19 / 61
第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙
第19話 人魚姫救出へ
しおりを挟む
「と、とと、とりあえず私何をしたらいいかしら!? そうだ! 73階層の水をダンジョンに流して洪水を起こせば、あの子に危害を加えそうなヤツは全員押し流せるわ! 泳ぎが得意なあの子なら余裕で帰ってこれるはず!」
「お、落ち着け! 妾がまず上層に向かって《バーニング・ブレス》を放つ。ダンジョンの階層を丸ごと破壊すれば、わざわざ上昇会へ向かう階段やワープポータルを見つけずとも、捜索時間が短縮できるはずじゃ!」
「す、ストーップ!」
あたふたと慌てる二人へ、僕はたまらず待ったをかける。
「そんなことしたら、ダンジョン全体に被害が出るでしょ!?」
翌日のニュースで“ダンジョン至上過去最多の死病者数”というテロップが全てのチャンネルで流れている様子が容易に想像できる。
ていうか、ナチュラルに今言ったことができる力をこの人達は秘めているわけで、もう恐怖しか湧かない。
「し、しかしじゃな旦那様!」
「この状況で、焦るなと言うのが無理よ。それに……」
ただでさえ顔を青くしていた人魚母が、更に顔を青白くして震えた声で呟いた。
「このことを旦那が知ったら、どうなるか……」
「旦那?」
え、旦那がいたの? ってそうか。娘がいるんだから当然父親もいるのか。
てことは待って? 人魚姫の母が人魚ということは、父親も人魚!?
僕の頭の中で、筋肉モリモリのボディビルダーみたいな男の下半身が魚という、とんでもないビジュアルが浮かんで――
「ええ。旦那はケルピーで、すごく怒りっぽい性格だから……」
え? ケルピーっていうと、確か水に住む馬のような見た目をした妖精のことだよな?
人魚じゃないんかい。
「それに、娘に何かあるとすぐに察してそこへ向かうの」
「え。それは別にいいんじゃ……」
むしろ、そんな特殊能力があるのなら、ミリーさんに何かあっても大丈夫なんじゃ……
そんな風に思ったが、人魚母は首を横に振った。
「そういうわけにはいかないの。言ったでしょ。旦那はすごく怒りっぽい性格なのよ。昔、ミリーと外に出たときモンスターのせいで軽いケガを負ったの。そしたら、激怒したあの人が――」
「旦那さんが?」
「……そのモンスターと同種族の者をざっと3000匹、巣ごと壊滅させてしまったわ」
「…………」
絶句した。
ちょっとケガを負っただけで、それ。
正直、さっきまで気が動転してダンジョン内に洪水を起こすとか言っていた人でも、実行には移していない。
しかし、旦那さんは平気でそれをやるということだ。
つまり――
「もし、ミリーさんに何かあったら、ダンジョン全体がとんでもないことになる……ってことですか?」
「おそらく。貴方たち人間なんて、紙くずのように吹き飛ばされて終わりでしょうね」
これはマズい。
こんなところで話している場合ではなさそうだ。
事態は一刻を争う。
「とにかく、手分けして探しましょう! お母さんも、娘さんの行っている場所に心当たりとかないんですか?」
「あいにく。今まで連れ出したことはほとんどなかったから……」
「そうですか。シャルは? 今までどこに連れてったの?」
「さあ。妾も数えるほどしか連れ出していないから、特に心当たりというのは……あ!」
難しい顔をしていたシャルが、次の瞬間何かを思いだしたように声を上げた。
「何か心当たりがあるの?」
「そういえば、前ワープポータルに乗って中層に行ったとき、「ここ綺麗」って言って、離れようとしない場所があった!」
「きっとそこだ! シャル行こう! ワープポータルまで案内お願い!」
「もちろんじゃ!」
「私も行くわ。娘を放っておけないもの」
かくして、僕達三人はシャルの先導の元ダンジョンの中層へ向かう。
しかし――このときはまだ、わかっていなかった。
事態は、最悪の方向へと舵を切っていることに。
「お、落ち着け! 妾がまず上層に向かって《バーニング・ブレス》を放つ。ダンジョンの階層を丸ごと破壊すれば、わざわざ上昇会へ向かう階段やワープポータルを見つけずとも、捜索時間が短縮できるはずじゃ!」
「す、ストーップ!」
あたふたと慌てる二人へ、僕はたまらず待ったをかける。
「そんなことしたら、ダンジョン全体に被害が出るでしょ!?」
翌日のニュースで“ダンジョン至上過去最多の死病者数”というテロップが全てのチャンネルで流れている様子が容易に想像できる。
ていうか、ナチュラルに今言ったことができる力をこの人達は秘めているわけで、もう恐怖しか湧かない。
「し、しかしじゃな旦那様!」
「この状況で、焦るなと言うのが無理よ。それに……」
ただでさえ顔を青くしていた人魚母が、更に顔を青白くして震えた声で呟いた。
「このことを旦那が知ったら、どうなるか……」
「旦那?」
え、旦那がいたの? ってそうか。娘がいるんだから当然父親もいるのか。
てことは待って? 人魚姫の母が人魚ということは、父親も人魚!?
僕の頭の中で、筋肉モリモリのボディビルダーみたいな男の下半身が魚という、とんでもないビジュアルが浮かんで――
「ええ。旦那はケルピーで、すごく怒りっぽい性格だから……」
え? ケルピーっていうと、確か水に住む馬のような見た目をした妖精のことだよな?
人魚じゃないんかい。
「それに、娘に何かあるとすぐに察してそこへ向かうの」
「え。それは別にいいんじゃ……」
むしろ、そんな特殊能力があるのなら、ミリーさんに何かあっても大丈夫なんじゃ……
そんな風に思ったが、人魚母は首を横に振った。
「そういうわけにはいかないの。言ったでしょ。旦那はすごく怒りっぽい性格なのよ。昔、ミリーと外に出たときモンスターのせいで軽いケガを負ったの。そしたら、激怒したあの人が――」
「旦那さんが?」
「……そのモンスターと同種族の者をざっと3000匹、巣ごと壊滅させてしまったわ」
「…………」
絶句した。
ちょっとケガを負っただけで、それ。
正直、さっきまで気が動転してダンジョン内に洪水を起こすとか言っていた人でも、実行には移していない。
しかし、旦那さんは平気でそれをやるということだ。
つまり――
「もし、ミリーさんに何かあったら、ダンジョン全体がとんでもないことになる……ってことですか?」
「おそらく。貴方たち人間なんて、紙くずのように吹き飛ばされて終わりでしょうね」
これはマズい。
こんなところで話している場合ではなさそうだ。
事態は一刻を争う。
「とにかく、手分けして探しましょう! お母さんも、娘さんの行っている場所に心当たりとかないんですか?」
「あいにく。今まで連れ出したことはほとんどなかったから……」
「そうですか。シャルは? 今までどこに連れてったの?」
「さあ。妾も数えるほどしか連れ出していないから、特に心当たりというのは……あ!」
難しい顔をしていたシャルが、次の瞬間何かを思いだしたように声を上げた。
「何か心当たりがあるの?」
「そういえば、前ワープポータルに乗って中層に行ったとき、「ここ綺麗」って言って、離れようとしない場所があった!」
「きっとそこだ! シャル行こう! ワープポータルまで案内お願い!」
「もちろんじゃ!」
「私も行くわ。娘を放っておけないもの」
かくして、僕達三人はシャルの先導の元ダンジョンの中層へ向かう。
しかし――このときはまだ、わかっていなかった。
事態は、最悪の方向へと舵を切っていることに。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる