姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一

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第一章 《英雄(不本意)の誕生編》

第38話 【悲報】俺、株が急上昇してしまった

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《リクス視点》



 翌日。

 俺は、上機嫌で鼻歌交じりに学校へと向かっていた。



『随分とご機嫌だね、ご主人様』



 首に提げたルビーのペンダントの中にいるマクラから、念話が飛んで来る。



「あたぼうよ。遂に俺は夢を叶えられそうなんだからな」



 鼻息荒く、そう答える。

 昨日の事件で、俺は退学案件の問題を起こした。



 あれだけボコボコにされて、学校側が勘付かないはずがない。

 おまけに、俺達が争った場所で空を埋め尽くすほどの氷塊とそれをぶち抜く炎が、王都全域で観測されている。

 王都の高級店ばかりだし、映像を記録した水晶も防犯用に置いているだろう。



 お互いに手を出した証拠は、その気になれば十中八九証明できる。

 

 今回の場合、悪者がバルダ側であることに意味はない。

 この学校のルールに則れば、俺もバルダを殴った悪者であると主張できるのだ。



 要するに、悪者の俺は即、退☆学!

 そして、「退学になっちゃったから、どうかこの哀れで可哀想な俺を養ってください!」と姉さんに土下座することで、俺は晴れて姉さんのスネかじり生活を取り戻すことができる。

 うん、完璧なプラン。



 俺はこれからの華々しい自由ライフを妄想しつつ、学校へと向かった。

 ひょっとしたら、今日が最後の登校になるかもしれないからな。なるべく明るくいこう。



――。



 学校に着き、いつも通り一年Cクラスへ入る。

 と同時に、朝のHRを始める鐘の音が鳴った。

 いろいろと妄想しながらゆっくり歩いてきたから、ギリギリの到着になったようだ。

 既に全員が席に座り、教壇の上には担任の女性教師(名前はエーリンというらしい。最近知った)が立っている。ちらりとバルダの席に目をやるが、バルダの姿はない。



「遅いですよリクスくん。早く席に着いてください」



 俺の入室に気付いたエーリン先生が、視線で着席を促す。



「はーい」



 俺は、指示通り自分の席へと向かおうとする。

 そのとき、周りの生徒達から視線が投げかけられるのを感じた。こちらに聞こえないように、何やら話し合っている様子も見られる。

 これは一体……



「あ、そうだリクスくん。あなたに伝えなくてはいけないことが」



 エーリン先生が俺を呼び止めた。



「放課後職員室まで来てください。詳しいことは調査中ですが……あなたが敷地外でバルダくんに対し魔法と剣による攻撃をしたという疑惑が上がっています。あなたの口からも事実関係を確認したいので」

「あ、事実です」

「――今ここで認めちゃうんですね。一応、放課後詳しく聞かせてください。職員室まで来てくれますね?」

「やらかしたのは本当なんで、俺は逃げも隠れもしませんよ。是非、厳正なる調査の上、退学というルールに則った処置をお願いします」



 エーリン先生に小さく会釈して、俺は再び歩き出す。

 それと同時に、周囲の生徒達が一斉にざわめき立つのがわかった。



 たぶん、さっき生徒達から視線を感じたのも、俺が暴行を働いた噂が飛び交っていたからだろう。

 心証が悪くなるのは少し辛いが、自由気ままなニートライフを目指す以上、背に腹は代えられない。

 てっとり早く退学を目指す以上、これは必要経費だ。



 それに元々、勇者の弟などと期待されないように株を堕として、最終的に退学になることを目標としていた。

 今回の事案は、その計画に沿っている。

 

 自分の席へ向かう途中、周りの生徒達の話し声が聞こえてくる。

 たぶん、「これが勇者の弟かよ、マジで幻滅だわ」「街中で魔法使って同級生苛めるとか、何考えてんの?」とか言われてるんだろう。



「ねぇ、リクス君が認めたよ?」「マジ? じゃあ、やっぱ本当だったんだ! サリィ様やフランちゃんを守るために、1人身体を張ったって話は」「退学のリスクを顧みず、暴走したバルダを止めるなんて……やっぱ英雄の血が入ってんだなぁ」「しかも、この場で自分の非を認めて潔く責任を取って退学を志願する姿勢……なかなかできることじゃねぇよ!」「ああ、リクス様。なんて尊い御方なのかしらぁ」「私もリクスくんに守られたいわ」



 あ、あれぇ?

 なんか思ってた反応と違う?

 これは――一体何がどうなってるんだ。



 戸惑いを隠せるはずもなく、俺は席に着くなり隣のフランに質問を投げかけた。



「なあフラン。なんか俺、変な方向で注目されてる気がするんだけど……」

「はい。今朝サリィさんが、いろんな方に昨日のことを話してましたから。それと同時にバルダくんがリクスくんの暴行を学校側に訴えたという情報も上がったので、リクスさんの勇気ある行動に信憑性が増して、学校中に広まった感じですね」

「あ、あ~……なるほどね」



 自ら退学になりに行くなどとは普通誰も考えない。察するに、俺がバルダの魔の手からサリィ達を救うために退学になるリスクを負って、彼女たちを守ったという筋書きで話が流布したんだろう。



 そこにバルダの訴えが加わったことによって、俺が行動を起こしたことに信憑性が増し、起こった事実として爆発的に広まったのだ。

 しかも、ダメ押しとばかりに、今俺がバルダへ攻撃したことを認めてしまった。



 これは……マズい。



「マジかよぉ」



 俺は思わず頭を抱えた。

 退学できそうな矢先、俺の株が急上昇してしまうとは。

 

 いやまあ、退学に当たって事実確認をとれば、その件が露呈することはわかりきっていた。

 だが、俺は学校の定めたルールを盾に、多少強引にでも退学を要求するつもりでいた。しかしそれは、事実を知る者と学校側の、最低限の人数を想定した場合の話。

 

 サリィが俺を“英雄的立ち位置”と定めて話を広めたことで、多くの学生が真実を知った。

 もし学校中の生徒が俺の味方につくことになれば、最悪の場合、学校側が特例として俺の退学処分を取り消してしまうかもしれない。

 ルールを覆すほどの力が学生の発言にあるのかは知らないけど。



 どちらにせよ、俺を擁護する人間が増えた現状は、俺にとっては決して歓迎すべき事じゃないのだ。



 実際、「リクスさんを退学になんてさせられないよね」「うん、ルールに触れたからって、大切な友人を守る勇気ある行動をとった英雄だよ? 英雄を育成する学校が何をしてるんだ! って、抗議してやる!」「そうだそうだ」という声が聞こえてくる。



 ふと視線を感じて斜め前を見れば、サリィがこちらを見ていた。

 俺の視線に気付いた彼女は、ぽっと頬を赤らめ、手を振ってくる。



 くっ、余計なコトしてくれたなサリィ!

 仕草めっちゃ可愛いけど、可愛いからって許されると思うなよ!!



 そう思いつつ、無意識の内に手を振り返していた。
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