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三章 王都にて
逢引3
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「お互い良い武器が手に入ってよかったね」
「おう、それにしてもメルタは運が良いな」
二人して布に包まれた武器を抱えて店を出る。
え、色気もくそもないって? だってただの休日を一緒に過ごしてるだけでそんなのあるわけないじゃないか。
「でもすごかったんだよ。古びた鎧っていっても金属のをすぱーって」
「俺としてはそれを楽々担ぎ上げてるお前の方がすげーってなるけどな……」
それは若干言わないでほしかった。何せ柄も何もかも金属製で、己頭は僕の頭よりも大きい。総重量がどのくらいかだなんて考えたくもない。
「ちょっと予定外の出費だったけど、今後の事を考えればよかったかもね」
「そりゃぁな。これで後は3人目をどうするか、かぁ」
「それなんだけどさ、しばらくまた2人のままじゃダメ、かな」
アランの言葉に半ばつぶやくように返す。
「? 別にいいけど、火力がたりなーいって言ってたのはメルタじゃなかったか?」
「んー…… まあ魔法は僕が使えるようにもなったから、ダメかな」
必殺上目遣い! 身長はまだほとんど同じくらいだからちょっとやり辛いけど、きっと効果は抜群だ。
「い、いや俺は別に構わねぇけど…… のわっ」
僕の方に気を取られたアランが躓いて地面に転がる。
剣を抱えていたので受け身もうまくとれてないからちょっと痛そうだ。
「ああ、いってぇ……」
「大丈夫?」
彼の頭側にまわり、しゃがんで手を伸ばす。が、僕に手を伸ばしかけたところで彼の動きが唐突に止まる。
その顔はいつぞやぶりに耳まで真っ赤だ。そしてゆっくりと僕から視線をずらしていく。
そこで僕は思い出す。服の調整をしていた時のミュールの言葉を。
「アラン?」
「な、なんだよ」
「なんで僕から視線をずらすのかな?」
「……」
問い詰めても顔は反らしたまんまだ。とはいえ、このままだとお互い良くないし人の目も集まるので尋問はこのくらいにしておこう。
うん、これは思いが及ばなかった僕が悪かった。そして諸悪の根源はこの長さにしたミュールだ。
「とりあえず起きれる?」
差し出した手を彼が掴む。そのまま引き上げようとしたところへ―――
「ごめん!」
いきなり謝られた。思わず手が止まってしまう。
「えっと、何の話かな」
「いやその、あれだ。あの、見たらだめだってのは解ってるんだが、いつもと違う分つい意識しちまって……」
言葉通り申し訳なさそうに言う彼に思わず苦笑する。こんなところでも正直なのは彼の美徳ともいえるだろう。
「まぁ別にいいけどね、その話はここでおしまい」
平然としてるようにふるまってはいるものの、僕の心臓だってドキドキだ。なにせ僕からしたら十二分に冒険したような一品なわけだから、こういう事態を想定なんてしていなかった。
「お、おぅ」
アランが立ち上がってぱんぱんと体についた砂を払う。
さて、そろそろお昼にも良い時間だ。
周囲の店からもお腹をくすぐるいい匂いが漂ってくる。
「お昼、何食べる?」
「クラスの連中に聞いたいい店があるんだよ、こっちこっち」
僕の手を恐る恐る掴んで案内してくれる。
僕を押し倒したりしたくせに、こっちに触れる時に恐る恐るなのはちょっと癪だね。といっても乱暴に掴まれるのもたまったもんじゃないので、今ぐらいがちょうどいいのだろうか。
しばらくアランに任せてたどり着いた店は看板も特にでていないこじんまりとした店だった。だけど、そこから香るのは……
「カレー?」
「なんだ、知ってたのか? 味がちょっと刺激的だけどやみつきになるーって噂だったんだ」
この香りは紛うことなくカレーだ。ていうことはもしかしてライスもあるのだろうか。この世界に来てからの主食って基本じゃがいもとパンだったから、かなりご飯が恋しくなってきていたから、もしライスがあるとしたら大盛りで食べたいね。
戸をあければより一層香りが強まった。店員さんに案内されるがままに席にすわり、メニューを確認する。
ーーーある! カレーライスがある!
