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四章 二つ目の国
死線を越えて
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かちりと何かが嵌る様な感覚と共に目を覚ます。
外は明るく、もう昼間に近い様だ。
「起きたのです?」
声に視線を巡らせれば、昨日と同じ場所にリーナがいた。
「アランはご飯を取りに行っているのです」
僕が何かを言う前に察して答えてくれる。
別に彼を探していたわけじゃないけど、また無理させてないか心配になっただけだ。
「体は起こせるのです?」
まる2日横になっていた分の重さはあるが、今までみたいな痛みはない。なんとか動けそうだ。
体を起こして手や指を動かしてみても問題は無さそうだ。
そんな僕を見てリーナが一息付いていた。
「そこまで回復できたなら安心なのです」
そんなリーナは目を擦りながら眠そうにしている。
彼女にも結構無理させちゃったな。
「あの後アランがメルタを担いで宿に駆け込んで、リーナがギルドに報告にいったのです。それで、あの場所に行方不明になってた冒険者のギルド証も落ちていたらしいのです」
あの群れはそういう事、だったのかな。危うくその仲間に加わる所だった。
「それで、街の近くに成体が出たのを討伐したと言う事で、金一封が出たのはよかったのですが……」
何かを言いにくそうにしているが、予想はつく。
「メルタの薬代でほぼ無くなったのです……」
彼女の耳がぺしょんとしょげる。いやまぁ、それについては僕が悪かった所だから、彼女が申し訳なさそうにする謂れはないのだけども。
「素材分と依頼分のお金は貰えたので何とかプラスなのです」
良かった。これで収支マイナスとかだったら、土下座しても足りない所だったね。この世界に土下座があるかはしらないけど。
「リーナ、メルタはーー 起きたのか」
ノックをしてリーナが扉を開ければアランが入ってくる。その両手にはお盆が載せられ、そこからは湯気が立ち上っている。
「メルタもリーナも、とりあえず麦粥だ。特にメルタは腹に何か入れねぇとな」
伸ばした足の上にお盆が置かれる。麦粥に柔らかく煮込んだキャベツと細く裂かれた肉が浮かんでいる。中々に滋養に良さそうだ。
その香りに誘われるまま匙で掬って一口食べれば、久方ぶりの味覚が頭を襲った。
うん、美味しい。リーナはどうも猫舌なのか必死に冷ましながら食べている。
アランは逆に熱さはあまり気にしていないらしく、豪快に皿から直接飲んでいた。
「俺もリーナも、飯食ったら一眠りさせてくれ。流石にちょっと疲れてな」
「ごめんね、ゆっくり寝てて。僕は少しだけ体を動かすよ」
「無理しない程度にな」
アランの言葉に返事をしながら、もう一口食べる。まだ胃袋が小さいせいもあるだろうけど、とても体に染み渡る気がする。
その後、ゆっくりと時間をかけて完食した頃には、体の調子はかなり戻っていた。
これなら今日明日中にでも出発できそうだ。
「それじゃあ、僕はちょっと散歩でもして体を動かしてくるよ」
「あんまり遠くに行くんじゃないぞ」
「分かった。すぐ戻ってくるから」
「気をつけるのです」
二人に見送られて部屋を出て階段を降り、宿の外に出る。
そのまま宿の周りを軽く走り始める。
最初は重たい体を引きずりながらだったが、しばらく走っている内にいつも通りのスピードが出始めた。
ふむ、やはり体が鈍るといけないな。そう思いつつ、今度は歩く程度の速さまで落とす。
なまってしまった筋肉を使っているのか全身が軋むような感覚に陥る。
だが、それでも痛みを感じる程ではないし問題ないだろう。
その後もペースを変えながら歩いたり全身を動かしてみたりして、2時間ほど経った所で終わらせることにした。
宿屋に戻って汗を流した後、部屋に戻れば二人はぐっすりと眠っていた。
僕のために色々動いてくれたんだから、今はゆっくり休んでほしい。
けど、リーナの色々のはだけ具合はよろしくないので、整えておく。
こうして一人になると、なかなかすることがない。
前世の時は本を読むとか色々できたけど、この世界の本は高額だ。それに結構分厚いから持ち歩くわけにもいかないし、図書館だって原則本は持ち出し禁止になっている。すごい本になると鎖がついてるくらいだからね。
あまりにも手持ち無沙汰なので持っている道具の手入れを始めてみれば、これが思ったより楽しくて時間が流れるのを忘れてしまっていた。
気がつけば日が落ち、外は薄暗くなりはじめていた。そろそろ晩ごはんも近いから起こしたほうがいいかな。
「アラン、おきて」
彼の肩を揺するも反応はない。完全にぐっすりなようだ。
顔を軽く叩いてみても、耳に息を吹きかけても反応がない。
なかなか強情だなぁ。次は耳をかんでーー
「ううーん」
みようと思ったところをしかめっ面で抱え込まれてしまった。僕の上半身と彼の上半身が密着する。まーたこの流れか!
ぐりぐりと体を動かして脱出を図るも、なかなかに力強くて抜け出せない。ええい、こうなったらこのままやってやる!
