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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第55話 凱旋、そして一悶着
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《友好舞踏会》は、王国の“友好関係を構築する”という目的も、公国の“戦争への引き金とする”という目的も果たせぬまま、終結した。
もちろん――関わった全ての組織に大きなしこりを残したのは、言うまでもない。
これから、王国と公国、《黒の皚鳥》、そして俺達の組織が、睨み合う形となるだろう。
だが今は、束の間の勝利を噛みしめ、次の騒乱に備えて力を蓄える事が先決だった。
△▼△▼△▼
《友好舞踏会》の後、俺は少しの間会場に残った。
本当はすぐにでもアジトに帰って寝たかったが、何しろ俺は秘密結社のリーダーという立場だ。
殊更に、俺達が暴れたことで組織の特定や不都合につながる痕跡は、残していくわけにはいかない。「大丈夫だろう」という油断が、命取りになったりするのだ。
俺は、他のメンバーの命も預かる身。
終わったから「はい、しゅーりょー」と言ってそそくさと帰るわけにもいかない。
「特に、見つかったらマズそうな痕跡はないな」
そう判断を下す頃には、夜もすっかり更けていた。
――。
《空間転移》を起動して、アジトのある《解放の試練》の近くまで移動する。
すると、《解放の試練》の入り口の前に、見覚えのある少女が立っていた。
月光に照らされたシルクのような白髪は、先端だけ赤く色づいている。
大きな瞳は、何かを心配するように暗闇を見据えていた。
言うまでもなく、俺の右腕であるフロルである。
どうやら、仲間達と共に先にアジトへ戻っていたようだ。
「よう、フロル」
俺が声をかけると、フロルは俺の方を振り向いてパッと太陽のような笑みを浮かべる。
「お疲れ、カイムさん! 待ってたよ!」
フロルは、嬉々としてそう言いながら俺の方へ駆け寄ってくる。
「もしかして、ずっと外で待ってたのか? 寒いだろうに……」
「平気。カイムさんを出迎えるためなら、真冬の夜だろうが一晩中待っていられ――」
そのとき、フロルの足が俺の手前で止まった。
「ねぇ、カイムさん。その人って……まさか」
フロルは、俺の後ろを指さす。
「ん? ああ、たぶんお前の予想通りだよ」
俺は背中に背負った人物を振り返りつつ答える。
彼女の指摘通り、未だ気を失ったままの勇者アリスを背負って帰って来たのだった。
「戦いでいろいろあって気を失ったみたいだから、放置するのも忍びなくて連れてくることにした。王国の内情もちゃんと確認しておきたいし――って、おーい、フロルさん?」
俺は、アリスを睨みつつ硬直していたフロルに声をかける。
「っ! な、なに?」
「いや……なんか、急に怖い顔になって、どうしたのかなと思って」
「な、なんでもないよ! 気にしないで」
フロルは、愛想笑いを浮かべつつブンブンと手を横に振る。
それから、後ろを向いて――
「なんなの? 主様に斬りかかった阿婆擦れの分際で、おんぶされてその上気持ちよさそうに寝てるなんて。ホント、世の中舐めてるんじゃないの? 勇者だからって馴れ馴れしく主様に近づいて現金なヤツ、許せない! おんぶなんて、肌と肌の濃厚な接触、つまりキスと変わらないじゃない! ていうか、そこは本来私のポジションで――」
……。
何というか……うん。
なんか、もの凄い早口で愚痴みたいなことを言っている気がするが、俺は何も聞いていない。
ああ、断じて何も。
だから、おんぶとキスが一緒なわけあるか! とかいうツッコミも、胸の中にしまっておこう。
そう、俺は何も聞いていないから、そんな感想が浮かぶはずがないのだ。
「じゃ、じゃあ俺は先に戻ってるから……」
俺は、独り言をぶつぶつと呟きまくっているフロルの横を通り過ぎ、そそくさと逃げるように《解放の試練》の入り口へと向かった。
なんてことはない。
俺の腹心は、たまに理性が暴走してしまうから、巻き込まれるのが怖かったのである。
――その後。
フロルから逃げるようにしてアジトに戻った俺は、配下から無事、誰一人失うことなく帰還したことを知らされる。
レーネ王女が丁重に保護されていることも、伝聞ではあるが確認した。
紛う事なき、俺達の完全勝利である。
