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7 そして彼らは大志を抱く
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マクドナルドの二階の席は半分くらい埋まっていた。
渋谷という土地柄なのか高校生や大学生が多い。
「七星くんはギター歴長いの?」
僕はまず彼の音楽歴について聞いてみた。
「俺っすか? えーと……。中学入った年からだから六年ちょいですね!」
「けっこう長いねぇ。誰かに習ったの?」
「完全に独学っすねー。色んなバンドのコピーで練習してきました」
彼の演奏スタイルからコピーでギターを覚えたという事は推察できた。
彼とセッションした時の雰囲気でそんな風に感じたのだ。
感覚とセンスだけでギターを覚えたタイプなのだろうと思う。
完全にフィーリングに依存してギターを演奏している。
言い換えれば、努力というより才能で演奏が出来ているのだろう。
「なるほどねー。ああ、この前はセッション出来て楽しかったよ……。良かったら、僕のドラムの感想聞かせてもらえるかな?」
僕が訊ねると七星くんは眉間に皺を寄せて何やら考え始めた。
その表情はどことなく高嶺さんに似ている。
「すいません。俺って音楽の知識と語彙力がないのでうまく言えないんすけど……」
「構わないよ! 君の言葉で言ってさえくれれば良い」
彼は長めのフライドポテトを口にくわえながら再び眉間に皺を寄せた。
「そうっすね……。すごく正確だってのはわかりました。ジュンさんともリズムが合ってたし、俺自身もギター弾きやすかったなーって思います」
その言葉をひねり出すのだけで七星くんの頭からは湯気が上がっているようだ。
どうやら考えるのがあまり得意なタイプではないらしい。
僕は少し意地が悪いと思いながら一番聞きたかった事を質問する事にした。
「君から見て松田大志さんと僕はどっちがやりやすかった?」
「え? 大志さん知ってるんすか?」
「名前だけはね……。一応、君たちが演奏しているところは映像で見たけれど、面識はないかな」
大叔母から話をもらった時点で、各バンドメンバーの演奏は確認してあった。
当然、松田さんもチェックしていたけれど、七星くんからの生の声が欲しい。
「どっちか……。難しい質問ですね……。二人とも良いところがあるので選びようがないです」
七星くんは難しい顔をしながら頭をボリボリと掻いた。
「ごめんね、じゃあ質問を変えるよ。松田さんてどんな人だった」
「大志さんは……。すごく頼りになる兄貴って感じの人でした! 時々、怖いと思う事もありましたけどいつも俺の事庇ってくれたし、ウラちゃんも大志さん大好きでしたからねー」
それから七星くんは嬉しそうに松田さんの話をしてくれた。
七星くんからすると、松田さんはバンド活動していく上での心の支えだったようだ。
『バービナ』はメンバー全員個性が強すぎるらしく、それをうまい事まとめていたのが彼だったらしい。
特にヴォーカルの高嶺さんは暴れ馬のようで松田さん以外の人間の意見をまず聞かなかったようだ。
「だから大志さんがあんな事になって、ウラちゃんかなりショック受けてるんですよ。本人は強がってますけどね」
僕は七星くんの話を聞きながら彼らの人間関係を頭の中で整理していた。
高嶺さんはバンドの華で作詞作曲までこなすけれど気分屋で融通が利かない。
多賀木さんは常に冷静にバンドの方向性を考えるけれど自分の意見を言わない。
七星くんは……。まあこんな感じだ。
そう考えると、松田さんが『バービナ』でどれだけ大きな役割を担っていたかを伺い知る事ができた。
正直な話。松田さんのバンドマンとしての腕は中の下ぐらいだと思う。技術的には僕にも及ばないし、アマチュアでも彼以上のドラマーは山ほどいる。
だけれど『バービナ』にとって彼以上のドラマーは居なかったのだろうという事は察する事ができた。
「じゃあ松田さんがあんな事になって辛かったよね……」
「そうっすね。態度に出さないですけれど、ジュンさんもかなり動揺してると思います。あの人は大人なんでおくびにも出さないですけどね」
「たしかに……。多賀木さんはそういう人っぽいもんねー。ねぇ七星くん? 高嶺さんは実際どう思ってるのかな?」
僕は文脈を無視するように思った事を聞いてしまった。
七星くんの頭の上にクエッションマークが浮かんでいるのが見える。
「ウラちゃんが? なんすか?」
「ああ、ごめんごめん。いやさぁー、僕これから一緒にやっていくからさ……。そんなに松田さんが大事だったのなら僕が入る事どう思うのかなーって……」
自分から言っておきながら漠然とした質問だ。
それに聞く相手が間違っている気がする。
「そうっすね……。でもウラちゃんは竹井さんの事、褒めてましたよ?」
「え? 褒めてたの?」
「そうっす! 『やっと生きの良い子が見つかった』って多賀木さんに話してましたからねー」
果たして生きが良いだろうか?
