強引な男はお断りです!

朱月野鈴加

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《十八話》思いが通じ合った時 *

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 麦とショップ巡りをするのは、すごく楽しかった。
 それはなんだかデートみたいで、そう感じる度、みやびはむず痒い気持ちになっていた。

 お昼は先週にも行ったお店で食べ、みやびは麦が食べていたものと同じ物を頼んで食べた。

 そうして見て回って、夕方になった。

「秋尾、そろそろ疲れただろう。帰ろうか」

 そう言われて、みやびは時計を確認した。すでに十七時を過ぎていた。

「え、もうこんな時間ですか」
「やっぱり、秋尾と見て回ると、楽しいな」
「はい、わたしも水無瀬さんと見て回ると、時間が経つのも忘れるくらいです」
「そう言ってもらえると、光栄だな」

 嬉しそうに笑う麦に、みやびはドキドキする。
 今日はずっと、麦の笑顔にドキドキしっぱなしだ。
 なんだか自分ばかりドキドキしていて、ずるいと思う。
 それがなんだか悔しくて、みやびは麦をドキリとさせてやろうと、口を開いた。

「まだ、帰りたくないです」

 それは、今のみやびの正直な気持ち。
 みやびの言葉に、麦はかなりうろたえていた。
 そんな反応が返ってきたことが嬉しくて、みやびは続けた。

「だって、もう監視役はいませんし、それに、もう少し一緒にいたいです」
「……えっ」

 そう口にして、しまったとみやびは思ってしまった。
 耳の先まで熱くなっているのが分かり、自分が真っ赤になっているのがよく分かった。

「え、や、それ、その、オレ、自惚れていいところ、なのか、それ?」
「あのっ」

 場所は、今まで見ていたショップのすぐ外。人通りは少ないものの、野外。そして、空は少し夕暮れ。
 みやびは、思い切って告白しようとしたところ、麦に手で制された。

「秋尾、オレから先に言っていいか」
「え……?」
「最近、秋尾のことが気になって仕方がないんだ。たぶんオレ、秋尾のこと、好き、なんだと思う」
「水無瀬さん……」

 たぶんだとか、なんだと思うとか、曖昧なところはあったけれど、麦も同じ気持ちでいてくれたと知り、みやびはとても嬉しくなった。

「水無瀬さん、わたしもその……好き、です」
「秋尾……」

 急にしん……と静まり返り、みやびは恥ずかしくて顔を俯かせた。
 そんなみやびを見た麦は、顔を赤くさせながらもみやびを抱き寄せた。

「帰らせたくない」
「……わたしも、帰りたくないです」
「オレのうち、来るか?」

 その意味するところを、さすがのみやびも分かり、こくりとうなずいた。

「飯、食ってから行くか」
「あ、はい」

 急に、色気より食い気になったところに、みやびは思わず笑った。

「そういうところが、水無瀬さんらしいです」
「仕方がないだろ、腹も減ってるんだから」

 少しふてくされたような物言いに、みやびはくすくすと笑った。

「みやびって呼んでいいか?」
「……はい」
「みやび」
「はい」

 麦はみやびをさらに抱き寄せると、耳元で囁いた。

「好きだ」
「っ!」

 甘い囁きに、みやびは裏路地で真っ赤になっていた。

     *

 夕飯を食べた後、みやびと麦は、手を繋いで麦の部屋へとやってきていた。
 手を繋いだだけでもドキドキして、今日はずっと心拍数が上がりっぱなしだ。
 会社近くの、ワンルーム。部屋の中は思ったより片付いていた。

「オレ、ちょっと買い忘れたものがあるから、先にシャワーを浴びててくれるか?」
「え……あ、はい」
「着替え、オレので悪いけど、これで」

 と麦の物だと思われるスウェットを渡されて、みやびはまたもやドキドキした。

「シャワーはこっち。ボディソープはそれで、シャンプーはそれ。あ、コンディショナーはないんだ」

 麦から説明を受けて、脱衣室の扉を閉められた。

「すぐに戻るから」
「はい」

 買い忘れとはなんだろうと思いながら、みやびはかなり躊躇したけれど、服を脱いで、シャワー室へと入った。
 麦がシャワーを進めてきたということは、つまりそういうことをするということで……。
 まさか告白したその日にそういう関係になるとは思わなくて、みやびは戸惑った。
 でも、帰りたくないと言ったのはみやびだし、麦の部屋に行くのを同意したのもみやびだし、もちろん、そういった行為に興味がないわけではない。
 ただ、あまりにも性急すぎて、みやびの感情が追いついていないだけで……。
 でも、ここまで来たのだ、覚悟をしなくてはならない。
 みやびはシャワーを浴びながら、心の準備を整えることにした。

