ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

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第1章 最初の《契約》、竜の少女

第5話 ダンジョンの猛威

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「なっ!」

 僕は、思わず目を剥いた。
 ダンジョンの壁を破壊して現れたのは、手足の長い三体のモンスターだ。
 人型を模してはいるが、肌の色は青黒く、やせ細っているわりには太ももだけが異様に発達している。

 咄嗟に、さきほどシャルと契約した際手に入れた固有スキル《透視龍眼ドラゴン・アイ》を起動した。

透視龍眼ドラゴン・アイ
 相手のステータスを、隠蔽工作をすり抜けて観察できる。
 また、透視能力や遠視、暗視などのサブ能力がある。

 シャルが僕の固有スキルを看破したのも、この固有スキルのおかげだろう。

――

 名前:ホッピング・デーモン
 種族:悪魔
 性別:――
 レベル:18
 ランク:S

 HP(体力):850
 MP(魔力):1000
 STR(攻撃力):320
 DEF(防御力):148
 DEX(命中):382
 AGI(敏捷):1900
 LUK(運):120

 魔法:《エア・スパイラル》
 固有スキル:《超跳躍》

――

 対してこちらはと言うと。

――

 名前:神結絆
種族:人間(?)
 性別:男
 レベル:8→12

 HP(体力):2200→2380
 MP(魔力):1800→1960
 STR(攻撃力):350→385
 DEF(防御力):240→260
 DEX(命中):300→333
 AGI(敏捷):990→1080
 LUK(運):360→382

 魔法:《ファイア・ボール》《バーニング・ブレス》
 固有スキル:《契約》《龍鱗》《龍翼りゅうよく》《龍之鉤爪ドラゴン・クロー》《透視龍眼ドラゴン・アイ
 所持アイテム:――
 称号:ドラゴンの主人

――

 シャルとの契約で基礎ステータスが十倍になり、更に“キング・サイクロプス”を撃破したことで、レベルも8から12に上昇した。
 Sランクモンスターに引けを取らないステータスだ。

「これなら勝てるかも……!」

 僕は、魔法を放つべく敵に右手を向ける。

「《ファイア・ボール》!」

 右手の先に魔法陣が展開され、先程よりも高密度の炎の玉が発射される。
 燃えさかる炎の玉は、並みのモンスターなら触れただけで灰すら残らないレベルにまで燃やし尽くされるはずだ。

 たとえSランクが相手といえど、腕の1本くらいは消し飛ばせる!
 そう確信していた。

 ――甘かった。
 燃えさかる炎の玉が、Sランクモンスター“ホッピング・デーモン”の群れのど真ん中に命中した。と思ったときには、彼等はそこにいなかった。

「なっ!?」

 3匹は、いつの間にかそれぞれ、僕を取り囲むような位置に移動していたのだ。

『『『キシャァアアアアアアア』』』

 耳を劈くような金切り声が重なり、ドーム内を満たす。
 それと同時に、3匹が動いた。
 “ホッピング・デーモン”という名が示す通り、発達した足を持つソイツ等の武器は、俊敏性らしい。

 目にも止まらぬ速さで、ダンジョンの壁を、地面を、天井を蹴り、三次元的な軌道を描いて僕の死角から襲ってくる。
 当然、悠長に魔法で狙っていられる隙など与えてはくれない。

「くっ!」

 直感のままに前へ転がった瞬間、さっきまで僕が立っていた地面を黒い影が掠め、床がえぐり取られる。
 振り返ってみても、既にその場に敵はいない。

 代わりに、頭上に跳んでいた敵が、真っ逆さまに僕めがけて突っ込んでくる。
 間一髪、横に跳んで直撃を避けるが、敵が地面に突き刺さった衝撃波と土埃に襲われ、数メートル吹き飛ばされた。

「がはっ!」

 地面を何度もバウンドする己の身体。体勢を立て直す間もなく三つの影が襲いかかってくる。
 ダメだ。これは避けきれない!

「ま、ず――ッ!」

 コンマ数秒後に、挽肉にされている未来を想像し、硬く目を閉じた――そのときだった。

「くっ!」

 どんっ! と、軽い衝撃が僕の身体を突き飛ばす。
 モンスターに突き飛ばされたのではない。それにしては、痛みがないからだ。

「え?」

 硬く瞑っていた目を開いた僕の視界に、鮮やかな赤い髪が踊る。
 数瞬の後、黒い影が真横を掠める。間一髪、赤い髪の少女の突進によってモンスターの攻撃の射線上から逃れたのだ。

「しゃ、シャル!」

 体当たりをしてきたシャルを抱えたまま、僕等はもつれるように地面を転がった。

「へへ、これでお相子じゃのう?」

 得意げに笑うシャルの額から、緋色の液体が流れ落ちる。

「シャル! 君、まさか……!」
「そんな顔をするでないわ。ただのかすり傷じゃよ」

 僕を安心させるように笑ったシャルは、「それより」と言いながら僕の身体から手を離した。

「あやつらは、防御力がない代わりに憎たらしいほどに速い。見失えば、即刈られると思え。本当なら、あんなヤツら妾1人で十分なんじゃが、このザマじゃ。流石に次は庇いきれぬ……すまぬな」
「……え」

 僕は、思わず呆けた呟きをあげてしまった。
 シャルが、心の底から申し訳なさそうにしていたから。彼女は、何も謝る必要なんかないのに。
 そう思うと同時に、身を焦がすような激情が胸の奥でざわめいた。

 僕は一体、何を浮かれていたんだ。
 Sランクモンスターを瞬殺できる力を手に入れて、調子に乗って、相手を舐め腐って。
 心の片隅で、今までバカにしてきたヤツらを見返せるとまで思って。

 ギリッと、奥歯を噛みしめる音が辺りに木霊する。

 忘れるな。
 ここはダンジョン。それも、ベテランの冒険者すら命を落としかねない深層。
 ただ力を手に入れただけの臆病者が、粋がれるような甘い場所ではない。

 そんなことをすれば、最初に振り絞った勇気の意味がなくなる。
 僕が気を抜けば、守りたくて手を伸ばした少女が、今度こそいなくなってしまう。
 そんなのは、絶対に嫌だ!!

「ありがとう、シャル。大丈夫、何も心配いらないから」

 心配なんて、させない。
 シャルに微笑みかけ、僕の背後に下がらせる。
 それと同時だった。

『キシャァアアアアアアアッ!』

 耳をつんざくような絶叫と共に、三次元的な軌道を描きながら、1匹の“ホッピング・デーモン”が仕掛けてきた。
 
 相変わらず、動きを完全に見切ることはできない。
 だが、完全に見切る必要なんてない。ヤツの特性上、近接攻撃しかしかけてこない。それに――

 ふと、相手の姿が視界から消える。
 ほぼ同時に、振り向いた僕は左腕に《龍鱗》をまとわせた。

「――さっきから、死角しか狙ってこない!」

 バキィッ!
 鋭い音が弾ける。鱗に防がれた“ホッピング・デーモン”の細腕が、あらぬ方向に折れた音だった。

『ピギャッ!』
「そこっ!」

 狼狽えた相手にカウンターをあわせるように、僕は右腕に《龍之鉤爪ドラゴン・クローを展開。一息に、腹部を貫いた。
 断末魔を上げる間もなく、“ホッピング・デーモン”は黒い霧となって消えていく。

「残り、2匹っ!!」
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