1 / 61
第1章 最初の《契約》、竜の少女

第1話 落ちこぼれの冒険者、ダンジョンに迷い込む

しおりを挟む
「なぁ、見ろよこれ!」
「うぉすげぇ! “キラー・ラット”の牙じゃねぇか! 討伐したのか?」
「ああ! 昨日30階層に潜ってな! 換金せずに持ち帰ってきたんだよ」
「さっすがケンちゃん! レベル15の冒険者ともなると、ランクCのモンスターでも単騎討伐できるのか!」
「ま、まぁな! お前等も、俺くらい強くなれば余裕だろ!」

 一囉いちら高校、二年B組。
 僕こと、神結絆かみゆいきずなの所属するクラスでは、今日も男子達がバカ騒ぎしている。

 ダンジョン。
 50年余り前、突如として日本各地に出現した、モンスターの蔓延る魔境。
 まるでゲームの世界かのごとく、砂漠の階層や海の広がる階層、見たこともない植物の森林が広がる階層などがあり、そこで冒険をすることができる。
 その代償とでもいうのか、命の保証だけはされていない。

 ダンジョン冒険者達は、魔法やスキルの力を使い、さながら英雄のごとくモンスターに立ち向かうわけだ。
 そのフィクションめいたスリルからか、高校生の実に8割近くがダンジョンに一度は潜ったことがあるというのが実態だ。
 
 強大なモンスターを倒せば強さの証明が、ダンジョンに幾度となく立ち向かえば勇敢さの証が。
 “視覚化される強さ”に惹かれるお年頃の僕達にとって、ダンジョン冒険者とはまさに、“己を誇示するステータス”そのものなのだ。

 逆に言い換えれば――ダンジョンに一度も潜ったことの無い者や、ダンジョンが怖くなってそれ以降行けていない者は、臆病者の称号レッテルを張られる。

「おい、クズナ~」

 どかりと、不意に僕の机の上の半分以上をとある少年のお尻が占拠した。
 顔を上げるとそこには、さっきクラスメイトから持て囃されていた男子――ケンちゃんこと川端剣砥かわばたけんとが、僕の机に座ってニヤニヤしながら僕を見下ろしていた。

「な、なに」
「お前は相変わらず弱そうだな。見ろよこれ。“キラー・ラット”の牙だぜ?」
「ふーん……凄いね、ケンちゃんは」
「あーそうさ。3階層でお漏らししながら逃げ帰ったどっかの誰かさんとは違うんだよ」
「っ!」

 僕は思わず唇を噛む。
 クスクスと、周りのクラスメイトが嘲笑するのが聞こえてくる。

「ま、クズナだもんな。押し入れの中でガタガタ震えてるのがお似合いだぜ。ぎゃっはははは!」
「あ、あれは! 僕も、覚悟が足りてなかっただけで……また行けば、今度は」
「はぁ? 行けんのかよ? お前みたいなひ弱で、泣き虫で、ランクEの雑魚モンスター相手に逃げ帰った腰抜けがよ!」

 バンッと音がして、僕はビクリと肩を振るわせる。
 ケンちゃんが、僕の机を思いっきり叩いた音だった。

「ほ~ら。これだけでビビってやんの。ぎゃはっ、ダッサ! もういい加減、虚勢張るのヤメロよ。まあ? どんなに頑張っても、口でしか抵抗できないもんなぁ? ク・ズ・ナ・く・ん?」
「っ!」

 髪の毛を思いっきり引っ張られて、僕は思わず顔をしかめてしまう。
 目をギラギラと光らせたケンちゃんは、手を離すと同時に思いっきり僕の身体を押した。

「っず!」

 ガシャンと音が鳴って、僕の身体はイスを巻き込んで床に倒れ込んだ。
 それと同時に、クラス中から笑いが巻き起こる。
 ただ1人、それを不安そうに見ている女子がいたのだが――当然、僕はそんなことにも気付かない。
 そのとき、予鈴が鳴って担任の先生が教室に入出してくる。

「お前等席につけよ~。帰りのHR始めるぞ」

 そう言って、今日も僕の一日が終わる。
 なんの取り柄もない。ただクラスメイトにバカにされるだけの、僕の一日が。

――。

「くそっ!」

 家に帰った僕は、賃貸であることも忘れて壁に拳をたたき付けた。
 高校生になってから始めた、アパートでの一人暮らし生活。中学の頃から、僕は何かとバカにされ続けてきた。

