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四章 二つ目の国
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「そうか、討伐できたとはいえ、これだけ街の近くに成体が出てくるとは問題だが、Bランクの魔獣を相手によくやってくれた」
ギルドに着いて通された部屋で、僕達はこの街のギルドマスターに先日の事情を話していた。
何せ直後、僕があんな状態だったのでろくな話もできていなかったのだ。
「行方不明になっていた3名で連絡の付く家族がいる者には伝えておいた。まったく、こういう仕事は多いとはいえ、なかなか老骨には堪える」
白髪に歳を経たシワが顔に刻まれた彼は、一際辛そうに頭を振った。
それはそうだろう。好き好んで人の死を伝える役目なんて負いたくはないはずだ。
「君が毒に罹った子かね。復帰できたようで何よりだ」
彼の視線が僕の方を向く。その目に宿るのは立場故なのか慈愛を感じさせるものだった。
「皆に助けられてやっと、ですけど」
「助けあえる仲間がいるのは良い事だ。その絆を大事にするようにな」
僕の言葉に頷きながら返してくれるマスター。彼が言う事は確かだ。アランもリーナも、掛け替えの無い仲間だろう。
「それで、今回君たちに来てもらったのには理由がある」
「何か、俺たちやらかしましたかね」
アランが心配そうに問いかける。そう、大体ギルドマスターと直で話す事など殆どない。そういう時は大半が厄介ごとだと相場は決まっている。
「君たちが手に入れた毒吐きのスキル石。あれを分けて欲しいんだ」
アランの顔がサッと青ざめる。それにはちょっとどころじゃない心当たりが、ある。
「すいません。装備に使うために砕いてーー」
「ああ、それは構わないんだ。砕こうが砕くまいが効果は変わらないからね。問題は取引先だ」
ホッと胸を撫で下ろすアラン。僕も平然を装ってるけど内心はドキドキだった。
「ここの王家の長兄であらせられるローラント様からの直接の願いなんだ。その意味が、わかるね?」
「断れないって事ですよね。ただ、俺たちは船の時間があるので、物だけをギルドに預ける形でもいいですか?」
「構わんよ。ただその場合の金の受け取りは後日ギルドを経由してになるがいいのかね」
正直、王家とか何やらとかと関わり合いになると後々面倒な事になる予感しかしない。ここは物は預けて逃げの一択だ。
お金の受け取りさえできるなら、別段即金が必要なわけじゃないから問題はない。
アランが僕を確認する様にちらちらと視線をよこす。
此処からは僕の方が良いだろう。なにせこの旅自体が僕のわがままみたいなもんだからね。
「はい、それで結構です。私たちは何分先を急ぐ身ですので。必要分またお渡しに上がります」
「なに、冒険者の性分は我々も理解しているとも。それではな」
それだけ言うと、ギルマスターは部屋を去っていく。取り残されたのは僕達3人だ。
「メルタ、あれで良かったか?」
「うん、ばっちり。王家とつながりができるのは普通だと良いかもしれないけど、今までの僕の運からいうと9割がた良い結果にならないからね」
「リーナは仲間になってからややこしい話ばっかりで胸焼けしそうなのです」
そればっかりは声を掛けた相手の運が悪かったとしか言いようがない。それに僕だってこんな事、想像できるはずもない。
まぁ王家に人と出会ってほにゃほにゃ的なのはテンプレっぽいけど、この今までの僕の待遇からして本当に話が上手くいくのだろうか。いいや、きっと何かあるに違いない。僕の微妙な運だけには自信あるからね。
そんな考えをめぐらせてる横でアランがため息をつく。
「だよな、厄介ごとの匂いしかしねぇ」
「まぁ僕と一緒に生きるなら厄介話は日常茶飯事だと思ってさ、諦めてよ」
「あー、分かったよ。お前さんについていけば退屈だけはしないみたいだしな」
そう言って笑うアランを見てると僕まで嬉しくなってきちゃう。やっぱり仲間って最高だよね!
