魔法の才能ゼロで家族から迫害された俺は、唯一使える最弱の「植物魔法」で成り上がる!~桁違いの強さに気付かず、未だ罵ってくるヤツらに草生える~

果 一

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第1話 転生と、迫害と

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「おい出来損ない、いつまでへばってんだよ!!」

 目つきの悪い黒髪癖っ毛の少年が、地面に転がった俺の頭を踏みつける。
 
「ぐっ!」

 俺は、その少年の脚を掴んで引きはがそうとするが、単純に体格的な問題でビクともしない。
 いや、それ以前に。

「おいおい。クズのくせして、偉大な兄貴に逆らうのかよ、なぁ!?」
「がっ!」

 脚に全体重を乗せられ、頭蓋骨が割れんばかりに軋む。
 たぶん、重力増加の魔法を使っているんだろう。顔を付けた地面がべこりとへこみ、潰れた鼻から鼻血が吹き出した。

「もうやめておいたら、オウル? そいつ、死んじゃうよ?」

 遠くで見ていた、別の青年がそう呟いた。
 糸のように細い眼を持つ、灰色の髪をした優男の少年である。

「あ? 邪魔すんなよカースにい。俺は今、サイッコーに楽しんでんだからよ」

 オウルと呼ばれた、目つきの悪い少年は、鬱陶しそうに答える。
 ついでに、倒れた俺の額を蹴ることも忘れない。

「ま、確かにこいつは才能ゼロで、サンドバッグにするくらいしか利用価値はないけどさ。一応、こんなんでも僕達の弟なんだから」
「けっ。こんな無能が俺達の血を引いているなんて、吐き気がするぜ」

 ぺっと、オウルは俺に唾を吐き捨てた。
 
 クソッ!
 俺は、全身に走る痛みを堪えながら、奥歯を噛みしめる。
 なぜ、こんなことになっているのかというと、原因は俺の出生にある。

 俺の名前は本城優斗ほんじょうゆうと
 年齢は20歳で、日本の農業大学植物研究科に所属する、ごくごく平凡な大学生男子

 もっとも、それは俺の前世の情報。
 交通事故で死んで、俺は異世界にユウという名前で生まれ変わった。
 優斗とユウ。なんか、世界を越えた魂の繋がりを感じる。
 前世の記憶を持ったまま赤ん坊に生まれ変わったばかりの頃の俺は、そんな他愛もないことを考えていた。

 けれど、すぐに地獄を見ることとなった。
 俺が生まれたのは、アルスティーナ王国の一部地方を収める子爵家。
 その三男坊、ユウ=ファンル=フォレストスとして生を受けた。
 フォレストス子爵家は、弱小貴族ながら代々優秀な魔法使いを輩出する名門だった。

 つまり、この家では魔法のステータスの高さが、そのまま待遇に直結する。
 長男のカース=ファンル=フォレストスは、魔力量も生まれつき多く、火・水・風・土の四属性ある攻撃魔法のうち、風属性魔法に長けている天才児。
 次男のオウルは、魔力量こそカースに及ばぬが、四属性ある攻撃魔法の全てに長けていた。

 そんな中で、三男の俺は、魔力量は一般人の平均以下。攻撃魔法の適正なし。まさに、魔法に忌み嫌われて生まれてきたようなものだった。

 唯一、適性があったのは、無属性魔法・回復魔法・植物魔法と四つある補助魔法のうち、植物魔法だけ。

 補助魔法というように、植物属性の魔法の攻撃力は高くない。
 というか、もっとも使えない魔法とすら揶揄されている。
 植物魔法は、近くに生えている植物を操るだけの魔法。
 せいぜい、近くに生えているツルを操って、相手を束縛するくらいしかできない上に、砂漠などの植物がない場所では使えない。
 汎用性・有用性ともに最悪の補助魔法なのだ。

 つまり俺は、攻撃魔法はおろか、回復魔法も使えない無能。

 なぜか、植物魔法の適正の欄に“最適”と、あたかみたいに書いてあったのだが、そんな些細な点が気に留まるはずもない。

 魔法使いを輩出する家系に、その烙印を押されても仕方がないのかもしれない。
 けれど、俺は忘れてはいない。

「あなた、この子のステータス……」
「ああ。酷いものだ。我が子と思うのも嘆かわしい」
「ええ、ごめんなさいあなた。こんな、何の役にも立たない子を産んでしまって……」
「いや、いいんだアンナ。君のせいじゃない。生まれてきたコイツユウに責任がある。かといって、捨てるわけにもいかないしな。最低限育てたら、あとは雑用の使用人として形だけでも雇うことにしよう」
「ああ、それがいいわ。ありがとうロベルト……あなたの妻になれて、私は幸せだわ」

 まだ生まれたばかりの俺のステータスを鑑定した瞬間、急激に冷え切った両親の表情。
 たぶん、生まれたての俺に自我なんてないから、安心しきっていたんだろうが――中身年齢二十歳だった俺は、一語一句違わず覚えている。

 魔法の才能を持たず、魔法の天才を輩出する家系に生まれた俺は、生まれた瞬間から家族コイツらを見返すことを誓った。

――。

 それから数年の月日が流れ。
 七歳になった俺は、今日も今日とて二歳上の兄オウルによって、サンドバッグにされていた。
 長男のカースは、口調こそ優しいものの、俺を決して助けようとはしない。

 ツルで相手を縛るくらいしか攻撃手段のない、植物魔法の適性を持つだけの俺は、格好のストレス解消道具なのだろう。
 悔しいことに、七年経った今でも、俺はまだ復讐を果たせていない。

 両親が気に入っているように、この性格最悪な二人は、メキメキと実力を伸ばして、差が開くばかりである。

「ほらほらどうした? その程度か?」
「くっ……!」

 俺は、なんとか顔を上げてオウルを睨みつける。

「あ?」

 その瞬間、オウルの顔が凍った。

「何いっちょ前に睨みつけてんだゴラァ! 気色悪ぃんだよぉ!」
「ぐぶっ!」

 顎を思いっきり蹴り上げられ、俺の身体が宙を舞う。

「あー、気色悪い気色悪い! 悪い虫は殺菌しねぇと、なあ!?」
 
 オウルは地面に倒れた俺に右手を向ける。
 ヤバい、と思った俺は即座に「“葉壁リーフ・シールド”」と唱えた。
 俺の前に、申し訳程度の草で出来た障壁が立ち上がり――

「はっ! んなもんが何になるんだよ! 死ねや、“ファイア・ボール”!」

 オウルの手から真っ赤な火球が放たれ、薄い葉っぱの壁ごと俺の身体は炎に包まれた。

「――ぁああああああああああッ!」
「ひゃははははははは! てめえご自慢(笑)の魔法が、一瞬で燃え尽きたな! あっはははははッ!」

 地面を転がって火を消す俺を睥睨していたオウルは、「じゃあな。お前と違って俺は忙しいんだ。そろそろ失礼すんぜ」と一方的に言い捨てて、行ってしまった。

「じゃあねー、無能くん」

 カースもまた、飄々とした笑顔でそう告げ、オウルと共に去って行く。

「はぁ、はぁ……クソ!!」

 俺は、去って行くクズ二人の背中を見送りながら、唇が千切れんばかりに噛みしめ、覚悟を決めた。

「いつか絶対、お前らを越えてやる! お前らみたいな人間の歩めない、幸せな人生を送ってやる!」

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