異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

死線1

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「とりあえず、固まってないで別れるぞ!」
 
 アランの声に気を取り戻すと、僕達は一旦3手に分かれた。
 そりゃ当然一か所にいれば毒の息で一網打尽にされる可能性があるからね。
 とはいえここからどうしたものか。氷柱じゃぶちぬけない。炎も効くかわからない。雷は…… 仮に地面に着弾したら自分達が餌食になってしまう。
 やっぱ物理で殴るのが一番楽なんだよね。
 
 背中からハルバードを引き抜き、構える。
 前回と同じように尻尾の方からじわじわ攻めて、失血までもっていけたらいいけども。
 問題はアランも言っていた『毒の息』だ。どのくらいが致死量でどのくらい吐いて、それが見えるのか見えないのか液体か気体かすらわからない。
 近寄るには非常に危険がある。
 
 そうこう悩んでいるうちに、奴は翼をはためかせて上空へ飛び上がった。
 そしてそのままこちらへ飛んでくる。
 狙いはやはり僕か。トロルにしてもこの紫ウーパーにしても毎回よく狙われるもんだ。
 前足の鉤爪を僕に向けて飛び降りてくるのをよけながらハルバードを振るう。
 しかし、避けざまに放った一撃は力が載っていなかったこともあり、爪ではじかれた。
 
 地面をゆらして着地するその巨体は昨日のとは違い、その表面にしっかりと鱗をまとっていた。
 色こそ変化はないものの、その胴体に向けてハルバードを突き出してみても刺さる気配がない。
 こりゃまた、だいぶ厄介なもんだ。
 体を突っつかれた怒りからか、奴の顔が僕の方へ向く。
 同時に口が大きく開かれ、そこから紫色の霧のようなものが吐き出された。
 霧から離れると同時に今度は横薙ぎに振り払う。
 
 刃は確かに口の一部の肉に食い込み、鮮血が流れ出すが、それだけだった。
 紫色の霧はそのまま地面の草に吸い込まれていく、とそれらはすぐに黒く変色し、やがて泥のようになっていった。
 
「わーお、これ絶対やばいやつじゃん」
 
 そのまま再び紫ウーパーの顔がこちらへむき、噛みついてくる。
 丁度武器を振りぬいてしまったタイミングだったので、ステップが出せない。
 悪手とわかっていても、遠心力に任せて倒れこむことでとっさに回避する。
 
Ventusferrum!」
 
 そんな僕のピンチが見えていたのか、離れたところからリーナの魔法が飛ぶ。
 が、それも鱗の表面で弾けるのみでダメージを与えた様子はない。
 そして僕のピンチはそれだけじゃない。僕が倒れこんでよけたのを見て奴の首が下を向く。
 
「ふんぐっ」
 
 それをハルバードがつっかえ棒なるように口の中に押し込む。食うか食われるかの力勝負だ。
 いや、それ以前にこの状態で毒を吐かれたらどうしようもない。が、今現状この拮抗がくずれるのもまずい。
 アランがその顔をなんとかしようと、切りかかってきてくれているが、ダメージが入っていない。
 目すらも剣をはじくってどんな構造してるんだろ。なんて軽口を言ってられる場合でもない。
 ここから脱しないと、どん詰まりだ。
 
「アラン! リーナ! 目ぇ閉じて!」
 
 幸い紫ウーパーの視線は僕にくぎ付けだ。だからあの手がまた通じるかもしれない。
 
ClaíomhSolaisー――― 猫だまし!」
 
 眼前で光が爆発する。手に伝わる感覚から奴が口を放して僕から離れていくのがわかる。
 よし、これでしばらくは時間稼ぎができるはずだ。僕はすぐさま立ち上がり、ハルバードを構えなおす。
 紫ウーパーの方は光が結構な刺激だったのだろう。のたうち回っている。
 そのせいでアランもリーナも攻めあぐねているといったところか。
 
「刺さらないなら、ぶちかますのです! Ice鉄槌malleoli!」
 
 リーナの声が響くともに、紫ウーパーの上にとてつもなくでかい氷の塊が浮かぶ。
 そして轟音とともに、それは奴の頭にぶちあたった。
 だがそれだけでは死なないのか、動きは鈍くなったものの、いまだうごめいている。
 昨日の幼体と違って随分とタフなもんだ。だけど、内側はどうかな?
 吐き出される紫の煙をふりはらい、口の中から脳天めがけてハルバードを思いっきり突き出す。
 さすがに口の中までは鱗もない。やわらかい感触とともに半ばまでがめり込む。
 あとはもう一丁。
 
「うおおおぉぉぉ!」
 
 アランの気合と共に、奴の目玉に剣がつきだされ、それは目の下側を通してその奥へと達した。
 後は乱雑に繰り返せば……
 やがて暴れるのは尻尾だけになり、それも収まり。
 紫ウーパーはその動きを完全に止めた。
 
「おわったぁ」
 
 構えていたハルバードを下ろす。アランは吹き出した血でドロドロだ。魔法であらってあげないと。
 
「けほっ」
 
 そう思いながら彼に近付く際に喉に違和感を覚えた
 咳払いをしてみれば、口を押さえた手には血べったりとまとわり付いている。
 
「あれ?」
「どうした?」
 
 次いで襲いくるのは吐き気と、血の味。
 
「こほっ」
 
 パタパタと口を押さえた手から血が溢れて地面に染みを作る。
 これ、もしかしてアウトなやつじゃ……
 
「メルタ!」
 
 アランが駆け寄ってくるのを目の端に捉える。
 もしかして毒吸っちゃってたのかな。
 膝から力が抜けて、地面が近づいてくる。
 それでも、血は止まらない。
 こうして僕は、意識を失った。
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