やっとめぐり得たご飯! そりゃジャポニカ米じゃなくてインディカ米系統かもしれないけども、日本人のソウルフードたるご飯が食べられる。それだけで今日のアランには最大級のグッジョブを送りたい。
先程までの減点をすべて無しにしても余りある!
「メルタは何にするよ」
「アランのおすすめで」
「じゃあ俺と同じのでいいか?」
注文を済ませ、料理を待つ間、改めて店内を見渡す。
カウンター式の調理場に4人がけのテーブルが5つほど置かれているだけの小さな店だが、壁際にずらりと並んだ酒瓶の数々はきっと夜は酒場としても営業しているからだろうか。
常にじっくりと火にかけているのか、さほど待つことはなく、僕たちの前にカレーが二皿並べられた。
当然紛うことなきカレーライスだ。白銀色に輝くお米はぱっと見た感じ細長いインディカ種ではなく、ふっくらとした楕円形をしている。
大きな期待とともに一匙食べてみれば、スパイスの刺激とご飯のやさしさが油の中で至上のハーモニーを奏でだす。
だからなんで僕って毎度おいしいもの食べると食レポ風味になるかな。まぁおいしいから仕方ないということにしておこう。
ほどよい辛みの中に野菜たちの甘味もまじりあって程よい味にまとまっている。うん、これは前世も含めて最高のカレーだ。
僕的には三ツ星を挙げたいところ。
視線をアランの方に向けてみると、彼も辛さと格闘しながらも匙を掬っていた。
「ん、うまいなこれ」
「だね」
「メルタはやっぱりこういうのが好きなのか?」
「もちろん」
「ちなみに他に好きなのは?」
少し考えた後に、彼は更に問いかけてくる。
「そうだね、甘いのとか、辛いのも好きだし、魚介系も好きかな」
僕としては何でもおいしくいただけるタイプなので、あまりこだわりはないんだけど、こうやって聞かれると結構色々出てくるものだね。
そんなことを話しているうちに、カレーも食べ終わり、デザートとして頼んでいたアイスをつついて午後は過ぎて行った。
「おう、それにしてもメルタは運が良いな」
二人して布に包まれた武器を抱えて店を出る。
え、色気もくそもないって? だってただの休日を一緒に過ごしてるだけでそんなのあるわけないじゃないか。
「でもすごかったんだよ。古びた鎧っていっても金属のをすぱーって」
「俺としてはそれを楽々担ぎ上げてるお前の方がすげーってなるけどな……」
それは若干言わないでほしかった。何せ柄も何もかも金属製で、己頭は僕の頭よりも大きい。総重量がどのくらいかだなんて考えたくもない。
「ちょっと予定外の出費だったけど、今後の事を考えればよかったかもね」
「そりゃぁな。これで後は3人目をどうするか、かぁ」
「それなんだけどさ、しばらくまた2人のままじゃダメ、かな」
アランの言葉に半ばつぶやくように返す。
「? 別にいいけど、火力がたりなーいって言ってたのはメルタじゃなかったか?」
「んー…… まあ魔法は僕が使えるようにもなったから、ダメかな」
必殺上目遣い! 身長はまだほとんど同じくらいだからちょっとやり辛いけど、きっと効果は抜群だ。
「い、いや俺は別に構わねぇけど…… のわっ」
僕の方に気を取られたアランが躓いて地面に転がる。
剣を抱えていたので受け身もうまくとれてないからちょっと痛そうだ。
「ああ、いってぇ……」
「大丈夫?」
彼の頭側にまわり、しゃがんで手を伸ばす。が、僕に手を伸ばしかけたところで彼の動きが唐突に止まる。
その顔はいつぞやぶりに耳まで真っ赤だ。そしてゆっくりと僕から視線をずらしていく。
そこで僕は思い出す。服の調整をしていた時のミュールの言葉を。
「アラン?」
「な、なんだよ」
「なんで僕から視線をずらすのかな?」
「……」
問い詰めても顔は反らしたまんまだ。とはいえ、このままだとお互い良くないし人の目も集まるので尋問はこのくらいにしておこう。
うん、これは思いが及ばなかった僕が悪かった。そして諸悪の根源はこの長さにしたミュールだ。
「とりあえず起きれる?」
