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四章 二つ目の国

狩りの後は

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「はい、確かに受領しました」
 
 ギルドの職員にセリアドネの皮やら何やらを軒並み渡せば仕事は完了だ。
 もちろんお肉は一部自分たち用にとってある。
 
「アランさんたちのパーティは安定して仕事を受けていただけるので助かります。また次も頑張ってくださいね」
 
 そんな言葉に見送られながら、僕らはいったん宿の人にお肉を渡す。今日の晩御飯に出してもらうためだ。
 その後は武器の手入れのためにみんなで武具屋行きだ。
 しかし僕のハルバードは痛む気配が全くない。
 血糊を拭きとれば綺麗な刃紋が浮かんで、その斧部分のカーブには一つの刃こぼれもない。
 ちなみに一度アランに持ってもらおうとしたけど、やっぱり無理だった。
 重さもそうだけど。持ってるだけで掌がじりじり焼けるような感覚がして無理だそうだ。
 まぁそれはそれとして、今回の目的は先のセリアドネからとった皮を使って鎧を新しくしようという目的がある。
 アランのもそうだけど、僕の鎧も大分傷がついているし、先日のトロルに殴られた所為で色々と歪んでしまったのだ。
 それでどうせ使えるなら使ってみようというわけで皆で武具屋にいくことにした。
「セリアドネの皮か。まぁ防具としちゃいっぱしのもんになるだろうよ。まだ生のままだから日数はもらうぞ」
 渡した皮を広げながら防具屋のおっちゃんが片眼鏡を付けていう。
 
「この大きさだから三人分は作れるだろ。あっちに家内がいるから、サイズを測ってこい」
 
 ぶっきらぼうに店の奥の方を指す。奥には妙齢の女性が色々と片付けをしている最中だった。
 僕らはその女性の下へ向かう。
 
「すいませーん」
「はいはい、採寸ね。男は出ていきな!」
 
 そのままついてきていたアランが部屋から追い出される。まぁ当然っちゃ当然だよね。服の上から測るといっても数字を知られるのはさすがに嫌なものがある。
 僕はアランを追いやって部屋は女性リーナと僕との三人になった。
 入口のカーテンが引かれて、外からは中が分からないようにされる配慮もされている。 
 
「えっと、じゃあお願いします」
「はいはい……あら?」
 
 鎧を外して僕が近寄っていくと女性は不思議そうな顔をする。
 
「あなたちゃんとご飯食べてる? 太るほどとは言わないけど、食べないと育たないわよ」
 
 それは、どこを、さして、言ってるのかな…… 巻き尺で色々測られながら食事量に思いをはせる。
 あれ以上たべろっていわれたら、下手すれば戻しちゃいそうな気がするんだけど。
 とはいえ、実際ばいーんなリーナは僕よりたくさん食べているわけで。今夜あたり少し頑張って食べてみようかな。
 でもたくさん食べようとすると、やっぱり脂がきつかったりで水だけじゃなくてエールとかほしくなるんだよ。
 というか水やジュースよりエールのが安いわけで、これはちょっと悩ましい。
 なんてことを考えながら採寸が終わった。
 
「はい、終わったわよ。三日後にもう一度来て頂戴。代金はその時頂くわ」
「わかりました。よろしくお願いします」
 
 こうして僕らの新しい装備ができることになった。前の鎧からどれくらい成長したかって? そんなもの言う必要は感じないね。
 古い鎧を抱えて宿の部屋に戻ればもう夕方だ。
 
「アラン、今日からエールは解禁で」
「はぁ? こないだのこと忘れたのかよ」
「うーん…… 食費的にエールが安いんだよ……」
 
 僕の言葉に呆れたような顔を見せるアラン。やらかさないようにお互い気を付けながらならもういいかなって思うんだ。
 防具作る分で結構カツカツの領域なんだよね。三人分作っちゃってるし。仕事をすれば稼げるけど、締められるところは締めておきたい。
 
