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四章 二つ目の国
次なる獲物
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「反省と後悔って違うよねぇ」
朝、目は覚めたけどもぼんやりとした心地の中、僕はそうつぶやいた。
それを呆れた目で見ているのはアランだ。
幸いあの後も特に何もなく、二日酔いもしていない。
隣のリーナは既に支度をすませて朝食にいっているのか、ベッドに姿はなかった。
「ほら、さっさと朝飯くって仕事いこうぜ」
「ん、わかった」
といってアランを見るも、彼が出ていく様子がない。
「?」
しばらくジト目で見つめていると、何か不思議そうな顔をするではないか。
「着替え、するんだけど」
「そっか、悪い悪い」
あきらめて声に出すと理解してくれたらしく、部屋を出て行ってくれる。
まったく……この男は本当に女心がわかっていないんだから。
支度を済ませて下に降りてみると、そこには既に胸やけがしそうな量を食べているリーナと、僕の分まで用意してくれているアランがいた。
「おまたせ」
僕の声に反応した二人がこちらを見てくるのだが……なんかおかしいな?
「あれ、二人ともどうしたの?」
思わず聞いてしまうくらいには二人の表情が違うのだ。
アランは何というか、申し訳なさそうな顔つきをしているのに対して、リーナはニヤニヤしている。
「昨日はお楽しみだったのです?」
「何もないよ!」
「折角あのあと小一時間待ってから上がったのに。アランはへたれなのです」
この子最近僕たちに慣れてきたせいか、結構毒舌な気がしてきた。最初の純朴そうなイメージはどこにいったんだ。
「とりあえず、さっさと食おうぜ」
アランの言葉に賛成だ。ここで下手に変なことをいえばリーナのいい弄り対象になりそうだし。
「今日は何をするのです?」
「昨日と同じ、お金稼ぎだよ。船に乗るお金も稼がないといけないし、鎧の代金も必要だし、余剰分のお金も持っておきたいしで忙しいんだよ」
一応今でも全部のお金を賄えはするんだけども、結構なギリギリラインなのだ。余剰分のお金は持っておくに越したことはない。
「リーナは昨日みたいに食べられるお仕事がいいのです」
だよねぇ。というかそういう仕事にしないとアランと二人で食費がえらいことになってしまいそうだ。
結局、三人での食事を終えたあとは、リーナの希望通り昨日と同じセリアドネの討伐の仕事を受注した。
やっぱりあの革や肉は人気があるらしく、ほぼずっと出ている依頼なんだそうだ。
報酬金額はそこそこだけど、自分たちで使う分を避けても良いという条件なのはこちらもありがたい。
昨日はもも肉あたりを持って帰ったから今日は胸肉あたりを持って帰ろうか。
そんな事を考えながら依頼の紙を受付の人にもっていくと、どこか渋い顔をされた。
「どうかしたんです?」
「その湿地帯でのお仕事なんですけど、先日出発されてまだ戻ってない方々がおりまして……」
それはもしかして、もしかするんだろうなぁ……
「もし見かけたらでいいんですが、何か手掛かりとかを見つけられたらギルドまで教えていただけましたら幸いです」
冒険をしているとこういうこともあるんだろうなぁ……
一日戻らないぐらいだと野営でもしてるのかなってなるけど何日も戻らないとなると、いろいろ考えてしまう。
「強制でもありませんので、下手に探しに行ってメルタさん達も戻れなくなる、みたいなことはないようにお願いしますね」
そういってわたした依頼の紙に受注のハンコを押してくれる。
「アラン、行方不明者がでてるみたいだから、見かけたら教えてだって」
