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三章 王都にて
帰り道
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「これでメルちゃんのコーディネートはばっちりね」
鼻息も荒く先頭を歩くのはミュールだ。
それに無言のタニヤが続き、ぐったりした僕は最後尾。
結局どんなのを選んだかって? もう話すのも遠慮したいね。
あのあと代わる代わる持ってきてはあーだーこーだ言ってくるミュールに押し切られるまま、ぎりぎりの三択で選んだ一品を僕は胸にかかえている。
こんなの知られたら顔から火どころじゃ済まない自信があるね。
そして攻撃の標的に一切なってないタニヤが羨ましい。
彼女こそ、そのスラッとした体に似合うものをつければ、瀟洒なイメージで人気をかっさらえるだろう。
ミュールはどうなんだっていうのは怖くて聞けない。彼女のことだからサラッととんでもないのを出してきそうな気がしてならないからだ。
まぁミュールが楽しかったならそれはそれでいいけどさ。明日が来るのが怖いなぁ。
「これで明日アラン君を骨抜きにできるね!」
「だからアランとはそういうのじゃないし、どうこうするつもりもないんだけど……」
「冒険の中、燃え上がる恋。そして一時の休息の時に垣間見える色気に迷わされる少年。ああっ、青っ春!」
もう全然僕の話聞く気ないよね、この子。
しかも色気って。そんなの僕に求めたところで無いものは出しようも無い気がするんだけど。
せめてもうちょっと体型がよかったら、遊びようもあるんだけど、何分栄養不足で育ったからね。でもきっと、伸びしろはある。そう信じていたい。
「そんなに青春が好きなら、ミュールもアプローチすればいいのに。そっちだって身分違いの恋で青春でしょ?」
「おとぎ話の中ならそれでいいんだけどね~。現実はそんなに甘くないのよ」
確かにこの世界において、身分というのは大きい。貴族に商人、職人・農民・奴隷と明確な区分ができてしまっている。
冒険者だって若干そこから外れてはいるものの、農民以上職人未満の扱いだ。そんな中で貴族との恋愛というのは、なかなか難しいものもあるだろう。
しかし、僕が思うに貴族でこの学院に来てるあたり、長子じゃないだろうし、チャンスはあるんじゃなかろうか。
「報われない恋、これも青春!」
まぁ彼女はこれこれで楽しんでいるみたいだからいいのかもしれない。でも彼女にチャンスがあるとしたら、絶対いい仕返
しのチャンスになるのに。
「……」
タニヤは相変わらず静かだ。先の店の中でも試着した僕の姿を見て盛り上がるミュールと違い、一言も発しなかった。
静かで大人しく、時たま気まぐれに動くタニヤはその体のこなしも相まって、本当に猫みたいだ。
一応仲良くなった? 気はするけども、それでもミュールが間に入ってくれないと、話題に乏しい。
「明日が楽しみね!」
そんなミュールの言葉を聞いて、一抹の不安が頭をよぎる。
「まさかとは思うけど、隠れて着いてくるとか、ないよね?」
笑顔で僕を見つめていた視線がすっとそらされる。
これは駄目なやつだ。
「いえいえいえ、人の恋路には首を突っ込みませんとも」
だから恋路でも何でもないだけどなぁ。
含み笑いをしながら足早に学舎へ向かう彼女を追いかける。このまま見逃したら、絶対こっそりついてきて後から話題にされる気がする。
ていうかこの一件について僕一切得してない気がするんだけど。主にラッキーなのは巻き込まれたアランの方じゃなかろうか。
僕のなかでアラン主人公説が再燃しそうだ。
かといって、今更一人で冒険を続けるというのもなかなか考え辛い。残りの神様の縁をたどるのにどれだけ必要かわからないけど、その時間を一人で駆け抜けろと言われたら、間違いなく途中でめげてしまうだろう。
そういう意味でもアランのことは大事にしなきゃいけない。
なにせ、初対面の僕に合わせてくれたし、死線だって一緒にくぐってくれた。きっと他の人相手だったら、ここまで一緒にやるってこともなかっただろうし、僕自身が無事だったかもわからない。
かといって彼ばっかり良い思いをしているのはなかなか腹立たしい。
せめて僕にもそろそろチートな何かがあってもいいと思うんだけどね。次の神様にお願いでもしてみようか。
茜色に染まる道の中、ミュールを追いかける。
彼女は彼女で色々苦悩はあるだろうけど、いつも楽しそうにしている。僕もそうやっていろんなことを楽しむって考え方が必要なのかもしれない。
明日だって開き直って楽しんでしまえば、きっといつもより楽しい一日になるだろう。
だってミュールによる作戦考案の元、すでに事態は動き出してしまっているのだ。