差し出した手を彼が掴む。そのまま引き上げようとしたところへ―――
「ごめん!」
いきなり謝られた。思わず手が止まってしまう。
「えっと、何の話かな」
「いやその、あれだ。あの、見たらだめだってのは解ってるんだが、いつもと違う分つい意識しちまって……」
言葉通り申し訳なさそうに言う彼に思わず苦笑する。こんなところでも正直なのは彼の美徳ともいえるだろう。
「まぁ別にいいけどね、その話はここでおしまい」
平然としてるようにふるまってはいるものの、僕の心臓だってドキドキだ。なにせ僕からしたら十二分に冒険したような一品なわけだから、こういう事態を想定なんてしていなかった。
「お、おぅ」
アランが立ち上がってぱんぱんと体についた砂を払う。
さて、そろそろお昼にも良い時間だ。
周囲の店からもお腹をくすぐるいい匂いが漂ってくる。
「お昼、何食べる?」
「クラスの連中に聞いたいい店があるんだよ、こっちこっち」
僕の手を恐る恐る掴んで案内してくれる。
僕を押し倒したりしたくせに、こっちに触れる時に恐る恐るなのはちょっと癪だね。といっても乱暴に掴まれるのもたまったもんじゃないので、今ぐらいがちょうどいいのだろうか。
しばらくアランに任せてたどり着いた店は看板も特にでていないこじんまりとした店だった。だけど、そこから香るのは……
「カレー?」
「なんだ、知ってたのか? 味がちょっと刺激的だけどやみつきになるーって噂だったんだ」
この香りは紛うことなくカレーだ。ていうことはもしかしてライスもあるのだろうか。この世界に来てからの主食って基本じゃがいもとパンだったから、かなりご飯が恋しくなってきていたから、もしライスがあるとしたら大盛りで食べたいね。
戸をあければより一層香りが強まった。店員さんに案内されるがままに席にすわり、メニューを確認する。
ーーーある! カレーライスがある!
やっとめぐり得たご飯! そりゃジャポニカ米じゃなくてインディカ米系統かもしれないけども、日本人のソウルフードたるご飯が食べられる。それだけで今日のアランには最大級のグッジョブを送りたい。
先程までの減点をすべて無しにしても余りある!
「メルタは何にするよ」
「アランのおすすめで」
「じゃあ俺と同じのでいいか?」
注文を済ませ、料理を待つ間、改めて店内を見渡す。
カウンター式の調理場に4人がけのテーブルが5つほど置かれているだけの小さな店だが、壁際にずらりと並んだ酒瓶の数々はきっと夜は酒場としても営業しているからだろうか。
常にじっくりと火にかけているのか、さほど待つことはなく、僕たちの前にカレーが二皿並べられた。
当然紛うことなきカレーライスだ。白銀色に輝くお米はぱっと見た感じ細長いインディカ種ではなく、ふっくらとした楕円形をしている。
大きな期待とともに一匙食べてみれば、スパイスの刺激とご飯のやさしさが油の中で至上のハーモニーを奏でだす。
だからなんで僕って毎度おいしいもの食べると食レポ風味になるかな。まぁおいしいから仕方ないということにしておこう。
ほどよい辛みの中に野菜たちの甘味もまじりあって程よい味にまとまっている。うん、これは前世も含めて最高のカレーだ。
僕的には三ツ星を挙げたいところ。
視線をアランの方に向けてみると、彼も辛さと格闘しながらも匙を掬っていた。
「ん、うまいなこれ」
「だね」
「メルタはやっぱりこういうのが好きなのか?」
「もちろん」
「ちなみに他に好きなのは?」
少し考えた後に、彼は更に問いかけてくる。
「そうだね、甘いのとか、辛いのも好きだし、魚介系も好きかな」
僕としては何でもおいしくいただけるタイプなので、あまりこだわりはないんだけど、こうやって聞かれると結構色々出てくるものだね。
そんなことを話しているうちに、カレーも食べ終わり、デザートとして頼んでいたアイスをつついて午後は過ぎて行った。
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