をふさげるような人を…………」
首から血を噴き出し倒れた人を見て固まったり、叫び出す人たち!混乱している!しかも魔族の俺の近くでこんなことが起こったからみんなが俺を警戒している!当然っちゃあ当然のことなんだけど今はそれどころじゃあないだろ!
「てめぇら勇者だろうが!俺なんかに怯まずに怪我してる奴を救えよ!…………ちっ!姫崎さん!確か人の傷口を止められましたよね!?」
「で、でも本当にただ塞ぐだけで拒絶反応ヤバイですよ!」
「誰もいないんだからしょうがない!傷口塞いで、ショックが起きる前に治療ができる場所に運ぼう!」
姫崎さんが怪我人の首に手を当てると、ケロイドのような皮膚が傷口を埋めた。しかしこれは体外への出血を抑えるだけ。組織のダメージ、血管の損傷は治っていない。ここからは時間との勝負だ!
「わかってる私でしょ!一瞬で連れていくから!」
「ああ、頼んだ」
イリナが怪我人を背負って飛び出すと、あっという間にイリナの姿が見えなくなった。現場の人々はいまだに混乱状態だが、やるべきことをやり終え心に余裕ができた俺は一呼吸おいて状況を理解する。
「飯田さんに対する攻撃の巻き添えとかだったんですかね?と、とにかく、なんだったんですかね今の」
「巻き添えじゃないよ、あれは俺に対する攻撃だ」
俺は握っていた物を手放した。するとそれは地面とぶつかり金属音を響かせる。落ちたのは血がついたナイフ………
「俺にこれを渡して自分の首をかき切ったんだ。俺が人を攻撃したって状況が欲しかったんだろうな、どこかの誰かさんは」
ここから信じられない早さで勇者達が俺を捕まえようと襲いかかってくるはずだ。全ては手筈通り………この状況を打開する為にはこの作戦を指揮している奴を丸め込むしかない。さらに俺には敵がいすぎるから憶測で犯人探しはできず、迎え撃って敵から聞き出すしかないだろう。
「ひとまず今からこの街のリーダーに会いに行くからさ、乗り気じゃない奴はイリナの帰りをここで待っていてくれ」
「私は当然行きますよ飯田さん!」
「行くメリットがあるなら考えますよ」
「もし成功したら、勇者内部に巣食う悪を一掃することができるだろうね。かなり勇者チックじゃないそれ?」
「のった」
俺が歩き出すと、姫崎さんとディーディア君がついてくる。そして遅れるようにウンモが走って追いかけてきた。
「我は魔物だ、何もしていなくてもついでで討伐される。貴様についていくぞ」
「じゃあこの危機を乗り切って、認められるような魔物になっちまおうか。あっ、ここの人達用のシェルター作っといて」
ウンモが岩盤を操り地下にシェルターを作り出した。どれほどの規模になるか分からないが、この街で戦いが起きるのは確実だ。万が一を考えて行動するべきだろう。
バシャアン!!!
水の壁が吹き飛び、外から10人が飛び出してきた!
「抵抗すれば命はないぞ飯田狩虎!」
「おいおい、魔王に言っていい言葉じゃないよそれ」
吹き飛ばされた水を操り、槍を複数本作り出すと先頭にいる男目掛けて放つ!それを勇者達は切り裂くと減速することなく俺達に向かってくる!
「お前ら勇者ができることはせいぜい命乞いだけだ」
こうして、俺と勇者の戦いが始まった。
「お客さーん!美味しいおにぎりと美味しいお水を無料で提供してますよ!どうですか来ませんか!」
「いや、俺は忙しいからいいよ」
「今なんつった?ん?」
道行く人の腕を握り締め、笑顔でねめつける姫崎さん。その圧倒的な眼力に負けた男は笑顔を引き攣らせながらお客さんになってしまった。姫崎さんのビジネストークすげぇな。有無を言わせてねー。
「どうだイリナにユピテル!これが姫崎鈴音の実力だ!」
「わーすごーい頑張ってねー」
イリナとユピテルさんは椅子に座ってダラけている。イリナはたまに笑顔をお客さんに見せているが、ユピテルさんは無表情の極みだ。
「ユピテルさんどうしたんですか。人々を救う為にもっと頑張らないとダメじゃないですか」
「…………もう人が来ているじゃないか。これ以上集客をしてなにになるんだ」
「あれ、まさか恥ずかしい?恥ずかしいんですか?民を助けるのが勇者の、さらにはその勇者を束ねる貴族の役目なんじゃあないですか?個人の感情を優先するなんてどうかしてますよ」
「恥ずかしいわけではない。ただこれ以上やる必要はないと言ってるんだ」
…………正直、彼女の言う通りなのだが、ユピテルさんが恥ずかしがりながら頑張ってる姿見てみたいんだよなぁ。どうにかうまくできないかな。
俺は邪な思惑を悟られないように、左手で自分の顎を隠す。そして言葉をまとめゆっくりと動き、ユピテルさんを直視することなく彼女の左後方を見る。
「…………誰だって両脚で歩けるわけではないと思うんですよ」
「…………何を言い出すんだ急に」
「本当に助けを必要としている人間っていうのは、自分から助けを求めることもできずに困っているんじゃないかなって。怪我やいわれのない迫害に怯え、こんな大きな街路に来ることもできないような………必要性を決めるのは助ける俺達じゃない、助けを求める人達だ。そこら辺のところどう思いますかユピテルさん」
