57 / 61
第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第57話 変わる風向き
しおりを挟む
――キス。
それは、僕とシャルの“契約”の始まりであり、絆を結ぶ証となったもの。
だから、少女の魂の奥に深く響く。
復讐心の根が大きく揺らいだ今、最後の一押しとばかりに、熱く、甘く、根を溶かしていく。
「……んっ」
身じろぎして逃れようとしても、逃がさない。
彼女を、あるべき居場所に取り戻すまでは。《バーニング・ブレス》を放とうとしていた魔法陣を唇ごと封じ込め、反撃を許さない。
永遠とも思える数秒の後、シャルの身体から憑き物が落ちるように力が抜けていく。
そして――
「……だ、んな様?」
「うん」
そっと唇を離した僕を見上げるのは、綺麗な黄金の瞳だ。
ぼんやりとした目は、既に烈火を宿していない。その代わりに――
「……え? 今、キス……うえっ!?」
徐々に、意識が現状に追いついたシャルは、顔を赤くして狼狽える。
今更そんなに狼狽えられても、かえってこっちが恥ずかしい。大体、ファーストキスはそっちから強引に奪ってきたくせに。
男の子の純情を弄ばないでほしいものだ。
とはいえ――
「おかえり、シャル」
「だ、旦那様……あれ? 妾は、さっきまで父上の敵討ちを……!」
記憶を塗り替えられていたときのことを思いだしたシャルが、青い顔をして息を飲む。
「そ、そんな……旦那様! 妾のせいで、け、ケガを!」
「大丈夫、大したことないから」
「で、でも!」
泣きそうな顔で狼狽えるシャルの小柄な身体を抱きしめ、もう一度「大丈夫」と呼びかける。
自分の犯した罪に押し潰されそうになっている少女に、してやれることと言ったらこれくらいだ。
「喰らう瞬間、内蔵とか太い血管は、《龍鱗》で破けるのを防いだから、見た目よりダメージはないよ」
「し、しかし、妾の爪が、旦那様の命を奪うかも知れなかったことも事実で……!」
「そうかもしれないけど、シャルのスキルのお陰で命拾いしたのも事実だ。だから、ありがとう」
心の底からそう告げると、シャルはいよいよ涙を目に溜め、しゃくりあげる。
「だ、旦那様ぁ。ご、ごめんなさい!」
その言葉を皮切りに、涙を止める堤防が決壊し、シャルは泣きじゃくる。
そんな彼女の頭を、優しく撫でて――隙だらけの僕達を、梨狐さんが見過ごすわけもない。
「忌々しい! どいつもこいつも、茶番ばっかりで!」
何か、気に障ることが他にもあったような言い回しで吠えると、右手を僕等に向ける。
掌の先に青白い魔法陣が生じ、水の玉が数個、空中に解き放たれる。幻想主体の彼女でも、水属性と光属性の幻想系魔法を多く習得している以上、攻撃系のものも少しは習得していたらしい。
「喰らえ! 《ウォーター・バレット》!」
刹那、水の弾丸がこちらへむけて肉薄する。
シャルへ意識を割いていた僕は、致命的に対応が遅れ――しかし、慌てることはなかった。
僕が命がけでシャルが元に戻ることを信じたように。もう1人のことも、信じているから。
「なっ!」
直前まで勝ち誇った顔だった梨狐さんの顔が、驚きに硬直する。
その表情と動揺、僕の目と鼻の先まで迫っていた水の弾丸は、その場で制止していた。まるで、何者かによってその制御を乗っ取られたように。
「間に合いました……」
鈴の音のような、美しい声が響き渡る。
「水の魔法であれば、私の独壇場……これで勝負するなんて、幻想勝負よりも愚策ですよ」
そう挑発的に述べるのは、夢の世界から自力で帰還した、ミリーさんだった。
心なしか、吹っ切れたような表情にも見える。
「信じてたよ、ミリーさん!」
感極まってそう呼びかけたが、次の瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走るのを感じた。
梨狐さんから放たれるものではない。その凍えるような気配は、今まさに《水流操作》の権能で僕等を助けてくれたミリーさんから放たれていた。
「み、ミリーさん? 一体どうしたんでしょうか? なんか、殺気が漏れている気がするんですが」
「え? 気のせいですよ絆さん。私はいつも通り、平静です。ええ、現世に戻った瞬間、シャルと熱い口づけを交わし、抱きしめ、頭を撫でていたことを羨ま死ねなんて思っていません」
「いやめっちゃ気にしてるよね!? ごめん僕が悪かった!」
呪い殺されそうな状況に、僕は思わず頭を地面に擦りつける。
「大丈夫ですよ、必要なことだってわかってたんで。ただ……」
「た、ただ?」
「今夜は、添い寝して頭を撫でてください♪」
「は、はい」
水を張ったお風呂の中で、溺死しないだろうか?