「エールを飲むとなんかあるのです?」
「アランがはれんちになる」
「おい」
 
 僕の言葉にアランが反応するが、それ以上にリーナの耳が伏せてしっぽが垂れ下がる。
 
「あの、そういうのはメルタさんだけにしてほしいのです」
 
 そして僕を生贄にする宣言だ。この子なんだかんだで結構肝据わってるよね。
 
「冗談はおいといて、飲み物はエールにしておかないとじわじわお金がかかるんだよ」
 
 じゃあ魔法で水だしておけばいいじゃんって?  そんなのしたら宿からハブられるよ。飲み物の収入だって宿屋にとっては大事な収入だ。
 
「んー、まぁとにかくお互い飲みすぎない程度にしようよ」
「はぁ、わかったよ」
 
 まぁアランがつぶれて僕に甘えてくる分にはいいとして、リーナが被害にあわないようにだけはしないとね。
 
「リーナはエールは大丈夫?」
「平気なのです!」
 
 そうして食べにいけば、テーブルに並んだのは事前に渡しておいたセリアドネの肉をふんだんに使った夕食だ。
 味はどっちかというと牛肉っぽい感じですこし脂のくどさを感じるも、それをエールがうまいこと中和してくれる。
 肉質も柔らかく、噛めばそれだけでほどけていくし、フォークだけで切ることすらできてしまう。
 ステーキですらそれなのだから、煮込みの方はもっとやわらかだ。脂を切ってあるのか、濃いめの味付けともよく合う。
 
「んふーふふふ」
 
 エールのおかげでお肉が食べやすいね。
 
「なぁメルタそろそろやめといたほうが……」
「お肉食べたいからのーむー」
 
 そう、お肉をたべないといけない。だって育ちざかりだからね。
 
「おいしいお肉はエールの友なのです」
 
 ほら、リーナだってそう言ってるし、飲まないといけないんだー。
 それにしてもエールって土地柄で色々ちがうんだね。ここのエールは茶色じゃなくてどちらかというと赤色に近い。
 味わいもかわっていて、ちょっぴり苦味が強いけどもお肉にほどよく合う。
 
「んっぐ……ぷはぁ!  おかわり!」
「はいよっと」
 
 アランが給仕の人にエールの追加を持ってきてもらうように頼んでくれる。
 こういうのって自分で頼むより誰かに任せちゃった方が早いもんね。アランもどこか諦めたのか、飲む量を増やし始めている。
 
「アランありがとー」
「頼むから酔いつぶれるなよ」
 
 わかっているとも。僕はそこまで酒癖悪くないし、ちゃんと覚えている方だよ。
 気が付けば僕の目の前にはジョッキがいくつも転がっているような状態になっていた。誰だこんなに飲んだのは。
 
「メルタ、ほんと飲みすぎだって」
「んんー? んふふふ」
 
 体もぽかぽかしてやっぱり楽しいね。リーナも結構飲んでいるようだけど、全然平気そうだ。
 
「ほら、もうそれぐらいにしとけって」
 
 顔をテーブルにつけてその冷たさを楽しんでいると、背後から両脇を抱えこまれる。
 
「なーにーアーらん。まだのむー」
「もう肉もないしやめとけって。ぜってぇ酔っぱらってるから」
 
 半ば引きずられるように立たせられた挙句、今度は足ごと救いあげられて、抱きかかえられる。
 
「もっとのーむー。あらんのばーかばーかーおーろしてー」
「リーナも、そろそろにしとけよ。俺ぁこいつをなんとかしてくる」
「戻るまでにラブラブなのはどうにかしてほしいのです」
 
 そんなんじゃなーいしー。けど、僕の抗議行動はアランに力で抑え込まれる。
 
「暴れると落とすぞ」
「……あい」
 
 さすがに落っことされるのは勘弁だ、おとなしく彼の腕の中に納まることにする。 
 そのままじっとしていると、部屋へ運ばれてベッドに放り投げられた。
 
「きゃふん」
「ほれ、寝ろ寝ろ」
 
 乱雑に布団をかぶせられれば、すぐに鉛のように重たい眠りが僕に覆いかぶさった。
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