そして俺はユピテルさんの目に視線を合わせ、すぐに外した。目があった時間は1秒にも満たなかったが、それでも俺はとても長く感じた。
「……………確かにその発言は正しいが、貴様に言われると否定したくなる」
「それでも発言が正しいと思えるのならそれに従わなきゃいけない。弱者を助けるのがあなたたち勇者の仕事なんですから」
不機嫌な顔をしながらも、しかし新たなお客さんを求めてユピテルさんはお店を離れた。看板娘が一人減ってしまったが一度軌道に乗れば大した影響はない。逆に別の客層を引き込むことの方が大切だから、これでいいのだ。
「ねぇミフィー君、ずるくない?君だけなんも仕事してないんだけど」
みんなが接客をしている中、俺だけがノンビリと椅子に座って成り行きを眺めていた。それを快く思わないイリナが言ってくるのは当然のことだよな。
「俺が立っていてもマイナス効果しかないからな。大人しくしているほうが良いんだよ」
「そんなこと言ったって、マイナスイメージしかないのにウンモですら店頭に立ってるんだよ。君だって立ちなよ」
「今後を考えて自由に街に出入りする為には市民に慣れてもらわないといけないから、ウンモが店頭に立つことには意味が大いにある。でも俺はどんなに嫌われたって街に出入りできるんだ、わざわざ店の前に立って悪目立ちして客を減らすわけにはいかないだろ?」
俺達の話を聞いていたウンモが肩をびくつかせ、ゆっくりとテーブルの影に隠れた。お客さんを呼べてないことに後ろめたさでもあるのだろうか………今の段階ではそこまで期待してないんだけどな。
「ウンモはいずれ人々に好かれるようになるはずだから、負い目なんて感じずに伸び伸びと立ってれば良いよ」
しかしウンモはテーブルに隠れたままだ。マジで立ってるだけでいいんだけどな……そうだ、予定よりちょっと早いけど……俺は魔剣をホルダーごと外すとウンモに投げて渡した。
「今日からお前らはキモかわコンビだ!」
「…………肝皮?」
「キモくてかわいいでキモかわ」
ハダカデバネズミやアホロートルが代表される[キモかわ]。俺はその存在が理解できないと言うか、可愛いと思えないのだが、それが一大ジャンルになっているのは認めなきゃいけない。そして認めるついでに俺達もあやかってウンモを人気者にしようじゃないか。
「目ん玉がついた喋る魔剣と、喋れる魔物のコンビとか面白そうじゃん。キモかわ路線でやっていこうぜ」
「いや、これじゃあさらに人が離れていくだけじゃ………」
お世辞にも可愛いと言えない岩の魔物が、目ん玉ついた紫色の魔剣を持ってる姿は………まぁ、たしかに、気持ち悪いだけだな。
「じゃあ笑う?笑いさえすればある程度はイメージがプラスになるはずだ」
「我は魔物だぞ!人間どもに媚びへつらうわけにはいかないのだ!」「笑え」
ウンモの顔を両手で掴み、顔をめちゃくちゃ近づけて睨みつける姫崎さん。その瞳には一切の光もなく、漆黒の闇のように染まっていた。
「…………ひゃい」
そしてそんな姫崎さんに恐れ慄いたウンモは涙目になりながらも精一杯笑う。可哀想だ………こんなの笑顔じゃないよ。
「………………」
「お前もだぞ魔剣」
無言を貫いていた魔剣が俺の言葉に反応してびくついた。あいつは恥ずかしがり屋だからな、笑えなんて言われたら……
「……ワほど高貴な存在は人に指図されて笑うわけにはいかんのだ。小僧よあきらごめんごめんごめん!」
ウンモから魔剣をひったくり、地面に思いっきり叩きつけようとしていた姫崎さん。痛いのかどうか分からないが魔剣はそれを止めようと必死に抗っている。まぁ所詮は剣だからな、抵抗と言っても反論することぐらいしかできないんだけど。
「おい小僧!今すぐにこれをやめさせろ!」
「やめさせるもなにも、お前が笑えば勝手に止めるんだからそうしろよ。笑うだけだよ?ほらスマイルスマイル」
「いままで剣として生きてきたワからすれば笑うのですら大変なんだ!貴様ら生命と同じだと思うなよ!」
「いいからひとまず笑ってみなよ」
6秒ぐらい恥ずかしがった後、魔剣が頑張って笑顔を作ったが………ぎこちなさ過ぎてブサイクだな。笑顔っていうか泣き顔だよこれじゃ。
「うんうん出来てる出来てる!それじゃあこいつらを一緒にして…………」
ウンモに魔剣を持たせ笑顔にさせた。涙目で笑うウンモと笑顔がブサイクすぎて泣き顔になる魔剣。うーん、可愛くねぇ。
「…………よし」
「よしじゃないよな!いったいどこを見てよしと思ったのか分からないが、絶対によしじゃないよな!」
「不器用さが可愛さを生み出すと思うんだよね。慣れてないこれぐらいぶきっちょな笑顔の方が一般受けしそうじゃん」
魔剣を振り回して襲いかかるウンモをかわしながら、俺はテキトウな屁理屈を言い続ける。
「そうだ、魔剣って形変えられるんだっけ?」
「剣からあまりにも逸脱しなければな。………何を考えている小僧」
「可愛さを増す為にリボンに………」
「却下だバカタレ!」
ウンモの攻撃に合わせて魔剣が伸び縮みし、さらに複雑に俺に襲いかかってくる!早くも息ぴったりじゃないか、良いコンビになりそうだ!
