異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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一章 始まりの道筋

始まりは唐突に

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「ようこそ、最果ての園庭へ。君で――1万7217人目の到達者だ」

ごおんという鐘の音が響き、どこまでも真っ白な空間の中、目の前には執務机についたどこか聖職者を思わせるような服装の人物がいた。

声から男であるというのがわかるものの、その顔はフードの影になり伺うことができない。

男の背後には見上げる程の、それこそどこまで伸びているか判らないほどの大樹がある。枝葉は生い茂り、届くとも思えない程の先には小さく花実を結んでいるのも見る事ができた。

しかし、果たして自分はいつからここにいて、ここがどこで、何をしていたのか。
何もかもが靄がかかったかのように上手く考えられず、ただ呆然と目の前の男を見つめていた。

「ふむ、いつもと何も変わらないな。掛けたまえよ」

男の言葉と同時に執務机の前に木製の椅子が現れる。恐る恐る腰掛けるが、椅子は軋む事すらなく体を受け入れてくれた。

「此処は己が死を以て運命を書き換えた者がが行き着く場。最果ての園庭である」

『死』その言葉が脳裏に響き頭の中の靄が晴れていく。そして思い出す、死の直前を。
僕は目の前の、電車へ飛び込み自殺をしようとした人を止めようとして…… 逆に落ちてしまった。此処に来てやっぱりというか自分が死んだという実感が湧いてくる。 

家族…… 父母や妹は今何を思っているのだろうか。

「あの人は、無事……ですか?」

「君が死ぬ直前にその命を助けようとした人間の事か?」

「そうです。でも自分が死ぬつもりまでは……なかったんですけど」

「あの場に於いて君の命が消耗され、あの人間が生き長らえた事は断言しよう。それ故に君は此処にいる。」

「良かった……かな」

安堵に胸を撫で下ろした所に男の言葉が続く。

「だが、君の死を以て君が生きている筈の世界は滅び去った。まぁ世界を俯瞰すればただ枝が一本払われたに過ぎないがね」

再びごおんと鐘が鳴り、滅びたという言葉が脳裏にこだました。

「でも、それはあの人が生きている世界が残ったと言うことですよね」

自分の中の暗雲を払う様に言葉を紡ぎ出す。

「然り。確かに君という犠牲の元に別の一本は生き長らえた。しかしその枝は元来払われるべき枝であり、君が生きる世界こそが果実を実らせる可能性の高い枝であった。何れにせよ、ここへ辿り着いた者の行先は二つ。魂の坩堝にて新たなる枝の為の糧となるか、別の世界へと旅に出てその世界の枝葉となるかだ」

言葉と共に男の隣に音を立てて煮え立つ壺と大仰な装飾が施された扉が聳え立つ。

「坩堝を選んだ者には記憶と心を対価に一つの真理を与えよう。生まれ落ちた元の世界に於いて真理に相応しい偉業を成し遂げる者となるだろう。旅を選んだ物は辿り着いた先の世界の神々に祝福されれば新たな経験を経てその世界へ実りをもたらす道もあるだろう。すべては君の選択次第だ」 

暫しの間を沈黙が支配する。

「それは…… 生き返る事が出来るということですか?」

「否。生死は不可逆である。先に述べた様に今までの記憶、心を対価として真理――才能とも呼べる力を手に別の存在として産まれるということだ」 

ああ――こういう話って生きていた頃に読んだ事がある。

「それって強くなってニューゲーム的な感じ、ですか?」

「昨今の人間はよくそれを口にするな。そのにゅうげえむやちいとが何を指すのかまでは私は関知しない。ただ選択肢を与えるのみだ」

「それじゃあ…… 旅ってなんですか?」

ついと男の顔が扉の方を向く。

「簡単に言えば別の世界へ生まれ落ちるという選択肢だ。樹自体が異なるため、行き着く先は大なり小なりこの世界の異なる。しかし、ここより外の事は私に知る由もない」

それは、本当に強くなってニューゲームもあり得るのかもしれない。今までとは全然違う世界で――

死んだという悲しさからみえてきた希望がほんの少し心に火を灯す。

「それなら、僕は旅に出たいと思います。何処かで僕が……死なずに役に立てる世界があるかもしれないから」

「では扉を開けよう、君の旅路に幸多からん事を。だが気をつけたまえ、その選択が幸いとなるか災いとなるかも全ては君次第だ。」

三度ごおんと鐘が鳴り、それと同時に扉が開いてゆく。

隙間から見えるその先は――どこまでも続く白い道とその左右に無限とも思える程並ぶ扉であった。

「それを知っても、知らない世界を夢みてみようかと思います」

立ち上がり、男に向けて一礼をすると、扉の先へ一歩踏み出した。


――ごおんと、四度目の鐘がなる。 

「あの世界の出身者は昨今やたらと異世界を望む物が多い。良く聞こえるように生まれ変わりと旅とは言ってるものの、その実は#__・__#だというのに。世界を意図的に滅した罪はそう軽くはない」

そう言って手元の本に目をやる。そこには先程までいた人間の本来在るべき生の流れが記載されていた。男はその後半に大きくバツ印が記すと、横にあった判をとって押し付けた。

捺印された文字は”執行”の一文字。

「何れにせよ、私のすべき事はかわらない」

考えても意味はないと思ったのか男はかぶりをふるとページをめくり、再び自分の前の扉に目を据えた。 

いつもの如く扉が開き、鐘が鳴る。

「ようこそ、最果ての園庭へ。君で――1万7218人目の到達者だ」
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