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第二章 《最凶の天空迷宮編》

第四十六話 虚像の最下層

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 浅い水の底を割って現れたそいつは、黄色い肌と四つの赤い目を持つ、毒ガエルのようなモンスターだった。



「話していたのは、お前か?」



 油断なく相手を見上げながら、そいつに問う。



『そうだ』



 そいつが、白い頬を大きく膨らませるのに呼応して、野太い声が聞こえた。



「さっき言った、無駄っていうのはどういうこと?」

『言葉通りの意味だ。お前達が誰を探しているのかは知らんが、いくら探そうが徒労に終わる』

「どうして、そんなことがわかる?」

『この空間には、お前達以外誰もいないからだ』

「なっ!?」



 言葉を失った。

 右後ろに立っているエナも、僅かに目を見開いて硬直している。



「じゃあ、このダンジョンに入った人達はどこに……?」

『違う第一階層さいかそうで、とっくに殺されてるだろうな』

「違う、最下層……?」

『そうだ。ここは、第一階層さいかそうであっても、その虚像のようなもの。お前達は、無数に存在する影の一つにいるに過ぎない』

「つまり、今まで《モノキュリー》に挑んだ者は、別の虚像空間にいて。実体たる最下層は別に存在するってこと?」

『その通りだ。正確には、この空間の裏に背中合わせとなって存在している。が、いかなる方法をもってしても、この空間から脱出することはできない』



 なるほど。

 このモンスターの言わんとしていることがわかった。



「つまり。一度入ったら、物理的に死ぬまで出られない虚像の迷宮……ってことか」

『理解が早いな。その通りだ』

「ふーん。道理で、誰も攻略者がいないわけだ」

『ほぅ?』



 ふと、モンスターが値踏みでもするように顔を近づけてきた。

 泥が腐ったような刺激臭が鼻に突き刺さり、思わず顔をしかめる。



『お前、なかなか面白い奴だな』

「何が?」

『生きて出られないことを悟ったのに、まるで騒ぎ立てない。可愛い顔して、随分肝が据わっているな』

「冗談はよしてくれ。女の子二人と、か弱いペットが見てる前で、男の僕が取り乱すわけないだろう? それに、ここを抜けてやらなきゃいけないことがある。どんな手段を使ってでも、この空間を突破してやるさ」

『ふっははは! 面白い、やってみろ!』



 愉快に笑い飛ばした後、モンスターは発達した脚で水面を蹴り、上へ飛び上がった。

 撒き散らされた水しぶきが容赦なくたたき付ける中、僕は飛び上がったモンスターに視点を合わせ、すかさず《サーチ》を起動した。



◆◆◆◆◆◆



 カエラナイ

 Lv 136

 HP 13200/13200

 MP 980/1280

 STR 4400

 DEF 3160

 DEX 2020

 AGI 6900

 LUK 140



 スキル(通常) 《粘液ミューカス》 《猛毒噴射ポイズン・ジェット》 《猛毒針ポイズン・ニードル》 《超跳躍ハイ・ジャンプ》 《幻影イリュージョン》 《擬態ミミック

 スキル(魔法) ― 

 ランク SSクラス



◆◆◆◆◆◆



(何が“カエラナイ”だ。さっさと土に帰れ! ていうか、カエルなのにカエラナイとか、ややこしすぎるだろ!)



 まったく、変な名前のモンスターだ。

 そのカエル……もとい、カエラナイは、空中で大きく頬を膨らませる。



(まずい! 来る!)



 この体勢は、十中八九遠距離攻撃だ。



「スキル《積層土壁ラミネート・グランドウォール》ッ!」



 魔法スキル《積層土壁ラミネート・グランドウォール》。

 薄く固めた土壁を重ねて起動可能な、防御用土魔法。

 壁一枚につきMPを10消費し、最大10層までの壁をミルフィーユ状に重ねて高耐久の防壁に昇華できる。

 

 MPを50消費して、五層の土壁をカエラナイとの間に展開した。

 刹那、カエラナイは口をすぼめて、水鉄砲のように《猛毒噴射ポイズン・ジェット》の猛毒を放った。

 

 紫色の液体が土壁に当たり、青白い煙を上げる。

 毒の効果によって、土壁の表層が溶けたのだ。



『ぬっ』



 忌々しそうに声を漏らすカエラナイ。

 今を好機と、僕は横に立つエナに指示を飛ばした。



「エナ、頼む!」

「任せて!」



 土壁を解除して、カエラナイまでの道が開けるのと同時。

 エナは水面を蹴って駆けだした。

 足下に広がる波紋を置き去りに、猛速度で肉薄する。



「スキル《超跳躍ハイ・ジャンプ》!」



 エナは一際強く地面を蹴り、空中にいるカエラナイめがけて飛び上がった!
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