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第一章 《英雄(不本意)の誕生編》
第45話 天使召喚
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《三人称視点》
「ここは……?」
エルザは、周囲の真っ白な空間を見渡す。
学校内のどの施設にも、こんな空間はない。まるで、実験用の隔離室とでも言ったところか。
いくつか鉄で出来た頑丈そうな扉が見られるくらいで、あとは目立ったものはない。
「驚きましたかな? 学校の地下にこんな空間があったことに」
ふと声をかけられて、エルザは後ろを振り返る。
一緒に転移したニムルスが、得意げな表情で立っていた。
「学校の地下? 何を目的に作られた施設なのぉ?」
「そうですな。一言で言うなら、我々 《神命の理》が、研究を完成させるための地下施設と言ったところでしょうか」
「ふぅん、《神命の理》ねぇ……あなたのことは前々から胡散臭いと思っていたけれど、まさかそこまで外道だったなんて。王国最高峰の学校が、外道組織の温床になっていたなんて、笑えないわねぇ」
エルザは、呆れたように呟く。
確かに前々からこのラマンダルス王立英雄学校は怪しいと思っていたが、決定的な悪事は確認されなかった。
それこそ、学校のルールが極端だったり、彼女の嫌いな、元師匠であるヒュリーが赴任していることくらいだ。
もう少し決定的な証拠があれば、尻尾を掴むことが出来たのだろうが……
(言い訳をしても虚しいだけねぇ。私がいながら、このような施設の存在を許してしまった。私のミスだわぁ)
エルザは、そう思いつつ歯噛みする。
そんな彼女の心を読んだかのように、ニムルスは続けた。
「まあ、悲観することもありませんよ。なにせ、我々はずっと息をひそめていたのですからな。そもそもこの施設は、あなたを手に入れてから稼働することを前提に作られている。それ以前に本格稼働させる必要もない」
「私を手に入れる? 一体、何が目的なのぉ?」
「あなたの魔力が欲しいですよ。世界中にたった7人しか扱える者がいない聖剣を100%扱えるようになった、完璧なる勇者のあなたの魔力が」
自慢するかのように話をするニムルス。
「そう。確かに私は実験サンプルとしては有益だものねぇ。でも、肝心なことを忘れていないかしらぁ」
「と、言いますと?」
「あなたに倒せるの? この私が」
エルザの発言はもっともだ。
別に、自分の方が強いという優越感に浸っているわけではない。
王国最高峰の学校の副学校長と、最前線で戦う最強の勇者。
どちらが強いかなど、客観的に見ればすぐにわかる。
ニムルスは、辛うじて戦いを演じることはできるが、エルザには勝てない。
それが純然たる事実。
だが――ニムルスは嗤っていた。どこまでも暗く、深い、闇を湛えた笑みを浮かべて。
「クックック。倒せる算段があるから、私は今ここにいるのです。あなたは既に私達の罠に嵌まっている。逃れることなどできまいよ。それに……あなたと戦うのは、私ではない」
「なんですってぇ?」
訝しむエルザの前で、ニムルスは地面に手を突き、朗々と呪文を紡いだ。
「光を統べる聖界の天使よ、我が命ず、大いなる力を貸し与え給え、天の意志よ、ただ大いなる翼をはためかせて、現世に顕現せよ――“エンジェル”」
瞬間、真っ白な魔法陣が床を縦横無尽に走り回る。
「それは……無属性魔法の天使召喚!」
エルザの顔が、僅かに揺らいだ。
ニムルスが超級魔法を使ったからだ。
召喚魔法は、無属性魔法に分類される。
回復魔法と同じく、同じ“召喚魔法”という部類で初級~超級まで幅広く存在する魔法だ。
初級の召喚魔法では、召喚できる生物はネズミや小鳥などの小動物。
中級では、大型動物と、ゴーレムなどの魔法生物。