「それで、これからの事だけど」
「まずは装備を整える。武器の手入れはしたばかりだが、買い足すものもあるし」
「そうなのです。私のナイフも買い換えたいです」
リーナのナイフは確かにあのウーパーの鱗のせいでボロボロになってきてる。それに僕の盾もひん曲がったまんまだ。
「おれの剣に至っては折れたからな。目玉のくせに硬えのなんの」
「そうだね、みんなそろそろ新調しないとダメかも」
「んじゃ、決まりだな。武具屋のおっちゃんのとこで揃えるか」
ここ最近何度も顔をだしている例のお店で買い物を終え、保存食なども買い終えた頃には日は落ちかけてきていた。
「んー、お金が結構大変な感じだねぇ」
「仕方ねぇよ。あとは王家のローラント様とやらが高く買ってくれることを祈ろうぜ」
まあ最悪食事は野菜と穀物オンリーでいいならオーベリ様の力でどうにかできるしね。
あとはもうこの国の王家のローラント様とやらが常識ある人であることを祈るばかりだ。
「ま、今日はメルタも病み上がりだし、さっさと飯くって寝ようぜ」
「賛成なのです」
僕らの旅はまだ始まったばかりだ。でも、それでも僕は今この時が楽しくてしょうがなかった。
ギルドに着いて通された部屋で、僕達はこの街のギルドマスターに先日の事情を話していた。
何せ直後、僕があんな状態だったのでろくな話もできていなかったのだ。
「行方不明になっていた3名で連絡の付く家族がいる者には伝えておいた。まったく、こういう仕事は多いとはいえ、なかなか老骨には堪える」
白髪に歳を経たシワが顔に刻まれた彼は、一際辛そうに頭を振った。
それはそうだろう。好き好んで人の死を伝える役目なんて負いたくはないはずだ。
「君が毒に罹った子かね。復帰できたようで何よりだ」
彼の視線が僕の方を向く。その目に宿るのは立場故なのか慈愛を感じさせるものだった。
「皆に助けられてやっと、ですけど」
「助けあえる仲間がいるのは良い事だ。その絆を大事にするようにな」
僕の言葉に頷きながら返してくれるマスター。彼が言う事は確かだ。アランもリーナも、掛け替えの無い仲間だろう。
「それで、今回君たちに来てもらったのには理由がある」
「何か、俺たちやらかしましたかね」
アランが心配そうに問いかける。そう、大体ギルドマスターと直で話す事など殆どない。そういう時は大半が厄介ごとだと相場は決まっている。
「君たちが手に入れた毒吐きのスキル石。あれを分けて欲しいんだ」
アランの顔がサッと青ざめる。それにはちょっとどころじゃない心当たりが、ある。
「すいません。装備に使うために砕いてーー」
「ああ、それは構わないんだ。砕こうが砕くまいが効果は変わらないからね。問題は取引先だ」
ホッと胸を撫で下ろすアラン。僕も平然を装ってるけど内心はドキドキだった。
「ここの王家の長兄であらせられるローラント様からの直接の願いなんだ。その意味が、わかるね?」
「断れないって事ですよね。ただ、俺たちは船の時間があるので、物だけをギルドに預ける形でもいいですか?」
「構わんよ。ただその場合の金の受け取りは後日ギルドを経由してになるがいいのかね」
正直、王家とか何やらとかと関わり合いになると後々面倒な事になる予感しかしない。ここは物は預けて逃げの一択だ。
お金の受け取りさえできるなら、別段即金が必要なわけじゃないから問題はない。
アランが僕を確認する様にちらちらと視線をよこす。
此処からは僕の方が良いだろう。なにせこの旅自体が僕のわがままみたいなもんだからね。
「はい、それで結構です。私たちは何分先を急ぐ身ですので。必要分またお渡しに上がります」
「なに、冒険者の性分は我々も理解しているとも。それではな」
それだけ言うと、ギルマスターは部屋を去っていく。取り残されたのは僕達3人だ。
「メルタ、あれで良かったか?」
「うん、ばっちり。王家とつながりができるのは普通だと良いかもしれないけど、今までの僕の運からいうと9割がた良い結果にならないからね」
「リーナは仲間になってからややこしい話ばっかりで胸焼けしそうなのです」
そればっかりは声を掛けた相手の運が悪かったとしか言いようがない。それに僕だってこんな事、想像できるはずもない。
まぁ王家に人と出会ってほにゃほにゃ的なのはテンプレっぽいけど、この今までの僕の待遇からして本当に話が上手くいくのだろうか。いいや、きっと何かあるに違いない。僕の微妙な運だけには自信あるからね。
そんな考えをめぐらせてる横でアランがため息をつく。
「だよな、厄介ごとの匂いしかしねぇ」
「まぁ僕と一緒に生きるなら厄介話は日常茶飯事だと思ってさ、諦めてよ」
「あー、分かったよ。お前さんについていけば退屈だけはしないみたいだしな」
そう言って笑うアランを見てると僕まで嬉しくなってきちゃう。やっぱり仲間って最高だよね!
「それで、これからの事だけど」
「まずは装備を整える。武器の手入れはしたばかりだが、買い足すものもあるし」
「そうなのです。私のナイフも買い換えたいです」
リーナのナイフは確かにあのウーパーの鱗のせいでボロボロになってきてる。それに僕の盾もひん曲がったまんまだ。
「おれの剣に至っては折れたからな。目玉のくせに硬えのなんの」
「そうだね、みんなそろそろ新調しないとダメかも」
「んじゃ、決まりだな。武具屋のおっちゃんのとこで揃えるか」
ここ最近何度も顔をだしている例のお店で買い物を終え、保存食なども買い終えた頃には日は落ちかけてきていた。
「んー、お金が結構大変な感じだねぇ」
「仕方ねぇよ。あとは王家のローラント様とやらが高く買ってくれることを祈ろうぜ」
まあ最悪食事は野菜と穀物オンリーでいいならオーベリ様の力でどうにかできるしね。
あとはもうこの国の王家のローラント様とやらが常識ある人であることを祈るばかりだ。
「ま、今日はメルタも病み上がりだし、さっさと飯くって寝ようぜ」
「賛成なのです」
僕らの旅はまだ始まったばかりだ。でも、それでも僕は今この時が楽しくてしょうがなかった。
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