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第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第58話 激戦の果て、見える世界。
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「はぁあああああッ!」
裂帛の気合いと共に、シャルが《ファイア・ボール》を放つ。
弧を描いて飛ぶ炎弾は、梨狐さんに直撃し――
「ふん」
が、鼻をならす梨狐さんの身体を突き抜け、背後の柵に着弾、炎上する。
言わずもがな、幻想のスキルによるものだ。
「ちぃっ!」
「お返し」
そうして放たれるのは、《ウォーター・ボール》。ステータスがある程度高くなければ、然程期待できる威力のでない初級魔法。
梨狐さんは戦闘に特化した権能持ちではないため、攻撃力も知れている――
ズガァアアアアンッ!
直後、水の玉が直撃した体育館が、はじけ飛んだ。
「――は?」
その威力に、文字通り言葉を無くしてしまう。
いくらなんでも、体育館のあった場所を更地にする威力はおかしい。
困惑する中、更に困惑する事態に見舞われる。
ゾクリと、背筋に悪寒が走る。相手は、僕に向けて魔法を放っているわけではないのに。
しかし、直感で咄嗟に飛び下がったのは正解だった。
直後、僕の立っていた場所に幾つもの風穴が開く。
「こ、れは……!」
避けねばやられていた。そういう類いの、不可視の攻撃。
だが――
「惑わされないでください!」
そのとき、凜とした声が響き渡る。
声の主は、《水流操作》で水を操って攻撃し続けるミリーさんだった。
「あれは、幻想でそう見せかけているだけです! 実際は、あそこまでの威力はない!」
「っ!」
その言葉に、ハッとする。
忘れてはいけない。あくまで相手は幻想使い。小細工を弄しなければならず、正面から戦うことはできない相手だと。
「ちっ!」
忌々しげに、梨狐さんが歯噛みする。
どんどんと手札を暴かれていく梨狐さんが、不利になる。形勢が傾く。
「もう、いいだろ!」
《ファイア・ボール》を放ちながら、そう問いかける。
「きみの絶望が、どんなものかはわからない。けど、僕はきみを助けたい!」
嘘偽りのない本心。
だからこそ――
「救いたい? 私を?」
梨狐さんは、哀れなものを見るような目で、僕を見据える。
まるで、救う資格がない僕を、嘲弄するかのように。
「随分と身勝手に、私を弄んでくれるんだね。私は、お前なんかいなくても救われる。“反現実への転換門”が完成すれば、私のこれまでの気持ちは全て報われる。私は、あなたの上っ面の救いなんか求めていない」
「っ!」
躊躇いのない拒絶の言葉に、一瞬喉が詰まる。
それほどまでに、追い詰められている少女を見て、胸が苦しくなる。そして――
「だったら、余計に引くわけには行かない」
善意の押し売り? ありがた迷惑?
知ったことか。今目の前にある悲しい幻想に囚われた少女を救い出せるなら、薄っぺらいヒーローと嘲笑われても構わない。
現に僕は、これまでも――
「これまでも、キミには泣いている女の子を救った実績がある、ね」
「っ!?」
心を読んだように漏れた呟きに、僕は眉根をよせる。
「今までも助けてきたから。それが紛れもない現実だから。だから、私も見過ごせない。そうキミは言いたいんだと思う。今までバカにされて、誇れるものがなにもなくて、でもそこにいる2人を助けることができたから、自分の運命は変わってくれた。変わることができた。そう言いたいんでしょ?」
「な、にを……」
「キミの今は。私を助けようと躍起になっている今は、シャルを助けることができたことで、今まで抱えていた劣等感の負債を返そうとしているにすぎない」
「っ!」
その鋭い言葉に、今度こそ呼吸ができなくなる。
泣いている少女を助けたい。僕は、その一心でこれまでやってこれたはずだ。でも、その中に――彼女の指摘するような打算が一つも無かったと、言い切ることができるだろうか?
「だから、キミは自分に酔ってるだけだ。誰かを救う力を手に入れることができた、自分に」
「……それでも、僕は」
「現に救えている。そう言いたいんだと思うけど……それは、少し早計じゃない?」
「何が言いたいんだ?」
「例えば、キミは何をどこまで私のかけた幻想だと思ってる? 今日学校に来たとき? それとも屋上にたどり着いたとき? それは、複数の幻想を見せられた今、何が始点であったかなんてわからないはずだ。だったら……こういう可能性も考えられない?」
ニヤリと笑い、梨狐さんは囁くように言った。
「例えば……これまで、きみが為しえてきた救いの功績も、全部が全部、まやかしだった。とか」
――理解が、追いつかなかった。
彼女の語るもしもの現実が、わからない。いや、頭が受け入れることを拒否している。
「まあ、実際に目にした方が早いか」
嘆息しつつ梨狐さんは、パチンと指を打ち鳴らす。
その瞬間、圧迫感が消えた。
今まで一度も実態を見せることの無かった梨狐さんの姿が現れ、それは同時に九条莉狐ではなく、九尾の狐であるカリンのものへと戻っている。
そして、学校に張り巡らされた幻想も、生徒達に見せる優しい世界も解ける。完成間近であった紫色の魔法陣が、その活動を停止する。
それらは、今まで別に割いていたリソースを、僕等を貶めるための必殺技を撃つために使うための予備動作で――
「いいや、違う。私は今、これまでかけていた幻術を全て解いた」
「っ!」
刹那、僕に“現実”が襲いかかる。
ガラスが割れるような音を立てて、今までの全てが――積み上げてきた幻想の産物が、崩れ落ちた。
裂帛の気合いと共に、シャルが《ファイア・ボール》を放つ。
弧を描いて飛ぶ炎弾は、梨狐さんに直撃し――
「ふん」
が、鼻をならす梨狐さんの身体を突き抜け、背後の柵に着弾、炎上する。
言わずもがな、幻想のスキルによるものだ。
「ちぃっ!」
「お返し」
そうして放たれるのは、《ウォーター・ボール》。ステータスがある程度高くなければ、然程期待できる威力のでない初級魔法。
梨狐さんは戦闘に特化した権能持ちではないため、攻撃力も知れている――
ズガァアアアアンッ!
