異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

港に戻れば

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「やっと戻ってこれたー」
 
 あれから数日間野営しながら歩き詰めて、やっと元の港町に到着することができた。
 道中色々とアランから教わりながら体を動かしていたので、ちょっと汗のにおいが気になってきたところだ。
 幸い宿もお風呂も確保したので早々にお風呂に浸かった僕は、今はベッドで体をのばしている。
 アランはというと、彼はお風呂よりもサウナ派らしく、今は公衆サウナに行っている。
 僕としては公衆サウナは混浴だから余り乗り気がしない。
 いや、文化としては理解してるんだけど、やっぱりねぇ。
 
「それにしても王国行きの船は封鎖かぁ」
 
 帝国ともめているせいか、オーゲニア王国行きの船は当面くる予定がないそうだ。
 帝国はどうも噂によれば勝ち進んでいるようで、その余裕を表すかのように船が使えるのが幸いだった。
 これで双方ともに海上封鎖されてしまっていたら、解除されるまでこの街で足止めだからね。
 帝国がどういう国かは知らないけども、新しい国に行けるのはありがたい。まぁ王国には戻りづらいっていうのもあるけど。
 それでも船が出るのは今からだいたい3週間も後らしい。このくらいの足止めは我慢我慢。
 
「入って大丈夫か?」
 
 遠慮がちなノックと共に声が聞こえる。前回の一件の後しっかり反省してくれたらしい。
 
「いいよー」
 
 ドアを開ければ、髪をきちんと拭いていないのか、どこかしっとりしたアランが立っていた。
 水もしたたるなんとやらを体現したかったのかもしれないけど、それじゃ風邪ひくよ。
 とりあえず僕が髪を拭くのに使ってた布で彼の頭をこする。
 
「わぷっ、なんだよ」
「きちんと髪乾かさないと、病気の元だよ」
 
 うん、こうしてると昔飼ってた犬を思い出す。
 お風呂きらいで無理やり洗った後タオルで拭くのが大変だったなぁ。
 ドライヤーが無いのが残念だけど、自然乾燥よりマシだろう。
 しばらくそうしていたら、なんだかくすぐったがり始めたアランが笑い出した。
 
「あはは、もう十分だって」 
「そう?  でもまだ濡れてると思うんだけど……」
「大丈夫だって!  ほれ!」

 そう言って僕の手を払い除けて立ち上がると、手櫛でさっと整える。
 ……うーん、本人がそういうなら別にいっかな。

「それよりこれからの事を話し合おうぜ」
「あ、そっか。そうだよね」

 まず3週間の足止めは確定。その間に事情が変わらないといいんだけども。

「とりあえず足止め中は金稼ぎに回ろう。そんで空き時間はメルタの練習に付き合うよ」
「そうだね、あとはまた保存食を買っておきたいかなぁ」
「そこは追々考えようぜ、まずはメルタの盾とメイスと俺の剣だなぁ」

 そう、僕らのメインじゃない方の武器はこの間のトロル戦でぼろぼろなのだ。
 教会のあった街じゃそこまでいい武具もなく、直さないままここまできてしまっている。
 あの森さえ出たらあとの道のりのほとんどが平原だったのが幸いだったね。

「何れにしてもお金に余裕がないと手がだしにくいから、明日は即ギルドに確認に行こう」
「賛成!」

 その後は少しだけ今後の方針について話し合った後、早めに寝ることにした。
  翌朝、朝食を宿で済ませた僕たちは早速冒険者ギルドへと向かっていた。
 今日の目的は主に2つ。1つはギルドで依頼の確認、もう一つは情勢の確認だ。
 なにせ帝国に関する情報がほとんど出てこない。そんな状態で渡るとなると結構怖いものがあるからだ。
 アランの案内に従って到着したギルドはかなり大きい建物だった。
 港町という立地柄なのか、酒場が併設されており昼間だというのにそこそこ賑わっている。
 そんな中、目を引くものが一つあった。

「あの、魔法使いはいりませんかぁ」

 もの、といったら失礼か。白髪に猫耳といった目立つ風貌の女の子が行きかう人々に声を掛けては断られていた。
 背は僕より低いくらいだろうか。ついにはお酒の入ったおっちゃんっぽい冒険者に怒鳴られて涙目になっていた。

「ねぇ、アラン」
「お前のこったから、話だけでもっていうんだろ。好きにしてこいよ、俺は依頼みてくっから」

 以心伝心とはこのことだろうか。僕だって一人で右も左もわからないころにアランに色々助けられたからね。今度は誰かを助ける番にまわろうってもんさ。

「あの、魔法使いは……」

 涙目のまま、入口にたったままの僕に女の子が話しかけてくる。

「えーと、とりあえず話だけなら聞くけど……」

 僕の言葉に彼女の顔がぱっと輝く。よっぽど何度も断られ続けたんだろうなぁ。

「ほんとうですか!?  私、見ての通り獣人族ですが、魔法が得意なのです。是非ともお仲間に入れてください!」

 さっきまでは影になっていて見えていなかった彼女のしっぽがぴーんと立ち上がる。
 うん、たしか猫のしっぽが立つときはうれしい時だ。しかし仲間、仲間ときたかぁ……

「なんで仲間を探してるのかな」
「どうしても、会いたい人がいるのです。その為にはこの国からでなくちゃいけないのです」

 そう言って彼女は俯くと、その目には大粒の涙を浮かべていた。
 これはちょっと無下にはできないな。僕が彼女を助けたところで何かができるわけでもないけど、ここで断ったりしたら後味が悪いし。

「わかったよ。僕らでよかったら力になるよ」

 まぁまずは詳しい話を聞いてからになるけど。アランが帰ってくるまで僕は空いてる席について彼女の話を聞き続けたのだった。
 
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