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第2章 人魚姫の涙、因縁の対峙
第20話 悪意
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《三人称視点》
――ダンジョン中層、28階層。
別名、光の墓場と呼ばれるその場所は、蛍のような光で満ちていた。
光の正体は、自ら発光するCランクモンスター、“ライト・バグ”。攻撃性が低く、温厚な性格であるため刺激しなければ、ただの綺麗な蛍だ。
しかし、ただ綺麗なだけの温厚なモンスターがダンジョンの中層に存在できるはずもない。
生き残っているのには、ちゃんとした理由がある。
この“ライト・バグ”。命の危険を感じたときは発光器を灼熱化して自爆する。その威力は見た目に反して高く、さらに群れでいることが多いため、周りに爆発が連鎖するととんでもない規模になるのだ。
そういった理由から、ランクはCに設定されている。
そんな“ライト・バグ”の群れが洞窟内を照らす、幻想的な光景の中を1人の少年が進んでいた。
「ちっ、ろくなモンスターがいやしねぇじゃねぇかよ!」
悪態をつきつつ、足下の小石を蹴飛ばしたのは誰あろう川端剣砥である。
荒れている理由は単純明確。
今日、いけ好かないザコだとしか思っていなかった絆が、いつの間にか英雄になっていたからだ。
(許せねぇ。チヤホヤされていい気になりやがって。その場所は、俺のポジションのはずなのに!!)
どんな手品を使ったのか知らないが、絆はレベル1からレベル20に一晩で成り上がったらしい。
そんな話、ダンジョン攻略を始めて2年になる剣砥をして、聞いたこともないようなことだった。
何か絶対裏がある、とは思っているのだが絆はボロを出さない。
そればかりか、剣砥の方が非難されてしまう始末である。
(このままでいてなるものか! アイツに奪われた株を、全て取り返してやる!)
激情に駆られて、剣砥はこの28階層まで進んできた。
目的は、絆を見返して、周りの人気を取り戻す材料を探すため。
昨日攻略中に見つけた、状態異常無効化のレアアイテムでは、とても話のインパクトが足りない。
道中で見つけたグリーンバレットの種もそう。宝箱に入っていた剣もそう。
絆のエピソードに負けている。
もっと成果がいる。
一晩でレベル20に上がってしまうような話に釣り合うような、荒唐無稽とも言えるスケールの話題が。
普通の冒険者が運良く手に入れられるアイテム程度の話題性じゃダメだ。
そんな風に考えながら、ダンジョン攻略を進めていたとき。
不意に、歌が響いてきた。
それも、人間が歌う声とは思えないほど、澄み切っていて、冷たくて、ある種不気味な歌声が。
「……なんだ?」
28階層でも大分奥の方。
だからだろうか、随分前から剣砥の周囲には冒険者はいない。
だというのに、さらに奥から歌が聞こえてくると言うのは、どういう事情だろうか?
ここで普段の剣砥なら、気味悪がって近づかないだろう。
しかし、少しでも話題を探している剣砥は、その人間離れした歌声に導かれるように、さらに一歩奥へと踏み込んでしまった。
視界が、開ける。
運命の歯車が、切り替わる。
28階層の最奥。ちょろちょろと水が流れる小川の畔に座っている、下半身が魚の少女の姿があった。
「……あは」
自然と、剣砥は笑いを零していた。
人目に付かないところで唄う、見たこともないモンスター。
そして――物語でよく聞く伝説上の生き物。すなわち、人魚。
「話題、みぃっけ」
剣砥は、舌舐めずりをしつつそう呟いた。
――ダンジョン中層、28階層。
別名、光の墓場と呼ばれるその場所は、蛍のような光で満ちていた。
光の正体は、自ら発光するCランクモンスター、“ライト・バグ”。攻撃性が低く、温厚な性格であるため刺激しなければ、ただの綺麗な蛍だ。
しかし、ただ綺麗なだけの温厚なモンスターがダンジョンの中層に存在できるはずもない。
生き残っているのには、ちゃんとした理由がある。
この“ライト・バグ”。命の危険を感じたときは発光器を灼熱化して自爆する。その威力は見た目に反して高く、さらに群れでいることが多いため、周りに爆発が連鎖するととんでもない規模になるのだ。
そういった理由から、ランクはCに設定されている。
そんな“ライト・バグ”の群れが洞窟内を照らす、幻想的な光景の中を1人の少年が進んでいた。
「ちっ、ろくなモンスターがいやしねぇじゃねぇかよ!」
悪態をつきつつ、足下の小石を蹴飛ばしたのは誰あろう川端剣砥である。
荒れている理由は単純明確。
今日、いけ好かないザコだとしか思っていなかった絆が、いつの間にか英雄になっていたからだ。
(許せねぇ。チヤホヤされていい気になりやがって。その場所は、俺のポジションのはずなのに!!)
どんな手品を使ったのか知らないが、絆はレベル1からレベル20に一晩で成り上がったらしい。
そんな話、ダンジョン攻略を始めて2年になる剣砥をして、聞いたこともないようなことだった。
何か絶対裏がある、とは思っているのだが絆はボロを出さない。
そればかりか、剣砥の方が非難されてしまう始末である。
(このままでいてなるものか! アイツに奪われた株を、全て取り返してやる!)
激情に駆られて、剣砥はこの28階層まで進んできた。
目的は、絆を見返して、周りの人気を取り戻す材料を探すため。
昨日攻略中に見つけた、状態異常無効化のレアアイテムでは、とても話のインパクトが足りない。
道中で見つけたグリーンバレットの種もそう。宝箱に入っていた剣もそう。
絆のエピソードに負けている。
もっと成果がいる。
一晩でレベル20に上がってしまうような話に釣り合うような、荒唐無稽とも言えるスケールの話題が。
普通の冒険者が運良く手に入れられるアイテム程度の話題性じゃダメだ。
そんな風に考えながら、ダンジョン攻略を進めていたとき。
不意に、歌が響いてきた。
それも、人間が歌う声とは思えないほど、澄み切っていて、冷たくて、ある種不気味な歌声が。
「……なんだ?」
28階層でも大分奥の方。
だからだろうか、随分前から剣砥の周囲には冒険者はいない。
だというのに、さらに奥から歌が聞こえてくると言うのは、どういう事情だろうか?
ここで普段の剣砥なら、気味悪がって近づかないだろう。
しかし、少しでも話題を探している剣砥は、その人間離れした歌声に導かれるように、さらに一歩奥へと踏み込んでしまった。
視界が、開ける。
運命の歯車が、切り替わる。
28階層の最奥。ちょろちょろと水が流れる小川の畔に座っている、下半身が魚の少女の姿があった。
「……あは」
自然と、剣砥は笑いを零していた。
人目に付かないところで唄う、見たこともないモンスター。
そして――物語でよく聞く伝説上の生き物。すなわち、人魚。
「話題、みぃっけ」
剣砥は、舌舐めずりをしつつそう呟いた。
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