直後、水の玉が直撃した体育館が、はじけ飛んだ。
「――は?」
その威力に、文字通り言葉を無くしてしまう。
いくらなんでも、体育館のあった場所を更地にする威力はおかしい。
困惑する中、更に困惑する事態に見舞われる。
ゾクリと、背筋に悪寒が走る。相手は、僕に向けて魔法を放っているわけではないのに。
しかし、直感で咄嗟に飛び下がったのは正解だった。
直後、僕の立っていた場所に幾つもの風穴が開く。
「こ、れは……!」
避けねばやられていた。そういう類いの、不可視の攻撃。
だが――
「惑わされないでください!」
そのとき、凜とした声が響き渡る。
声の主は、《水流操作》で水を操って攻撃し続けるミリーさんだった。
「あれは、幻想でそう見せかけているだけです! 実際は、あそこまでの威力はない!」
「っ!」
その言葉に、ハッとする。
忘れてはいけない。あくまで相手は幻想使い。小細工を弄しなければならず、正面から戦うことはできない相手だと。
「ちっ!」
忌々しげに、梨狐さんが歯噛みする。
どんどんと手札を暴かれていく梨狐さんが、不利になる。形勢が傾く。
「もう、いいだろ!」
《ファイア・ボール》を放ちながら、そう問いかける。
「きみの絶望が、どんなものかはわからない。けど、僕はきみを助けたい!」
嘘偽りのない本心。
だからこそ――
「救いたい? 私を?」
梨狐さんは、哀れなものを見るような目で、僕を見据える。
まるで、救う資格がない僕を、嘲弄するかのように。
「随分と身勝手に、私を弄んでくれるんだね。私は、お前なんかいなくても救われる。“反現実への転換門”が完成すれば、私のこれまでの気持ちは全て報われる。私は、あなたの上っ面の救いなんか求めていない」
「っ!」
躊躇いのない拒絶の言葉に、一瞬喉が詰まる。
それほどまでに、追い詰められている少女を見て、胸が苦しくなる。そして――
「だったら、余計に引くわけには行かない」
善意の押し売り? ありがた迷惑?
知ったことか。今目の前にある悲しい幻想に囚われた少女を救い出せるなら、薄っぺらいヒーローと嘲笑われても構わない。
現に僕は、これまでも――
「これまでも、キミには泣いている女の子を救った実績がある、ね」
「っ!?」
心を読んだように漏れた呟きに、僕は眉根をよせる。
「今までも助けてきたから。それが紛れもない現実だから。だから、私も見過ごせない。そうキミは言いたいんだと思う。今までバカにされて、誇れるものがなにもなくて、でもそこにいる2人を助けることができたから、自分の運命は変わってくれた。変わることができた。そう言いたいんでしょ?」
「な、にを……」
「キミの今は。私を助けようと躍起になっている今は、シャルを助けることができたことで、今まで抱えていた劣等感の負債を返そうとしているにすぎない」
「っ!」
その鋭い言葉に、今度こそ呼吸ができなくなる。
泣いている少女を助けたい。僕は、その一心でこれまでやってこれたはずだ。でも、その中に――彼女の指摘するような打算が一つも無かったと、言い切ることができるだろうか?
「だから、キミは自分に酔ってるだけだ。誰かを救う力を手に入れることができた、自分に」
「……それでも、僕は」
「現に救えている。そう言いたいんだと思うけど……それは、少し早計じゃない?」
「何が言いたいんだ?」
「例えば、キミは何をどこまで私のかけた幻想だと思ってる? 今日学校に来たとき? それとも屋上にたどり着いたとき? それは、複数の幻想を見せられた今、何が始点であったかなんてわからないはずだ。だったら……こういう可能性も考えられない?」
ニヤリと笑い、梨狐さんは囁くように言った。
「例えば……これまで、きみが為しえてきた救いの功績も、全部が全部、まやかしだった。とか」
――理解が、追いつかなかった。
彼女の語るもしもの現実が、わからない。いや、頭が受け入れることを拒否している。
「まあ、実際に目にした方が早いか」
嘆息しつつ梨狐さんは、パチンと指を打ち鳴らす。
その瞬間、圧迫感が消えた。
今まで一度も実態を見せることの無かった梨狐さんの姿が現れ、それは同時に九条莉狐ではなく、九尾の狐であるカリンのものへと戻っている。
そして、学校に張り巡らされた幻想も、生徒達に見せる優しい世界も解ける。完成間近であった紫色の魔法陣が、その活動を停止する。
それらは、今まで別に割いていたリソースを、僕等を貶めるための必殺技を撃つために使うための予備動作で――
「いいや、違う。私は今、これまでかけていた幻術を全て解いた」
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刹那、僕に“現実”が襲いかかる。
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