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第二章 ニコタマ文芸部
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御堂火憐の話の続き。
順風満帆。そう信じていた。吹いているのは追い風で私はただ前を見て進めば良いだけ。現実はそうはいかなかったけれど……。
「あれ? ない……」
私たちがロッカールームで話していると二年生の姫野先輩がバックを漁りながらそんなことを言った。彼女は必死にロッカーとスポーツバッグを探っている。
「姫っちどうしたの?」
一緒に着替えていた美由紀先輩が姫野先輩に声を掛けた。
「財布がないんだよ……」
「えー! ちゃんと探したの?」
どうやら姫野先輩の財布が見当たらないらしい。
「うん……」
「ちゃんと持ってきたの? 家に忘れたとかじゃない?」
「違うよ! 今日は定期買うから確認したもん。……。三万入ってるのに……」
「そっか……。じゃあ……。みんなー! 姫野さんが財布なくしちゃったみたいだから探すの手伝って!」
それから姫野先輩の財布の捜索が始まった。ロッカールーム、教室、廊下、グラウンド……。部員総出で探し回る。
小一時間ほど探しただろうか。夕焼け色だった空はすっかり暗くなってしまった。
「どうしよう……」
姫野先輩は暗い顔でため息を吐いた。まぁ、高校生にとって三万円は大金だから当然だろう。
「こんだけ探してないとか……。姫っちどうする? 明日にする?」
「うーん……。一応持ち物検査できないかな?」
姫野先輩はそう言うと訝しげそうに私たちの顔を見渡した。その視線には明らかな疑いが込められているように感じる。
「持ち物検査ねぇ……。まぁ、いいでしょ。みんなー! 悪いんだけどバッグ見せて」
美由紀先輩はそう言うと部員全員の持ち物検査を始めた。 ひとつ、またひとつとバッグの中身があらためられていく。
「じゃあ火憐もバッグ出して」
「はーい」
促され私も自身のスポーツバッグを美由紀先輩に手渡した。
「えーと……」
私のバッグを開いた瞬間。美由紀先輩が一瞬固まる。顔は強ばり、手は震えている。
「どうしました?」
「火憐……。これなに?」
美由紀先輩は私のスポーツバッグからピンクの長財布を取り出した。見覚えのない財布。
「へ? それ私のじゃないです」
「そう……」
美由紀先輩はため息を吐くと姫野先輩のその財布を差し出した。
「これって? 姫っちのだよね?」
「そう! そうだよ」
その反応を見て私の頭は一瞬にして真っ白になった。なぜ私のバッグに? 当然、身に覚えなんてない。
「御堂さん! これどうゆうこと? あんたが盗ったの?」
「ち、違います!」
「じゃあこれはどうゆうこと? え?」
姫野先輩が私に詰め寄る。目が血走るなんて表現があるけれど、本当に彼女の目には赤い筋が浮かんでいた。
「姫っち落ち着いて! 火憐……。これはさすがにまずいよね……」
美由紀先輩は深いため息を吐くと、悲しい目で私を見つけた――。
翌日。私は職員室に呼び出された。担任と部活の顧問、あとは教頭先生に個室に通された。
要件は分かっている。昨日の件だろう。私は自分の身の潔白を訴えることしかできなかった。まぁ、潔白を証明する手段なんてないのだけれど……。
その日から私は部活に行くのが苦痛になった。姫野先輩だけならまだしも他の部員も私の顔を見ると顔をしかめた。
そんなことが一週間ほど続いた後、私はトラック競技中に誰かに突き飛ばされたのだ。誰か……。それは分からない。
分からないというとおかしいかもしれないけれど、本当に分からないのだ。私以外の部員はみんな、それが誰かは知っているはずなのに誰もそのことについて言及しなかった。
だからなのだろう。あれほど楽しかった「走る」という行為が苦痛に変わった。もういいかな。そんな風に思うようになっていった――。
順風満帆。そう信じていた。吹いているのは追い風で私はただ前を見て進めば良いだけ。現実はそうはいかなかったけれど……。
「あれ? ない……」
私たちがロッカールームで話していると二年生の姫野先輩がバックを漁りながらそんなことを言った。彼女は必死にロッカーとスポーツバッグを探っている。
「姫っちどうしたの?」
一緒に着替えていた美由紀先輩が姫野先輩に声を掛けた。
「財布がないんだよ……」
「えー! ちゃんと探したの?」
どうやら姫野先輩の財布が見当たらないらしい。
「うん……」
「ちゃんと持ってきたの? 家に忘れたとかじゃない?」
「違うよ! 今日は定期買うから確認したもん。……。三万入ってるのに……」
「そっか……。じゃあ……。みんなー! 姫野さんが財布なくしちゃったみたいだから探すの手伝って!」
それから姫野先輩の財布の捜索が始まった。ロッカールーム、教室、廊下、グラウンド……。部員総出で探し回る。
小一時間ほど探しただろうか。夕焼け色だった空はすっかり暗くなってしまった。
「どうしよう……」
姫野先輩は暗い顔でため息を吐いた。まぁ、高校生にとって三万円は大金だから当然だろう。
「こんだけ探してないとか……。姫っちどうする? 明日にする?」
「うーん……。一応持ち物検査できないかな?」
姫野先輩はそう言うと訝しげそうに私たちの顔を見渡した。その視線には明らかな疑いが込められているように感じる。
「持ち物検査ねぇ……。まぁ、いいでしょ。みんなー! 悪いんだけどバッグ見せて」
美由紀先輩はそう言うと部員全員の持ち物検査を始めた。 ひとつ、またひとつとバッグの中身があらためられていく。
「じゃあ火憐もバッグ出して」
「はーい」
促され私も自身のスポーツバッグを美由紀先輩に手渡した。
「えーと……」
私のバッグを開いた瞬間。美由紀先輩が一瞬固まる。顔は強ばり、手は震えている。
「どうしました?」
「火憐……。これなに?」
美由紀先輩は私のスポーツバッグからピンクの長財布を取り出した。見覚えのない財布。
「へ? それ私のじゃないです」
「そう……」
美由紀先輩はため息を吐くと姫野先輩のその財布を差し出した。
「これって? 姫っちのだよね?」
「そう! そうだよ」
その反応を見て私の頭は一瞬にして真っ白になった。なぜ私のバッグに? 当然、身に覚えなんてない。
「御堂さん! これどうゆうこと? あんたが盗ったの?」
「ち、違います!」
「じゃあこれはどうゆうこと? え?」
姫野先輩が私に詰め寄る。目が血走るなんて表現があるけれど、本当に彼女の目には赤い筋が浮かんでいた。
「姫っち落ち着いて! 火憐……。これはさすがにまずいよね……」
美由紀先輩は深いため息を吐くと、悲しい目で私を見つけた――。
翌日。私は職員室に呼び出された。担任と部活の顧問、あとは教頭先生に個室に通された。
要件は分かっている。昨日の件だろう。私は自分の身の潔白を訴えることしかできなかった。まぁ、潔白を証明する手段なんてないのだけれど……。
その日から私は部活に行くのが苦痛になった。姫野先輩だけならまだしも他の部員も私の顔を見ると顔をしかめた。
そんなことが一週間ほど続いた後、私はトラック競技中に誰かに突き飛ばされたのだ。誰か……。それは分からない。
分からないというとおかしいかもしれないけれど、本当に分からないのだ。私以外の部員はみんな、それが誰かは知っているはずなのに誰もそのことについて言及しなかった。
だからなのだろう。あれほど楽しかった「走る」という行為が苦痛に変わった。もういいかな。そんな風に思うようになっていった――。
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