死にたいと思ったことはありませんか?

椎木唯

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“死にたいと思ったことはありませんか?”

 異常なほどに大きい着信音で目覚めてスマートフォンの画面を見るとそんな件題のメールが届いていた。
 眠たい目を擦りながら時間を確認する。よし、まだ昼過ぎだ。二度寝をしよう。
 そう思い、電源を落とし瞼を閉じる。確か一昨日から始めたから……ああ、三徹したんだっけ。そんな徹夜明けの久し振りの熟睡タイムから目覚めたときが昼過ぎって個人的には一番キツいと思う。カーテンで太陽光遮断されてるからドラキュラみたいに焼かれたりはしないんだけどね。純粋に太陽光が頭に響いてキツいって意味なんだけどね。

「目覚まし代わりにはなったのかな……」

 お昼もお昼、既にランチタイムは終了し、珍しい場所ではお昼寝タイムが始まっている頃、私こと茅野かやの彩あやはパソコンゲーム、“インシビフル・オラティール ~西洋の死を統べる王~”のラスボスの全能の神、ラ・ティールのレアドロップである創成の杖をギルメン分入手するためにマラソンをしていたところだ。
 サブタイ的には……まぁ、プレイヤーが即死攻撃を仕掛け、それを防ぐ。PVPを考えての事だったらしいが私の記憶ではPVPは確か……一度かな?公式戦が行われた以外で見たことがなかった。非公式戦が行われない辺り、PVPはあんまし流行らなかった印象がある。ただ単にサブタイが意味深なだけで死神はほぼ関係ないし、死神はそもそも統べてないしで色々と残念な部分だろう。それを含めてのインシビブル・オラティールだと思う。
 インシビブル・オラティール、通称インオラで知られるゲームは今の時代では珍しい、古典的なMMORPGだったのだが一ヶ月三千とわりとエグい月額量を払う代わりに圧倒的なスケールの物語、道端の石にまで拘ったそれはクソゲー発掘者、である“目から目が出る”さんと言う動画配信者の手によって瞬く間に全世界中のゲーマーの知るところになった。その人曰く「クソゲーだと思って蓋を開けてみると良ゲー通り過ごして神ゲーだったとか……とんだパンドラの箱だったぜ」と、言っていたらしいので……まぁ、配信直後からやっていたらしくて余り、嬉しそうではなかったらしい。難しい人なのね。
 圧巻の景色は始まりの地、ラ・ティールと言う国から始まっていた。
 道行くNPC ノンプレイヤーキャラ一人一人にまで拘っており、週間的に観察してみるとパターンが見えてくるのだが歩く姿はまさに現実のように滑らかだった。勿論、顔も何千何万ものデータから採取されているらしく、まさに別世界に来たようだった。因みにそのデータはベーター版で事前に応募していた人から採ったらしいがこの世界を見た瞬間に文句も嫌悪感も吹っ飛んでいってしまったと言う逸話があるぐらいにエグい。
 ゲーム性はFPS視点から三人称の二つから選べており、事前にキーボードに設定を施せばキーひとつで技が撃てる仕様になっていた。
 そんな情報をネットで調べ、モンスターの元ネタを調べたり……と、挙げたらきりがないインオラなのだが……余りにも携帯の着信音がうるさくて完全に目が覚めてしまった。まぁ、どのゲームでも言えることだよね。

「こっちは学生のみでありながら夏休みと言う長期休暇でウキウキしながらゲームして、半月、いやその以上だけど時間を費やして夏休み最後の一週間でラスボス倒すとこまで来たんだよっ!」

 ベットに立って思いっきり不満をぶちまける。インオラを始める前にやったゲームの仲間とギルド作ったり、狩りをしてたりするが……元を正せば全てあいつらのせいなのだ。自分は悪くない!そんな思いを込めて叫ぶ。

「そこから安心してるとギルメンから『レア泥あるみたいだから集めにいこうぜ?』と、誘われて三徹目だよっ!?普通こんなに確率悪いのどうして?運営呪うぞ、とか思ったし、何度も人間の限界を越えた感じがするし……」

 ある一線を越えてしまえば頭の中で考えていたものが全て綺麗に無くなり、正面にあるディスプレイから写し出される空間に入り込んでしまう。文字通りに、と言ったら完全にめり込んでしまっているようだがそんな感じだ。いや、めり込んではないけどね?

