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三章 王都にて
海を渡る
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「いやー、海風が気持ちいいね」
そうして僕たちは無事に船に乗ることができた。
お金も四人分の船賃でぎりぎりだったけど、なんとか今こうして僕は甲板の上で海風を浴びている。
ちなみにアランは絶賛船酔い中だ。可哀そうだけど、なるものは仕方ないよね。
僕とミュールと交代で彼の様子を見ている最中だ。タニヤも甲板の別のところで風を浴びている。
船旅はといえば、コドル王国まではなんと、船で1日もかからない距離だった。
どうやらこの世界の船は風ではなく、魔法で制御していることが多いらしい。よっぽどの悪天候でないかぎり目的地まで真っ直ぐ進むことができるとのことで、色々と優秀なのだ。
そりゃあ帝国が不凍港を欲しがるのもわけはない。かといって巻き込まれかけてる身としては勘弁してほしいけどね。
また同時に船には魔除けの魔法も掛けられているらしく、大型の魔獣以外はよりつくこともない。魔法使いはありとあらゆるところで需要があるのだ。
実際にあったら困るけど、海路を行くとなればクラーケンがっとか人魚が! とかそういう展開を思い描いてしまったけど、そういう事態はよっぽどの運が悪くなければ起こらないらしい。
あ、でも運が悪いっていったらなんか出会いそうな気が――――
「前方! 軌跡あり! クラーケンが出るぞぉ!!」
ほらやっぱり! 微妙な悪運とかそういうの引き寄せる星の下にでも生まれたんだろうか。大海原から立ち上がるのは10本どころじゃない数の触腕。
うわぁ、リアルで見ると気持ち悪い…… 武器を甲板にはもってきてないし、海の上で踏ん張りがききにくいからもうやることは決まってるよね。
「法の書」
甲板から逃げる人、戦うために用意しだす人に隠れて光の本を呼び出す。やつが船に取り付いてしまう前にケリをつけてしまおう。
「雷霆!!」
が、どこからともなく先に放たれた雷撃が、海面に伸びたひときわ大きい触腕を撃ちぬく。
雷の軌跡をたどってみれば、そこにはなかなか派手な装飾のついた鎧を来た一団がいた。
これは僕の出番はない、かな?
そんな僕の疑問に答えるように、今度は複数の雷が放たれてクラーケンはその熱でどんどん焼かれていく。
やがてすべての触腕が海面に落ちるころには、動くものは何もなくなってしまっていた。
なんだろう、せっかく微妙な悪運が発動したのに、何もしないままに終わってしまった残念感がひどい。
開いたときと同じように誰にも見られないように本を閉じれば、光輝いていたそれは粒となって消えていく。
あのクラーケン、食べられないのかなぁとか思っていたのだけど、だれも引き上げたりする気配はない。
きっとただの厄介者扱いなんだろう。ファンタジー御用達のクラーケンってこんなあっさりな扱いだったかなぁ……
僕の冒険ってなんだかんだで強敵らしい強敵がいまのところ狩猟神さまだけなんだよねぇ。
しかもあの神様もまさかの猫だましが通用するという残念っぷり。いやあれが通用しなかったらきっと僕は今頃3枚に下ろされていただろうからいいんだけど。
この調子だと、存外うまくやっていける、かな?
そんなことを考えながらぼんやりと水平線を見つめていた僕の背中に声がかけられた。
「……終わり?」
タニヤだ。騒ぎを聞きつけて後方の甲板からやってきたのだろう。
だが残念ながらクラーケンは既に丸焦げになってどこかに漂っていってしまったところだ。
「もうこんがりにされてどっかいっちゃったよ」
「……烏賊は刺身がおいしいのに」
どこか残念そうな素振りでまた後方に戻っていく。もしかして食べたかったんだろうか。
あの焼けた烏賊の足一本でも確保しておくべきだったか。僕も味が気になるし。
なんて思いながらも、とりあえずアランの様子を見ておこうと船室の方へと歩いていった。
「アラン、大丈夫ー!」
僕が近づくと、ちょうどミュールが彼を介抱しているところだった。
うぇえ、と青い顔をしながらもアランはなんとか手を挙げて無事であることを示してくれる。
「ミュール、代わるよ」
「はいはーい」
彼女とバトンタッチして彼の背中をさすってみるが、なかなか船酔いからは解放されないらしい。
「外の方が空気良いから、頑張って外にいこ?」
「おおぅ」
ぐらぐらと頭を揺らしながら立ち上がるアラン。あまりにも足元が不如意なので腕をとって肩で支える。
外に出てみれば、さわやかな風が僕たちを迎えてくれる。
アランはというと、まだダメそうだ。
甲板でぶちまけるわけにはいかないので、端まで連れて行く。
うん、こっからさきは見ざる聞かざるがいいよね。
しばらくすると、ある程度すっきりしたのか、僕に声をかけてきた。
「わりぃな、船にのるの、初めてだから」
「いやぁ船酔いするのは仕方ないよ、ちょっと腕かして」
座り込んだ彼の左手をとって位置を探る。たしか左腕のあたりに船酔いに効くっていうツボがあったはずだ。
えーと、たしか手首のシワから指三本下で……
このあたりかなーと思うところを軽く親指を使って握りこむ。少しでも気休めになればいいんだけど。
「どう?」
「あぁだいぶ楽になったぜ。ありがとよ」
「ううん、これくらいならいつでも」
そのまま少し会話を続けてみたけど、特にこれ以上何かが起こることもなく、船は無事に目的地であるコドル王国の港町へ到着したのだった。