それを噛みしめて、宴うたげの一つでも開きたい気分だが――それは一旦後回し。
何よりも優先しておきたいことがあって、俺はアリスを背負ったまま真っ先にリーナの元へ向かった。
もちろん――関わった全ての組織に大きなしこりを残したのは、言うまでもない。
これから、王国と公国、《黒の皚鳥》、そして俺達の組織が、睨み合う形となるだろう。
だが今は、束の間の勝利を噛みしめ、次の騒乱に備えて力を蓄える事が先決だった。
△▼△▼△▼
《友好舞踏会》の後、俺は少しの間会場に残った。
本当はすぐにでもアジトに帰って寝たかったが、何しろ俺は秘密結社のリーダーという立場だ。
殊更に、俺達が暴れたことで組織の特定や不都合につながる痕跡は、残していくわけにはいかない。「大丈夫だろう」という油断が、命取りになったりするのだ。
俺は、他のメンバーの命も預かる身。
終わったから「はい、しゅーりょー」と言ってそそくさと帰るわけにもいかない。
「特に、見つかったらマズそうな痕跡はないな」
そう判断を下す頃には、夜もすっかり更けていた。
――。
《空間転移》を起動して、アジトのある《解放の試練》の近くまで移動する。
すると、《解放の試練》の入り口の前に、見覚えのある少女が立っていた。
月光に照らされたシルクのような白髪は、先端だけ赤く色づいている。
大きな瞳は、何かを心配するように暗闇を見据えていた。
言うまでもなく、俺の右腕であるフロルである。
どうやら、仲間達と共に先にアジトへ戻っていたようだ。
「よう、フロル」
俺が声をかけると、フロルは俺の方を振り向いてパッと太陽のような笑みを浮かべる。
「お疲れ、カイムさん! 待ってたよ!」
フロルは、嬉々としてそう言いながら俺の方へ駆け寄ってくる。
「もしかして、ずっと外で待ってたのか? 寒いだろうに……」
「平気。カイムさんを出迎えるためなら、真冬の夜だろうが一晩中待っていられ――」
そのとき、フロルの足が俺の手前で止まった。
「ねぇ、カイムさん。その人って……まさか」
フロルは、俺の後ろを指さす。
「ん? ああ、たぶんお前の予想通りだよ」
俺は背中に背負った人物を振り返りつつ答える。
彼女の指摘通り、未だ気を失ったままの勇者アリスを背負って帰って来たのだった。
「戦いでいろいろあって気を失ったみたいだから、放置するのも忍びなくて連れてくることにした。王国の内情もちゃんと確認しておきたいし――って、おーい、フロルさん?」
俺は、アリスを睨みつつ硬直していたフロルに声をかける。
「っ! な、なに?」
「いや……なんか、急に怖い顔になって、どうしたのかなと思って」
「な、なんでもないよ! 気にしないで」
フロルは、愛想笑いを浮かべつつブンブンと手を横に振る。
それから、後ろを向いて――
「なんなの? 主様に斬りかかった阿婆擦れの分際で、おんぶされてその上気持ちよさそうに寝てるなんて。ホント、世の中舐めてるんじゃないの? 勇者だからって馴れ馴れしく主様に近づいて現金なヤツ、許せない! おんぶなんて、肌と肌の濃厚な接触、つまりキスと変わらないじゃない! ていうか、そこは本来私のポジションで――」
……。
何というか……うん。
なんか、もの凄い早口で愚痴みたいなことを言っている気がするが、俺は何も聞いていない。
ああ、断じて何も。
だから、おんぶとキスが一緒なわけあるか! とかいうツッコミも、胸の中にしまっておこう。
そう、俺は何も聞いていないから、そんな感想が浮かぶはずがないのだ。
「じゃ、じゃあ俺は先に戻ってるから……」
俺は、独り言をぶつぶつと呟きまくっているフロルの横を通り過ぎ、そそくさと逃げるように《解放の試練》の入り口へと向かった。
なんてことはない。
俺の腹心は、たまに理性が暴走してしまうから、巻き込まれるのが怖かったのである。
――その後。
フロルから逃げるようにしてアジトに戻った俺は、配下から無事、誰一人失うことなく帰還したことを知らされる。
レーネ王女が丁重に保護されていることも、伝聞ではあるが確認した。
紛う事なき、俺達の完全勝利である。
それを噛みしめて、宴うたげの一つでも開きたい気分だが――それは一旦後回し。
何よりも優先しておきたいことがあって、俺はアリスを背負ったまま真っ先にリーナの元へ向かった。
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