異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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三章 王都にて

逢引4

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あれから僕たちはいろんな店を見て回った。お金に限りがあるし、荷物を抱えているからほとんどが冷やかしになっちゃったけど。

 でもまぁ、楽しかった。二人で笑いあいながら動き回るだなんて、久々かも。

 そんなこんなで、今僕たちは王都の中心近くにある噴水前のベンチに座って休憩をしている。

 日の傾き具合からして、次の鐘がなったら学院に帰らないといけない。

 だから、名残惜しい気もするけど、そろそろお開きだ。といっても学院までは一緒だけどね。

 でも、この時間が終わってしまうのは、どこか寂しい。そう感じる僕はどこか変になってしまっただろうか。

 隣に座るアランを見やると、彼はどこかぼーっとした表情で中空を見つめていた。

 その姿はどこか様になっていて、今手元にカメラが存在していたなら、その一瞬を切り抜きたいほどだった。

 と、不意に彼がこちらを向く。いつになく真剣な表情に、目が合った瞬間、僕の心臓が跳ね上がる。

 彼が口を開く

 そして――――

 無慈悲に夕刻の鐘が鳴り響いた。

 何か言いかけた彼も、その音を聞くや口を閉ざしてしまった。



「……」



 沈黙が流れる。彼の視線を感じる。しかし僕はそれに応えることができない。

 だって、何を言えばいいのかわからないんだもの!  さっきまであんなにも喋っていたというのに! 

 そうこうしている内に空の藍色が混じり始める。ああ、完全に日が暮れる前に学院に戻らないと。

 僕が意を決して立ち上がると、彼もそれにならう。

 僕らは無言のまま、噴水広場を離れて大通りへと出た。

 もうすぐ門限だということもあってか、人通りは少ない。

 だからなのか、先ほどまでの喧騒とは打って変わって静かな空間が広がっていた。

 そんな中を二人並んで歩く。お互いに言葉はない。

 そのまましばらく歩いていくと、そのまましばらく歩いていくと、ようやく見慣れた景色が見えてきた。

 学院の裏手にある寮の入り口前だ。

 結局何も言うことができずにここまで来てしまったし……。

 今日はこのまま解散かな?  と思っていると、アランが突然立ち止まった。



「なぁ」



 彼にしては珍しいか細い声でこちらに言葉を投げかけてくる。



「ん?」

「お前って……好きな奴いる?」



 は?  何を言い出すのだこいつは。

 脈絡なさすぎだろう!?  思わず眉間にシワを寄せてしまう。

するとアランはその反応を見たからか、「だよな」と言って勝手に納得していた。………… なんなんだ一体。



「じゃあ聞くけどよ、お前にとって俺ってどういう存在?」



 今度は意味不明なことを聞いてきたぞこいつ。

 質問の意図がわかんないんだけど。

 えぇっと、どういった存在か、ねぇ…… 改めて考えると難しい質問だった。

 友達とかそういう関係じゃないことは確かだし、クラスメイトでもない。

 同じパーティーメンバーっていうのも違う気がするし、知り合いというのもなんか違和感がある。

 強いていうなら、仲間……かな。

 僕は彼のことを戦友のように思っている節があった。だけど、それ以上に頭に浮かんでしまった言葉がある。

 今それを口にするべきなのだろうか。でもそれが原因で仲間としての関係性が崩れてしまうことへの恐怖がどうしても振り払うことができない。



「今は、仲間、相棒かな。他に言葉はあるんだけど、まだ言えない。」

 結局口から出てきたのは、当たり障りのない答えだけだった。

「そっか」



 アランはそれを聞くと、短くそう返してきた。…… 気まずい空気が流れ始めたその時、タイミングよく鐘の音が聞こえてきた。それは裏庭の方角からだ。

 ふぅ、なんとか切り抜けられたかな。



「ほら、早く帰ろう。門限もそろそろだしさ」



 僕は無理矢理会話を打ち切って歩き出した。

 後ろからは返事の代わりに足音が聞こえる。

 よかった、いつも通りの感じに戻ったみたいだ。



「今日はありがとよ」



 安堵しながら歩いていると、再び声をかけられた。

 振り返ると、彼はどこか真剣な目で僕を見つめている。



「どうしたの急に。らしくないじゃん」



 僕が茶化すように返すと、彼は静かに、しかしはっきりとした口調で言った。



「俺は、お前のことが好きだ」



 ……………………



「ふぁいっ!?」



 思考がフリーズした。



「お前と一緒にいて、楽しかった。これが好きって感情なら、きっとそうなんだと思う」



 アランが言い終わると同時に、鐘が鳴った。

 二度目の鐘の音で我に帰る。

 さっきよりも大きい音で、遠くから鐘が鳴り響いているような錯覚を覚えた。



「会ってそんなに時間も経ってないのに、何いってんだってのは解ってる。だけど、今言い逃したら、もう言えない気がしたから」



 なんだろう、いつにない雰囲気に、僕の鼓動も早鐘を打ち始める。



「お前にとってただの仲間だってのは、わかってる。だけど少しでいいから、男として、見てくれないか」



 からだの奥からじわじわと熱がのぼってくる、顔は夕日でごまかせているだろうけど、きっと真っ赤だ。

 そして、彼に返す言葉は…… うん、心を決めた



「ごめんね」



 その一言で彼の顔に落胆の表情が浮かぶ。



「いや、俺がわるかっ――――」

「さっき仲間って言った時に、誤魔化しちゃった。僕もアランのことを、きっと好きなんだと思う」



 今度は気の抜けた表情。まるで百面相だ。僕はって? もう恥ずかしくてアランのこと見てらんない。



「わかってて、自分を騙すために、素知らぬ振りをしてただけなんだ。今日話したけど、僕の事情が事情だからきっといつか離れることになるって思ってたから。その時が怖くて言えなかっただけ」



 そう、僕はただ別れるその瞬間まで仲良くいたかった。その為に距離を近くするのが怖かったのだ。

 だけど、その距離を彼は詰めてきて、僕もそれに応えた。僕の最後の目標のためにはいつか終わりがくるのかもしれないけれども、その日その時その瞬間までは……



「だから僕とアランは、同じ思いの仲間だね」



 もう、恥ずかしいどころじゃない。顔はもう熱病にでも罹ったみたいに熱がこもっている。

 足音が聞こえる、彼が距離を縮めてくる。

 次の瞬間には、僕は息が止まるほど、抱きしめられていた。顔が自然と肩で交叉する。

 うーわー、心地よいけど恥ずかしい! 恥ずかしい! ここ学校の門前!

 人に見られてたら悶死する!

 だけど、どこか力強さとはまた別の逆らえない力に従って僕たちは――――

 夕日の中、遠くまで伸びた影が重なった。

 
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