異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

お別れ

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 「それじゃあ、明日でお別れね」
 
 港町について宿をとった後、それは急に告げられた。
 
「ええ? もうちょっと一緒でも……」
「ここから先、メルちゃん達はまた色々な場所に行くんでしょう? 今の私じゃ足手纏いにしかならないのくらいわかってますし」
「……ミュールが大丈夫になるまでは、私もいるから。大丈夫」
 
 足手纏いだなんてそんな事思ったことはなかったのに。だけど、ミュールの表情から読み取れる決意は固そうで、僕にそれを崩すことはできそうになかった。
 
「別に今生の別れというわけでもないんですし、またどこかで巡り会えますよ」
 
 それはそうだ、でもここまでの学院での生活や一緒だった逃避行を含めて、急に離れるというのはやはり寂しいものがある。
 
「私たちはよく知らないけど、メルちゃんには目標があるんでしょう? だったら足踏みはしちゃいけません」
 
 彼女が言わんとしていることは解る。確かに僕には目標があるし、タイムリミットだってある。ここで寂しさに駆られている暇は許されない。
 だからといって割り切れるかと言われれば無理な話だけれど。
 
「それに私たちも旅をすれば会う機会もあるでしょう?」
「……うん。必ず、また会おう」
 
 彼女たちはこの街にしばらくとどまるし、僕たちは目的のために行かなきゃいけない。
 翌朝の食事を一緒にとって、僕たちは行く道を別った。
 荷物を整えて、アランと共に道を歩む。
 
「やっぱり二人もいなくなると、静かになるね」
「そりゃあの…… ミュールだっけか。結構しゃべってたからな」
 
 二人だけになってしまうと、会話は必然減ってしまう。今まではその合間に結構ミュールがしゃべり倒していたからなぁ。
 きっと彼女は冒険者になろうが、どこかに仕官しようがその持前の性格でやっていけるだろう。
 タミヤも口下手ではあるが、その腕前は確かだから、認めてくれるところさえあれば十二分に生きていけるはず。
 僕たちの冒険が結局のところ、一番不安定で危険なのだ。だから、これでよかった。
 
「アランはありがとうね。何度言っても言い足りない気がするくらい」
「別に気にしねぇでいいんだよ。メルタは何時もぐらい元気な方がいい」
 
 そう思ってくれるなら、また元気だして頑張っていかないとね。
 彼の腕をとり、軽く引いて歩く。
 次の目的地は豊穣神さまの縁の場所だ。そこは聖地とも言われるぐらい実りの良い土地らしい。なんで実りが良いだけで聖地なのかって? この国がある島は全体がどうやら植物が育ちにくい地域らしい。基本は石材の輸出で賄われてる国だが、その地域のみ他の国に比べても圧倒的な実りが続いているんだとか。また豊穣神の足跡とも呼ばれるものが残っていることから、聖地と呼ばれているらしい。そしてもう一か所が同じく豊穣神さまの生誕の地と呼ばれている地域だ。こちらは大規模な神殿があって、この国でもこの2か所を一生のうちに一度は巡礼するのが目標な人が多いとかなんとか。
 こうして並べるとどっちで神様に出会えるのかもわからないから、両方いくしかない。道中お金を稼ぎながらの移動でどのくらいかかるかは定かじゃないけど、とにかく豊穣神様に出会って次の神様の場所なりなんなりを聞かないと、あまりにも効率が悪い。
 
「まぁ、気長に行こうぜ」
「そうだよね。焦っても仕方ないし」
 
 今出来ることをやっていくだけだ。
 まず目指すは聖地、港町から比較的近いし山を越えなくて済む。仮にこっちが外れでも、食料を十分に補給してから教会へ向かえるからね。
 さてそうなってくると問題になってくるのはこの朴念仁だ。あの日以来、本当に手を繋ぐくらいしかしてこない。
 まぁ四人で居る時に何やかんやされても困るとはいえ、そっからなにもなしとは乙女の沽券に関わる。かといってこっちから出来ることも限られてるし、これは一体どうしたものか。
 悩みながら無言で旅路を進む。
 
「さっきから何難しい顔してんだ?」
「んんー…… 何でもないー」
「……そうか?」
 
 そう言う彼は私の顔を覗き込んできて、その距離感に思わず頬に熱が集まる。これでは私が意識しているみたいじゃないか。
 
「なんかあったらちゃんと言えよ?」
「……うん。ありがと」
 
 彼も少し照れたように頭を掻く。こういう所は可愛いと思うんだけどなぁ。
 それから数日かけて歩き、ようやく聖地ウェルコルンに到着した。
 
「おぉ、ここも賑わってるな」
「そうだね。人もいっぱいだし」
 
 今までの街に比べると、人の数も多い。
 どうも辺りの人の会話を聞くに、どうやらお祭りの時期だったらしい。
 あちこちには飾り立てられた露店が見えるし、遠目には大きなテントがいくつも並んでいるのが窺えた。
 これは、楽しそうなのはいいけど、タイミングが悪かったかもしれない。
 人が沢山いるってことは、それだけ宿が埋まるって事だ。
 慌てて近場の露店のおっちゃんに聞いてみれば、まだ幸い空きがありそうな宿を教えてくれた。
 
「いやー、危なかった危なかった」
 
 無事宿を確保した僕達は、その宿屋でオススメの夕食をたべていた。
 表面がカリカリに焼き上げられた粗挽きソーセージに珍しいふわふわの白パン、そして魚介のパスタだ。
 そして対面のアランはというと、何というかソーセージの美味しさに耐えられなかったのか、禁止していたはずのエールを頼んで、すっかり出来上がってしまっていた。
 まぁそれも仕方ない、このお祭り自体が特別なエールのお祭りだからだ。
 街中にも酔っ払いがいるし、道の端っこには倒れてる人もいるくらい。ほろ酔い程度なら許してやろうというものだ
 
「メ~ルタ~」
「はいはい、僕はここにいるよー」
「飲まないのか~?」
 
 前回の一件があるから僕は飲むつもりはないよーだ。
 ちょっとふにゃふにゃになっている彼を観察するのも面白いしね。
 でもこの足元不如意な彼を部屋まで連れていかなきゃいけないのはすこし面倒くさいかな。
 でも、お祭りの雰囲気に酔うのは悪くない。僕は精々ジュースで気持ちだけ味わおう。
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