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10話
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ミンクと呼ばれた少女は、地面に届きそうな長い白銀の髪を三つ編みにして背中に流していた。
(きれい……)
自分のゴワゴワとした髪とは大違いだ。自分の髪はミンクほど長くはないが、今まで散髪というものをしたことがなかったから、腰辺りまで伸ばしっぱなしだ。それもくせっ毛なので汚らしさを隠すため、学校でも職場でも常にお団子にして後頭部で一つにまとめていた。
三つ編みなんておしゃれをしたことがなかった。
服も、自分のために買ってもらったことなどない。はじめは同い年の女の子のおさがりを貰って着ていたが、小学生も高学年になると、その子より身長が伸びてしまい、サイズが合わなくなったのだ。
だから、その家の男性陣の捨てようとしていた大きめの服をいつも着ていた。
それにも誰も触れることはなかった。
虐められることもバカにされることもないかわりに、自分という存在はいつもどおり空気だった。
たださすがに就職活動をする時はスーツを買った。高校生になったらバイトが出来るから、そのバイト代だった。
高校の入学費用と学費を貸してもらったので、その費用を、3年間バイトをしながら返していき、足りない分は卒業後就職をして給料から返していくという約束で、同意書にサインをしてもらうことが出来た。
遊ぶ友だちもいないので、教科書と文房具、制服など学校で必要なもの以外はとくにお金がかからなかったので、バイトで貯めた費用をほとんど使わず、順調に返していけるはずだった。
(……通帳さえ、盗まれなければさ)
嫌なことを思い出してしまったなと落ち込んだ。
「どうぞ」
そんな暗い気持ちから浮上出来たのは、ミンクが自分の前にスープを置いた声のおかげだった。
高く愛らしい声に、思わず頬が緩んでしまう。
(かわいい顔立ちにかわいい声……癒される……)
ルミナスが配膳をするミンクに見惚れていると、横から声をかけられる。
振り向くと、真剣な表情で自分を見遣るアシルと目が合った。
「……な、んですか……?」
「もう喉は痛くないか?」
「は、はい……」
「……ならよかった」
アシルは安心したように笑んでから、「じゃあ食おうぜ」とスープを啜った。
それを見ながら、ルミナスも自分の前のスープを食べて良いのかどうか困った。
(私の前に置かれているのだから……食べていい、のかな?)
今まで、「食べて良い」と指示をされるまで、食べることが出来なかった。
それが習慣というか、習性になってしまって、大勢で食べる時は自ら進んで食べることが出来なくなっていたのだ。
困っていると、隣からスープの入ったスプーンが出された。
「ん」
「……?」
「冷ましてやったから、食え」
「え? あ……その……食べて、良い、んですか?」
「良いんだよ。ついでに言うと、ルミナスの前に置いてあるスープもルミナスのだから、遠慮せずに、食べたい分だけ食べて良いんだよ。足りなかったらおかわりもして良いぜ」
「……ありがとうございます。いただきます」
差し出されたスープの前で手を合わせて、食べ物に感謝する言葉を口にして、それを口に含んだ。
「…………っ」
「美味いだろう?」
にこりと笑みながら問うアシルに、ルミナスは必死にうなずいた。口の中にまだスープの具が入っていたから口を開けなかったので、ただうなずくしか出来ないが。
はじめに口いっぱい広がったのは、食材からしみ出ている旨味だった。それほど食に詳しくはないが、そんなルミナスにもそれがわかるほど、大地の恵みを感じる旨味を感じた。
「ミンクの作る料理は美味しいからな。いっぱい食ってやれば、それだけ喜ぶぜ」
「!?」
驚いて、食事をする手を止め、前菜を持ってくる小さな少女を見遣った。
こんな幼い子どもが、この料理を作ったということに驚いた。
だがそれと同時に混乱した。
(え、こんな小さな子が、働いているの? ご飯作って、配膳して……? え、なんで?)
