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一章 始まりの道筋
最果てより
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あれからどれくらい歩いただろうか。
見渡す限り真っ直ぐ続く白い道と扉の群れはどこまでも続いてるように思えた。
この扉一つ一つが世界だとするのならば、一体どれだけの世界が存在し得るのだろうか。
だが、呆然と扉の群れに圧倒されながら歩いていると、時々扉同士の隙間が異なる事にも気づいた。そして同時に――朽ち果てた扉があるということも。
よくよく見れば同じような扉であっても傷があったり装飾が異なったり、はたまた錆び付いていたりと差があった。それは一体何を差すのか予想は恐らく当たるのだろう。
「旅と一声に言っても何処に入ったものか……」
あの最果ての園庭とやらに入る為に、自らの死で運命を書き換えるという件の男の言を信じるならば、この扉等も一度入ればそうそう出る事は叶わないのだろう。そう思えば思うほど、選ぶ手が動かない。
だが、いつまでもこうやっていた所で、あるのは道と扉だけ。そんな風景などずっと見ていれば発狂だってしかねない。
だから目の前の扉を叩いてみた。
しかし扉が開く気配も、返答もない。しばらく待ってはみたものの、変わりがないのでその隣を叩いてみる。これも待ってはみたものの返答はなかった。
それを幾度も繰り返したが、返ってくるのは無言か「此処は君の来るべき場所ではない」という拒絶の言葉だけ。
何かが違う。何か思い違いをしてるのでは――と思いながら何度目かの扉を叩いた時、カチリと言う音と共に扉が開いた。中は――最初の部屋と同じような白い部屋で、異なるのは執務机が十あり、そこに居るのは光の塊だということ。
「ようこそ、とは申しません。貴方は流刑者ですね?」
真ん中の光が、女性の様な声で問いかけてくる。
「流刑? 僕が選んだのは旅で――」
「貴方がした行為、世界の枝を滅ぼす事は重罪です。故に課せられるのが魂の地獄である坩堝による釜茹でか、世界の庇護を剥奪し放逐するかです。そして一己の生命体が世界を越える事は流刑か、己が力にて神の座へ辿り着いた者しか適いません」
何処か厳しい雰囲気で光が答える。それじゃあ、まるで自分のした事が…… 悪だったというのだろうか。それ以前に地獄か流刑では、聞いた話と全然違うじゃないか。
「貴方個人や周りの人々に於ける善悪は知りません。ですが世界の大樹を管理している者からすれば、花実を結ぶであろう枝を折った大罪人です。」
「そんな事誰も……言って……」
女性の声に少なからぬショックを受け、膝が床につく。
だからどの扉も、僕を拒絶していたのか……
「とはいえ、私達の世界が貴方に扉を開けたのにも理由があります。貴方の見た大樹と此処の大樹、何が違うかお分かりですか?」
「――枯れかけてる?」
見上げた先、最初に見た時と同じような大樹はその葉の大半が茶色く枯れ果て、また枝も痛々しいまでに払われその切り口を見せていた。
「その通りです。この世界の大樹は様々な原因で枯れかけています。簡単に言えば世界が滅びかけているのです」
そういう間にもそこかしこから枯葉が落ちてくる。
「このようになった世界の大樹にできる事は二つ。枯れるまで見届けるか、別の大樹の枝を接木するかです。別の世界から来た貴方にはこの世界に於ける運命が存在しない。つまり、予測しえないのです。それこそ大樹を枯れさせるかもしれませんが――花実がみのるかもしれない」
それは役に立てる……という事だろうか。
「我々にできる事は貴方に祝福を施し、少しでも花実へ至る可能性を上げる事です。その後については一切関知しませんが、貴方の縁が繋がるのならば、何れこの場の末席に至る事すら不可能ではありません」
「つまり、世界が滅びようとしてる原因を取り除けば良いと?」
「そう取って頂いて構いません。我々は祝福と種を与えるのみ。運命の記載がないため、あとは全て世界の流れに委ねられます」
それは――人間として生まれるとは限らないということだろうか。
「その通りです。この世界に産まれるにあたり、ありとあらゆる生あるものが対象です」
「滅びの原因は何でしょう?」
「判りかねます。言える事は一つ、世界の大樹が滅びの病に罹ったということだけ。貴方の力が及ばなければ――全て枯れ果てるのみです」
手掛かりも何もなしで、世界の滅びをどうにかしろだなんて……
いや、それでもまだ受け入れてもらえるだけありがたいのかもしれない。あのまま何処の世界にも拒絶されて永遠に彷徨うだなんて事を考えればまだマシな方だ。
「決断をされたようですね。」
十人、いや十柱の光の塊が立ち上がる。すると僕の目の前に光の粒が浮かぶ。
「その光が貴方に与えられる種です。貴方という枝を世界と繋ぐ接点ですので、見失う事のないように。また、貴方がどの様な形に産まれ出づるかは我々にもわかりかねます。ですが、常にあなたの側には我々の祝福がある事を思い出してください。」
光の粒がゆっくりと体に吸い込まれていく。
「貴方がこの世界で迷い、道に迷ったならば神託の巫女の元へ訪れるが良いでしょう。この世界での貴方の生に祝福を」
「「祝福を」」
今まで沈黙を守っていた九柱の光が口上を述べた。
同時にどこかへ、判らない場所へ急激に体が引っ張られる。生まれるのは生き物である事以外何かもわからない、そんな不安と恐怖を抱いたが、その力に贖う事はできず、意識もそれに合わせて曇ってゆく。
気が付けば息も出来ず、もがく事もできず、まるで何処かに吸い寄せられるように引っ張られていく。