「あー…… あそこは底なし沼とかもありそうだしなぁ。まぁ何か見かけたら回収するぐらいでいいだろ」
アランの言葉に同意しつつ、僕らは出発した。
ちなみに道中は特に変わったこともなく到着したのも昨日同様の湿地帯である。
見えているセリアドネにも変化はーー
そんなときにアランが急にハンドサインで『静かにして身を屈めろ』と伝えきた。
不思議に思いながらそれに従うと
「スキル取得して魔獣化してるセリアドネがいる」
とだけ伝えてきた。
彼が指さす先にはわずかに色味が紫っぽくなったように感じるセリアドネが泥浴びをしていた。
「だいたいセリアドネがスキル取った時は、『毒の息』をもってやがる。近づかれたら一巻の終わりだな」
なるほど、昨日みたいになんともない奴ならそこまで厄介じゃないけど、毒の息とはまた穏やかじゃないね。
近づいたときにそんなもの吐かれたらどうしようもない。
しかも魔獣化した奴が群れの頂点になるルールでもあるのか、アランが指さした奴の周りには何匹かの普通のセリアドネが侍っている。
つまるところどれか一匹だけ釣ろうにも、全部が反応しちゃいそうで、二進も三進もいかないという状況だ。
「魔法で一気に殲滅はできそうなんだけど、その後どうなるかわかんないのが怖いかも」
撃ちもらしがでちゃったり、肉や皮がぐずぐずになっちゃったりとかね。かといっておとなしく引き返してしまっては違約金分がマイナスになるだけ。
うーん、なかなかに儘ならない。
「リーナとアランが撃ち漏らしの対処するのです。一匹でも上手に残せれば儲けものなのです」
まぁリーナの言う通りだよね。とりあえずやってみるしかない。
残すとまずいのは例の毒ウーパーだからそいつを中心にぶちかましてみるとするか。
「法の書」
僕の手の中に光が集まり、本になる。それをリーナが不思議そうに見つめているけど、説明はとりあえずあとだ。
本当なら一帯を爆破しちゃいたいけど、そうすると残せるようなのがなくなりそうなので、ここは単純な物理寄りの魔法で仕留めるとしよう。
目標を見据えて、範囲をしっかり確保してーー
「氷の鉄槌」
急激に冷え込み、白い冷気とともに氷柱がセリアドネ達の上空に浮かび上がる。そしてそれは僕が指を振るうままにその群れを蹂躙した。
ここまでは予定通り。何も問題は……
「すまん、まずった。あいつ、成体だ」
アランの憎々しげな表情に狂乱に包まれている奴らの群れをよく見れば、一匹が怒りのまなざしでこちらを見つめていた。
しかもよりによって、あの紫ウーパーだ。たしかにそいつには氷柱が当たってはいるものの、傷一つついていない。むしろほかのセリアドネを守るように氷柱を尾で叩き落としすらしている。
やがて群れていたセリアドネの全てが地に伏せると、その紫のやつは怒りの咆哮を挙げた。
朝、目は覚めたけどもぼんやりとした心地の中、僕はそうつぶやいた。
それを呆れた目で見ているのはアランだ。
幸いあの後も特に何もなく、二日酔いもしていない。
隣のリーナは既に支度をすませて朝食にいっているのか、ベッドに姿はなかった。
「ほら、さっさと朝飯くって仕事いこうぜ」
「ん、わかった」
といってアランを見るも、彼が出ていく様子がない。
「?」
しばらくジト目で見つめていると、何か不思議そうな顔をするではないか。
「着替え、するんだけど」
「そっか、悪い悪い」
あきらめて声に出すと理解してくれたらしく、部屋を出て行ってくれる。
まったく……この男は本当に女心がわかっていないんだから。
支度を済ませて下に降りてみると、そこには既に胸やけがしそうな量を食べているリーナと、僕の分まで用意してくれているアランがいた。
「おまたせ」
僕の声に反応した二人がこちらを見てくるのだが……なんかおかしいな?