「とにかくお前らは今日から[ぶきっちょ魔軍団]として活動な!笑顔を忘れるなよ笑顔を!」
「だから嫌だって言って………」
ガッ!!
ウンモが俺目掛けて魔剣を振り下ろそうとしたら空中で止まった。ウンモが見上げるとそこには無表情の姫崎さんが……魔剣の刀身を握り締めていた。
「……………」
「……………」
「…………………」
「…………………ひゃい」
姫崎さんのプレッシャーに耐えきれなかったウンモと魔剣は、こうして今日から[ぶきっちょ魔軍団]の一員になってしまった。ちなみに先に言うと、今日の彼らの集客数はたったの1人だけでした。
「みなさん、僕達の仕事を忘れていませんか?」
俺達が遊んでいるあいだ1人黙々と仕事をしていたディーディア君。本来の目的通り、おにぎりとお水を提供し人々から情報を聞き出していたようで、彼の周りにはかなりの人数が集まっていた。なんてやつだ、フリーおにぎりを始めた時にはお客さんが全然集まらなくて苦労していたのに………成長している!
「わ、忘れてるわけないじゃあないですか。俺なんてもう凄まじい量の情報集めましたよ」
「一番仕事してない奴が何言ってんの」
「ほら、ウンモと魔剣の笑顔がキモかわいいって分かったわけですし………」
「可愛くはないし、情報収集も関係ないし」
「可愛いし。はぁ、これが勇者領の希望の象徴ですか。魔物だからって笑顔を奪うのは許されることじゃあないよ?」
「お客さん達の情報によると、この街でなにやら一大プロジェクトをしているみたいです」
俺の言葉を無視して話を続けるディーディア君。一大プロジェクト?………かなり興味を惹かれる言葉じゃないか。
「詳しくはみなさんも教えてられていないようですが、なんでもこの街の影響力を強めるようなかなり凄いことらしいですよ」
「ふーーん…………」
俺は左手で自分の顎を隠すと、ゆっくりと遠くを見つめた。市民達の背格好、街をあげての一大プロジェクト…………つつけば面白いのが出てくるんじゃないのか?
この瞬間、俺は気が緩んでいた。状況を有利に進めうる情報の獲得、勇者しかいない街の中、周りには大量の仲間。この状況でずっと緊張している方が無理な話なのだが、とにかく、俺はこの時だけはほとんど脳死状態だった。
後ろから近づいてきた市民が俺の肩を叩いて一言。
「これ、預かっていてくれませんか?」
「あ、はい。いいですよ…………」
振り返り、何かを受け取った俺は手に視線を向けようとしたけれど、目の前の光景に思考が一瞬固まった。俺に物を渡した人の首から血が噴き出していたからだ。
「俺から離れろ!!」
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首から血を噴き出し倒れた人を見て固まったり、叫び出す人たち!混乱している!しかも魔族の俺の近くでこんなことが起こったからみんなが俺を警戒している!当然っちゃあ当然のことなんだけど今はそれどころじゃあないだろ!
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姫崎さんが怪我人の首に手を当てると、ケロイドのような皮膚が傷口を埋めた。しかしこれは体外への出血を抑えるだけ。組織のダメージ、血管の損傷は治っていない。ここからは時間との勝負だ!
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イリナが怪我人を背負って飛び出すと、あっという間にイリナの姿が見えなくなった。現場の人々はいまだに混乱状態だが、やるべきことをやり終え心に余裕ができた俺は一呼吸おいて状況を理解する。
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「巻き添えじゃないよ、あれは俺に対する攻撃だ」
俺は握っていた物を手放した。するとそれは地面とぶつかり金属音を響かせる。落ちたのは血がついたナイフ………
「俺にこれを渡して自分の首をかき切ったんだ。俺が人を攻撃したって状況が欲しかったんだろうな、どこかの誰かさんは」
ここから信じられない早さで勇者達が俺を捕まえようと襲いかかってくるはずだ。全ては手筈通り………この状況を打開する為にはこの作戦を指揮している奴を丸め込むしかない。さらに俺には敵がいすぎるから憶測で犯人探しはできず、迎え撃って敵から聞き出すしかないだろう。
「ひとまず今からこの街のリーダーに会いに行くからさ、乗り気じゃない奴はイリナの帰りをここで待っていてくれ」
「私は当然行きますよ飯田さん!」
「行くメリットがあるなら考えますよ」
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「のった」
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アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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