 流石に運営呪うぞ?は、ラスボスと言う手前そう簡単には落としたら駄目でしょ。と言う考えに至り、言い過ぎかな?と思いはしたが……あれ?何の事について怒鳴っていたんだっけ?

テロンっ♪

「って、話している間にまた送ってくんじゃないって!」

 こんだけしつこく届く事もないよね……逆のどんな内容なんだろう?パンドラの箱を開けるような緊張感が漂う。だが、ここでメールを見たら何かに負けるような気がして……。
 ぜぇぜぇと怒鳴り散らしたことによって乱れた呼吸を整えようと息を吐きながら携帯の電源を完全に切って二階の自分の部屋から一階のリビングへと向かう。冷静になって考えてみれば電源を切れば済む筈なのに無駄なことしたなぁ、と無駄に疲れたことに溜め息をつきながら階段を降りる。
 流石に水とクッキーだけじゃ痩せる一方だし、携帯に起こされる前にご飯を食べようと思っていたのだ。
 長時間の労働の後は流石に歯を磨かないとね、そう考えながら洗面台に向かう。鏡に写るのは不眠不休でやっていたせいで目の下に隈が出来ている極々普通の女子高生だ。

「まぁ、普通に考えて隈は女子高生にはできないよね……多分だけど」

 それ以前に不眠不休でゲームやっている女子高生もいないのだが彩には知るよしもない。だって関わりがほぼ無いんだもん。
 そうぼやきながら所々跳ねている髪を軽くくしでとかしながら歯を磨く。
 クチュクチュクチュ……ペッと少しはしたない気もするが生憎聞いている人も見ている人もいない。日常生活まで気を張っていたら精神が異常なまでに磨り減っていきそうだもんね。人間切り替えが大事だよね。

 心機一転、顔を洗い目が覚め、頬を軽く叩き気合いを入れる。その瞬間に見えてしまったのだ……鏡に写る謎の黒い影。
 見えたのはほんの一瞬。頬を叩いたせいで何かを見間違えたのかな?そう、キクラゲのような見た目をしていた事を思い出し、考える。

「ま、気のせいだよね」

 生憎なのか丁度なのか、彩には生まれてこのかた幽霊と言うものを見たことがない。両親も見たことがないと言っていたので自分には霊感が全くない、そう考えていた彩は謎の黒い影を通り過ぎたキクラゲと断定したのだ。それはそれで不気味なのだが等の本人は気にしている様子はなく、ただの見間違いと判断したらしい。既にキクラゲもどこかいってしまっているだろう。

 水で顔を洗っている最中に思い出したことがあるんだけど、ネトゲ中たまにギルメンがトイレ!とか言って立ち去った時、結構な確率で他の仲間がボトラーとか言ってたんだけど本格的にこの人達の職業はなんだろう?と考えたことがあったのだ。
 ゲームの腕は上手いし色んな事を知っている。その色んな事の中に下なネタが幾つか入っているのはあんましあれだけど……まぁ、ボトラーと言う単語自体はどこかで聞いた事があるので気になって調べてみたあの日が憎い。ゲームの技名ですら無かったよ……。
 と言うかそろそろギルメンに女ですって打ち明けた方が良いよね?何も望んでないのにマニアックな情報が半自動的に入ってくるのはちょっと……ねぇ?気になって調べてみた私も私なんだけどさ。

 そう言えば今頃、両親は今頃机に座ってパソコンとにらめっこかな?と、考えながら顔をタオルで拭き終わり、台所に移動して戸棚を漁る。両親が同じ職場で恋をし、愛を育み、私を生んでからも仕事をしているので一人になることが多かった。こんな説明だとデキ婚かと思われそうだが……真実は二人だけぞ知る。まぁ、実際そこまで興味がないんだけどね。
 そんな私を寂しがらせないようにと毎月結構な額のお小遣いと高スペックPCを買い与えたのが仇になったようだね!まぁ、ガッツリ籠っているとはいえ高校にはしっかり友人はいるし好きな人は……まぁ、いなくもないがそんな相手には夏休みは家族と海外旅行だからと言い訳をしているからまだボッチではない。たまに友人やその人からメールがくるが適当にネットで拾った画像を送っているのでバレていないと思う。以前、マーライオンの画像を送ったのを忘れ、次の日に東京タワーの写真を送ってしまった時はバレたかと思った。友人のひーちゃんを筆頭に頭がアレな子で助かったけど……どうやってこの高校受かったんだろ?最近になって深く考える題材の一つなんだよね。

