悪魔の手の中 改訂版

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前編

欲と依存の融合

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あの後、楓におすすめのCDや漫画を押し付けた水瀬は顧問に呼ばれていると言って、早々と教室を後にした。俺と楓はいつもどおり、一緒に帰ることになった。

いつもの帰り道、夕日の色が街並み、すべてを塗りつぶしている。

その風景がどこか異様に見えたのは、不安と恐怖で心が揺れていたからかもしれない。

普通に振る舞おうと思うほど、どんな顔をすればいいのか、どんな風に接すればいいのか分からなくなる。

気づかれたくないのに、うまく隠せている気がしなくて焦る気持ちだけがつのっていく。

「真澄。」

ふと、頬に手を伸ばしてきた楓にびくりと体が大げさに反応する。思わず、一歩後ずさった。

三好のこともあって、触れられるのを体が自然と拒んでいた。

その瞬間、楓の顔に影が落ちる。

整いすぎたその顔は、彫刻のように無機質で感情が抜け落ちていた。長いまつ毛に縁取られたその美しい瞳は、据わっていて光を失っている。

彼の瞳は俺を通して何かを見ているようだった。

その表情は、見る者すべてを凍りつかせるくらい恐ろしく感じた。

ほんの数秒のことだったのに、時間が止まったかのような感覚に囚われる。

初めて見る、その表情に息をするのも忘れ、体は硬直したまま動かなかった。

「ごめん、嫌だったよね。」

次の瞬間には、目尻を下げ、口角を上げて、いつもどおりに柔らかく微笑む楓がいた。けれど、その瞳は不気味なほど暗い。

頬から指が離れる。その指先はひどく冷たく感じた。

いつも歩調を合わせてくれる楓が、それ以上何も言わず、ただ前を歩いていく。振り向きもしない。まるで俺の存在なんて最初からなかったみたいに。

なんで?
気づかれた?
それとも、俺のこともう嫌になった?
俺のこと、必要じゃないの?

いろんな感情が入り乱れる。

もし、楓に捨てられたら俺には何も残らない。
無価値な自分を抱えて、ただ虚しく生きることになる。

そんなのは耐えられなかった。

気づいた時には、無意識に前を歩く楓の肩に触れていた。そのまま小刻みに震える手で彼のネクタイを引っ張り、顔を近づける。三好の嘲笑うような声が頭の中で響く。それを打ち消すように、俺は楓の唇を奪った。

二人の間に静寂が流れる。

唇が離れた後、楓は、彼らしくない不敵な笑みを浮かべた。

その奥に隠されたものが何か、俺には分からない。

「ねえ、真澄。俺の全てを受け入れてよ。
どんなに醜くても。」

美しい顔をした楓に不釣り合いな、その言葉の意味を考える暇もなく、今度は楓に顎を掴まれる。

「逃げないでね。」

そう囁かれると同時に、強引に引き寄せられ、唇が再び重なった。

唇を重ねるたびに交わる二人の唾液が、まるで一つの存在のように溶け合っていく。

俺は最初から逃げるつもりなんてないのに、そう思いながら彼に身をゆだねた。
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