異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

森は危険

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 いやー、ここ最近うまくいくことが多かったからすっかり頭から抜けてたよ。
 森って本当は危険な場所ってこと。
 夜中剣を持ったアランに起こされると、周囲から妙な雰囲気を感じ取った。
 何か、居る。
 
「狼とかじゃないの?」
「いや、ちげぇ。さっき足音が聞こえたが、狼なんてちっせぇやつじゃない」
 
 それはまた厄介な。アランの目つきが厳しいあたり、ちょっとまずい状況なのだろう。
 鎧は付けたままだったので、地面に置いておいたメイスと盾を手に取る。
 森の中みたいに障害物が多いところじゃハルバードは使いにくい。
ずんと地面が揺れ、焚火の明かりに大きな影が照らされる。 
 
「まずいな、トロルの類だ」
 
 本当に大きい、だいたい僕の身長の倍程度だろうか。
 なにがまずいって、伝え聞いた話ではトロルは大きい体躯にそれ以上の馬鹿力があるという。
 幸いにして知能はそこまで高くないのだが、その体から放たれる攻撃は素手でも十分に致命傷たりうる。
 そして今の僕たちの手元の武器はメイスにショートソード。この森の中で長物は振るえない。
 つまりあいつにダメージを与えるには近づかなきゃいけない。
 おまけに森の木で射線が遮られているから魔法も打ちづらいときたらピンチ度合いが伝わるだろうか。
 
「最悪メルタは逃げろ。俺はなんとかするから」
「冗談、相棒置いて逃げるなんて女が廃るよ」
「女だからやべぇんだよ、いいからヤバくなったらマジで逃げろ」
 
 そんな会話をしている間にも奴さんはこちらへ近づいてくる。
 
「行くぞ!」
 
 アランが叫びながら飛び出した。
 それをカバーするように僕もトロルの背後へ回る。
 しかしトロルはその巨体に似合わぬ速度で振り向き、拳を繰り出してきた。
 咄嵯に盾で受け止めるが、凄まじい衝撃とともに体が吹き飛ばされる。
 
「あぐぁっ!」 
 
  木に背中をぶつけて止まるが、あまりの威力に息が止まる。
 痛い、頭も打ったのか視界ぐるぐるまわる。
 でも、動かないと……!
 アランが遠くでなにか叫びながらトロルに切りかかっている。が、奴はそれを気にもしていない。動きがこちらに一直線だ。
 メイスを杖にして起き上れば、もうトロルは目のまえだった。
 奴の攻撃を受けた左手はしびれたというか、痛みばかりで他の感覚が薄い。これは折れたかもしれないなぁ。
 再び繰り出された拳を避けきれずに今度はまともに喰らう。
 
「かはっ……」
 
 そのまま吹っ飛んで地面に倒れこむ。全身に痛みと熱さが走る。
 だめだ、立ち上がって走らないと……。
 だが目の前に迫っていた拳を避けることはできなかった。
 ―――死んじゃう? ここで死ぬのかな?
 死んで――――たまるか!
 頭の中で何かがつながるような感覚。同時に夢中でぶん投げたメイスがトロルの足に当たる。
 そしてそのまま、足をへし折った。どう、と音を立てて倒れこむトロルにむかってアランが駆ける。
 怒り顔の彼はトロルのおそらく心臓の位置だろう、胸に剣を何度も突き立てる。その大きな手で何度殴られても、止めることなく刺し続ける。
 やがてトロルはびくんと大きく震えると、動かなくなった。
 
「おい、大丈夫か!?」
「なんとかね……」
 
 まだ頭がくらくらする。
 僕はアランに手を貸してもらい立ち上がる。
 
「手、大丈夫か?」
「折れてるかもって感じ、正直全身痛くてどれがやばい痛みなのかわかんないくらい」
 
 それより、アランもかなり殴られていたんだけど大丈夫なんだろうか。
 彼の体は服こそ破れているものの、血が出ている様子はない。
 
「俺はそれなりに頑丈さには自信があるからな」
 
 そういう問題でもない気がするけど、まぁ本人が平気ならいいか。
 そうして僕らは倒れたトロルに近づく。
 
「こいつは食えるのか?」
「さすがに無理じゃないの……皮とか防具の素材になるらしいけど、今は持って帰れないし」
 
 それに今はちょっと、怪我を何とかしてしまいたい。
 
Liberiuris
 
 座り込んだ僕の右手に光が集まって本が生まれる。
 今回はさすがに知恵の神様に感謝だね。チート万歳。
 アランにはこっちを見ないように伝えて周囲を警戒してもらう。
 
清めの水Aqua vitae
 
 服を脱いだりめくったりしてとりあえず体についた汚れの部分を水で流す。
 傷口はしみるし、左手は痛いしだけど清潔さは大事だ。
 
癒しsanatiolucis
 
 本からあふれ出た光が、怪我をしている部分に集まる。
 光が消えるころには無傷な体の出来上がりだ。
 アランが外向いている間に破れた服から新しい服に着替える。
 
「アラン、ありがとう。アランも怪我みせて」
「いや、俺は大丈夫だって」
「何があるかわからないからさ」
 
 無理やりにアランを座らせて怪我を確認する。どこにこんな頑丈さがあるのかわからないけど、たしかに骨とかに異常はなさそうだ。
 それでも念のため癒しの魔法をかける。
 うん、改めて触れると結構いい体つきしてるのがわかるね。筋肉とかもしっかり見える。僕のつまようじボディとは大違いだ。
 
  「よし、終わりっと」
「お前のそれ、便利だよな」
「んー……便利っていうよりズルみたいなものかな」
 
 実際ズルだよね、本を開いてさえいれば知ってる魔法は使い放題みたいなものだ。詠唱もイメージもすっ飛ばして神様の奇跡を起こせるんだからこれがチートじゃなけりゃ何がチートだっていうぐらいだって正直思う。
 
「とにかく、次は僕が警戒するから、アラン寝ておきなよ」
「いや、俺より怪我が多かったお前が寝とけ。俺は本当になんともないから」
 
 うん、たしかに怪我はひどかったけど、もう今はなんともないんだから良いと思うんだけど……
 それでも彼のやさしさに甘えて僕はもうひと眠りすることにした。
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