Face of the Surface

悟飯粒

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鏡にキスを編

マジカライゼーション

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 「知っているか、最近キープタウンに出来た喫茶店のパフェなるものが美味いらしい。私は箱入り娘ゆえパフェなるものを食べたことはないが、どうだ。イリナと一緒に行ってみてはどうだ」

 大量の本棚に囲まれた廊下を歩きながら、15歳ぐらいの女の人が喋っている。ここに来てからずっと喋ってるよこの人。

 「……甘いのは好きなんですけど、甘すぎるものは苦手なんですよ俺。だからパフェはそんなに好きじゃなくて」
 「ふむ、パフェというのは甘すぎるのか。名前からして華やかな雰囲気を感じてはいたが、そうか甘いのか。女の子が好きそうだが………なおさら私は食べられそうにないな。過度な糖質は身体に贅をつけてしまう」
 「いつも思うがマリアは喋りすぎだ。黙ってられないのか」
 「口を閉じると窒息してしまう。夏が来れば暑くなるように、私がいれば五月蝿くなるもの。自然現象だと思って観念してくれ」

 マリアと呼ばれるこの女の人は、俺達がユピテルさんに報告しに行くと話していた。そして俺の報告を聞いて、何故かは分からないが同行することになったのだ。「ふむ、私も暇だし行ってみよう」って感じのノリ。いや、話聞いてました?結構重要なんですよ今回の件って。

 「私もスカラ殿には大変お世話になっているからな。危険人物から守る為にも同行せねばなるまい」
 「どっちかって言うと殺される心配があるのは俺なんですけどね」

 俺達がこれから接触しようとしている人物はスカラ・クレッシェル。勇者の中で最も魔力に精通しており、知らない者は誰もいないと言う超ビッグネームらしい。

 「同じ貴族の爪弾きものだ、親近感も湧くというものだよ。まぁ、スカラは私なんかよりも遥かに格上ではあるがね。ここの規模を見るだけでも分かるだろう」

 周りを囲む本棚の数々からは想像が出来ないだろうが、俺達が歩いている場所は学校だ。この世界で最も広い学校らしく、敷地面積としては驚異の130㎢。学校だけだと一番大きなもので8㎢もあるらしい。当然のごとく運動場、ショッピングセンター、映画館やゲームセンターなどの娯楽施設。もうほとんど一つの市街地となっている。しかも学校関係者以外の一般人も基本的に出入りが自由だと言うこともあって、年間来場者数は2億人はくだらないとのこと。勇者領の絶対に行くべき観光地の一つにランクインしており、[世界で最も偉大な学校]と言われている。スカラ・クレッシェルはこの学校の校長兼理事長なのだ。

 「史上最年少で魔力を専行とした魔法学院を作り上げ、そこの理事長に就任。高品質な授業が受けられると言うことで入学志望者が後を絶たず、年間50万人の卒業者を輩出している。彼らは非常に才に溢れ、さらに英才教育により戦闘にも秀でているため、彼らは卒業と同時に勇者領の各機関にエスカレーター式に入庁している。この学校に入学すると言うことは、未来の勇者領を担うと言うことなんだよ。どうだすごいだろう」

 まるで自分のことのようにこの学校の凄さを自慢してくるマリアさん。日本で言う東京大学的なポジションか。すげーな。

 「だが学校以上に、スカラの名を一躍有名にしたのはやはり医療用ベッドの開発だろう。いままでは回復の魔力を持つ人間だけが高速で傷を治癒するしかなかったが、あのベッドは魔力さえあれば誰でも治癒が可能になるのだ。これのおかげで死者数が9割減したぐらいだからな。高水準な医療設備の普及。それをやってのけたのだから功績は計り知れない」

 すべての地域に高水準の医療を整備する。しかもそれはお手軽で特別な知識を必要とせず、ただベッドを置くだけだっていうんだからなぁ…………凄まじいことなのは容易に理解できる。現実世界ですらそんなことは成し遂げていないというのにすげーな。SDGs涙目。

 「他にも機械一辺倒でされていた電気や水、ガソリンの生産供給に魔力をミックスすることで効率を飛躍的に向上させ、ここ数年で勇者領のインフラは何倍にも向上した。この一連の出来事を[魔導的産業革命マジカライゼーション]と呼ぶ。学校のテストに出るような歴史的な偉業だから覚えておいた方が良いだろう」

