異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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四章 二つ目の国

落ち着いて

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「メルタ、いい話と悪い話があるんだが、どっちから聞きたい?」
 
 朝、珍しく起きるのが遅めになってしまった僕にアランが急に聞いていた。
 隣のベッドにリーナの姿もない。きっと朝ごはんを食べにいっているのだろう。 
 
「んー、寝起きで頭が回ってないから、目が覚めるほうからで」
 
 多分今の僕は髪の毛もぼさぼさだろう。寝ぐせもあるに違いない。
 手櫛で整えようとしてもそれに逆らう毛束の気配がある。
 
「そんじゃ悪いほうからだな。先の王国と帝国の戦争、王国の負けが込んでる」
 
 おっと、それはたしかに穏やかじゃないね。これから帝国に向かう僕らにとってはまだマシなのかもしれないけども。
 
「良いニュースは、王国と帝国間で停戦条約が結ばれたってよ。王国は負けを受け入れて、帝国は念願の不凍港をゲットして万事解決ってわけだ」
 
 紛争状態はそれでなのか一旦の解決を見たらしい。まぁもともと帝国の一方的な侵略だったわけだし、それが止まるなら平和的に収まったほうだろう。
 帝国には神さまの縁の場所候補が7か所もあるから、それらを時間をかけてでも全部めぐるべきか、まっさきに教国にはいって居場所の特定をするか悩ましいところだ。
 
「うーん、まぁ僕たちの動きとしては変更ないからねぇ。気になるとしたらミュールたちが今どうしてて、どうするつもりなのかとかかなぁ」
「冒険者になった以上、探すのはなかなか難しいからな。何も噂を聞かないのは元気な証だと思うしかねぇな」
 
 そうだよねぇ。スティーグがそうしたように冒険者になって道を別ったなら、お互いの行方を知る方法はそう簡単にはない。
 なにせ詮索は半ばご法度に近い。ギルドに問い合わせても答えてはくれないだろう。せいぜいは伝言を残す程度だ。
 彼女たち二人の動向は気になるけども、僕だってやらなきゃいけないことは山積みだからね。
 
「とりあえず今は目の前のことに集中しないとね。今日は僕の体力復帰に付き合ってもらわないと」
「あぁ、その通りだな」
 
 拳をぶつけ合わせて笑いあう。かと思えば、そのまま彼に抱きしめられた。
 
「無事で、よかった。」
 
 彼の渾身の思いだろう。僕の体に伝わってくるその力強さから彼の安堵具合がよくわかる。
 それだけ心配させてしまったのだなと思う反面、そんな風に思ってくれる人がいる幸せを感じてしまうあたり僕は本当にダメ人間になりつつある気がする。
 
「うん……」
 
 彼に応えるように、背中へと腕を回す。そしてしばらく二人で抱き合ったまま過ごした後、体を離した。
 よしっと景気づけるように声を上げてベットを出る。まずは朝食を摂りに行こうかね。
 食堂に行くとリーナを見つけた。ちょうど彼女も食事中のようだ。
 
「お楽しみにしては早かったのです」
「そんなんじゃないよ、普通に起こしてもらっただけ」
 
 彼女の軽口にも、もうなれたもんだ。ミュール同様見た目と言動がそぐわないことこの上ない。
 
「……アランは平気なのです?」
「朝っぱらからそういう話題に持っていかないでほしいかな。ほら、僕たちもご飯食べるから」
 
 リーナがとっておいてくれた席に宿のご主人から受け取った朝食を置く。
 変わり映えがしないといえば失礼だけどいつも通りのライ麦パンのサンドだ。
 
「というか、リーナはやたらそういう事気にするよね」
「冒険者稼業は命懸けなのです。生存本能がたかまるのですよ」
 
 もはや直球できたね。言わんとしている事はわかるけども……
 今そんなこんなでなんだかんだになって困るのは自分だ。
 
「そういうリーナこそどうなのさ」
「アランは見た目はいいけど、食指がのびないのです」
 
 誰もアランのことは聞いてないんだけどね。
 いつの間にやら振られる形になったアランにはご愁傷さまだ。
 
「いや、俺もこの場にいるんだけど。何なんだよこの空気感」
「レディーストークってやつだよ、アラン。気にしない、気にしない」
 
 どこか納得いかなさげな表情でサンドを頬張るアラン。まぁ別に本気で嫌われているわけではないし、ただのじゃれ合いみたいなもんだ。さて、いつまでも話してないで食べちゃおう。
 