微妙に目にしみるような夕日とともに僕は諦めと楽しみを胸に学舎へと足を運んだ。
鼻息も荒く先頭を歩くのはミュールだ。
それに無言のタニヤが続き、ぐったりした僕は最後尾。
結局どんなのを選んだかって? もう話すのも遠慮したいね。
あのあと代わる代わる持ってきてはあーだーこーだ言ってくるミュールに押し切られるまま、ぎりぎりの三択で選んだ一品を僕は胸にかかえている。
こんなの知られたら顔から火どころじゃ済まない自信があるね。
そして攻撃の標的に一切なってないタニヤが羨ましい。
彼女こそ、そのスラッとした体に似合うものをつければ、瀟洒なイメージで人気をかっさらえるだろう。
ミュールはどうなんだっていうのは怖くて聞けない。彼女のことだからサラッととんでもないのを出してきそうな気がしてならないからだ。
まぁミュールが楽しかったならそれはそれでいいけどさ。明日が来るのが怖いなぁ。
「これで明日アラン君を骨抜きにできるね!」
「だからアランとはそういうのじゃないし、どうこうするつもりもないんだけど……」
「冒険の中、燃え上がる恋。そして一時の休息の時に垣間見える色気に迷わされる少年。ああっ、青っ春!」
もう全然僕の話聞く気ないよね、この子。
しかも色気って。そんなの僕に求めたところで無いものは出しようも無い気がするんだけど。
せめてもうちょっと体型がよかったら、遊びようもあるんだけど、何分栄養不足で育ったからね。でもきっと、伸びしろはある。そう信じていたい。
「そんなに青春が好きなら、ミュールもアプローチすればいいのに。そっちだって身分違いの恋で青春でしょ?」
「おとぎ話の中ならそれでいいんだけどね~。現実はそんなに甘くないのよ」
確かにこの世界において、身分というのは大きい。貴族に商人、職人・農民・奴隷と明確な区分ができてしまっている。
冒険者だって若干そこから外れてはいるものの、農民以上職人未満の扱いだ。そんな中で貴族との恋愛というのは、なかなか難しいものもあるだろう。
しかし、僕が思うに貴族でこの学院に来てるあたり、長子じゃないだろうし、チャンスはあるんじゃなかろうか。
「報われない恋、これも青春!」
まぁ彼女はこれこれで楽しんでいるみたいだからいいのかもしれない。でも彼女にチャンスがあるとしたら、絶対いい仕返
しのチャンスになるのに。
「……」
タニヤは相変わらず静かだ。先の店の中でも試着した僕の姿を見て盛り上がるミュールと違い、一言も発しなかった。
静かで大人しく、時たま気まぐれに動くタニヤはその体のこなしも相まって、本当に猫みたいだ。
一応仲良くなった? 気はするけども、それでもミュールが間に入ってくれないと、話題に乏しい。
「明日が楽しみね!」
そんなミュールの言葉を聞いて、一抹の不安が頭をよぎる。
「まさかとは思うけど、隠れて着いてくるとか、ないよね?」
笑顔で僕を見つめていた視線がすっとそらされる。
これは駄目なやつだ。
「いえいえいえ、人の恋路には首を突っ込みませんとも」
だから恋路でも何でもないだけどなぁ。
含み笑いをしながら足早に学舎へ向かう彼女を追いかける。このまま見逃したら、絶対こっそりついてきて後から話題にされる気がする。
ていうかこの一件について僕一切得してない気がするんだけど。主にラッキーなのは巻き込まれたアランの方じゃなかろうか。
僕のなかでアラン主人公説が再燃しそうだ。
かといって、今更一人で冒険を続けるというのもなかなか考え辛い。残りの神様の縁をたどるのにどれだけ必要かわからないけど、その時間を一人で駆け抜けろと言われたら、間違いなく途中でめげてしまうだろう。
そういう意味でもアランのことは大事にしなきゃいけない。
なにせ、初対面の僕に合わせてくれたし、死線だって一緒にくぐってくれた。きっと他の人相手だったら、ここまで一緒にやるってこともなかっただろうし、僕自身が無事だったかもわからない。
かといって彼ばっかり良い思いをしているのはなかなか腹立たしい。
せめて僕にもそろそろチートな何かがあってもいいと思うんだけどね。次の神様にお願いでもしてみようか。
茜色に染まる道の中、ミュールを追いかける。
彼女は彼女で色々苦悩はあるだろうけど、いつも楽しそうにしている。僕もそうやっていろんなことを楽しむって考え方が必要なのかもしれない。
明日だって開き直って楽しんでしまえば、きっといつもより楽しい一日になるだろう。
だってミュールによる作戦考案の元、すでに事態は動き出してしまっているのだ。
微妙に目にしみるような夕日とともに僕は諦めと楽しみを胸に学舎へと足を運んだ。
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