 …………あれ?かなりヤバい人に今から会おうとしてないか俺?聞けば聞くほど偉人すぎて……これあれだ、絶対に貨幣に顔印刷されるタイプの人だろ。

 「他にも数多くの魔導特許を申請し多額の使用料と契約金を巻き上げることで、勇者領で第一位の資産を保有する大富豪。資産家であり、手をつけてない事業はないと言われるほどの幅広い分野をあつかい……」
 「ちょ、ちょっと静かにしてください。頭の中を整理させてください」

 マジで言ってんの?ちょっ、はぁ?ちょっと頭良いレベルの人間だと思ってたのに、歴史的な偉人とこれから会うの?絶対言いくるめられないじゃん。嘘全部感化されるじゃん。やっべどうしよう…………やっべ!

 「お前はそんな奴に、周りの全てが敵の状態で会おうとしてるわけだ。根性あるよなぁ」
 「…………今からイリナに力を解放してもらおうかな」
 「もうイリナはこの世界にはいないぞ。先ほど連絡があった」

 うーん、死んだ。100%死んだ。

 「さぁ狩虎よ。こんな絶望的な状況でどう話をつけるつもりだ?何か秘策でもあるのか?」

 …………あるわけねーだろ。事前にスカラさんのことを知っていて、準備する時間があったのならばまだやりようがあったけれど…………見切り発車の現状でどうにかするのは無理です。策なんてありません。

 「そうですね、ひとまず舌ブラシで綺麗にした舌で靴を舐めるぐらいしか思いつかないですね」
 「スカラが履いてる靴は何百万もするのだからそれはやめた方がいいだろうな」
 「じゃあ靴を舐めるフリをするとか…………」
 「靴を舐める以外の選択肢はないのか」
 「…………襟?」
 「舐めなきゃ気が済まぬのかこの変態」

 俺はどうしようもなくなって泣き喚いた。正攻法でうまく行く気がないし、騙そうにも騙せる気がしない!どうしようもないでしょこれぇえ!

 「そ、そうだ!こういうのは誠心誠意土下座をして頼み込めばいけるって歴史が証明している!賢いのならばやはり人の誠実さを重視するはずだ!」

 諸葛孔明とかそこらへんもそうだったはず!三顧の礼ってやつよ!

 「貸した150円が返って来ないだけで街一個滅ぼすようなやつだぞ、スカラは」
 「うん、もう帰る」
 「馬鹿野郎。ようやくお前を気持ちよく殺せるチャンスが来たんだ、逃すわけないだろ」

 うわぁああんんん!!嵌められた!!こいつら絶対俺を殺すつもりだったろ!!魔導兵器とか絶対興味ないだろこいつらぁ!!

 「そうだぞ、私も狩虎の死に際を見たいからついてきたというのに………貴様の死は歴史的な偉業だ。教科書に載るだろうから誇りを持って死んでこい」
 「敵しかいねーんだけどもぉおお!!ウンモとディーディア君助けて!!」
 「俺も飯田さんが死ぬ分には賛成ですかねぇ」
 「我もだ。さっさと死ね」
 「人の心がねーんだよなこいつらはなぁ!いいもん死んでやるもん!勇者領巻き込んで自爆してやるもん!」
 「おいふざけるなよ。死ぬなら一人でひっそりと死んでくれ。あ、死ぬ前に連絡してくれよ?死体に八つ当たりしたいからさ」
 「こいつらが勇者ってマジっすか?信じられないんすけど俺」
 「悪党に罵詈雑言を浴びせるのが正義の味方の役目だろ?」
 「あなた達は間違っている。俺が言っていいことではないのはわかっているがそれでも言わせてほしい。あなた達は間違っている」
 「まぁここまで来たんだ観念しろ。潔く死んでこい」
 「そこは死なずに頑張ってこいでしょ!何死ぬの前提なんだよ!」

 グレンとマリアさんに両腕を掴まれて俺は引き摺られていく!もうやだぁ殺される!説得とか特にできることなく無駄死にする!やだぁ!こんな死に方やだぁ!だがグレンの腕力の前に逃げれるわけがない!どうにかしてスカラさんとの対話で死なないようにしなければ!

