深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第一話 白い灯台

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 それから社長は館内を案内してくれた。予想していたけれど設備はほぼ全て最新鋭のものだ。アンプや録音機器、撮影の機材に至るまで完全にプロ仕様。
「すごいですね」
 思わず私は小学生並みの感想を口にした。我ながら語彙力が壊滅的にないと思う。
「ありがとう。ここはねぇ。僕にとって特別な場所なんだ。まだ僕と有栖ちゃんが駆け出しだった頃にどうにか借りた建物でね」
 社長は懐かしそうに言うと照れ笑いを浮かべた。その笑顔は歳に似合わず少年のようだ。老年少年。そんな感じ。
「ずいぶんと前から使ってたんですね」
「うん。僕らがまだ二十歳かそこらの頃だねぇ。たしか有栖ちゃんはまだ高校卒業したぐらいだったかな? もう半世紀前になるけど……」
 半世紀。信じられないくらい昔だ。私には学がないので当時の社会情勢は分からない。でも少なくとも今とはまるで違っていたはずだ。
「あの……。大叔母とはどこで知り合ったんですか?」
 すっかり空気になっていた竹井くんが不意に社長に質問した。
「ん? ああ、彼女とは大学の学祭で知り合ったんだ。かなり前のことだからはっきりとは覚えてないけどね……。懐かしいなぁ。当時の有栖ちゃんはアコギで弾き語りしててね。言い歌声だったなぁ」
 かなり興味深い話だ。たしかに西浦さんは楽器の演奏が一通りできるはずだけれど、彼女が弾き語りしている姿は全く想像できない。
「なんか……。すごく意外です!」
「ハハハ、今の彼女を見たらそう思うかもね。いつからかなぁ、あの子があんなにも必死に心を殺すようになったのは……」
 社長は遠くを見つめた。おそらくは半世紀前の西浦有栖を思い返しているのだ。アコースティックギター片手に笑い合った当時の彼女を――。
 館内を一通り案内して貰った後、私たちは社長の前で自分たちの楽曲を演奏した。竹井くんは普段通りの安定したリズムを刻む。演奏している間も社長はニコニコしていた。決してプロの顔にはならない。
「はい、ありがとう。なかなか良かったよ。もう少し個性が出れば良いドラマーになると思う」
 竹井くんの演奏が終わると社長は簡潔な感想を言って立ち上がった。
「ありがとうございます」
「竹井くんの演奏はいいね。正確で思いやりのある演奏だと思う。あとはサボらず練習を続けなさい」
 社長のお褒めの言葉に竹井くんは少しだけ赤くなった。まぁ、会社の経営者に褒めらたのだから当然だろう。
「京極さんは? 腕の調子はどうかな?」
「今リハビリ中なんです。来年辺りには復帰したいですね」
「無理はしないほうがいい。まぁ、ゆっくりとリハビリしなさい。君はまだ若いんだからね」
 社長はそんな感じで終始穏やかだった。穏やかすぎて裏があると感じるほどに……。
「じゃあ、そろそろ帰ります」
「ああ、分かったよ。気をつけて帰りなさい。今日は来てくれてありがとう」
 社長はそう言うと名残惜しそうに「また来なさい」と付け加えた。
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