「あれ、二人ともどうしたの?」
思わず聞いてしまうくらいには二人の表情が違うのだ。
アランは何というか、申し訳なさそうな顔つきをしているのに対して、リーナはニヤニヤしている。
「昨日はお楽しみだったのです?」
「何もないよ!」
「折角あのあと小一時間待ってから上がったのに。アランはへたれなのです」
この子最近僕たちに慣れてきたせいか、結構毒舌な気がしてきた。最初の純朴そうなイメージはどこにいったんだ。
「とりあえず、さっさと食おうぜ」
アランの言葉に賛成だ。ここで下手に変なことをいえばリーナのいい弄り対象になりそうだし。
「今日は何をするのです?」
「昨日と同じ、お金稼ぎだよ。船に乗るお金も稼がないといけないし、鎧の代金も必要だし、余剰分のお金も持っておきたいしで忙しいんだよ」
一応今でも全部のお金を賄えはするんだけども、結構なギリギリラインなのだ。余剰分のお金は持っておくに越したことはない。
「リーナは昨日みたいに食べられるお仕事がいいのです」
だよねぇ。というかそういう仕事にしないとアランと二人で食費がえらいことになってしまいそうだ。
結局、三人での食事を終えたあとは、リーナの希望通り昨日と同じセリアドネの討伐の仕事を受注した。
やっぱりあの革や肉は人気があるらしく、ほぼずっと出ている依頼なんだそうだ。
報酬金額はそこそこだけど、自分たちで使う分を避けても良いという条件なのはこちらもありがたい。
昨日はもも肉あたりを持って帰ったから今日は胸肉あたりを持って帰ろうか。
そんな事を考えながら依頼の紙を受付の人にもっていくと、どこか渋い顔をされた。
「どうかしたんです?」
「その湿地帯でのお仕事なんですけど、先日出発されてまだ戻ってない方々がおりまして……」
それはもしかして、もしかするんだろうなぁ……
「もし見かけたらでいいんですが、何か手掛かりとかを見つけられたらギルドまで教えていただけましたら幸いです」
冒険をしているとこういうこともあるんだろうなぁ……
一日戻らないぐらいだと野営でもしてるのかなってなるけど何日も戻らないとなると、いろいろ考えてしまう。
「強制でもありませんので、下手に探しに行ってメルタさん達も戻れなくなる、みたいなことはないようにお願いしますね」
そういってわたした依頼の紙に受注のハンコを押してくれる。
「アラン、行方不明者がでてるみたいだから、見かけたら教えてだって」
「あー…… あそこは底なし沼とかもありそうだしなぁ。まぁ何か見かけたら回収するぐらいでいいだろ」
アランの言葉に同意しつつ、僕らは出発した。
ちなみに道中は特に変わったこともなく到着したのも昨日同様の湿地帯である。
見えているセリアドネにも変化はーー
そんなときにアランが急にハンドサインで『静かにして身を屈めろ』と伝えきた。
不思議に思いながらそれに従うと
「スキル取得して魔獣化してるセリアドネがいる」
とだけ伝えてきた。
彼が指さす先にはわずかに色味が紫っぽくなったように感じるセリアドネが泥浴びをしていた。
「だいたいセリアドネがスキル取った時は、『毒の息』をもってやがる。近づかれたら一巻の終わりだな」
なるほど、昨日みたいになんともない奴ならそこまで厄介じゃないけど、毒の息とはまた穏やかじゃないね。
近づいたときにそんなもの吐かれたらどうしようもない。
しかも魔獣化した奴が群れの頂点になるルールでもあるのか、アランが指さした奴の周りには何匹かの普通のセリアドネが侍っている。
つまるところどれか一匹だけ釣ろうにも、全部が反応しちゃいそうで、二進も三進もいかないという状況だ。
「魔法で一気に殲滅はできそうなんだけど、その後どうなるかわかんないのが怖いかも」
撃ちもらしがでちゃったり、肉や皮がぐずぐずになっちゃったりとかね。かといっておとなしく引き返してしまっては違約金分がマイナスになるだけ。
うーん、なかなかに儘ならない。
「リーナとアランが撃ち漏らしの対処するのです。一匹でも上手に残せれば儲けものなのです」
まぁリーナの言う通りだよね。とりあえずやってみるしかない。
残すとまずいのは例の毒ウーパーだからそいつを中心にぶちかましてみるとするか。
「法の書」
僕の手の中に光が集まり、本になる。それをリーナが不思議そうに見つめているけど、説明はとりあえずあとだ。
本当なら一帯を爆破しちゃいたいけど、そうすると残せるようなのがなくなりそうなので、ここは単純な物理寄りの魔法で仕留めるとしよう。
目標を見据えて、範囲をしっかり確保してーー
「氷の鉄槌」
急激に冷え込み、白い冷気とともに氷柱がセリアドネ達の上空に浮かび上がる。そしてそれは僕が指を振るうままにその群れを蹂躙した。
ここまでは予定通り。何も問題は……
「すまん、まずった。あいつ、成体だ」
アランの憎々しげな表情に狂乱に包まれている奴らの群れをよく見れば、一匹が怒りのまなざしでこちらを見つめていた。
しかもよりによって、あの紫ウーパーだ。たしかにそいつには氷柱が当たってはいるものの、傷一つついていない。むしろほかのセリアドネを守るように氷柱を尾で叩き落としすらしている。
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