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第一部 出会い、そして混沌の夜明け

第一章10 相対! 外道魔術師。

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「なっ! アレは!」



 僕は、ロディが走っていった先――〈ウリーサ〉の集団を見て、声を上げた。

 煙の上がる向こう。皆が、右手をロディに向けて立っているのが見えたからだ。

 右手を向ける……直感だがつまり、彼等は今、魔術を撃とうとしているのだ。



「危ないッ! 逃げてッ!」



  悲痛ひつうな叫びを上げると同時、〈ウリーサ〉の魔術師達が動いた。



「「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム》」」

「「《削命法レーベン・ラオベン暴風ストーム》」」

 魔術師達が一斉に詠唱えいしょうを開始。右手に魔力が収束していき――
 解放。

 炎と突風が渦を巻きながら、肉薄するロディを呑み込まんと迫る。
 が。

「ふっ。甘いなぁッ!」

 呑み込まれる直前、地面を蹴ってロディは空高く飛び上がる。

「どーこ狙ってやがるッ? いいか、攻撃はこうやるんだ!」

 叫びながら、ロディはバスターソードを横薙ぎに振るった。

 刹那、大気のひしゃげる音が響き、重い斬撃が飛ぶ。

「「「「《削命法レーベン・ラオベン障壁シールド》」」」」

 対抗して魔術師達が魔術障壁を張るが、ロディの放った斬撃は魔術障壁を粉々に粉砕。
 いとも容易く防御を貫通した刃は、魔術師達に直撃。

「「ぎゃぁああああッ!」」
「「うわぁああああッ!」」

 まるで木の葉のようにもみくちゃにされながら、空の彼方に吹き飛ばされてゆく。
 だが、その後ろにはまだまだ魔術師達が控えている。

「「《削命法レーベン・ラオベン水禍アクア》」」
「「《削命法レーベン・ラオベン結氷アイシクル》」」

 火炎の渦が駄目なら、今度は凍結攻撃とばかりに呪文を唱える。
 魔術師達の右手から放たれた水撃が冷気によって即座に凍り付き、巨大な氷柱となってロディを襲う。

「へっ! 所詮は馬鹿の一つ覚えだなッ!」

 不敵に笑って、ロディはバスターソードを持ち直し、縦に振るった。
 巨大な刃が垂直に空気を裂き、肉薄する氷柱を真っ二つにかち割る。

「蚊の方がいい攻撃をするぜ?」

 地面を蹴り、一直線に魔術師達の元へ突っ込んでいくロディ。
 そのまま、魔術師達の懐深くまで飛び込んで。

「うりゃぁッ!」

 掛け声と共に、バスターソードを大きく振るった。
 刹那、ロディを中心に、凄まじい刃の暴風が吹き荒れる。それらはまるで、鎌鼬かまいたちの竜巻のごとし。

 今、ロディは惨劇の中心にいる、台風の目と化していた。

「す、すごすぎ……」

 離れた位置でロディを見守っていた僕は、思わずそうこぼした。

「うん、ホントに凄い」

 横にいるフィリアも、目を丸くして魔術師相手に無双しているロディを見つめている。

(何これ。僕達来る必要、無かったんじゃね?)

 王国騎士団の騎士団長。その肩書きは伊達だてではないようだ。

(これは、僕達の出番はないな)

 情けない話、僕は少し安心していた。
 騎士団に入り、剣を手に戦うということは……即ち敵を殺してしまうことだってあるはずだ。

 好き好んで人を殺すなんて、できるはずがない。

 だから、今回見学だけで済みそうだということに、僕は少し安堵して――
 それは不意打ちだった。

「「《削命法レーベン・ラオベン結氷アイシクル》」」

 突如、後方から詠唱が聞こえた。

「なっ!」

 咄嗟に振り返ると、崩れかけた建物の脇に〈ウリーサ〉の魔術師が一人立っている。そしてその無慈悲な右手は、フィリアに向けられていた。
 魔術師の右手から氷柱つららが飛ぶ。

「くっ! させないッ!」

 フィリアを庇うように前へ出て、同時に腰の剣を抜く。
 抜き手も霞む高速抜刀。自分でも驚く程しなやかかつ鋭い一閃。

 斜め上に走る斬撃は、フィリアを狙う氷柱を正確無比に切り落とした。

 思いも寄らぬ一撃に対応し、安堵する。
 それと共に、ふつふつと怒りが湧いてきた。

(よくも、妹を……ッ!)

 反応するのが一瞬遅ければ、たぶんフィリアは死んでいた。
 その事実に気付き、僕の手は自然と腰に佩いた剣へと伸ばされていた。
 
「フィリア、行くよ!」
「う、うん!」

 言葉短く告げ、フィリアと共に駆け出す。
 敵との距離を瞬く間に消し飛ばし――

「はぁああああッ!」
「やぁああああッ!」

 気迫と共に、剣を振り抜く。
 僕とフィリアの剣技の前に屈した魔術師は、傷口からパッと血華を咲かせ、その場に倒れ伏した。

 浅く斬ったから、死んではいまい。
 怒りが湧いたとは言え、流石に人を殺す気にはなれない僕であった。
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