ちなみにこの光景をミュールに見られていて「弱った彼の手を取り励ます! 嗚呼、青っ春!」とか言われたのはここだけの話だ。
そうして僕たちは無事に船に乗ることができた。
お金も四人分の船賃でぎりぎりだったけど、なんとか今こうして僕は甲板の上で海風を浴びている。
ちなみにアランは絶賛船酔い中だ。可哀そうだけど、なるものは仕方ないよね。
僕とミュールと交代で彼の様子を見ている最中だ。タニヤも甲板の別のところで風を浴びている。
船旅はといえば、コドル王国まではなんと、船で1日もかからない距離だった。
どうやらこの世界の船は風ではなく、魔法で制御していることが多いらしい。よっぽどの悪天候でないかぎり目的地まで真っ直ぐ進むことができるとのことで、色々と優秀なのだ。
そりゃあ帝国が不凍港を欲しがるのもわけはない。かといって巻き込まれかけてる身としては勘弁してほしいけどね。
また同時に船には魔除けの魔法も掛けられているらしく、大型の魔獣以外はよりつくこともない。魔法使いはありとあらゆるところで需要があるのだ。
実際にあったら困るけど、海路を行くとなればクラーケンがっとか人魚が! とかそういう展開を思い描いてしまったけど、そういう事態はよっぽどの運が悪くなければ起こらないらしい。
あ、でも運が悪いっていったらなんか出会いそうな気が――――
「前方! 軌跡あり! クラーケンが出るぞぉ!!」
ほらやっぱり! 微妙な悪運とかそういうの引き寄せる星の下にでも生まれたんだろうか。大海原から立ち上がるのは10本どころじゃない数の触腕。
うわぁ、リアルで見ると気持ち悪い…… 武器を甲板にはもってきてないし、海の上で踏ん張りがききにくいからもうやることは決まってるよね。
「法の書」
甲板から逃げる人、戦うために用意しだす人に隠れて光の本を呼び出す。やつが船に取り付いてしまう前にケリをつけてしまおう。
「雷霆!!」
が、どこからともなく先に放たれた雷撃が、海面に伸びたひときわ大きい触腕を撃ちぬく。
雷の軌跡をたどってみれば、そこにはなかなか派手な装飾のついた鎧を来た一団がいた。
これは僕の出番はない、かな?
そんな僕の疑問に答えるように、今度は複数の雷が放たれてクラーケンはその熱でどんどん焼かれていく。
やがてすべての触腕が海面に落ちるころには、動くものは何もなくなってしまっていた。
なんだろう、せっかく微妙な悪運が発動したのに、何もしないままに終わってしまった残念感がひどい。
開いたときと同じように誰にも見られないように本を閉じれば、光輝いていたそれは粒となって消えていく。
あのクラーケン、食べられないのかなぁとか思っていたのだけど、だれも引き上げたりする気配はない。
きっとただの厄介者扱いなんだろう。ファンタジー御用達のクラーケンってこんなあっさりな扱いだったかなぁ……
僕の冒険ってなんだかんだで強敵らしい強敵がいまのところ狩猟神さまだけなんだよねぇ。
しかもあの神様もまさかの猫だましが通用するという残念っぷり。いやあれが通用しなかったらきっと僕は今頃3枚に下ろされていただろうからいいんだけど。
この調子だと、存外うまくやっていける、かな?
そんなことを考えながらぼんやりと水平線を見つめていた僕の背中に声がかけられた。
「……終わり?」
タニヤだ。騒ぎを聞きつけて後方の甲板からやってきたのだろう。
だが残念ながらクラーケンは既に丸焦げになってどこかに漂っていってしまったところだ。
「もうこんがりにされてどっかいっちゃったよ」
「……烏賊は刺身がおいしいのに」
どこか残念そうな素振りでまた後方に戻っていく。もしかして食べたかったんだろうか。
あの焼けた烏賊の足一本でも確保しておくべきだったか。僕も味が気になるし。
なんて思いながらも、とりあえずアランの様子を見ておこうと船室の方へと歩いていった。
「アラン、大丈夫ー!」
僕が近づくと、ちょうどミュールが彼を介抱しているところだった。
うぇえ、と青い顔をしながらもアランはなんとか手を挙げて無事であることを示してくれる。
「ミュール、代わるよ」
「はいはーい」
彼女とバトンタッチして彼の背中をさすってみるが、なかなか船酔いからは解放されないらしい。
「外の方が空気良いから、頑張って外にいこ?」
「おおぅ」
ぐらぐらと頭を揺らしながら立ち上がるアラン。あまりにも足元が不如意なので腕をとって肩で支える。
外に出てみれば、さわやかな風が僕たちを迎えてくれる。
アランはというと、まだダメそうだ。
甲板でぶちまけるわけにはいかないので、端まで連れて行く。
うん、こっからさきは見ざる聞かざるがいいよね。
しばらくすると、ある程度すっきりしたのか、僕に声をかけてきた。
「わりぃな、船にのるの、初めてだから」
「いやぁ船酔いするのは仕方ないよ、ちょっと腕かして」
座り込んだ彼の左手をとって位置を探る。たしか左腕のあたりに船酔いに効くっていうツボがあったはずだ。
えーと、たしか手首のシワから指三本下で……
このあたりかなーと思うところを軽く親指を使って握りこむ。少しでも気休めになればいいんだけど。
「どう?」
「あぁだいぶ楽になったぜ。ありがとよ」
「ううん、これくらいならいつでも」
そのまま少し会話を続けてみたけど、特にこれ以上何かが起こることもなく、船は無事に目的地であるコドル王国の港町へ到着したのだった。
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