深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第三話 文藝くらぶ

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 次の日。私たちは祐希の家から中学校に登校した。三人並んで仲良く。傍から見たら仲良し中学生に見えるだろう。ずっと祐希は鼻歌交じりで、一緒にいるだけで恥ずかしくなる。
 祐希の話に相づちを打ちながら、私は全く別のことを考えていた。昨日出来なかったこと。冬木紫苑へのアクセス。まぁ、彼から返信が来るとは限らないけれど――。
 その日の学校生活は淡々と過ぎていった。図形の証明問題と体育の授業でできた擦り傷には多少参ったけれど大したことじゃない。それより何より冬木紫苑。それが私の胸の中心にあった。
 いつからだろう? 彼にここまで拘るようになったのは。文くら投稿始めたばかりの頃はここまで執着してなかったと思う。彼はただの人気作家の一人でしかなく、私にとっては雲の上の存在……。本当にそれだけだった。
 そんな風に授業をやり過ごす。学校のチャイムが八回繰り返された。授業終了のチャイムだ。ようやく解放される。これから部活に向かう。
 パソコン室でやる作業はいつも決まっている。電源を立ち上げ、USBから文章データを読み込む。そして執筆だ。本当は資格取得が目的のパソコン部だけれどそんなことは関係ない。(まぁ、建前でいくつかの情報処理系の資格は取ったけれど)
 パソコン部はよく言えば自由だった。悪く言えば……。まぁ無秩序で崩壊している。ある生徒は延々とネット掲示板を覗いているし、ある生徒はネットゲームに夢中だ。一応は顧問もついてはいるけれど、情報処理は門外漢なのかあまりパソコン室に顔を出さなかった。
 そんな環境だから私は好き放題できた。執筆も出来るし、自分の作品のホームページの更新だって。フリーダム。自由の国。私にとってパソコン部は天職ならぬ天部だと思う……。
 さて……。今日やる作業は三つだ。文くらの更新と自身のホームページのブログの更新。そして冬木紫苑へのメッセージ送信。
 前者の二つは一時間程度で片付いた。執筆に関して『書く』というより『タイピング』に近い。ブログもそんな感じだ。単なる作業。原文は手書きでノートに書き殴ってある。
 ネットへの更新作業を終えると思わずため息が零れた。ここからが一番大変だ。私はノートに書いておいた冬木紫苑へのメッセージのページを開いた。
 一文字一文字注意しながらメッセージを打ち込んでいく。これほど時間を掛けて文章を打つのは初めてかも知れない。内容は非常に簡単だけれどかなり言い回しに気を遣う。
 
 いつも作品読んでいます。
 大好きな作品をありがとうございます。
 心から憧れてます。
 ……。だから会って欲しいです。

 要約するとそんな内容だ。傍から見たらただの痛いファンだと思う。
 でも……。私は大真面目だった。本気だし会えるならこれからの人生の楽しみを半分を差し出しって構わない。馬鹿らしいけれど心からそう思う。
 ツイッターのDMに打ち込み送信ボタンを押すと崖から突き落とされたような感覚に襲われた。もう後戻りはできない。まな板の上の鯉。そんな気分。
 それからしばらく自身の送ったDMを眺めた。
 そして、DMに既読が付いた――。
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