水に溺れて死ぬか、女の子に溺れて死ぬか。僕に突きつけられた究極の二択に、苦笑いを禁じ得ない。
「それはともかく……」
僕は一つ咳払いをして、正面に向き直る。
その視線の先には、未だ僕等を烈火の瞳で睨みつける梨狐さんの姿があって。
「そろそろ、反撃ってことでもいいのかな?」
そう問いかける僕の両隣に、幻想から立ち直った2人が並ぶ。
戦いは、最終局面へと移行する。そんな様相を呈していた。
それは、僕とシャルの“契約”の始まりであり、絆を結ぶ証となったもの。
だから、少女の魂の奥に深く響く。
復讐心の根が大きく揺らいだ今、最後の一押しとばかりに、熱く、甘く、根を溶かしていく。
「……んっ」
身じろぎして逃れようとしても、逃がさない。
彼女を、あるべき居場所に取り戻すまでは。《バーニング・ブレス》を放とうとしていた魔法陣を唇ごと封じ込め、反撃を許さない。
永遠とも思える数秒の後、シャルの身体から憑き物が落ちるように力が抜けていく。
そして――
「……だ、んな様?」
「うん」
そっと唇を離した僕を見上げるのは、綺麗な黄金の瞳だ。
ぼんやりとした目は、既に烈火を宿していない。その代わりに――
「……え? 今、キス……うえっ!?」
徐々に、意識が現状に追いついたシャルは、顔を赤くして狼狽える。
今更そんなに狼狽えられても、かえってこっちが恥ずかしい。大体、ファーストキスはそっちから強引に奪ってきたくせに。
男の子の純情を弄ばないでほしいものだ。
とはいえ――
「おかえり、シャル」
「だ、旦那様……あれ? 妾は、さっきまで父上の敵討ちを……!」
記憶を塗り替えられていたときのことを思いだしたシャルが、青い顔をして息を飲む。
「そ、そんな……旦那様! 妾のせいで、け、ケガを!」
「大丈夫、大したことないから」
「で、でも!」
泣きそうな顔で狼狽えるシャルの小柄な身体を抱きしめ、もう一度「大丈夫」と呼びかける。
自分の犯した罪に押し潰されそうになっている少女に、してやれることと言ったらこれくらいだ。
「喰らう瞬間、内蔵とか太い血管は、《龍鱗》で破けるのを防いだから、見た目よりダメージはないよ」
「し、しかし、妾の爪が、旦那様の命を奪うかも知れなかったことも事実で……!」
「そうかもしれないけど、シャルのスキルのお陰で命拾いしたのも事実だ。だから、ありがとう」
心の底からそう告げると、シャルはいよいよ涙を目に溜め、しゃくりあげる。
「だ、旦那様ぁ。ご、ごめんなさい!」
その言葉を皮切りに、涙を止める堤防が決壊し、シャルは泣きじゃくる。
そんな彼女の頭を、優しく撫でて――隙だらけの僕達を、梨狐さんが見過ごすわけもない。
「忌々しい! どいつもこいつも、茶番ばっかりで!」
何か、気に障ることが他にもあったような言い回しで吠えると、右手を僕等に向ける。
掌の先に青白い魔法陣が生じ、水の玉が数個、空中に解き放たれる。幻想主体の彼女でも、水属性と光属性の幻想系魔法を多く習得している以上、攻撃系のものも少しは習得していたらしい。
「喰らえ! 《ウォーター・バレット》!」
刹那、水の弾丸がこちらへむけて肉薄する。
シャルへ意識を割いていた僕は、致命的に対応が遅れ――しかし、慌てることはなかった。
僕が命がけでシャルが元に戻ることを信じたように。もう1人のことも、信じているから。
「なっ!」
直前まで勝ち誇った顔だった梨狐さんの顔が、驚きに硬直する。
その表情と動揺、僕の目と鼻の先まで迫っていた水の弾丸は、その場で制止していた。まるで、何者かによってその制御を乗っ取られたように。
「間に合いました……」
鈴の音のような、美しい声が響き渡る。
「水の魔法であれば、私の独壇場……これで勝負するなんて、幻想勝負よりも愚策ですよ」
そう挑発的に述べるのは、夢の世界から自力で帰還した、ミリーさんだった。
心なしか、吹っ切れたような表情にも見える。
「信じてたよ、ミリーさん!」
感極まってそう呼びかけたが、次の瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走るのを感じた。
梨狐さんから放たれるものではない。その凍えるような気配は、今まさに《水流操作》の権能で僕等を助けてくれたミリーさんから放たれていた。
「み、ミリーさん? 一体どうしたんでしょうか? なんか、殺気が漏れている気がするんですが」
「え? 気のせいですよ絆さん。私はいつも通り、平静です。ええ、現世に戻った瞬間、シャルと熱い口づけを交わし、抱きしめ、頭を撫でていたことを羨ま死ねなんて思っていません」
「いやめっちゃ気にしてるよね!? ごめん僕が悪かった!」
呪い殺されそうな状況に、僕は思わず頭を地面に擦りつける。
「大丈夫ですよ、必要なことだってわかってたんで。ただ……」
「た、ただ?」
「今夜は、添い寝して頭を撫でてください♪」
「は、はい」
水を張ったお風呂の中で、溺死しないだろうか?
水に溺れて死ぬか、女の子に溺れて死ぬか。僕に突きつけられた究極の二択に、苦笑いを禁じ得ない。
「それはともかく……」
僕は一つ咳払いをして、正面に向き直る。
その視線の先には、未だ僕等を烈火の瞳で睨みつける梨狐さんの姿があって。
「そろそろ、反撃ってことでもいいのかな?」
そう問いかける僕の両隣に、幻想から立ち直った2人が並ぶ。
戦いは、最終局面へと移行する。そんな様相を呈していた。
0
あなたにおすすめの小説
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる