21 / 50
DISK1
第二十話 血祭り ~Bloody Festival2.0~
しおりを挟む「ではではー。大志! ジュン! 今日は来てくれてありがとう! ご心配おかけしましたけど、すっかり元気になったよー」
ウラは本当に元気になったようだ。
「よかったね! まだ腕は治らないようだから無理しないでね京極さん!」
「そだねー。まだギターの練習は厳しいけどリハビリ頑張らなきゃね!」
「ほんとだぞ! あんまり無理すんな! まずは治すのが第一だ!」
俺たちは渋谷のTSUTAYAの前で待ち合わせをしていた。
今日は『アフロディーテ』との話し合いの日だ。
正確に言えば決別の日なわけだが……。
夜空の三日月が雲間から顔を覗かせている。
その月は不吉な未来を暗示するように輝いている。
これから月の名を持つ2人が相まみえる。
俺たちは『アフロディーテ』と待ち合わせしている音楽スタジオへ向かった。
渋谷の人の波に乗りながら道玄坂の交差点を進む。
スタジオに着くと受付に話を通して奥の個室へと案内してもらった。
部屋に入る前に俺はウラに確認をする。
「ウラ、お前大丈夫か?」
俺は彼女が心配になり、そう声を掛けた。
「この前千賀子と飲んだとき言ったでしょ? もう後悔とかしねーから大丈夫だよ!」
俺の心配とは裏腹に彼女はそう言い放つ。
「ならいいけど……。やっぱ荒れるだろうな……」
「ハハハ、大志こそ怖気づいた?」
正直、俺は怖かった。
いや、怖いという表現は正しくない。
正確な言葉が見当たらないが、不安であることは間違いないと思う。
今からあの『アフロディーテ』を敵に回すわけだ。
そんなすんなり行ける気はしない。
「まぁ今更だよな! お前が決めたことに俺らは従うだけだ! それに最初に辞める様に動いちまったの俺の方だしさ」
「そうそう! お陰様でブラックパンクバンド様から脱出だよ!」
すっかりウラは3年前の彼女に戻っているようだ。
恐れや辛抱とは無縁の自由人。最高で最低の酷い女。鴨川月子とは違う意味で……。
話し終わると俺たちは『アフロディーテ』のメンバーのいる個室のドアに手を掛けた。
「おいでやす」
ドアを開けると正面に月子さんが座っていた。
彼女はテーブルの中央に座って腕組みし、偉そうにふんぞり返っている。
彼女を挟むように左側に亨一さん。
右側には知らない男が座っている。
健次さんと充さんの姿はない。
「お疲れ様です! 月子さん忙しい中時間取らせて申し訳ないです!」
「ほんまやで! ウチかてやることぎょーさんあるのにまったく困るわ!」
月子さんは笑いながらそう言うと俺たちに座るように促した。
「あの、健次さんと充さんは……?」
「ケンちゃんたちはけーへんよ? あの2人来るとややこしくなるからなぁー。冷静な亨一と瀬田君だけに来てもろたで」
瀬田……? 俺は一瞬思考停止したが、すぐにその見知らぬ男が誰なのか理解した。
ウラが話していた陰湿野郎だ。
「じゃあ、ちょっと話し合い始めようか? 今回はウラちゃんが俺らのバンドの手伝いを辞めたいってことでいいのかな?」
亨一さんは穏やかな口調で口角の上がった笑顔を浮かべた。
眼は欠片も笑っていない。
「はい! 今まで『アフロディーテ』の皆さんにはすごくお世話になったんですが、今回月子さんの付き人をを卒業しようと思っています!」
「ふんふん、そっかー。ウラちゃんよくやってくれるし、俺としては辞めちゃうのは嫌かなー……。月ちゃんはどう?」
亨一さんはわざとらしく月子さんに話を振った。
彼は一見すると優しくて理解がある人間のように見える。
でも実際は恐ろしく冷静で、組織の利益を最優先する男なのだ。
そんな彼だからこそ、鴨川月子という女をどう扱うかは理解している。
「はっきり言うけど、ウチは反対やで! 今までウラちゃんには頑張ってもろたのにこんなところで辞めるなんてもったいない……。ケンちゃんかてウラちゃんのこと心から可愛がっとるしな! 瀬田君もそう思うやろ?」
話を振られた瀬田は少し考えてから口を開いた。
「そうですね……。ウラちゃんは頑張り屋だし、才能もあるんだからもっと『アフロディーテ』で経験積んだ方がいいんじゃないかな? これまでだってやって来れたし、俺だってサポートするからさ!」
瀬田はそう言うと人懐っこそうな笑いを浮かべた。
反吐が出る。
俺は心の中でそう呟いた。
こいつらはウラを粉々に砕いた張本人なのだ。
彼らはまるで他人事のようにウラを気遣うフリをしている。
控えめに言ってぶっ飛ばしてやりたい。
「あの! 月子さん、瀬田さん! 気持ちはすごく嬉しいです! でも決めたことなので!」
ウラは躊躇なく断言した。
「そっかー。ウラちゃんの気持ちがそこまで固いのなら俺からは言うことはもう何もないよ。ケンちゃんとみっちゃんもウラちゃんの意思に任せたいって言ってたしねー」
亨一さんの表情に変化はなかった。まるで最初から答えを知っていたかのようだ。
