61 / 61
第3章 狐の嫁入り、夢か現か
第61話 主人公
しおりを挟む
一瞬。カリンは、何を言われたのかわからなかった。
その意味が頭に滑り込んで、咀嚼し、嚥下し、ようやっと理解に追いつく。その上でーー
「ーーは?」
彼女を支配したのは、掠れた疑問の声のままだった?
「そんなの、おかしい。だってキミは……現実を知った。自分無力も、理不尽な世界も。全部が全部、呪い殺したいくらいに最悪で、言いようもないほど無残で。それなのにどうしてまだ、諦めてないの?」
目の前にいるのは同じ絶望を知った理解者のはずだ。そのはずだったのに、なぜこうも違う?
そして、なぜカリンの望みとはかけ離れた言葉を放ったのに、こんなにも泣きたくなるくらい優しく心に染み込んでくるのだ。
「僕は、自分の無力を思い知った。シャルを助けたのも、ミリーさんを助けたのも、みんな都合のいい夢で、何一つ救いたかったものは救えてなくて。僕は自分が憎たらしくてしょうがない。救えた気になって、何かを成し遂げた気になって、落ちこぼれな自分にもそれを帳消しにするくらいの確かな実力があるんだって有頂天になってーーそれでこのザマだ。僕は自分が大嫌いだ」
肩を竦め、自罰的に罵る。それは自分と、この世界への恨み言。でも、その黒瞳はカリンを掴んで離さない。ひとりぼっちの少女を、ひとりぼっちにさせてくれない。
ゆえにーー
「でもーーそんなことは、全部どうだっていい」
ーー少年は、今すべきことを今度こそ間違えない。
「自分の無力を呪って、布団の中で泣きじゃくるのは後でいい。絶望していいのは、今じゃない」
ハッキリとした口調で、神結絆は言葉を叩きつける。
そうだ、間違えるな。自己嫌悪など後でいい。今目の前で、心の奥底でずっと悲鳴を上げ続けている少女を見ろ。
彼女と同じ孤独の苦しさを知ったのなら、それを見過ごしていいはずがない。
「僕の状況も、世界の理不尽さも、君を助けない理由にはならない」
だから、ハッキリとそう告げてやるのだ。
「ーー意味、わかんない」
これまで一方的に言葉を投げられる側だったカリンが、肩を震わせる。相容れない考えをする目前の異物への嫌悪と、未だに希望を捨てないことへの激情と、ーー自分の胸の奥底に芽生える、理解不能の熱情に。
「僕は、君を助けるよ」
「そんなこと、私は望んでない!」
「ううん、望んでるよ」
事ここに至り、絆は迷いなく答えた。
その答えが、カリンの逆鱗に触れる。
「は? ふざけるな、私は一度だって助けてなんて言ってない! 勝手に私を憐れんで、わかった気になって……その身勝手が私を独りにしてるんだってわかれよ!!」
それは、カリンの紛れもない本心。
激情が。この世界2人きりという現実がカリンに吐露させた本音。
肩で息をするカリンへ向け、怒りに触れた絆はなおも首を横に振りつつ、
「君を独りにさせないために、僕は無理やり手を伸ばしてるんだ」
「っ!」
有無を言わせぬ園切り返しに、カリンは押し黙る。
ーー彼女がなんて言おうと、関係ない。
絆には確信があった。彼女がこの絶望の中、心の奥底で助けを叫んでいると。
だって、同じ独りきりになって彼女の抱える闇の一端を垣間見た。二人きりの屋上で彼女の本音を聞いた。それがーーその全てが、「助けて」と叫んでいるのだ。
「だから君を救う。君が言葉で何百回否定しようと、僕は何千回だって手を伸ばす」
「っ……」
「見くびるなよカリンさん。僕は、僕たちが見てきた理不尽なんかより、よっぽど粘着質だ」
そう言って、絆は笑ってみせる。
何度拒絶されても、それでも変わらず手を伸ばし続ける。目の前で、涙を流す方法すら忘れてしまった少女へ。
さあ、救え。神結絆。奪われ続けた末に最後に残ったものだけ握りしめて、手を伸ばせ。
「ぉおおおおおお!!」
雄叫びを上げ、絆はカリンとの距離を詰める。それを迎え撃つべく、カリンもまた魔法を振るいーー
ーー夢と現の境界で。
同じ絶望を思い知った対局の2人が、最後の激突を開始する。
その意味が頭に滑り込んで、咀嚼し、嚥下し、ようやっと理解に追いつく。その上でーー
「ーーは?」
彼女を支配したのは、掠れた疑問の声のままだった?
