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下弦の月
菖蒲 ギャングスター・ストリート
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ウチはその仰々しい門の前に立って呼び鈴を押した。あからさまに門の上には監視カメラが付いている。その邸宅を囲むように高く黒い塀が張り巡らされていた。呼び鈴を鳴らしてから一〇数秒ほど経って黒服が通用口から顔を覗かせた。
「お待ちしておりました。組長がお待ちです」
黒服は深々と頭を下げると門を開けた。門から中に入ると中には他にも数人の黒服たちが立っていた。ウチの姿を見て頭を下げる彼らはまるで大型のドーベルマンのように見えた。
ウチは大きな玄関からその邸宅の中に入った。趣味の悪い調度品があちらこちらに飾られている。あからさまにヤクザの家と言った感じだ。テンプレのように『任侠道』と書かれた額が飾ってあるのを見ると呆れずにはいれなかった。ウチの叔父とはいえ悪趣味だ。
奥の客間に通され、お茶と茶菓子がウチの前に用意された。久し振りに来る叔父の家は相変わらず物々しい。今から抗争でもするんじゃないかと思うほどの物々しさだ。
「おお、よく来たな。しばらく見ないうちに綺麗になったなあやちゃん!」
「藤乃叔父さんお久し振りです。今日はどうしたんです? ウチのこと呼び出すなんて珍しいじゃないですか?」
彼はウチの叔父で咲冬藤乃という。千葉県を縄張りにする任侠一家の組長だ。もっともウチの家が本家なので、この人は分家の人間なのだけれど。彼には三人の子供がいた。長男は幼少期に抗争に巻き込まれて死んでしまった。今は二男と長女の二人がいる。ウチがまだ学生の頃は二男の菊丸、その妹の茜と一緒によく遊んだものだった。
「ああ、実はな。うちの馬鹿息子が茜連れて家出しちまってなぁ。おい、榊屋!」
藤乃叔父さんはそう言うと、榊屋という黒服を呼んだ。
「菖蒲さん、実は茜お嬢様にGPS機能があるスマートフォンを渡してあります。ですので居場所はわかっているのですが……」
榊屋はそう言ってGPSの現在地の表示されたタブレットを見せてくれた。
「んー!? 茨城県水戸市南町!? ずいぶんと地味なとこに潜伏してんねあの子ら」
「はい、GPSの移動範囲が細かく動いているようですので、どこか住む場所を見つけられたのでしょうな」
榊屋はそう言うと藤乃叔父さんの後ろに下がって行った。
「それでだあやちゃん! 悪いんだが、あの馬鹿どもを迎えにいってやってくれないか? 俺も一応は人の親だ。藤丸の時みたいな目にはあわせたくねーからな」
藤乃叔父さんはまるで自分の子供達を心配していないような口ぶりでそう言った。叔父さんも本当は息子たちが心配なのだろうけど、若い衆の手前あまり動揺した様子は見せたくないようだ。
「迎えに行くのは構わないですけど、なんでウチなんです? 叔父さんとこの若いのに任せりゃ済む話じゃないですか?」
「そりゃそうなんだがな。菊丸の奴はどうやらうちの家業に嫌気がさしたらしい。無理矢理連れ帰ってもまた同じになりそうでな。だからあやちゃん! わりーんだけど、菊丸を言いくるめてはもらえないか? ほら、お前さんが話せば菊丸も言う事聞くだろうし」
藤乃叔父さんも大変だなとウチは思った。他の組とのイザコザならまだしも今回はお家騒動まで起きてしまっているようだ。
「わかりました。菊坊と茜を迎えに行ってきますよ! ウチもあの子らに何かあったら嫌だし」
ウチがそう言うと叔父さんは「恩に着る」と言って、札束が入った封筒を私に差し出した。
「えー、いいですよ! ただ隣の県に従兄弟迎えにいくだけで一〇〇万ももらえないです」
「いーからしまっとけ! 先立つものはいつだって必要だ。そのかわり、確実に連れて帰ってきてくれ! お前さんも気をつけて行けよ」
「んー……。じゃあありがたくいただいときますね。あの子らはウチが責任を持って連れ帰りますから」
ウチは叔父さんに門まで送ってもらった。黒服たちもぞろぞろとついてくる。
「あやちゃん丸腰で大丈夫か? 何だったら……」
「いいですよ。お気遣いなく! 叔父さんだって知ってるでしょ? ウチは丸腰で戦場に出たって死にゃしませんから」
そう言ってウチは自分のシャツの襟を捲ってみせた。ウチの首の噛み傷を見て黒服たちは後ずさった。
「そりゃあ、そうだな。お前さんは死んでも死なないような身体してるんだったな。ところで《口縄様》はどうしてる?」
「お元気だと思いますよ? 義姉さんがしっかりと毎日供物してるからきっと太ってると思います」
「それはよかった」
藤乃叔父さんはそう言って笑った。
門を出るとウチは愛車のカワサキZZRに股がった。一回実家に戻って準備してからあの子らを迎えに行こうと思う。菊丸はともかく、茜が心配だ。
