異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

酔っ払い許すまじ

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「メルタ~」
「はいはい、ちゃんといるよ」
 
 もう何度このやり取りをしただろうか。結局彼は僕が止めるのもお構いなしに飲んで、今やベロンベロンだ。
 
「メルタは~、可愛いんだからもうちょっとだな~」
 
 そういう周りに聞かれたら恥ずかしいセリフは辞めてほしいね。
 テーブルの上の食事は平らげられ、残すはジョッキに入ったエールとおつまみだけだ。それを彼は大層楽しそうに飲んではかじっている。おつまみのチーズは美味しそうなので僕も横から拝借しているけど。しかし結構飲んでるなぁ。
 
「ほらほら、もうおつまみもなくなるし、上にあがろ?」
「うええ~?」
 
 もう完全な酔っ払いだね。ふらふらと立ち上がるけど、机を支えにしてないと歩くのも怪しいようだ。仕方ないので肩をかして階段を上り部屋にはいる。そして、彼をベッドの上にねかせようとしたとき、事件は起こった。
 なんと彼、寝転がる歳に僕の首に手を回して、僕ごと横になったのだ。
 しかも体勢も入れ替えて僕が下。
 ちょっとお酒くさいんだけど!
 
「メぇルタぁ」
 
 引き倒された僕の胸元に彼が顔を擦り寄せる。ごりごりした感触が妙に刺激的だ。甘えん坊かアランは!
 ああもう、殴り飛ばすわけには行かないし、思ったより体重あるし、体おっきいし、どうすればいいんだこれ。
 まぁ彼なりに随分長いこと我慢してた分と思えば我慢…… いやいやいや、それ以前に酔っ払ってるのが問題! シラフの時に事前申請があるならまだしも酔った勢いでこんな状態なのはごめんこうむりたい。
 そんな僕の思いを知ってか知らずか、彼の顔はどんどん上に上がってきて僕の首もとまでやってきた。
 
「メルタはぁ、ほそっこいなぁ」
 
 アランの手が僕の体を撫で回す。
 ミュールと違って残念な体型でごめんなさいね! 一応これでも少しは成長してるはずだっての!
 
「そんでぇ、いい匂い」
 
 うひぃ、首筋の匂い嗅いでる! 変態だ! 思いっきり手をつかって顔をそらせようとするも、彼の力は結構強くて離れる気配がない、それどころかーー
 
「味も……いい」
 
 ぎゃーー! 舐めた! 舐められた! 首筋べろって!
 しかもそのまま咥えられたあああ!
 
「くすぐった……」
 
 舌が首筋を這い回る感触は、なんとも表現がしがたい。
 これが酔った勢いじゃなかったら洋画風で絵になるのかもしれないけど、相手は完全にぐでんぐでんのよっぱらいだ。
 いくらなんでもうれしくない。
 なんとか脱出を試みるが、彼の手が僕の腰と肩を抑え込んでいて抜けられそうにない。
 
「ひゃうっ」
 
 ひい、今度は耳たぶ噛んできた。ミミガーじゃないから僕の耳なんてかじってもなんもでないのに。
 
「アラン、ねぇちょっと、本気でストップストップ!」
 
 さすがにこれ以上はまずい。いくら酔って前後不覚とはいえこれ以上は許されない。
 顔をぐいぐい押して見るも反応はない。それどころか、肩に回していた手を僕の胸元を漁るように動かしてくる。酔っ払ったまんま乙女の柔肌を弄ぼうとするとはなんて太いヤツだ!
 うーん、酔ってるとはいえこんな直接的な行動に出るだなんて、アランもさすがにそうとう溜まっていたのだろうか。かといってこのままされるがままというのはどうにも都合が悪い。
 
「ちょっとアラン! いい加減にーー」
 
 と言いかけたところ、耳元からは寝息が聞こえてきた。
 どうやら力尽きたらしい。
 ここまで人をもみくちゃにした挙げ句、寝る……だと……
 力をいれて彼の体をベッドの上に転がす。あー、舐められた首筋と耳がすーすーする。
 これはちょっと下でお湯をもらわないといけないや。
 下に降りて、店主さんに宿のお風呂を借りて一息つく。
 アランはもう、なんていうか、大罪人だね。
 これで明日覚えてなかったら説教コースだ。
 お湯から上がって湯冷ましの水を飲んで部屋にもどる。
 そこには放り出したときのまんまのアランの姿。
 とりあえず風邪を引かれても困るので、布団をかけて、僕も隣で同じ様に眠る。
 目を閉じて、意識が落ちる前に去来したのは、酔っぱらい許すまじの一言だった。
 翌日、日が昇ると共に目が覚める。全く、昨日はひどい目にあった。
 憎たらしいことにアランは未だ隣のベッドで高らかにいびきをかいて寝ている。
 叩き起こしたいところをぐっと我慢して一人、着替えを済ませる。
 今日は聖地のあたりを調べる予定だからね。いつまでもここにいるわけにはいかないのだ。
 しかし、この状態で放っておくのもあれだし、起こすとしようかな。
「アラン、朝だよ」
 
「……」
「アーラーンー」
 
 完全にぐっすりだ。うーん、水をぶっかけてでも起こしてやりたいけど、それはさすがに宿に迷惑かかっちゃうし。
 こうなったら……
 
「ふっ―――」
「のわぁっ!」
 
 耳にそっと息を吹きかけたら、結構な勢いで耳を押さえながら起き上ってくれた。
 
「朝だよ、アラン」
「お、おう……」
 
 二日酔いとかはしてなさそうだ。完全に目は覚めたみたいでもそもそと着替え始める。
 様子からして昨日のことを覚えてなさそうなのは腹立たしいけど、仕方ない。
 犬にじゃれつかれたとでも思っておこう。
 
「すまん、寝坊したか」
「ううん、適当に僕が起こしただけ。ほら、朝ごはんたべよう」
 
 荷物を纏めて、部屋を出る。さぁ朝ごはんを食べたら聖地巡礼といこうか!
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