純文学のブックマーク ~栞と五人の文芸部員~

海獺屋ぼの

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第二章 ニコタマ文芸部

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 一九九四年四月。東京都世田谷区某所。
「あら、新しい制服もかわいいわね」
 リビングで作業してる母は私の姿を見つけると興味深そうに制服を眺めた。
「ありがとう。まだ全然馴染まないけどね」
「ま、新学期頑張ってね。入学式いけなくてごめんね」
「いいよ。仕事のほうが大事でしょ?」
 母は「うーん」と眉間に皺を寄せて苦笑いした――。
 新学期。そして新しい学校への初登校だ。着慣れない制服のせいか、気持ち妙にそわそわしている。
 私たちは先月上旬に瀬田中学校を卒業した。幸か不幸か、私たち四人は同じ高校への進学することになった。どうやら水貴と浩樹はまだ腐れ縁が切れないらしい。楓子も同じ高校に行けて良かったと思う。まぁ、彼女は「一緒だね」としか言わなかったけれど。
 桜が咲いている。ピンク色の花びらが道路に散らばり、車が通るたび舞い上がった。あれほど寒々しかった冬もだいぶ遠ざかったように感じる。
 気がつけばすっかり東京の暮らしにも慣れた気がする。水貴と一緒に執筆し、楓子と一緒に絵を描き、ときどき浩樹にからかわれる。そんなありふれた日常に私はすっかり溶け込んでいた。それはまるでコーヒーに入れたミルクみたいに。
 自転車で通学路を走る。通学していると瀬田中の新一年生と思われる子たちとすれ違った。初々しい。彼らを見て少しだけ微笑ましい気持ちになった。私だって大人から見たら初々しく見えるのだろうけれど。
 桜の花びら。優しい風。穏やかな日差し。そのすべてが心地良い。
 高校へたどり着くまで私はその空気は肌で目一杯感じた――。

「おはよう」
 高校の正門で水貴と浩樹が待っていた。彼らも真新しい制服を着ている。気のせいか、浩樹は中学の頃よりずっと大人びて見える。水貴は……。良くも悪くも変わらない。
「おはよう! 今日からもよろしくね」
「うん。クラス分け表一緒に見に行こう!」
 高校の正門近くには新入生が集まっていた。どうやら掲示板にクラス分け表掲示されているらしく、みんな食い入るように自分の名前を探している。
「あ! 楓子ちゃんおはよう」
「おはよう栞」
 楓子はいつもと変わらぬ調子だ。見た目こそ多少変わったけれど、彼女の中身はまったく変わっていないと思う。
「楓子ちゃん何組だった?」
「三組だよ。栞と一緒みたいだね」
「え!? やったー!」
 どうやら楓子は私と同じクラスのようだ。
「うん。一年間よろしくね」
 それから私たちはクラス分け表を見た。楓子の言うとおり私は三組のようだ。
「僕は二組か……。浩樹は何組かな?」
「お! 俺も二組だな。やっぱり腐れ縁みたいだね」
 どうやら綺麗に男女でクラス分けされたらしい。
「川村さんとはクラス離れちゃったね」
「そうだねー。まぁ仕方ないよ。それより文芸部あるのかな? なかったらまた作らなきゃだけど」
 瀬田中文芸部は残念ながら私たちの卒業と同時に廃部になっていた。新入部員もいなかったし仕方ないけれど少し寂しく思う。鈴木先生も「寂しくなるわー」と言っていたし本当に名残惜しい。
「どうだろうね……。あとで先生に聞いてみよう」
「うん! なかったらまた作ろうね!」
 また作ろう。二年前だったらそんな風には思わなかったと思う。でも今の私にとって文芸部は大切な居場所になってしまったのだ。大切な……。そしてかけがえのない場所に。

 その日は入学式と簡単なホームルームだけで終わった。特に変わったこともない。
「栞さぁ。帰りちょっと付き合ってくれない?」
「いーよー。どこ行くの?」
「世界堂行きたいんだよね。画材欲しいんだ」
 新宿の世界堂か……。しばらくいっていない。そう思った。何度か楓子に付き添っていったけれど、あの場所の空気感が私は好きだった。絵の具や筆を見ているだけで楽しいし、何より楓子の笑顔を見られる数少ない場所だと思う。
「うん。行こう! 新宿ひさしぶりだなー」
「そうだよね。じゃあお願い」
 そう言うと楓子はほっとしたようにため息を吐いた。
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