「あー、ヤバいね、これ。パスタの麺しか残ってないんだけど……しかも冷蔵庫の中にはキンキンに冷えた生ビールがジョッキで置いてあるし……浸して食べてみたいな感じなのかな? ……んな訳あるか」

 多分、無いよね?
 少し、心配になりながら漁って出てきたトマトソースの缶を缶切りで頑張って開け、茹でておいたパスタにぶちまける。へっ、どうだ俺のは濃くてドロドロしてるだろぉ?これをどうしたいか言ってみろよ?少し、アレンジがしたかったので適当に葉っぱを採取し、添え、胡椒を振り掛けた。最近ではカップリングとかやってみたりするんだけどイマイチ良く分からない。調べる前はプリンのカップをリング上に並べて……とか、考えていたけど普通にゴミ集めてるだけだよね?気付いてしまったのは良いことなのか悪いことなのか分からないけどさ。
 茹でたパスタにトマトソースの缶をぶちまけた辺りで気付いた。

“果たしてこれは美味しいのか”と。

 どこかの料理番組でトマト缶を使っていたのを見て何気無く入れてしまったけれど、トマトだよ?極端に考えるとトマトジュースにメン入れてるだけだよ?それってまず、食べれるの?
 と、軽く疑問に思ったのだが男は度胸、女は愛嬌って言うし……って、今は余り関係はな
いね。
 そう言えば、余りお腹の中にものを入れなさすぎたせいで吐いてしまうってのを聞いたことがある、気がする。一度考えてしまうと案外抜けないもので吐かないか心配になってしまい、台所で食事を摂ることになったのだが吐かなくて良かった。純粋に不味かっただけだったから良かった。全然良くないけど。
 まぁ、ゲームは進化して完全にリアルと同じぐらいになってきているのに対して保存食は相変わらずの缶って……あ、て言うかトマト缶は別に保存食じゃなかったわ。てへ。

 食べ終わった皿を流しに置き、軽く水をいれる。これで後はお母さんが……と、考えたんだけど今日は別にやることはないし洗っておこうかな。ホント、優しいなー私。
 流石に三日続けて画面を見続けているので少し頭が痛い。と、言うわけでもう一度寝ようと二階に上がり、布団に潜ったんだけど……気になって携帯の電源を入れてみれば画面に受信、107件。107件って何?最近の携帯って電源消してもメール届くの?軽く疑問に思うが携帯のゲームはしないはなんだけどこのままだと確実に圧迫されていくと思うし……取り敢えず、消していっても良いよね?

 メール受信画面で一括で消去したんだけどそれ以上のスピードでメールが届いてくる。えっと……これって確実に迷惑メールだよね?確かチェーンメールだっけ?誰々に送んないと呪われますよ~……は、違うか。しかもチェーンメールって仲の良い友達か、あんまし仲の良くない、と言うかどうでも良い相手に送るって感じだよね……仲の良い相手からだったら良いな!

「送るって時点で嫌われてそうだけど……っと、このままじゃ寝れないし起きたら容量限界突破してても困るしな……取り敢えず見てみようかな?」

 確かこんな感じの奴は警察が~とか見たことあるし、内容的には自殺願望とかはありますか?とかそんな感じの内容なのかな?
 少し怖い気持ちを押さえながらメールを開く。その瞬間にうるさかった着信音が聞こえなくなった。……えっと、これ勝ったよね?何にかわからないけど。

「……開いている状態ではメールが届かなくなる?どうしても見てもらいたかったのかな?」

 随分近代的なツンデレだなぁ、と思うがやられた身では余り、素直になれない。やだ、こっちがツンデレみたいだね。
 まぁ、着信音がなくなってひと安心ついたときにアイツが現れた。
 人間で唯一、いや学生には大敵のアイツだ。最大最強、そして最怖の……

「すいまぁだぁー」

 瞼が重さで閉じるのに身を任せ、ベットにダイブする。ベットから普段鳴らないような音が聞こえたんだけど……別に私が重い訳じゃないよね?ベットが古いだけだよね?
 夏休み最後の一週間をダイエットに費やすなんて絶対嫌だよ?と、呟きながら夢のネバーランド、いや桃源郷に入場していった。夢を見る辺り、余り休めてないんだ……。




ピロピロピーン!ピロピロピーン!ピロピロピーン!ピロピロピーン!ピロピロピーン!ピロピロピーン!ピロピロ……

「だからうるさいって!しかもそんな着信音にした覚えないんだけど!どんだけ安眠妨害したいの……もう、疲れたんだよ……」

 少し叫んで疲れたので立ち上がった体を重力に逆らわずにベットに倒れると……

ペロペロペローン、ペロペロペローン、ペロペロペローン、ペロペロペローン、ペロペロペローン、ペロペロペロ……

「そんな着信音は設定にすら入ってないから!……ああ、もう!読めば良いんでしょ、読めば!」

 何か諦めたように携帯を手に取り、死んで~の文を読み始めた。




 数十分ほどで読み終わり、携帯をベットに投げ自分もベットに倒れた。今度は着信音が鳴らなかった。差が分からないよ……。
 読んでみた感じ、内容はアンケートみたいな感じで匿名でも本名でも良いからって感じだった。普通に……って、言い方はおかしいけど“自殺願望はありますか?”とか“今、生きていて辛くないですか?”等の質問がはい、いいえで答える形式になっていた。

「流石に籠ってはいるけどそれは別に不満があっての行動じゃないしなぁ……まぁ、部活動は……ね?」

 あの体育会系のノリは文学少女にはキツいんだよ……読んでる本はほぼ漫画だし、文学少女とは言えないけどね。
 アンケートはすべて終わり、後はどうするんだろ?送信すんのかな?と思ってスクロールしていると一番下にうっすらと文字があった。

「“死んでみませんか?”……えっと、何その年会費無料なんでカード作りますか?的なノリで結構生き物としての大事なもの失わせようとしているんだけど……あ、これも選択するんだ」

 文の下に同じようにはい、いいえの選択が出ていた。勿論、答えはいいえで押そうと思ったんだけど……

“はい、ですね。分かりました。では今から貴方は死者です。後のサポートは社員を送りますので楽しんでいってください”

 何故かはいがいいえを押し退けて入ってきやがった……しかも画面全体に赤く文字が書かれていてすごく怖いんだけど……と、何故か首筋にひんやりとしたものを感じ、後ろに誰かいるの?叫びたくなる気持ちを押さえ、ゆっくりと感じ振り向いてみるとそこには……


 死神がいた


 何故か一瞬、頭がくらっとして倒れそうになったがどうにか耐えた。い、いやそれにしても!
 手に持った身の丈程ある鎌をつき出すようにして止まっている死神を恐怖を感じながら目を逸らそうとする。だが、何故か体が言う事を聞いてくれなかった。
 思うように動けない体、動かせない視線。見ているだけでも芯から凍える寒さを感じる死神をじっと、見ていると何故か固まった状態で動かないのが疑問に思えてきた。
 もし、望みが叶うのならこの死神は実は空き巣で二階の私の部屋に壁を伝って入ってきた、それならまだ分かる。それも嫌だけどまだ理解は出来る。
 だが、その場合動かないってのは変だし、そんな不気味な格好で登るってのもおかしく感じてしまう。
 おかしいと言えば最初は恐怖で動かなくなってしまった体も死神の容姿も慣れてしまえば置物として……考えられはしないか。今でも恐怖は感じるし、何故動かないのも疑問が浮かぶ。そんな無限にも感じる時間を過ごせば人目で恐怖、そう感じていた死神の容姿を注意深く見ることが出来た。