上級では、ドラゴンやグリフィンなどの伝説級動物と、精霊。
そして、超級は天使・悪魔の二種属だ。
といっても、天使や悪魔は人間より遙かに高次元の存在。
超級であっても、召喚できるのはせいぜい中位階級の者達。いわゆる、雑兵の類いだ。
仮に上位や最上位の者達を召喚できる者がいたとしたら――その魔法は既に、固有魔法の域に至っている。
(天使召喚……超級魔法を使ってくるなんて少し驚いたけれど、このゲスは副学校長。有り得ない話ではないわねぇ)
エルザは、光り輝く魔法陣を見据えた。
眩い光の中から現れたのは、二対の白い翼を持つ、女性の姿をした中位階級の天使。
神々しい光を放っているが、その光はエルザの持つ聖剣の輝きに劣っている。
それもある意味当然と言えた。
エルザの使う聖剣 《火天使剣》は、最上位天使が与えた力。
根本的に格が違う。
「ゲホッ、ゴホッ……さあ行け、私の可愛い下僕よ」
ニムルスは、口から血を吐きながら名も無き天使に命令を下す。
切り札とも言える超級魔法を使ったことで、魔力欠乏状態に陥っているのだ。
もはや、ニムルス本人に戦う力は残されていない。
名も無き天使は命じられるがまま、白い翼をはためかせて、エルザへと肉薄する。
対し、エルザは最上位天使の力の片鱗である聖剣を抜いた。
眩いばかりの光が放たれ、同時に聖剣を聖なる炎が纏う。
エルザは腰を低く落とし、中位天使の突進にカウンターを合わせるようにして、すれ違いざまに一閃。
鋭い斬撃が天使の胴を薙ぎ、切り口から発火して眩い炎に包まれる。
そのまま、全身を焼かれて、炭となって消滅――しなかった。
全身を覆う炎を払い、天使が感情の読めない表情のまま振り返る。
その身体は――無傷。
火傷ひとつ負っていないばかりか、切り裂いたはずの胴の傷も塞がっている。
エルザの聖剣の方が格上であるはずなのに、目の前の天使にはダメージが通っていなかったのだ。
あまりにも、信じられない光景。
「ちっ……思った通り、そういうことねぇ」
エルザは忌々しげに吐き捨てる。
いち早く状況と、その裏に潜むカラクリを理解した彼女の額には、脂汗が浮かんでいた。
「ここは……?」
エルザは、周囲の真っ白な空間を見渡す。
学校内のどの施設にも、こんな空間はない。まるで、実験用の隔離室とでも言ったところか。
いくつか鉄で出来た頑丈そうな扉が見られるくらいで、あとは目立ったものはない。
「驚きましたかな? 学校の地下にこんな空間があったことに」
ふと声をかけられて、エルザは後ろを振り返る。
一緒に転移したニムルスが、得意げな表情で立っていた。
「学校の地下? 何を目的に作られた施設なのぉ?」
「そうですな。一言で言うなら、我々 《神命の理》が、研究を完成させるための地下施設と言ったところでしょうか」
「ふぅん、《神命の理》ねぇ……あなたのことは前々から胡散臭いと思っていたけれど、まさかそこまで外道だったなんて。王国最高峰の学校が、外道組織の温床になっていたなんて、笑えないわねぇ」
エルザは、呆れたように呟く。
確かに前々からこのラマンダルス王立英雄学校は怪しいと思っていたが、決定的な悪事は確認されなかった。
それこそ、学校のルールが極端だったり、彼女の嫌いな、元師匠であるヒュリーが赴任していることくらいだ。
もう少し決定的な証拠があれば、尻尾を掴むことが出来たのだろうが……
(言い訳をしても虚しいだけねぇ。私がいながら、このような施設の存在を許してしまった。私のミスだわぁ)
エルザは、そう思いつつ歯噛みする。
そんな彼女の心を読んだかのように、ニムルスは続けた。
「まあ、悲観することもありませんよ。なにせ、我々はずっと息をひそめていたのですからな。そもそもこの施設は、あなたを手に入れてから稼働することを前提に作られている。それ以前に本格稼働させる必要もない」
「私を手に入れる? 一体、何が目的なのぉ?」