あの子は喋る事ができないし、あちらでちゃんと生活できてるんだろうか? ウチは茜のことを心配しつつもZZRで走り出した。
「お待ちしておりました。組長がお待ちです」
黒服は深々と頭を下げると門を開けた。門から中に入ると中には他にも数人の黒服たちが立っていた。ウチの姿を見て頭を下げる彼らはまるで大型のドーベルマンのように見えた。
ウチは大きな玄関からその邸宅の中に入った。趣味の悪い調度品があちらこちらに飾られている。あからさまにヤクザの家と言った感じだ。テンプレのように『任侠道』と書かれた額が飾ってあるのを見ると呆れずにはいれなかった。ウチの叔父とはいえ悪趣味だ。
奥の客間に通され、お茶と茶菓子がウチの前に用意された。久し振りに来る叔父の家は相変わらず物々しい。今から抗争でもするんじゃないかと思うほどの物々しさだ。
「おお、よく来たな。しばらく見ないうちに綺麗になったなあやちゃん!」
「藤乃叔父さんお久し振りです。今日はどうしたんです? ウチのこと呼び出すなんて珍しいじゃないですか?」
彼はウチの叔父で咲冬藤乃という。千葉県を縄張りにする任侠一家の組長だ。もっともウチの家が本家なので、この人は分家の人間なのだけれど。彼には三人の子供がいた。長男は幼少期に抗争に巻き込まれて死んでしまった。今は二男と長女の二人がいる。ウチがまだ学生の頃は二男の菊丸、その妹の茜と一緒によく遊んだものだった。
「ああ、実はな。うちの馬鹿息子が茜連れて家出しちまってなぁ。おい、榊屋!」
藤乃叔父さんはそう言うと、榊屋という黒服を呼んだ。
「菖蒲さん、実は茜お嬢様にGPS機能があるスマートフォンを渡してあります。ですので居場所はわかっているのですが……」
榊屋はそう言ってGPSの現在地の表示されたタブレットを見せてくれた。
「んー!? 茨城県水戸市南町!? ずいぶんと地味なとこに潜伏してんねあの子ら」
「はい、GPSの移動範囲が細かく動いているようですので、どこか住む場所を見つけられたのでしょうな」
榊屋はそう言うと藤乃叔父さんの後ろに下がって行った。
「それでだあやちゃん! 悪いんだが、あの馬鹿どもを迎えにいってやってくれないか? 俺も一応は人の親だ。藤丸の時みたいな目にはあわせたくねーからな」
藤乃叔父さんはまるで自分の子供達を心配していないような口ぶりでそう言った。叔父さんも本当は息子たちが心配なのだろうけど、若い衆の手前あまり動揺した様子は見せたくないようだ。
「迎えに行くのは構わないですけど、なんでウチなんです? 叔父さんとこの若いのに任せりゃ済む話じゃないですか?」
「そりゃそうなんだがな。菊丸の奴はどうやらうちの家業に嫌気がさしたらしい。無理矢理連れ帰ってもまた同じになりそうでな。だからあやちゃん! わりーんだけど、菊丸を言いくるめてはもらえないか? ほら、お前さんが話せば菊丸も言う事聞くだろうし」
藤乃叔父さんも大変だなとウチは思った。他の組とのイザコザならまだしも今回はお家騒動まで起きてしまっているようだ。
「わかりました。菊坊と茜を迎えに行ってきますよ! ウチもあの子らに何かあったら嫌だし」
ウチがそう言うと叔父さんは「恩に着る」と言って、札束が入った封筒を私に差し出した。
「えー、いいですよ! ただ隣の県に従兄弟迎えにいくだけで一〇〇万ももらえないです」
「いーからしまっとけ! 先立つものはいつだって必要だ。そのかわり、確実に連れて帰ってきてくれ! お前さんも気をつけて行けよ」
「んー……。じゃあありがたくいただいときますね。あの子らはウチが責任を持って連れ帰りますから」
ウチは叔父さんに門まで送ってもらった。黒服たちもぞろぞろとついてくる。
「あやちゃん丸腰で大丈夫か? 何だったら……」
「いいですよ。お気遣いなく! 叔父さんだって知ってるでしょ? ウチは丸腰で戦場に出たって死にゃしませんから」
そう言ってウチは自分のシャツの襟を捲ってみせた。ウチの首の噛み傷を見て黒服たちは後ずさった。
「そりゃあ、そうだな。お前さんは死んでも死なないような身体してるんだったな。ところで《口縄様》はどうしてる?」
「お元気だと思いますよ? 義姉さんがしっかりと毎日供物してるからきっと太ってると思います」
「それはよかった」
藤乃叔父さんはそう言って笑った。
門を出るとウチは愛車のカワサキZZRに股がった。一回実家に戻って準備してからあの子らを迎えに行こうと思う。菊丸はともかく、茜が心配だ。
あの子は喋る事ができないし、あちらでちゃんと生活できてるんだろうか? ウチは茜のことを心配しつつもZZRで走り出した。
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