ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

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第3章 狐の嫁入り、夢か現か

第61話 主人公

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 一瞬。カリンは、何を言われたのかわからなかった。

 その意味が頭に滑り込んで、咀嚼し、嚥下し、ようやっと理解に追いつく。その上でーー



「ーーは?」



 彼女を支配したのは、掠れた疑問の声のままだった?



「そんなの、おかしい。だってキミは……現実を知った。自分無力も、理不尽な世界も。全部が全部、呪い殺したいくらいに最悪で、言いようもないほど無残で。それなのにどうしてまだ、諦めてないの?」



 目の前にいるのは同じ絶望を知った理解者のはずだ。そのはずだったのに、なぜこうも違う?

 そして、なぜカリンの望みとはかけ離れた言葉を放ったのに、こんなにも泣きたくなるくらい優しく心に染み込んでくるのだ。



「僕は、自分の無力を思い知った。シャルを助けたのも、ミリーさんを助けたのも、みんな都合のいい夢で、何一つ救いたかったものは救えてなくて。僕は自分が憎たらしくてしょうがない。救えた気になって、何かを成し遂げた気になって、落ちこぼれな自分にもそれを帳消しにするくらいの確かな実力があるんだって有頂天になってーーそれでこのザマだ。僕は自分が大嫌いだ」



 肩を竦め、自罰的に罵る。それは自分と、この世界への恨み言。でも、その黒瞳はカリンを掴んで離さない。ひとりぼっちの少女を、ひとりぼっちにさせてくれない。

 ゆえにーー



「でもーーそんなことは、全部どうだっていい」



ーー少年は、今すべきことを今度こそ間違えない。



「自分の無力を呪って、布団の中で泣きじゃくるのは後でいい。絶望していいのは、今じゃない」



 ハッキリとした口調で、神結絆は言葉を叩きつける。 

 そうだ、間違えるな。自己嫌悪など後でいい。今目の前で、心の奥底でずっと悲鳴を上げ続けている少女を見ろ。

 彼女と同じ孤独の苦しさを知ったのなら、それを見過ごしていいはずがない。



「僕の状況も、世界の理不尽さも、君を助けない理由にはならない」



 だから、ハッキリとそう告げてやるのだ。



「ーー意味、わかんない」



 これまで一方的に言葉を投げられる側だったカリンが、肩を震わせる。相容れない考えをする目前の異物への嫌悪と、未だに希望を捨てないことへの激情と、ーー自分の胸の奥底に芽生える、理解不能の熱情に。



「僕は、君を助けるよ」

「そんなこと、私は望んでない!」

「ううん、望んでるよ」



 事ここに至り、絆は迷いなく答えた。

その答えが、カリンの逆鱗に触れる。



「は? ふざけるな、私は一度だって助けてなんて言ってない! 勝手に私を憐れんで、わかった気になって……その身勝手が私を独りにしてるんだってわかれよ!!」



 それは、カリンの紛れもない本心。

 激情が。この世界2人きりという現実がカリンに吐露させた本音。 

 肩で息をするカリンへ向け、怒りに触れた絆はなおも首を横に振りつつ、



「君を独りにさせないために、僕は無理やり手を伸ばしてるんだ」

「っ!」  



 有無を言わせぬ園切り返しに、カリンは押し黙る。



 ーー彼女がなんて言おうと、関係ない。

絆には確信があった。彼女がこの絶望の中、心の奥底で助けを叫んでいると。

 だって、同じ独りきりになって彼女の抱える闇の一端を垣間見た。二人きりの屋上で彼女の本音を聞いた。それがーーその全てが、「助けて」と叫んでいるのだ。



「だから君を救う。君が言葉で何百回否定しようと、僕は何千回だって手を伸ばす」

「っ……」

「見くびるなよカリンさん。僕は、僕たちが見てきた理不尽なんかより、よっぽど粘着質だ」



 そう言って、絆は笑ってみせる。

 何度拒絶されても、それでも変わらず手を伸ばし続ける。目の前で、涙を流す方法すら忘れてしまった少女へ。



 さあ、救え。神結絆。奪われ続けた末に最後に残ったものだけ握りしめて、手を伸ばせ。



「ぉおおおおおお!!」



 雄叫びを上げ、絆はカリンとの距離を詰める。それを迎え撃つべく、カリンもまた魔法を振るいーー

 

 ーー夢と現の境界で。

 同じ絶望を思い知った対局の2人が、最後の激突を開始する。
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