どちらかというと僕は大人しい気がするが……。
「へー意外だなー。てっきり僕は嫌われてるものかと……」
「嫌いだったら一緒にやろうとは思わないっすよ! ウラちゃん不機嫌そうにしてますけれど、実はツンデレなんすよ!」
そういうモノだろうか?
七星くんの話は何となく僕とは感性がズレている気がした。
七星くんはそれから高嶺さんの話を色々してくれた。
内容はともかく、七星くんが高嶺さんを大好きなのは伝わってくる。
気が付くと、窓の外の景色は薄暗くなっていた。
スクランブル交差点には人が溢れ、風俗の求人雑誌の宣伝トラックが大きな音楽を鳴らしながら走っている。
「今日はありがとうねー。来週から『バービナ』に合流出来ると思うからよろしくね!」
「こちらこそっす! よろしくお願いしまーす!」
マクドナルドから出ると渋谷の街はネオンでキラキラと輝いている。
ネオンの光は僕をあざ笑うかのように激しく点滅を繰り返していた……。
渋谷という土地柄なのか高校生や大学生が多い。
「七星くんはギター歴長いの?」
僕はまず彼の音楽歴について聞いてみた。
「俺っすか? えーと……。中学入った年からだから六年ちょいですね!」
「けっこう長いねぇ。誰かに習ったの?」
「完全に独学っすねー。色んなバンドのコピーで練習してきました」
彼の演奏スタイルからコピーでギターを覚えたという事は推察できた。
彼とセッションした時の雰囲気でそんな風に感じたのだ。
感覚とセンスだけでギターを覚えたタイプなのだろうと思う。
完全にフィーリングに依存してギターを演奏している。
言い換えれば、努力というより才能で演奏が出来ているのだろう。
「なるほどねー。ああ、この前はセッション出来て楽しかったよ……。良かったら、僕のドラムの感想聞かせてもらえるかな?」
僕が訊ねると七星くんは眉間に皺を寄せて何やら考え始めた。
その表情はどことなく高嶺さんに似ている。
「すいません。俺って音楽の知識と語彙力がないのでうまく言えないんすけど……」
「構わないよ! 君の言葉で言ってさえくれれば良い」
彼は長めのフライドポテトを口にくわえながら再び眉間に皺を寄せた。
「そうっすね……。すごく正確だってのはわかりました。ジュンさんともリズムが合ってたし、俺自身もギター弾きやすかったなーって思います」
その言葉をひねり出すのだけで七星くんの頭からは湯気が上がっているようだ。
どうやら考えるのがあまり得意なタイプではないらしい。
僕は少し意地が悪いと思いながら一番聞きたかった事を質問する事にした。
「君から見て松田大志さんと僕はどっちがやりやすかった?」
「え? 大志さん知ってるんすか?」
「名前だけはね……。一応、君たちが演奏しているところは映像で見たけれど、面識はないかな」
大叔母から話をもらった時点で、各バンドメンバーの演奏は確認してあった。
当然、松田さんもチェックしていたけれど、七星くんからの生の声が欲しい。
「どっちか……。難しい質問ですね……。二人とも良いところがあるので選びようがないです」
七星くんは難しい顔をしながら頭をボリボリと掻いた。
「ごめんね、じゃあ質問を変えるよ。松田さんてどんな人だった」
「大志さんは……。すごく頼りになる兄貴って感じの人でした! 時々、怖いと思う事もありましたけどいつも俺の事庇ってくれたし、ウラちゃんも大志さん大好きでしたからねー」