 「そ、そういえばグレンさんはなぜスカラさんと知り合いなんですか!?仕事でよく会うとか!?」
 「あんなクソ女と仕事でまで会いたくねーよ。ただの腐れ縁だ」

 スカラさんは女性なのか。名前だけじゃ性別の判断ができなかったからいい情報を聞けたぞ。

 「幼馴染とか!?まさか結婚!?」
 「あんなのと結婚なんて世界がひっくり返ってもねーよ。昔いろいろと世話になってたんだ。それだけだ」
 「あーーたしかにグレンさんって昔ヤンチャしてました系の見た目してますもんねー。ムカヤン」
 「はっはっはっ!今からヤンチャしてお前を八つ裂きにしてやろうか?」
 「冗談に決まってるじゃないですかグレンさーん。へへへっ、あっしが大将を馬鹿にするわけないでしょう?ぐへへ」
 「これが魔王かぁ。威厳がないなぁ」

 引きずられながらも相手にゴマをする俺を見てディーディア君がポツリと一言。そうなんだよなぁ、俺が魔王とか何かの間違いなんだよね。イリナやグレンの方が相応しいと思うよ?

 「俺からお前に唯一できるアドバイスは、[必死でやれ]ってことだけだ。生半可な行動は全部裏目に出るだろう。それぐらい頭がキレる奴なんだ」

 ようやく真剣モードになってくれたグレンさんの一言はかなり衝撃的だった。あのグレンさんが頭脳を誉めるって相当だぞ。どんだけ頭がいいんだよ。

 「私から言えることは[私では一切アドバイスができない]ことだろうか。彼女の頭脳を理解できるだけの頭脳を私は持ち合わせていない。きっと重役ですら理解しきれてないだろう。そういう化け物だ。本気でやってこい」

 なんでグレン達が真剣モードになったのか分かった。ここら辺の魔力の濃度が異常なんだ。俺達が向かう先から膨大な魔力が垂れ流しになっている。不可視の魔力が層となり空間が歪んでいる。この感じ久しぶりだな。キレた魔族と対峙した時の威圧感にそっくりだ。純粋な魔力による威圧…………勇者でこれができる人間がいるなんてな。

 「さぁ覚悟はできたか?」
 「あんたらがビビらせてくれたおかげでばっちしだよ」

 理事長室に辿り着いた俺達は扉の前で一呼吸ついた。………きっとついたのは俺とウンモだけだろう。他の人達は慣れているのか余裕だ。嘘だろ、ここまで威圧的な魔力が充填された部屋で飄々と出来るもんなのか?……まさか、これは全部俺にだけ向けられているのか?そんなことができるのか?…………改めて思う、この先にいるのは天才だ。

 「…………行きましょう」

 いつの間にか解放されていた両手で俺は扉を押し開いた。

 そして中で待ち受けていたのは…………空き部屋。誰もいなかった。

 「根本的に間違っているのよ。私にお願いなんて出来るわけがないじゃない」

 耳元から声が聞こえた。俺は振り向くことなく魔力で水を生み出し自身の周りを満たす。

 「私の行動を決めれるのは私だけ。あなたの願望なんて聞く耳持っちゃいないのよ。そこを凡人どもは理解してないから私にいいように殺されるの」

 どこから現れたのか分からない刃物が俺の太ももに突き刺さった。筋肉を断ち切られた燃えるような痛みが全身に広がる。あまりの痛みに胃がひっくり返って吐き出しそうだ。

 「理解した?今からあなたは死ぬの。願望を私に伝えることなく、ただ悪夢に心を壊されながら、ゆっくりと…………突き殺されるの」

 その言葉と共に俺の視界が真っ暗になった。そして次に現れたのは、俺がカイを殺し、他の勇者を大量に殺した映像だった。

 「…………なんだこんなもんかよ」

 なぜか今まで動かなかった右手で俺はその映像をかき消し、刺されたはずの右足で一歩前に出た。すると暗闇の世界は晴れ渡り、元の世界に戻ってきていた。

 「俺は俺を、狩虎を、過去を殺すために未来を作ろうとしてる馬鹿者だ。殺せるわけないんだよこんなので」
 「……………思ったより足掻くじゃない」

 理事長室の高そうな椅子に座っていたのは全身が蛍光ピンクの女。名はスカラ・クレッシェル。彼女は笑うことなく俺を一瞥した。
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