そんな疑問が顔に出ていたのか、隣でルミナスの困惑する様子を見ていたアシルが説明してくれた。
(きれい……)
自分のゴワゴワとした髪とは大違いだ。自分の髪はミンクほど長くはないが、今まで散髪というものをしたことがなかったから、腰辺りまで伸ばしっぱなしだ。それもくせっ毛なので汚らしさを隠すため、学校でも職場でも常にお団子にして後頭部で一つにまとめていた。
三つ編みなんておしゃれをしたことがなかった。
服も、自分のために買ってもらったことなどない。はじめは同い年の女の子のおさがりを貰って着ていたが、小学生も高学年になると、その子より身長が伸びてしまい、サイズが合わなくなったのだ。
だから、その家の男性陣の捨てようとしていた大きめの服をいつも着ていた。
それにも誰も触れることはなかった。
虐められることもバカにされることもないかわりに、自分という存在はいつもどおり空気だった。
たださすがに就職活動をする時はスーツを買った。高校生になったらバイトが出来るから、そのバイト代だった。
高校の入学費用と学費を貸してもらったので、その費用を、3年間バイトをしながら返していき、足りない分は卒業後就職をして給料から返していくという約束で、同意書にサインをしてもらうことが出来た。
遊ぶ友だちもいないので、教科書と文房具、制服など学校で必要なもの以外はとくにお金がかからなかったので、バイトで貯めた費用をほとんど使わず、順調に返していけるはずだった。
(……通帳さえ、盗まれなければさ)
嫌なことを思い出してしまったなと落ち込んだ。
「どうぞ」
そんな暗い気持ちから浮上出来たのは、ミンクが自分の前にスープを置いた声のおかげだった。
高く愛らしい声に、思わず頬が緩んでしまう。
(かわいい顔立ちにかわいい声……癒される……)
ルミナスが配膳をするミンクに見惚れていると、横から声をかけられる。
振り向くと、真剣な表情で自分を見遣るアシルと目が合った。
「……な、んですか……?」
「もう喉は痛くないか?」
「は、はい……」
「……ならよかった」
アシルは安心したように笑んでから、「じゃあ食おうぜ」とスープを啜った。
それを見ながら、ルミナスも自分の前のスープを食べて良いのかどうか困った。
(私の前に置かれているのだから……食べていい、のかな?)
今まで、「食べて良い」と指示をされるまで、食べることが出来なかった。
それが習慣というか、習性になってしまって、大勢で食べる時は自ら進んで食べることが出来なくなっていたのだ。
困っていると、隣からスープの入ったスプーンが出された。
「ん」
「……?」
「冷ましてやったから、食え」
「え? あ……その……食べて、良い、んですか?」
「良いんだよ。ついでに言うと、ルミナスの前に置いてあるスープもルミナスのだから、遠慮せずに、食べたい分だけ食べて良いんだよ。足りなかったらおかわりもして良いぜ」
「……ありがとうございます。いただきます」
差し出されたスープの前で手を合わせて、食べ物に感謝する言葉を口にして、それを口に含んだ。
「…………っ」
「美味いだろう?」
にこりと笑みながら問うアシルに、ルミナスは必死にうなずいた。口の中にまだスープの具が入っていたから口を開けなかったので、ただうなずくしか出来ないが。
はじめに口いっぱい広がったのは、食材からしみ出ている旨味だった。それほど食に詳しくはないが、そんなルミナスにもそれがわかるほど、大地の恵みを感じる旨味を感じた。
「ミンクの作る料理は美味しいからな。いっぱい食ってやれば、それだけ喜ぶぜ」
「!?」
驚いて、食事をする手を止め、前菜を持ってくる小さな少女を見遣った。
こんな幼い子どもが、この料理を作ったということに驚いた。
だがそれと同時に混乱した。
(え、こんな小さな子が、働いているの? ご飯作って、配膳して……? え、なんで?)
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