それから七星くんは嬉しそうに松田さんの話をしてくれた。
七星くんからすると、松田さんはバンド活動していく上での心の支えだったようだ。
『バービナ』はメンバー全員個性が強すぎるらしく、それをうまい事まとめていたのが彼だったらしい。
特にヴォーカルの高嶺さんは暴れ馬のようで松田さん以外の人間の意見をまず聞かなかったようだ。
「だから大志さんがあんな事になって、ウラちゃんかなりショック受けてるんですよ。本人は強がってますけどね」
僕は七星くんの話を聞きながら彼らの人間関係を頭の中で整理していた。
高嶺さんはバンドの華で作詞作曲までこなすけれど気分屋で融通が利かない。
多賀木さんは常に冷静にバンドの方向性を考えるけれど自分の意見を言わない。
七星くんは……。まあこんな感じだ。
そう考えると、松田さんが『バービナ』でどれだけ大きな役割を担っていたかを伺い知る事ができた。
正直な話。松田さんのバンドマンとしての腕は中の下ぐらいだと思う。技術的には僕にも及ばないし、アマチュアでも彼以上のドラマーは山ほどいる。
だけれど『バービナ』にとって彼以上のドラマーは居なかったのだろうという事は察する事ができた。
「じゃあ松田さんがあんな事になって辛かったよね……」
「そうっすね。態度に出さないですけれど、ジュンさんもかなり動揺してると思います。あの人は大人なんでおくびにも出さないですけどね」
「たしかに……。多賀木さんはそういう人っぽいもんねー。ねぇ七星くん? 高嶺さんは実際どう思ってるのかな?」
僕は文脈を無視するように思った事を聞いてしまった。
七星くんの頭の上にクエッションマークが浮かんでいるのが見える。
「ウラちゃんが? なんすか?」
「ああ、ごめんごめん。いやさぁー、僕これから一緒にやっていくからさ……。そんなに松田さんが大事だったのなら僕が入る事どう思うのかなーって……」
自分から言っておきながら漠然とした質問だ。
それに聞く相手が間違っている気がする。
「そうっすね……。でもウラちゃんは竹井さんの事、褒めてましたよ?」
「え? 褒めてたの?」
「そうっす! 『やっと生きの良い子が見つかった』って多賀木さんに話してましたからねー」
果たして生きが良いだろうか?
どちらかというと僕は大人しい気がするが……。
「へー意外だなー。てっきり僕は嫌われてるものかと……」
「嫌いだったら一緒にやろうとは思わないっすよ! ウラちゃん不機嫌そうにしてますけれど、実はツンデレなんすよ!」
そういうモノだろうか?
七星くんの話は何となく僕とは感性がズレている気がした。
七星くんはそれから高嶺さんの話を色々してくれた。
内容はともかく、七星くんが高嶺さんを大好きなのは伝わってくる。
気が付くと、窓の外の景色は薄暗くなっていた。
スクランブル交差点には人が溢れ、風俗の求人雑誌の宣伝トラックが大きな音楽を鳴らしながら走っている。
「今日はありがとうねー。来週から『バービナ』に合流出来ると思うからよろしくね!」
「こちらこそっす! よろしくお願いしまーす!」
マクドナルドから出ると渋谷の街はネオンでキラキラと輝いている。
ネオンの光は僕をあざ笑うかのように激しく点滅を繰り返していた……。
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