「それでは今日の予定、といっても大したことじゃないんだけど、今日は装備を受け取ったらこの街で軽めの仕事を受けて僕のリハビリ代わりだ」
 
「んだな。俺もリーナも武器の慣らしもあるからその方が丁度いい。下手にまたセリアドネの成体なんぞに遭遇しても面倒くさい」
 
 安定して倒せれば金銭的に美味しいんだろうけど、まぁ僕らは僕らのペースで進めればいい。無理は禁物だ。
 
「んじゃ、飯食い終わったらいくか」
「はいです!」
「うん」
 そんなわけで今日は午前中は装備受け取りと軽く仕事を受けることになった。
 
「よう、来たか坊主ども」
 
 街の武具屋にやってきた僕たちを迎えてくれるのはこの店の店主であるいつものおっちゃんだ。
 並べられたトルソーには機能と同じ様に僕達の鎧が飾られている、変わった所といえば鎧の各所に毒吐きのスキル石が飾りとしてついているところだろうか。
 
「それなりに良い素材だったから見栄えもするだろう。時間と金があるなら装飾もつけるがどうするよ」
「時間もお金もぎりぎりなんで、受け取りでお願いします」
「あいよ、そんなら奥でつけ心地の確認だけしてきな」
 
 僕らはおっちゃんに代金の入った革袋を渡すとそれぞれの鎧を持って奥の部屋に入る。
 今までの簡素な革鎧と違って板金と鱗で防御面もしっかりした感触だ。
 
 関節部分も可動域を確保した上できっちりと固められていて動きやすいように工夫されている。
 腰回りから太ももまでは鱗を縫い付けた布でスカート状に守られていて、その薄紫の色も相まってちょっとしたドレスみたいな気もする。

 ブーツまで履いてしまえば、防御が薄いのは内ももと腕の内側くらいだろうか。頭? 兜も考えたんだけど、かぶるとあれ予想以上に蒸れるんだよね。それ以上にトロルみたいなデカブツに頭を殴られれば兜があろうがなかろうが首が折れてオシマイだ。そういうのも鑑みて、頭には何も着けないことを選んだのだ。

 体の各所を動かしてみるも、違和感はない。鎧としての全体の重量は増えたけど気にはならない程度だ。前の鎧から武器の固定具を外して着け直す。ちょっと重厚になった鎧にハルバードを担いでみればちょっと騎士にでもなった気分になるね。
 アランもリーナもそれぞれ鎧をつけ終わったらしく、具合を確認している。
 
「いい感じですね」
「はいです! これでもう安心なのです」
 
 二人とも問題なしと判断できたようで何よりだ。
 
「よし、じゃあおっちゃん、ありがとうございます。それとちょっと武具も見たいんですけど」
「おお、じっくり見てけよ」
 
 おっちゃんに案内されるがままにそれぞれの武具を探す。僕はひしゃげてしまった盾と欠けたメイスの代わりだ。
 もうちょっと大きくて頑丈なのにして耐えることを選ぶか小さいままで機動力を確保するか悩ましいところだ。
 大きいのだと僕の身長に近いくらいの大きさのものまである。重さがどんだけなのか怖いくらいだ。

 結局僕が選んだのは、構えたときに頭と体の大半が隠れる凧形の盾、いわゆるカイトシールドというやつだ。飾り気もないかわりにがっちりとした板金で作られているらしく、重量はそこそこある。手にもってこっそり曲げようとしたけど曲がらない程度には頑丈だった。もし曲がったらって? 謝って買い取ってたよ。

 そして次はメイスだ。こっちには今までのものと同様のもので不満はない。長柄のメイスもあるけど、間合いや振り回せる距離が取れるならハルバードで十分だからね。こっちはちょっとだけ装飾の入ったものを選んだ。見た目じゃなくて、同じくらいの重量のものがそれしかなかったからだ。

 選び終わってしばらくするとアランとリーナも戻ってくる。それぞれ目当ての武具があったらしい。
 お会計はしめて金貨2枚。これで僕達の財布の中身の残りは銀貨のみだ。頑張って稼がないと。
 
「さて、そろそろ昼時だし、飯食いに行くか」
「賛成ー」
「はいです!」
 
 こうして装備の調製が終わった僕たちは街へと繰り出すことにした。
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