 本当に死神なのかは未だに理解は出来ないけど、白骨化している顔面にボロいローブを着込み、つき出すようにして持っていた鎌はいつの間にか肩に担いでいる。こんな容姿を見て「死神とは思えない」と、言う人がいるのならば場所を変わってあげたい。こんな地獄は始めて体験する。いや、始めてもなにも地獄自体が始めてなんだけどね?と、如何にも死んでしまっているかのように話しているが進行する形で自分の体は存在するし、微かだが心臓が動いている音も……聞こえなくもないが本音を言うと聞こえない。耳がキーンとして音が聞こえないのだ。
 恐怖を全身で感じると耳って聞こえなくなるんだね、そう傍観者のように思うがこれから何をすれば良いと?
 最大限大きく、前向きに解釈してここまでは「は、ハロウィーンのコスプレかな?完成度高いね(苦笑い)」で済ませるんだけど……流石に足が無い時点で信じるほか無いじゃん……上半身だけで浮遊していると考えれば……まぁ、面白いかな?それ以前に真後ろにいるってだけで怖いんだけどね。
 一通り死神の感想を心の中で呟くと死神のような人物はゆらゆらと動き、肩に担がれた鎌が何かを指すように動いた。その鎌を目で追うと……

「……きゃ、きゃああああああああ!」

 白い顔をして横たわっている、見慣れた自分の顔がそこにはあった。
 回りを見れば赤く、血生臭い液体が部屋中に飛び散っていた。血の気の無い生首と、首から上の無い、上半身が赤く染まった体があった。

「いや、いや、いや……え、何で、どうして、え?な、何が起きたの……?く、首?体も……何で顔が……」

 狂ったように誰に問うでもなく、呟くその姿は一言で言えば狂気だった。

 確かに、考えれば首筋に何かひんやりとしたものが当たっていたのは記憶にある。そして倒れそうになった時、鎌の位置、確実に切られていた。
 だが、ここで疑問が出てくる。何故、首を跳ねられたのか、と。人間は誰しも業を抱えている、そんなものだと思っていて、わざわざそんな人間のために?そんな筈はないよね?だって、今までちゃんとしてやってきたしちゃんよ頑張ってきたし、何も悪いことはしてないよね?痛い、痛いよ、何故か繋がってるはずの首が痛いよ、目を背けたいのに動かなくて、生首の血が通ってない目がこちらを見ていて、気持ちが悪い、気持ちが……







 気付けば外は茜色に染まって、赤黒く固まり始めた部屋をより、印象的に染めていた。
 カーテンは閉めていたはずだ、何故か冴え渡った頭で考える。全てを出しきった。出しきって出しきって出しきった。もう、何も残っていない。血すらもなく、先程食べたはずのパスタも何もなかった。ただただ何もなかった。

「……大丈夫ですかね?」

 そう、優しく肩を触り、問い掛けたのは死神――いや、少女だった。
 白銀の髪に女の私でも惚れてしまいそうな可愛い顔。綺麗、そんな表現ではなく――そう、お人形さんみたいだった。
 完成された作品で何処にも手を付ける隙間もなく、ただ気味が悪かった。

 記憶は曖昧だが死神の少女曰く、この体は“死者を体験”しているだけであって本当には死んでいないと言う。実際に頬の肉を捻って千切ろうとしてみたけどあんまり痛くは無かった。

「そこら辺は理解できたけどさ……てか、死の世界ってもっとこう、何て言うんだろ?夢を見てないときみたいな宇宙に溶ける、ってイメージだったんだけど普通に実体を保てるんだね」
「まぁ、体験ツアーですし。本当は……うん、色々な苦痛を与えるかそんな感じだね。と言うか、地球の寄生虫の分際で地獄とか天国とか考えがゲスいんだよね。普通に輪廻転生してろって話」
「死神が輪廻転生って言うんだね……」

 ぷんぷんと怒る黒髪の少女を見ていると微笑ましい感じなのだが死神とか言うパワーワードのせいで余り、微笑ましくないって言うのが事実だね。女の私から見ても可愛いって思えるんだけど……人ならざるものって感じで整っている顔立ちなのかな?
 死者になった。そんな事を言われても実感がわくわけでもなく、取り敢えず一番分かりやすい方法で確かめてみる。