引っ張って抜けだせないなら、逆に体を押し込んで耳を噛む。優しくなんてしないよ。結構がっつり噛んでやった。
「なんだぁ!?」
素っ頓狂な声で彼が起き上がる、同時に彼に支えられていた僕は床に転がる羽目になった。
「夜だからご飯にしよって起こしにきたんだけど、なかなか起きないから悪戯しちゃった」
「なんだ、メルタか…… ネズミに齧られた夢みたぞ」
人の愛くるしい口をねずみとは心外な。
「そろそろそんな時間か、リーナも起こして飯にしよう」
そうしてリーナを起こして、僕達は反省会も兼ねた夕食を囲むことにした。
外は明るく、もう昼間に近い様だ。
「起きたのです?」
声に視線を巡らせれば、昨日と同じ場所にリーナがいた。
「アランはご飯を取りに行っているのです」
僕が何かを言う前に察して答えてくれる。
別に彼を探していたわけじゃないけど、また無理させてないか心配になっただけだ。
「体は起こせるのです?」
まる2日横になっていた分の重さはあるが、今までみたいな痛みはない。なんとか動けそうだ。
体を起こして手や指を動かしてみても問題は無さそうだ。
そんな僕を見てリーナが一息付いていた。
「そこまで回復できたなら安心なのです」
そんなリーナは目を擦りながら眠そうにしている。
彼女にも結構無理させちゃったな。
「あの後アランがメルタを担いで宿に駆け込んで、リーナがギルドに報告にいったのです。それで、あの場所に行方不明になってた冒険者のギルド証も落ちていたらしいのです」
あの群れはそういう事、だったのかな。危うくその仲間に加わる所だった。
「それで、街の近くに成体が出たのを討伐したと言う事で、金一封が出たのはよかったのですが……」
何かを言いにくそうにしているが、予想はつく。
「メルタの薬代でほぼ無くなったのです……」
彼女の耳がぺしょんとしょげる。いやまぁ、それについては僕が悪かった所だから、彼女が申し訳なさそうにする謂れはないのだけども。
「素材分と依頼分のお金は貰えたので何とかプラスなのです」
良かった。これで収支マイナスとかだったら、土下座しても足りない所だったね。この世界に土下座があるかはしらないけど。
「リーナ、メルタはーー 起きたのか」
ノックをしてリーナが扉を開ければアランが入ってくる。その両手にはお盆が載せられ、そこからは湯気が立ち上っている。
「メルタもリーナも、とりあえず麦粥だ。特にメルタは腹に何か入れねぇとな」
伸ばした足の上にお盆が置かれる。麦粥に柔らかく煮込んだキャベツと細く裂かれた肉が浮かんでいる。中々に滋養に良さそうだ。
その香りに誘われるまま匙で掬って一口食べれば、久方ぶりの味覚が頭を襲った。
うん、美味しい。リーナはどうも猫舌なのか必死に冷ましながら食べている。
アランは逆に熱さはあまり気にしていないらしく、豪快に皿から直接飲んでいた。
「俺もリーナも、飯食ったら一眠りさせてくれ。流石にちょっと疲れてな」
「ごめんね、ゆっくり寝てて。僕は少しだけ体を動かすよ」
「無理しない程度にな」
アランの言葉に返事をしながら、もう一口食べる。まだ胃袋が小さいせいもあるだろうけど、とても体に染み渡る気がする。
その後、ゆっくりと時間をかけて完食した頃には、体の調子はかなり戻っていた。
これなら今日明日中にでも出発できそうだ。
「それじゃあ、僕はちょっと散歩でもして体を動かしてくるよ」
「あんまり遠くに行くんじゃないぞ」
「分かった。すぐ戻ってくるから」
「気をつけるのです」
二人に見送られて部屋を出て階段を降り、宿の外に出る。
そのまま宿の周りを軽く走り始める。
最初は重たい体を引きずりながらだったが、しばらく走っている内にいつも通りのスピードが出始めた。
ふむ、やはり体が鈍るといけないな。そう思いつつ、今度は歩く程度の速さまで落とす。
なまってしまった筋肉を使っているのか全身が軋むような感覚に陥る。
だが、それでも痛みを感じる程ではないし問題ないだろう。
その後もペースを変えながら歩いたり全身を動かしてみたりして、2時間ほど経った所で終わらせることにした。
宿屋に戻って汗を流した後、部屋に戻れば二人はぐっすりと眠っていた。
僕のために色々動いてくれたんだから、今はゆっくり休んでほしい。
けど、リーナの色々のはだけ具合はよろしくないので、整えておく。
こうして一人になると、なかなかすることがない。
前世の時は本を読むとか色々できたけど、この世界の本は高額だ。それに結構分厚いから持ち歩くわけにもいかないし、図書館だって原則本は持ち出し禁止になっている。すごい本になると鎖がついてるくらいだからね。
あまりにも手持ち無沙汰なので持っている道具の手入れを始めてみれば、これが思ったより楽しくて時間が流れるのを忘れてしまっていた。
気がつけば日が落ち、外は薄暗くなりはじめていた。そろそろ晩ごはんも近いから起こしたほうがいいかな。
「アラン、おきて」
彼の肩を揺するも反応はない。完全にぐっすりなようだ。
顔を軽く叩いてみても、耳に息を吹きかけても反応がない。
なかなか強情だなぁ。次は耳をかんでーー
「ううーん」
みようと思ったところをしかめっ面で抱え込まれてしまった。僕の上半身と彼の上半身が密着する。まーたこの流れか!
ぐりぐりと体を動かして脱出を図るも、なかなかに力強くて抜け出せない。ええい、こうなったらこのままやってやる!
引っ張って抜けだせないなら、逆に体を押し込んで耳を噛む。優しくなんてしないよ。結構がっつり噛んでやった。
「なんだぁ!?」
素っ頓狂な声で彼が起き上がる、同時に彼に支えられていた僕は床に転がる羽目になった。
「夜だからご飯にしよって起こしにきたんだけど、なかなか起きないから悪戯しちゃった」
「なんだ、メルタか…… ネズミに齧られた夢みたぞ」
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そうしてリーナを起こして、僕達は反省会も兼ねた夕食を囲むことにした。
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