 みやびがシャワーを浴びている間に、麦は買い忘れたものを買って来たようだった。
 シャワーから出て、身支度を整えて部屋に戻ると、すでに麦がいた。

「上がったか?」
「はい」
「なんか……みやびがオレの部屋にいるだけでも変な感じなのに、オレの服着てるのが、すっげーかわいい」
「かわいくなんて……ない、です」
「かわいいよ。……ちょっとオレ、今、みやびに触れたら我慢できそうにないから、先にシャワーを浴びてくる」

 麦はそう言うと、みやびの横をすり抜けてシャワー室へと入っていった。
 みやびは、部屋の真ん中に立っていたのだけど、さすがにそれは邪魔になるかと思って、周りを見回した。
 ベッドの横に、折りたたみ式の小さなテーブルが置いてあるだけで、椅子などなかった。ワンルームだからこんなものかと思ったけれど、それにしても、あまり生活臭がしない部屋だった。
 みやびの部屋は、小物や雑貨であふれているし、雑誌などもベッドの横にうずたかく積み上げられていたりするので、麦も似たような物だと思っていたのだけれど、違っていた。
 物珍しくてキョロキョロ見て回っていると、麦がシャワーから上がってきたようだった。

「こら、そんなに部屋の中、見んなよ」
「あ、ごめんなさい。綺麗に片付いてるから、羨ましいなと思って」
「ちょうど片付けたところだったんだよ。普段はもっと散らかってる」
「そうなんですね」
「みやび」

 麦に名前を呼ばれ、麦へと視線を向けると、ギュッと抱きしめられた。

「みやび、抱いてもいいか」
「え……と、……は、い」
「別に無理しなくてもいい。オレが我慢すれば良いだけなんだし」
「で、でもっ」
「だけど、キスだけはしても、いいよな?」

 そう断りが入ったかと思うと、あごを掬われ、上向きにさせられたと思ったら、麦の端正な顔が近づいて来た。
 みやびは慌てて目を閉じると、唇に柔らかな感触。
 それは、みやびにとって、ファーストキスだった。

「みやびの唇、柔らかい」

 麦はそう言うと、もう一度、唇を合わせてきた。今度は、先ほどよりもずっと長く、唇と唇が重なった、キス。
 一度、軽く離されたと思ったら、今度はより深く唇を重ねられた上に、舌先で唇を舐められ、吸われ、それから唇を割って舌が入り込んできた。

「んっ」

 口内に麦の舌が入り込んできて、みやびが驚いていると、前歯を舐められ、こじ開けられた。麦の舌がみやびの口内で暴れ始め、舌を擦り合わされ、絡められて、どうすればいいのか分からなくて、身体を硬くした。
 そのことに麦はすぐに気がつき、ぬるりと舌が抜け出した。
 そして、耳元で囁かれた。

「みやびは、初めて?」
「……は、はい」
「そうか、奇遇だな。オレも初めてだ」
「……え?」
「初めてで、加減が分からなくて、いきなり過ぎたか?」
「え、いや、その、わたしも分からないのですけど……。水無瀬さん、初めてって、本当ですか?」
「ほんと。オレ、彼女がいたこともないし」
「嘘」
「嘘じゃない。好きになれる人が今までいなかったし、別に童貞でも死ぬわけじゃないし」
「そうですけど……」

 意外すぎる答えに、みやびは戸惑い、それから麦を見た。

「さっき、コンドームがないって気がついて、慌てて買って来た。がっつきすぎだろ、オレ」
「え……いえ、そのっ」
「みやびのこと、大切にしたいから、思いが通じ合った途端にセックスするのもなんだなと思ったんだけど、身体は正直でさ。オレのここ、触ってくれるか」

 麦はそう言うと、みやびの手を取り、股間へと手を這わさせた。
 初めて触る、異性の股間にみやびは息を飲んだ。そこは、熱くて、硬くて、大きくて、こんなものが自分の中に入るのかと思わず麦をまじまじと見てしまった。

「みやびが嫌なら、オレ、頑張って我慢するよ」
「あの……こんなの、入るんですか」
「入るよ。みやびの大切な場所、できるだけ痛くないように頑張るから」

 その一言に、みやびはこくりと息を飲んだ。
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