「本当に私は死者になっているんだよね?」
「まぁ、そうだね。実際には体験だけど」
「分かった。そう言うことなら……」

 勢い良く閉められたカーテンを開け、眩い太陽光に頭痛を感じながらその勢いで窓を開ける。そして足を掛け……

「って、何やろうとしているのッ!?」

 後ろから驚くような声が聞こえたが今はどうでも良い。いや、どうでも良くないし普通に嘘って答えもありそうだけど……私の部屋は二階の端。窓を開けて下を見てみるとアスファルトの地面が見える。普段はその場所に両親の車が停まっているんだけど……帰ってくるのは真夜中、しかも午前六時には家を出るため私が見るときは車が停まっていないので私の普通は車がない今の状況なんだけど……うん、まぁ要らない情報だったね。

 足を掛け、飛び降りる。死にはしないと思うけど……保身的な意味も含めての二階からの飛び降りなんだけど……意外と地球の重力のまんまで普通に飛び降りただけになっちゃったんだよね。普通、死者って空を飛べたり、壁をすり抜けるとかあるじゃん?これ、どうなってんの?
 と、疑問に思っていると同じく二階からのふわりと降りた死神が鬼の形相で向かってきた。え、私なんかやったっけ?

「死者は死者でも体験だからここで死んだら戻れなくなるんだよ……致命傷以外は全部私が受けるんだけど」
「え、そうなの?」
「うん、そうなの。だから空は飛べないし、透視の能力もないんですよ」
「いや、ああ、そう?」
「はい、そうですよ? まぁ、痛覚は体験なんで完全には無くしていませんけどね」

 “戻れなくなっても困りますしね”誰に言うでもなく呟いたのだが幸か不幸か聞かれずに済んだ。
 死神が言うには余り、体験ツアーでは生身の状態と変わらないらしく、唯一できるのは死以外の全ての痛覚を遮断しているから……との事だけだった。あそこまで安眠を妨害したのに内容がこれだけとか……もう、疲れたよ。
 もう一度寝ようと思い、玄関に歩いていくが……

「……あれ?」

 うん。飛び降りたせいで鍵がかかったまんまだった。
 えっと、帰ってくるまで外で待機ってこと?
 軽く絶望していると隣で浮遊していると死神に気が付いた。そうか!いるじゃん、すり抜けて行け……って、すり抜けたら鍵開けられないね。うん。

「ここから二階まで壁を伝っていったらどうです?」

 真顔で良い放った死神に軽く殺意を覚えながらそれしか方法がないのでしょうがなく登ることに。まぁ、ボルダリングみたいに出っ張りがあるのが救いかな。はっ、まさかこれを見越して出っ張りを……!?と、考えながら登っていく半分ぐらいまで行ったところで腕の限界を感じたので限界突破して登ってやった。痛みは感じないと言っても恐怖は感じるんだよ……



「……はぁ、疲れたぁー!もうダメ、もう無理今日だけで何度限界を突破してきたのか……絶対明日は筋肉痛だよ……」
「ってことはツアー終了しますか?」

 息を吐きながらベットに倒れこむ。後ろで終了云々が聞こえたので適当に返事をする。

「あー、うん。終了だね。流石に家から出て入るまでこんなに疲れるとは思ってなかったよ……」
「了解です。では、指名しますか?しない場合は刈り取る必要が……」
「……こんなのが好きそうな奴がいたかからソイツで大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ」

 そう言って死神の体が燃え、私の体に取りつ――って

「熱い!熱いから!……て、あれ?痛覚を遮断しているんじゃなかったの?」

 まぁ、良いか。眠いし……。
 なんかメールも全て消えてるし死神がやってくれたんだろう、そう考えていると心の中では眠い、寝たいと言う考えが出てきているが完全に目が覚めてしまったので……PCの電源を入れた。確かアップロードが今日あるっていってたし、クエスト増えているのかな?
 ああー、明日が楽しみだね!何故か知らないけど良いことが起きそうな気がするよ!




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄《ネタバレ注意》


死神って魂刈り取られないためには他の魂差し出さないといけないんですよ。
って言うことはつまり無条件に死ぬ奴がいるってことになりますね、はい。わりかし可愛い印象のある死神さんですが(上とは真逆)なんちゃらの農夫って言われてたりしてます。鎌で刈り取るものが違う気がするの……。
そして主人公はネットでゲームに関する死神の情報――まぁ、普通に死神の情報ですね、についても調べてる雰囲気があり……
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