せめて――産まれるのは意思疎通のできる種族でありますように。
そう思いながら僕は抵抗を諦めた。
見渡す限り真っ直ぐ続く白い道と扉の群れはどこまでも続いてるように思えた。
この扉一つ一つが世界だとするのならば、一体どれだけの世界が存在し得るのだろうか。
だが、呆然と扉の群れに圧倒されながら歩いていると、時々扉同士の隙間が異なる事にも気づいた。そして同時に――朽ち果てた扉があるということも。
よくよく見れば同じような扉であっても傷があったり装飾が異なったり、はたまた錆び付いていたりと差があった。それは一体何を差すのか予想は恐らく当たるのだろう。
「旅と一声に言っても何処に入ったものか……」
あの最果ての園庭とやらに入る為に、自らの死で運命を書き換えるという件の男の言を信じるならば、この扉等も一度入ればそうそう出る事は叶わないのだろう。そう思えば思うほど、選ぶ手が動かない。
だが、いつまでもこうやっていた所で、あるのは道と扉だけ。そんな風景などずっと見ていれば発狂だってしかねない。
だから目の前の扉を叩いてみた。
しかし扉が開く気配も、返答もない。しばらく待ってはみたものの、変わりがないのでその隣を叩いてみる。これも待ってはみたものの返答はなかった。
それを幾度も繰り返したが、返ってくるのは無言か「此処は君の来るべき場所ではない」という拒絶の言葉だけ。
何かが違う。何か思い違いをしてるのでは――と思いながら何度目かの扉を叩いた時、カチリと言う音と共に扉が開いた。中は――最初の部屋と同じような白い部屋で、異なるのは執務机が十あり、そこに居るのは光の塊だということ。
「ようこそ、とは申しません。貴方は流刑者ですね?」
真ん中の光が、女性の様な声で問いかけてくる。
「流刑? 僕が選んだのは旅で――」
「貴方がした行為、世界の枝を滅ぼす事は重罪です。故に課せられるのが魂の地獄である坩堝による釜茹でか、世界の庇護を剥奪し放逐するかです。そして一己の生命体が世界を越える事は流刑か、己が力にて神の座へ辿り着いた者しか適いません」
何処か厳しい雰囲気で光が答える。それじゃあ、まるで自分のした事が…… 悪だったというのだろうか。それ以前に地獄か流刑では、聞いた話と全然違うじゃないか。
「貴方個人や周りの人々に於ける善悪は知りません。ですが世界の大樹を管理している者からすれば、花実を結ぶであろう枝を折った大罪人です。」
「そんな事誰も……言って……」
女性の声に少なからぬショックを受け、膝が床につく。
だからどの扉も、僕を拒絶していたのか……
「とはいえ、私達の世界が貴方に扉を開けたのにも理由があります。貴方の見た大樹と此処の大樹、何が違うかお分かりですか?」
「――枯れかけてる?」
見上げた先、最初に見た時と同じような大樹はその葉の大半が茶色く枯れ果て、また枝も痛々しいまでに払われその切り口を見せていた。
「その通りです。この世界の大樹は様々な原因で枯れかけています。簡単に言えば世界が滅びかけているのです」
そういう間にもそこかしこから枯葉が落ちてくる。
「このようになった世界の大樹にできる事は二つ。枯れるまで見届けるか、別の大樹の枝を接木するかです。別の世界から来た貴方にはこの世界に於ける運命が存在しない。つまり、予測しえないのです。それこそ大樹を枯れさせるかもしれませんが――花実がみのるかもしれない」
それは役に立てる……という事だろうか。
「我々にできる事は貴方に祝福を施し、少しでも花実へ至る可能性を上げる事です。その後については一切関知しませんが、貴方の縁が繋がるのならば、何れこの場の末席に至る事すら不可能ではありません」
「つまり、世界が滅びようとしてる原因を取り除けば良いと?」
「そう取って頂いて構いません。我々は祝福と種を与えるのみ。運命の記載がないため、あとは全て世界の流れに委ねられます」
それは――人間として生まれるとは限らないということだろうか。
「その通りです。この世界に産まれるにあたり、ありとあらゆる生あるものが対象です」
「滅びの原因は何でしょう?」
「判りかねます。言える事は一つ、世界の大樹が滅びの病に罹ったということだけ。貴方の力が及ばなければ――全て枯れ果てるのみです」
手掛かりも何もなしで、世界の滅びをどうにかしろだなんて……
いや、それでもまだ受け入れてもらえるだけありがたいのかもしれない。あのまま何処の世界にも拒絶されて永遠に彷徨うだなんて事を考えればまだマシな方だ。
「決断をされたようですね。」
十人、いや十柱の光の塊が立ち上がる。すると僕の目の前に光の粒が浮かぶ。
「その光が貴方に与えられる種です。貴方という枝を世界と繋ぐ接点ですので、見失う事のないように。また、貴方がどの様な形に産まれ出づるかは我々にもわかりかねます。ですが、常にあなたの側には我々の祝福がある事を思い出してください。」
光の粒がゆっくりと体に吸い込まれていく。
「貴方がこの世界で迷い、道に迷ったならば神託の巫女の元へ訪れるが良いでしょう。この世界での貴方の生に祝福を」
「「祝福を」」
今まで沈黙を守っていた九柱の光が口上を述べた。
同時にどこかへ、判らない場所へ急激に体が引っ張られる。生まれるのは生き物である事以外何かもわからない、そんな不安と恐怖を抱いたが、その力に贖う事はできず、意識もそれに合わせて曇ってゆく。
気が付けば息も出来ず、もがく事もできず、まるで何処かに吸い寄せられるように引っ張られていく。
せめて――産まれるのは意思疎通のできる種族でありますように。
そう思いながら僕は抵抗を諦めた。
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