「そんなの、おかしい。だってキミは……現実を知った。自分無力も、理不尽な世界も。全部が全部、呪い殺したいくらいに最悪で、言いようもないほど無残で。それなのにどうしてまだ、諦めてないの?」
目の前にいるのは同じ絶望を知った理解者のはずだ。そのはずだったのに、なぜこうも違う?
そして、なぜカリンの望みとはかけ離れた言葉を放ったのに、こんなにも泣きたくなるくらい優しく心に染み込んでくるのだ。
「僕は、自分の無力を思い知った。シャルを助けたのも、ミリーさんを助けたのも、みんな都合のいい夢で、何一つ救いたかったものは救えてなくて。僕は自分が憎たらしくてしょうがない。救えた気になって、何かを成し遂げた気になって、落ちこぼれな自分にもそれを帳消しにするくらいの確かな実力があるんだって有頂天になってーーそれでこのザマだ。僕は自分が大嫌いだ」
肩を竦め、自罰的に罵る。それは自分と、この世界への恨み言。でも、その黒瞳はカリンを掴んで離さない。ひとりぼっちの少女を、ひとりぼっちにさせてくれない。
ゆえにーー
「でもーーそんなことは、全部どうだっていい」
ーー少年は、今すべきことを今度こそ間違えない。
「自分の無力を呪って、布団の中で泣きじゃくるのは後でいい。絶望していいのは、今じゃない」
ハッキリとした口調で、神結絆は言葉を叩きつける。
そうだ、間違えるな。自己嫌悪など後でいい。今目の前で、心の奥底でずっと悲鳴を上げ続けている少女を見ろ。
彼女と同じ孤独の苦しさを知ったのなら、それを見過ごしていいはずがない。
「僕の状況も、世界の理不尽さも、君を助けない理由にはならない」
だから、ハッキリとそう告げてやるのだ。
「ーー意味、わかんない」
これまで一方的に言葉を投げられる側だったカリンが、肩を震わせる。相容れない考えをする目前の異物への嫌悪と、未だに希望を捨てないことへの激情と、ーー自分の胸の奥底に芽生える、理解不能の熱情に。
「僕は、君を助けるよ」
「そんなこと、私は望んでない!」
「ううん、望んでるよ」
事ここに至り、絆は迷いなく答えた。
その答えが、カリンの逆鱗に触れる。
「は? ふざけるな、私は一度だって助けてなんて言ってない! 勝手に私を憐れんで、わかった気になって……その身勝手が私を独りにしてるんだってわかれよ!!」
それは、カリンの紛れもない本心。
激情が。この世界2人きりという現実がカリンに吐露させた本音。
肩で息をするカリンへ向け、怒りに触れた絆はなおも首を横に振りつつ、
「君を独りにさせないために、僕は無理やり手を伸ばしてるんだ」
「っ!」
有無を言わせぬ園切り返しに、カリンは押し黙る。
ーー彼女がなんて言おうと、関係ない。
絆には確信があった。彼女がこの絶望の中、心の奥底で助けを叫んでいると。
だって、同じ独りきりになって彼女の抱える闇の一端を垣間見た。二人きりの屋上で彼女の本音を聞いた。それがーーその全てが、「助けて」と叫んでいるのだ。
「だから君を救う。君が言葉で何百回否定しようと、僕は何千回だって手を伸ばす」
「っ……」
「見くびるなよカリンさん。僕は、僕たちが見てきた理不尽なんかより、よっぽど粘着質だ」
そう言って、絆は笑ってみせる。
何度拒絶されても、それでも変わらず手を伸ばし続ける。目の前で、涙を流す方法すら忘れてしまった少女へ。
さあ、救え。神結絆。奪われ続けた末に最後に残ったものだけ握りしめて、手を伸ばせ。
「ぉおおおおおお!!」
雄叫びを上げ、絆はカリンとの距離を詰める。それを迎え撃つべく、カリンもまた魔法を振るいーー
ーー夢と現の境界で。
同じ絶望を思い知った対局の2人が、最後の激突を開始する。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる