ツキヒメエホン ~Four deaths, four stories~ 第一部

海獺屋ぼの

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ウサギとカメのデットヒート

聖子 情報は情報屋

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 私は伊瀬さんに外出する事を伝えると市内某所にある神社へと向かった。
 銚子市内の奥まった畑の間にその神社はあった。
 咲冬神社。
 まず地元民以外は来ないような小さな神社だ。
 庭には桜の樹が立っていて真冬だと言うのに花が蕾を付けている。
「こんにちはー。銚子署の泉ですー」
 私は神社の境内に車を停める。
 境内には巫女さんが一人掃き掃除をしていた。
「え? おまわりさん? え? 何でしょうか?」
 彼女はかなりテンパった様子で慌てている。
 見たところ年齢は二○代前半くらいだろうか?
「あのー……。すいません、ご主人居ますー? 私の名前言えばわかるはずです!」
「あ、はい! お待ち下さいー」
 巫女さんは箒を放り投げるとそのまま社務所まで走って行った……。
 ここの神社の神主は副業で情報屋をしていた。
 名前は咲冬桜樹。
 彼は父の古い友人で昔はよく実家に遊びに来ていた。
 彼は父の悪友で若い頃は一緒に悪さをしていたらしい……。
 五分くらい待っただろうか?
 社務所から先ほどの巫女さんが小走りで戻ってきた。
「お待たせしました! お父さ……。えーと、父が奥でお待ちしてます!」
 私は彼女に案内されて社務所へと向かった。
 それにしても慌ただしい巫女さんだ。
 ここの娘か嫁のようだけれど見るからに鈍臭い。
「やぁ聖子ちゃん! 久しぶりだなー」
 社務所に入ると神職の衣装を着た男性が私を出迎えてくれた。
「本当にお久しぶりですー! すいません急に押しかけて!」
「いやいや……。にしてもずいぶん大きくなったなー。親父さん元気してるかー?」
「ええ、父は相変わらずですねー。仕事も細々とやってるみたいなんでぼちぼちですね」
 私がそう言うと彼は懐かしそうに「そうかそうか」といって船でも漕いで居るように肯いた。
「それで? 今日はどうしたよ?」
「実はですね……。調べて欲しい事がありまして……」
 私は彼に今回ここに来た目的を話した。
 今回の事件の概要と容疑者候補について……。
「……。話はわかった。すぐに使いを出そう! そのくらいの話なら今日中には調べが付くだろうよ!」
「助かりますー。あの……。それで今回の情報料はおいくらでしょうか?」
「ハハハ! 聖子ちゃんから金はとらんよ。あとで娘に飯でも奢ってやってくれればいい! 使いに出るのは娘だし」
 それを聞いて私は不安な気持ちになった。
 あの鈍臭い娘さんを使いに出すのだろうか?
「え? さっき案内して貰った娘さんが調べに行くんですか?」
 私の不安を感じ取ったのか彼は首を横に振って笑った。
「違う違う! さっき聖子ちゃんが会ったのはウチの息子の嫁だよ。使いに行くのは娘だ! 今別件で動いてるけど、すぐに連絡してみよう!」
 私は桜樹さんによく礼を言うとそのまま署へと戻った――。

 翌日。朝一番で桜樹さんから連絡が入った。
『聖子ちゃん、調べ物終わったから娘に届けさせるよ! 今警察署か?』
「ありがとうございます! 今署内に居ます! あの、手間掛けさせても悪いので私の方から取りに伺いますが……」
『あー、いいよ! こっちもそっちに用事あるし、娘に届けさせるから! 午前中には行かせるから待っててなー』
 良い人過ぎる。気持ちが悪いくらいだ。
 でも早いに越した事はない。
 せっかくなので私は彼の好意に甘える事にした。
 ただより高い物はない気もするけど……。
 午前中はあの変態も加瀬さんも出払っていた。
 自分の仕事に没頭する事が出来る。
 あいつらが居ないだけで大分違う。
 鑑識の勇作さんと戯れながら仕事をほぼ片付ける事が出来た。
 本当に有り難い。
 仕事も片付いて喫煙所で一服していると黒いライダースーツを着た女性が単車で署の駐車場に入ってきた。
 彼女は単車を駐輪所に停めて、こちらに歩み寄って来る。
「すいません! 泉さんて刑事さん居ますか?」
「あ、私っす! えーと……。桜樹さんの娘さんすよね?」
「よかったー! 父がいつもお世話になってます! 娘の菖蒲です。頼まれてたブツ持ってきました!」
 彼女はそう言うとニッコリ笑った。
「これご依頼の品です!」
 彼女はリュックから茶封筒を取り出すと私に手渡してくれた。
「助かりましたー。なんかすいませんねー。本当はちゃんとお金払わなきゃいけないのに……」
「いいですよ! 父が金取るなって言ってたし……。またなんかあったら言って下さい! あ、一服付き合ってもいいですか?」
 彼女はポケットからタバコを取り出すと、美味しそうに吸い始めた。
「泉さんておいくつなんですか? 見たところウチと歳近そうですけど?」
「去年二九になりました。あっという間にアラサーっすよアラサー!」
「私はもうすぐ二七になります! やっぱり歳近かったですねー」
 私たちは喫煙所で世間話をしながらタバコを吹かした。
 彼女は人懐っこい笑顔を浮かべながらタバコの味を楽しんでいるようだ。
「じゃあ今度ご飯ご馳走しますね! お礼も兼ねて!」
 私がそう言うと彼女はまるで子供のように「やったぁー」と喜んでくれた。
 少しほっこりする。
 私は菖蒲さんに改めて礼を伝えて再会の約束をした。
 今度、焼き肉でもご馳走しよう……。
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