「あなたの魔力が欲しいですよ。世界中にたった7人しか扱える者がいない聖剣を100%扱えるようになった、完璧なる勇者のあなたの魔力が」
自慢するかのように話をするニムルス。
「そう。確かに私は実験サンプルとしては有益だものねぇ。でも、肝心なことを忘れていないかしらぁ」
「と、言いますと?」
「あなたに倒せるの? この私が」
エルザの発言はもっともだ。
別に、自分の方が強いという優越感に浸っているわけではない。
王国最高峰の学校の副学校長と、最前線で戦う最強の勇者。
どちらが強いかなど、客観的に見ればすぐにわかる。
ニムルスは、辛うじて戦いを演じることはできるが、エルザには勝てない。
それが純然たる事実。
だが――ニムルスは嗤っていた。どこまでも暗く、深い、闇を湛えた笑みを浮かべて。
「クックック。倒せる算段があるから、私は今ここにいるのです。あなたは既に私達の罠に嵌まっている。逃れることなどできまいよ。それに……あなたと戦うのは、私ではない」
「なんですってぇ?」
訝しむエルザの前で、ニムルスは地面に手を突き、朗々と呪文を紡いだ。
「光を統べる聖界の天使よ、我が命ず、大いなる力を貸し与え給え、天の意志よ、ただ大いなる翼をはためかせて、現世に顕現せよ――“エンジェル”」
瞬間、真っ白な魔法陣が床を縦横無尽に走り回る。
「それは……無属性魔法の天使召喚!」
エルザの顔が、僅かに揺らいだ。
ニムルスが超級魔法を使ったからだ。
召喚魔法は、無属性魔法に分類される。
回復魔法と同じく、同じ“召喚魔法”という部類で初級~超級まで幅広く存在する魔法だ。
初級の召喚魔法では、召喚できる生物はネズミや小鳥などの小動物。
中級では、大型動物と、ゴーレムなどの魔法生物。
上級では、ドラゴンやグリフィンなどの伝説級動物と、精霊。
そして、超級は天使・悪魔の二種属だ。
といっても、天使や悪魔は人間より遙かに高次元の存在。
超級であっても、召喚できるのはせいぜい中位階級の者達。いわゆる、雑兵の類いだ。
仮に上位や最上位の者達を召喚できる者がいたとしたら――その魔法は既に、固有魔法の域に至っている。
(天使召喚……超級魔法を使ってくるなんて少し驚いたけれど、このゲスは副学校長。有り得ない話ではないわねぇ)
エルザは、光り輝く魔法陣を見据えた。
眩い光の中から現れたのは、二対の白い翼を持つ、女性の姿をした中位階級の天使。
神々しい光を放っているが、その光はエルザの持つ聖剣の輝きに劣っている。
それもある意味当然と言えた。
エルザの使う聖剣 《火天使剣》は、最上位天使が与えた力。
根本的に格が違う。
「ゲホッ、ゴホッ……さあ行け、私の可愛い下僕よ」
ニムルスは、口から血を吐きながら名も無き天使に命令を下す。
切り札とも言える超級魔法を使ったことで、魔力欠乏状態に陥っているのだ。
もはや、ニムルス本人に戦う力は残されていない。
名も無き天使は命じられるがまま、白い翼をはためかせて、エルザへと肉薄する。
対し、エルザは最上位天使の力の片鱗である聖剣を抜いた。
眩いばかりの光が放たれ、同時に聖剣を聖なる炎が纏う。
エルザは腰を低く落とし、中位天使の突進にカウンターを合わせるようにして、すれ違いざまに一閃。
鋭い斬撃が天使の胴を薙ぎ、切り口から発火して眩い炎に包まれる。
そのまま、全身を焼かれて、炭となって消滅――しなかった。
全身を覆う炎を払い、天使が感情の読めない表情のまま振り返る。
その身体は――無傷。
火傷ひとつ負っていないばかりか、切り裂いたはずの胴の傷も塞がっている。
エルザの聖剣の方が格上であるはずなのに、目の前の天使にはダメージが通っていなかったのだ。
あまりにも、信じられない光景。
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