純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第一章 樹脂製の森に吹く涼しい風

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 帰り道。私は水貴と浩樹の後ろから着いていった。彼らは普通にゲームや漫画の話で盛り上がっている。
「川村さんはなんかゲームとかする?」
「ゲームはしないかな……。家にはゲーム機ないからさ」
「そっかぁ。じゃあ今度うち来なよ! 水貴とマリカー大会してるけど楽しいよ」
 浩樹は楽しそうに言うと、水貴に「な?」と同意を求めた。
「そうだね。いつも浩樹とばっかだから他の人とやりたいかな……」
「な? 水貴も言ってるし川村さんがよければやろーよ」
 浩樹の好意には押しつけがましさはなかった。あくまで提案する……。そんなニュアンスだ。
「うん! ありがとう。じゃあ今度お邪魔するね」
「よっしゃ! これでマリカー仲間できたなぁ」
 おそらく浩樹は私たちとクラスメイトとのやりとりを見ていたのだろう。彼の言葉の端々には「気にするな」という意味が込められているように聞こえた。その気遣いにはある種の職業的なものを感じた。気遣いを気遣いと気づかせないための工夫があるように……。
「そういえば川村さんは部活入るの? うちの学校は強制じゃないけどさ」
 水貴は思いついたように言うと、うなじをボリボリ掻いた。
「そうだね……。今のところは考えてないかな。前の中学では吹奏楽部と文芸部の掛け持ちだったからやるならどっちかだと思うけど」
「そっか。あとで鈴木先生に聞いてみるといいよ。あの人あんな風でも面倒見いいから相談に乗ってくれると思う……。僕は部活入ってないんだけどさ」  
 部活……。全く考えていなかった。京都ではあの子がいたから吹奏楽部に入ったけれど、こちらでわざわざ入る必要はないかもしれない。もし入るとすればそれはあくまで惰性だと思う。
「川村さん思ったよりアクティブなんだね。俺は掛け持ちとかしないからすげーと思うよ。あ、ちなみに俺はサッカー部だよ。幽霊部員みたいなもんだけどね」
「うーん。本当はね。文芸部一本でいきたかったんだけどね……。あっちの中学だと文芸部は賞の応募期間しか活動しないから掛け持ちになってたんだ。だから吹奏楽部がメインだよ。文芸部は期間限定」
 インスタントな文芸部員。そんな感じだったと思う。別に文芸部にいなくても執筆には支障はなかったけれど、形式上入部したのには訳がある。部に入部していると応募できる賞もあったし、何より部員同士で校正校閲し合えるのはありがたかった。どうしても自分の書いた作品だと目が滑ってしまうから。
「うちの中学にも文芸部あればいいんだけどさー。残念ながらないんだよね。作れなくはないだろうけど……」
「うん。大丈夫。文化部ってあるのとないのがあるよね。入るなら普通に吹奏楽部入ると思うからさ」
 相変わらず水貴の口数は少なかった。祖母の喫茶店であれほど饒舌だったのに学校ではかなり寡黙だ。
 水貴と浩樹……。二人の男の子は本当に対照的だ。水貴は寡黙で思慮深く、浩樹は活発で楽天的。そんな印象を覚えた。本当のところはまだ分からないけれど。
 二子玉川駅近くのマクドナルドはとても混み合っていた。地元の学生や住民たちが列を作っている。
「あーあ、やっぱりな。オープン当日だもんな」
「そうだよね。店内は厳しいかも……」
 外から見ても店内が満席なのは分かった。入店率一二〇パーセントは超えていると思う。
「そしたさ。とりあえず買って帰ろうか? 俺んちこの近くだしさ」
 そう言うと浩樹は列の最後尾に並んだ。私と水貴も同じように並ぶ。店内からは油の匂いがする。ポテトがフライヤーから大量に取り出されて塩を振りかけられていた。
「お腹すいちゃうね」
「うん。あーあ、腹減ったよ」
 私と浩樹の横で水貴は黙ってうつむいていた。どうやら彼は人混みが苦手らしい。
 マクドナルドの店員は必死に働いていた。カウンターでは次から次へと注文を取り、奥では必死にハンバーガーとポテトを作っている。
「水貴はモヤシなんだからしっかり食えよー。小食過ぎんだからさ」
「ああ、分かってるよ。どうも胃腸が弱くてね」
「お前はもっとスポーツしたほうがいいんだけどなー。ま、苦手だろうけどさ」
 浩樹の言い方は皮肉というよりは心配に近いように聞こえた。たしかに水貴は私と体型があまり変わらないくらいだし、少しは食べた方がいいかもしれない。
 二人と一緒にいると不思議と安心できた。まだ今日で二回目だというのにそう感じる。
 ハンバーガーのジャンクな匂いを嗅ぎながらそんなことを思った――。
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