深夜水溶液

海獺屋ぼの

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第三話 文藝くらぶ

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「ただいま」
 家に帰ると真っ暗な玄関に声を掛けた。どうやら両親はまだ帰ってきていないらしい。おそらくもう東京には戻っていると思う。
 廊下の蛍光灯のスイッチを押す。チカチカとグロウランプが点滅してから数秒後に蛍光灯の明かりが灯った。眩しい。反射的に目を閉じる。
 三〇分前までパソコンとにらめっこしていたせいか妙に目が痛かった。こんなことしていたら視力が落ちるな……。そう思う。
 それでも今からやらなければならないことがある。一五年生きてきて最大の出来事が目の前に迫ってきているのだ――。
 冬木紫苑へのDMの返信は思いのほか早く返ってきた。それこそ三〇分も掛からなかったかもしれない。おそらくはタイミングがあっただけなのだろうけれど、正直かなり驚いた。あの冬木紫苑と直接的にメッセージのやりとりをするのは初めてだ。
 
 ――半井先生。連絡ありがとうございます。
 
 彼の返信はそんなありふれた言葉から始まった。特に目立った言葉も言わない。あくまで普通の人。いや普通よりもずっと普通だと思う。

 ――こちらこそいつも楽しく読ませていただいております。
 私はまだまだ勉強不足なもので半井先生の美しい文章から多くのことを学ばせて貰っております。

 いちいち丁寧だ。でも不思議と嫌みったらしくは感じなかった。

 ――私も半井先生とお話してみたいです。半井先生の都合が良い日を教えていただければ調整させていただきます。

 まさかの乗り気!? と思わずツッコみそうになる。あの人気作家が私なんかと会いたがってくれるなんて夢のようだ。仮に夢だとしたら覚めないで欲しい……。それくらい舞い上がる。
 
 ――では半井先生とお会いできる日を楽しみにしております。
 冬木紫苑
 
 ……。という感じのメッセージだった。完結で簡潔。そんな内容。ある意味でビジネスライクだと思う。
 さて……。どうしたものか。いくら私の都合に合わせてくれるからといってあまりワガママは言えない。冬木紫苑に会うためなら学校ぐらいサボるつもりだし(あとから親に怒られそうだけどそれどころじゃない)まぁ何とかなるだろう。
 学校と家族の用事をリストアップする。といってもほとんどは学校行事だ。幸いなことに土日はどちらも相手空いている。冬木紫苑はなんて言うだろう? 「その日は無理です」ってあっさり返されるかもしれない。
 とりあえずだ。とりあえず送ろう。
 私は『今週末の土日は空いてます』と送った――。
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