 なかなか筋肉のつかない華奢な身体のせいか、それとも女の子みたいな母親似の顔立ちのせいか。
 そんな自分を変えたくて、一人暮らしを始めて――去年、ギルドで冒険者登録をした僕は人生で初めてのダンジョンへ挑んだ。
 しかし――結果は惨憺たるものだった。

 上層も上層。ランクF,Eのモンスターしか出現しない3階層で、モンスターに殺されそうになり、敗走した。
 そんな情けない結果は、忽ち学校中に知れ渡り、僕は学校内においてますます蔑まれるようになった。

 たったの三階層で逃げ帰った弱者。
 それ以来ダンジョンに挑めていない臆病者。
 そんな僕を嘲笑う者は多く、いつの間にか僕の名前である「絆」を文字って「クズナ」と呼ばれるのが日常になっていた。

「ちくしょう! 僕だって、僕だってなぁ!」

 辛かった。悔しかった。
 このまま、クズと呼ばれ続けることが。何より、そこまでバカにされて、再びダンジョンへ足を踏み入れる勇気がない自分自身が。

 僕は歯噛みをしつつ、制服を脱ぎ捨てる。
 そのまま、クローゼットの扉を開いて服を探すが――

「あれ。服、全部洗っちゃってたっけ」

 すぐに着られる私服がないことに気付き、僕は押し入れの扉に手を掛けた。
 季節の変わり目くらいにしか開けない押し入れは、あまり掃除や手入れをしていない。

「ねずみとか、出てこないだろうなぁ」

 フリじゃないぞ? 
 そんなことを呟きながら、押し入れの中を漁っていると――

「……ん?」

 押し入れの奥に、何かを見つけた。
 何だろう? 石か何かでできた、古めかしい意匠の――

「とびら?」

 こんなもの、押し入れにあっただろうか?
 そんなことを思いつつ、その扉らしきものに触れた――そのときだった。

「なっ!?」

 扉が開き、中から真っ黒な光が溢れ出て、忽ち僕の身体を飲み込んでいく。
 いや――僕を、扉の奥に吸い込んでいる!?

「な、なんだこれ!? 何がどうなって!?」

 周りを真っ暗な光が取り囲んだことで、思わず気が動転してしまう。
 が――次の瞬間、その光は嘘のように収まった。

 ――気付けば、僕は知らない場所にいた。
 いや、一度だけ来たことのある場所に似ている。
 鍾乳石のようなものが垂れ下がり、辺りにはが生えているこの場所の雰囲気は、知っている。

「ここは、ダンジョン!?」

 なんで!?
 ダンジョンに入るには、指定の入り口からしか入れない。
 家の押し入れがダンジョンの入り口になっていたなんて、一体なんの冗談だ!
 いや、それよりも。もし、ここが本当にダンジョンなのだとしたら――

「うそ……でしょ」

 僕の額から、脂汗が垂れる。
 トラウマを植え付けられたダンジョンにいるから、という理由だけではない。
 僕の頭が、理解を拒むほどの恐怖が、身体を蝕んでいる。

 ――聞いたことがある。
 ダンジョンには層ごとに違う色の鉱石が生えている。
 低ランクのモンスターや罠がある層順に、1~20階層は上層。21~40階層が中層。41~60階層が下層。それ以降が深層という内訳だ。

 それぞれの層の鉱石の色は、上層が白。中層が青。下層が黄色。そして、

 僕は、もう一度辺りを見まわした。
 幻覚なんて事はない。確かにここにあるダンジョンの空間。
 そこを照らすのは、禍々しい溶岩のような赤い鉱石の輝き。

「ここは……深層!」

 刹那。
 ズゴォオオオン! という凄まじい音と共に、すぐ近くの岩壁が音を立ててはじけ飛ぶ。
 もうもうと立ちこめる土煙の向こうから、何かが姿を表した。
 青黒く輝く硬い外骨格に守られた身体。身の毛もよだつような、棘が生えた8本の足。そして――自身の身体とほぼ同等の大きさを持つ、巨大な二対のハサミ。

「え、Aランクモンスター……“デーモン・クラブ”!」

 禍々しい威容を放つカニ型のモンスターの赤い目が、ギラリと僕に向けられた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...