「ウチは認めへんで!! なんでなんウラちゃん!? 今までだってやってこれたんやからこれからもやってけないわけないやろ!?」
月子さんは食い下がってウラの手を握る。
手には年齢を称えるような皺が寄っていた。
「月子さん! 本当に今までありがとうございました! 本当に感謝しています。私がここまでやって来れたのは『アフロディーテ』の……。月子さんのお陰だって心からそう思います! 本当にお世話になりました!」
ウラは最後のダメ押しとばかりに月子さんの手を振りほどいた。
ウラの顔には笑みが浮かんでいる。
「嫌や……」
「月子さん……。本当にごめんなさい」
「嫌やで……」
「あの……」
「嫌やゆーとるやろがい!!!!!」
急に月子さんはウラの胸ぐらに掴みかかった。
俺とジュンは瞬間的に月子さんを抑えに掛かる。
「なんでや!? ウチがそんなに嫌か!? これからもずっとウラちゃんはうちの隣におらなあかんねん!! 居なくなるなんて許さへん!!!!」
月子さんは半狂乱になりながらウラに縋り付いた。
目は赤く、涙が滝のように流れ落ちている。
その涙でアイシャドウは落ち、顔がぐちゃぐやになっている。
その顔はもういつも彼女ではなかった。
そこに居たのは年相応の1人の女だけだ。
その間、瀬田は月子さんを必死に制止しながら彼女を宥め続けていた。
ざまーみろ。と心の中で思う。
俺たちは亨一さんに連れ出される形でスタジオから脱出した。
「わかったよウラちゃん! 今回はウラちゃんの意思を尊重するってのが『アフロディーテ』の答えだから辞めたければ辞めて構わない! 今までありがとうね。月ちゃんのことは俺がどうにかするから大丈夫だよ!」
亨一さんまるで旅立っていく娘を気遣う父親のように見えた。
「亨一さん! 本当に今までお世話になりました! あの健次さんと充さんは……」
「ああ……。あの2人は大丈夫だよ! なんだかんだウラちゃんのこと信頼してるからね! それに……。このまま『アフロディーテ』の付き人してたらウラちゃんも壊れちゃいそうだしさ……。正直、俺はホッとしてるかなー。月ちゃんには申し訳ないけどね」
亨一さんは苦笑いを浮かべながらそう言うと、俺とジュンの方を向いた。
「大志君、ジュン君! これからウラちゃんのことよろしく頼むよ! きっと月ちゃん落ち着いたら、惨い事すると思うからさ! 俺たちもできれば協力してあげたいけど、『アフロディーテ』の法律は月ちゃんだからどうしようもないんだ……」
「大丈夫っす! 亨一さん今日は本当にありがとうございました! 月子さんのことは最初から覚悟済みだから本当に大丈夫です!」
俺は強がり半分で亨一さんにそう言ったが、彼は渋い顔をしていた。
「あのー、佐藤さん……。すいません。鴨川さんがヤバいんですけど……」
個室から瀬田が顔を覗かせて亨一さんを呼んだ。
「今行くよ! つーか瀬田君? 君もウラちゃんには世話になったんだから挨拶ぐらいちゃんとしなよ! もう会わないかもしれないんだからさ」
亨一さんが月子さんを宥めに行ったあと、ウラは瀬田と話をした。
俺とジュンは察してその場から離れる。
「ねぇ大志? 俺の勘だけどさ、あの瀬田さんって人京極さんと恋仲でしょ?」
「みたいだな」
さすがジュンだ。あの2人の様子を見ただけでそれを察したようだ。
「まったく大変だったねー。月子さんあんなだしさ……。京極さんも相当……。彼女の言い方を借りるなら『クソビッチ』だしさ……」
「何が言ぃてーんだよ?」
「見た感じ、あの瀬田さんって人かなり曲者だよね? なんか俺と同じ匂いがする。きっと彼かなりのゲス野郎だと思うよ?」
ジュンはとにかくそういうことに関しては鼻が利いた。
ジュンから見たら俺は相当鈍感なのだろうと思う。
少しするとウラが晴れやかな表情で俺たちのところに戻ってきた。
「お待たせー。じゃあ帰ろうかー?」
ウラは何事もなかったかのようにそう言った。
俺たちがスタジオを出ると夜風が酷く冷たかった。
街を行きかう人々は一様にコートやダウンを厚着している。
「あーあ、スッキリしたらお腹すいちゃったよー! ねー? ご飯食べてかなーい?」
「そうだな……。つーかお前大丈夫だったのかよ? 月子さんのこともそうだけど、さっきの……」
俺はそこで言葉を濁した。
「うん! お陰様で!」
ウラはそれだけ言ってそれ以上何も語ろうとはしなかった。
どうやら吹っ切れてしまったらしい。
もう瀬田のことなどどうでもいいのだろう。
「この前のボウリングの罰ゲームまだだったしさー。今日は私がおごっからね! 焼肉でもなんでもいーよー! 焼肉とか! 焼肉とか! 焼肉とかね!」
やれやれだ。あんだけ死にかけていたのに今はただ焼肉を食いたいだけのようだ。
俺とジュンは彼女の言う通り、焼肉に行くことにした。
女王様は焼肉をご所望だ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる