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6 七つ星弾幕シューティング

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 多賀木さんはそこまで話すと深いため息を吐いた。
「そのあと、大志が京極さんを説得して新しいドラムを探す事になったんだ。京極さんは未だに納得はしてないけれどね」
「そうだったんですね……。でもなんで僕なんですか? 高嶺さんの話だと他に一〇人くらい居たんでしょう?」
「それは俺にもわからない……。正直な話をするとね? 今回も駄目だろうなーって思ってたんだよ。今まで紹介されたドラマーもみんないい腕してたからね。でも京極さんは認めなかった。全員何かしら理由を付けて断ったんだ」
 そう言うと多賀木さんは今まで『バービナ』と顔合わせしたドラマーのリストを見せてくれた。
 リストにはバンド活動を離れていた僕でさえ知っている名前が何人か居た。
 インディーズバンドで売れていたドラマーがほとんどだ。
「あの多賀木さん? このメンバー見た感じですけど、明らかに僕よりキャリアがあって腕の良い人たちですよね?」
「ああ、そうだよ。その一〇人は僕が西浦さんと相談して選んだメンバーだから決して悪くない人たちなんだ。こう言ってはなんだけど、君よりうまい人だっていると思う」
 多賀木さんは酷いくらい正直な人だ。音楽に関してはきっと妥協しないのだろう。
「だとすると余計理解出来ないですね……。こんな風に言うのはどうかと思いますが、僕と高嶺さんはきっと相性悪いと思うんですよ。話した感じでそれくらいはわかります。正直、一緒に活動するには問題だらけかと……」
 僕は率直な意見を言った。率直すぎる意見。
 包み隠しても良い事なんて何一つ無いだろう。この場合は。
 それを聞いた多賀木さんは「フッ」と軽く吹き出した。
「いいね……。京極さんが君の事を選んだ気持ちが少しだけ分かる気がするよ……」
 多賀木さんは今までとは違う笑みを浮かべた。
 嘲笑でも苦笑でも無いけれど、どことなく居心地の悪い笑みだ。
「どういう意味ですか?」
「ああ、気にしないで良いよ……。言葉にはうまく出来ない話だからさ。とにかくさっきの話を聞いてどうするか判断してくれれば良い! 一週間後にまた答え聞かせてもらうからさ!」
「わかりました……。その前に一つお願いが……」
 僕は多賀木さんに一つお願いをした。
 さすがにこれから一緒に活動するなら確認しなければいけないだろう。
 最後の『バービナ』のメンバー、高嶺七星について。

 翌日。
 僕は『バービナ』の七星くんに会うため、渋谷のゲームセンターを訪れた。 多賀木さんにアポを取ってもらい、彼に予定を合わせてもらったのだ。
 ゲームセンターは一○代らしき若者でごった返している。
「竹井さーん!」
 僕がゲームセンターをうろうろしていると、七星くんが手を振りながら声を掛けてきた。
「急にごめんねー! これからバンド組むから一回話しておきたかったんだ」
「いいっすよー! あ、なんかゲームします?」
 彼はいかにも今ドキの学生と言った感じだ。
 軽く適当そうで、遊ぶのに忙しそうに見える。
「そうだね……。じゃあシューティングでもやろうかな……」
 僕は普段はあまりゲームはしない。(ゲームより読書に時間を割いていた)
 唯一プレイするのはシューティングゲームくらいだろう。
 ジャンルで言うと弾幕シューティングと呼ばれるゲームだ。
 弾幕シューティングは通常のシューティングゲームと違って、的を打ち抜くというよりも敵弾を避ける要素が強いゲームだ。  
 アーケード機の筐体の前に座ると七星くんが向かいの席に座った。
「せっかくなんでお手合わせお願いします! 俺も弾幕好きなんすよ!」
「構わないよ。じゃあ始めよう……」
 僕がゲーム機にコインを投入すると同時に七星くんもコインを入れた。
 対戦開始だ――。
 ゲーム内容はどちらが長い間、敵弾を避けられるかというものだ。
 雰囲気としては耐久戦に近いと思う。
 僕はPCでプレイする時と同じように淡々と敵弾の軌道を予測しながら弾を避けていった。
 こうして弾を避けていると気持ちが良い。
 弾幕には誘導弾(自機目掛けて飛んでくる弾)と固定弾(一定法則に従って画面に広がる弾)がある。
 この二種類の弾幕の動きを瞬時に判断しながら避けるのがたまらなく快感だった。
  五分くらいプレイするとゲーム画面に「YOU WIN」と表示された。
 どうやら七星くんが着弾してしまったらしい。
「あー!! 悔しい! コンテニューっす!!」
「いいよ」
 よほど悔しかったのか、七星くんはすぐにコンテニューコインを投入した。
 それからの七星くんは一〇〇円玉を投入する機械のようだった。
 何回プレイしても僕よりも早く着弾し、ゲームオーバーになる。
「もういっちょ!!」
「ねぇ七星くん? そろそろやめといた方がよくない? 一〇回はコンテニューしてるよ?」
「お願いします! あと一回だけ!」
 僕は半ば呆れながらも泣きの一回を受けた……。
 やはりというか、案の定というか、七星くんは僕に完敗だった。
 謙遜する訳ではないけれど、僕だってそこまで弾幕シューティングが上手い訳ではない。
 はっきり言って七星くんが弱すぎるのだ。
「あー……。なんかごめん……」
 七星くんはあからさまに肩を落としている。
 こんな事なら負けてやれば良かった……。深刻な忖度不足。
「……。竹井さん、もう一回だけ……。どうっすか? ねっ?」
 やれやれだ。
 僕もさすがに面倒臭くなってしまった。はっきり言うしかない。
「……ごめん、もうやりたくない」
 
 僕たちはゲームセンターを出ると、近くのマクドナルドへ向かった。
 とりあえず、七星くんの話を聞かなければいけない。
「俺クーポンありますよー。竹井さん何にします?」
 七星くんはケータイクーポンの画面を僕の前に差し出した。
「そうだねー……。じゃあ六六五番で!」
「了解っす!」
 七星くんは慣れた感じで店員にハンバーガーを注文した。
「一階はいっぱいみたいですねー。したら、二階席に行きましょー」
 どうやら七星くんはこの店に良く来るらしい。
 店内の配置もよく理解している。
「七星くん、よく渋谷には来るの?」
「来ますよー! ウラちゃんと遊ぶ時はだいたい渋谷っすから!」
「へー、高嶺さんとよく遊ぶんだ!」
 少し意外だった。
 従兄弟同士とは知っていたけれど、そんなに頻繁に遊んでいるとは思わなかったのだ。
「ねえ七星くん? よかったら『バービナ』の話聞かせてもらえないかな? 特に高嶺さんの話は気になるんだ」
「いいっすよー! 俺に分かる事なら何でもお答えしまーす」
 僕は七星くんのその言葉に少し安心し、彼から情報を貰う事にした……。
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